Inspirational   作:碧生

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Inspirational

人の死は簡単になったものだ。

「…12時39分頃に発生した人身事故により運転を見合わせています…」

大量の人が溢れ返る駅のホームで、淡々とした調子のアナウンスを聞きながらそう思う。

かくいう俺も人の死は簡単になってしまったなぁ、という感情しか沸かないけれども。

周りの電車待ちの客も、迷惑だなぁ、とか遅刻したらどうするんだ、としか思っていないようだ。

俺も時計を確認して、待ち合わせの時間にはまだ時間がある。
《 遅れ25分 》
そう表示された電光掲示板を見て、ベンチに座る。

この感覚は、幼い頃から感じていた。

誰かの訃報を伝える神妙な顔。そして次の次の瞬間、誰かと誰かの結婚やら交際を満面の笑みになって伝えるニュースキャスターを見て、人の死はそんなに悲しいことではないんだろうな、と感じていた。

人の死はもっと、重い物であったはずだ。その人の一生と同じだけの重さがあったはずだ。
その人が頑張って頑張り抜いただけの、苦しんで苦しみ抜いただけの、重みがあるはずだ。

しかし最近では人の死は『ごく身近なもの』になってしまっている気がする。

言うなれば…線路の先の道路を過ぎる車。あんな感じだろうか。

自動車が発明されたその日の世界は、どんな風だったろう。
きっとこんなに当たり前だとは思えないのだろう。ワクワクし、またドキドキすることができたのだろう。

しかし今日では車がグレードアップし性能が上がったとしても、所詮車は車のままでファン以外は全く興味を示さない。

つまり、あるのが当たり前になってしまったものにはなんの感情も沸かないのだ。

人の死も、それと同じ…人の数だけ、人の死があるのだから。

とても残酷ながら、あるのが当たり前、なのである。

だから人の死は簡単になってしまって、何かしら感情を抱くのは、親族や仲のいい人達だけ…。

おっと、電車が来たようだ。
物思いに耽っていて殆ど読んでいなかった小説を閉じ、席を立って電車に乗り込む。

エアコンの風が頬に腕に沁みる。不快なようで快適な風がどこか不思議で。

「勘弁してくれよなぁ…」

「ほんとだよ。おかげでギリギリだ…」

そんな声が聞こえてくる。あぁ、やはり関係の無い人間の死とは、物凄く軽い物なのだなぁ。

「この電車は、予定より25分遅れで運行しております。ご利用のお客様には大変ご迷惑をお掛けしております…」

人の死に何も興味が無いと言ったような無機質な声。
遅れていることにただ謝罪し、平然と運転を再開する。

今日事故に遭った人はどんな人生を送り、どのようにして死んでいったのだろうか。
死にたくて死んだのか、死にたくないのに死んだのか…。

どちらにしても正直な話、俺には関係ない。今までのだってただの感想である。
あ、そろそろ降りなきゃな。

待ち合わせの場所の、最寄りの駅に降りる。

予定している場所の反対側出口に降りてしまい、少し時間を食った。

急がないと…!
反対側のホームに出る為に飛び込んだ踏切の音が頭に響いて、俺の視界は急にスローになる。

あぁ……これはもう、駄目な奴だ……。

また「迷惑だ」「この時間をどうしてくれるんだ」と悪態をつかれるのだろうか。
俺の死は、誰かにとって意味のあるものなのだろうか。

けたたましいブレーキ音がゆっくりと耳に届く。

少なくとも俺は、誰かを悲しませる事が出来るだろうか……。






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