「夢……?」
俺は目を覚ました。あたりを見渡すと、そこは自室。
「おはようございます、志貴様。今日はお早いのですね」
「おはよう、翡翠。なんか嫌な夢を見てね」
「夢、ですか?」
「ああ。俺が異世界に飛ばされて魔王と戦うんだよ。おかしいと思わないか?」
「それは面白そうです」
そんなことを言う翡翠は、どこか興味津々に見えた。
「兄さん、いつまで寝ているのですか?」
「おはよう、秋葉。今日は────」
あれ……? 今日の予定はなんだったっけ?
「早く学校に行かないと遅刻するな」
そう、今日は平日だ。学校に行くのは当然だろう。
「当然です。早く用意をしてください!」
秋葉に急かされ、学校に行く準備をし、遠野邸を後にする。
「志貴先輩、おはよっす!!」
「おはよう、和真君。今日は一人かい?」
いつもなら、和真君の幼なじみが一緒のはずなのだけど、今日は一人のようだった。
「そうですよ。あのバカ、昨日夜遅くまでなにかしていたみたいですからね。うちの幼なじみも遠野さんみたいにお淑やかならいいんですけど……」
和真君は秋葉を見る。
「佐藤さん、私を褒めても何も出ませんよ?」
「分かってますって」
しばらく雑談をしながら、登校をする。
「ふっふっふ、志貴先輩、和真先輩。来ましたね!! 今日こそ、積年の決着をつける時がっ!!」
目の前に立ち塞がったのは、眼帯をつけた中学生。その娘は俺達がよく知っている子だった。
「あれ、恵ちゃん。眼帯なんかしてどうしたんだい?」
「違わいっ!! 我が名はめぐみん! この目には封印されし力が宿されているのだ!!」
「おいこら、中学はこういう装飾品は禁止だろうが」
和真君は恵ちゃんの眼帯を引っ張り、その手を放す。なかなか痛そうである。
「あうぅ……そ、そういえぱ、志貴先輩。今度、志貴先輩たちの高校で文化祭をやるって聞きました!」
「文化祭……?」
そういえば、文化祭っていつだっけ……?
「って、今日じゃないかっ!!」
完璧に忘れていた。昨日だって準備をしていたじゃないか。
「志貴先輩、忘れてたんっすか!?」
「いや、忘れてたわけじゃないんだけどね……」
「今日だったのですか……今日、中学は午前中しか授業がないので、午後から行きますね」
「秋葉たちのクラスは何をするんだ?」
「うちは、お化け屋敷よ。佐藤さんがどうしてもやりたかったらしいのよ。兄さんのところは?」
「うちは確か喫茶店だよ。食い逃げ喫茶ローキックだったかな」
その名の通り、食い逃げが許される喫茶店だ。もちろん、捕まればその報いは受けてもらう、というのがうたい文句である。
「な、なかなかユニークですね……」
俺もそう思う。
「よう、遠野。遅かったじゃないか」
「そうでもないだろ。有彦、そっちの準備は出来てるのか?」
今日は珍しく、時間に余裕がある。
「徹夜で何とかだな」
「悪いな。帰らせてもらって」
「いいってことよ。お前には愛しの秋葉ちゃんがいる事だしな」
「おちょくってんのか?」
「ああ、おちょくってる。まあ、遠野のシフトは昼からだ。それまで好きにしてろよ」
「それじゃ、そうさせてもらうよ」
と、なればどうするか。
秋葉たちのところに行ってみよう。
「志貴せんぱーい、こっちです」
お化け屋敷の入口であろうところに、和真君はいた。
「和真君は受付なんだね」
「ええ、設計は俺がやりましたから仕事は楽なほうがいいでしょ?」
急にお化け屋敷に入りたくなくなってきた。
はっきり言って、和真君はたちが悪い。和真君のせいで何度も厄介事に巻き込まれているのは言うまでもないだろう……
……ん? 今、何か大切なことを──
「まま、志貴先輩。入ってみてくださいよ」
和真君に言われるまま、お化け屋敷に入る。その内容はかなり本格的なものであった。
そこはもう、恐怖の嵐であった。奇襲に次ぐ奇襲の数々。和真君の性格の悪さが見受けられる。
途中で宴会芸をしている和真君の幼なじみがいたが、それは見なかったことにしよう。
そういえば、俺も一年の時はお化け屋敷をやったんだよな。あの時はイヌイダケお子様誘拐事件がおきて──
閑話休題。
とうとう、ここが最後。和真君の事だ。とんでもないものを配置しているに違いない。
息を呑み、最後のゾーンに足を踏みいれる。
「シャーーーー!!」
俺は思考が止まった。
驚かなかったといえば嘘になるけど、それ以前の問題だった。
「あ……秋葉、その格好は……?」
白い和服を着た秋葉が飛び出してきたのだ。オマケに、猫耳のカチューシャなんかしている。
「に、兄さん……? っ!?」
まさに時間が止まった。和真君、君は時を止めることが出来る魔法使いだったんだね。
じゃなくてっ!!
「確か猫又、だったか?」
「はい……」
秋葉は顔を赤くして、それ以上何も言わなかった。俺も、何も言えなくなった。
「それじゃ、行くよ」
なんとも言えない空気の中、俺はお化け屋敷を出た。
「志貴先輩! どうでした?」
「和真君。あとで、体育館裏集合だ」
「あはははは……それで、志貴先輩はこれからどうするんですか? 俺、今からフリーなんですけど一緒に回りません?」
「もちろん。今からシエル先輩とダクネス先輩のところに行ってみるつもりだよ」
和真君とふたりで三年の教室に向かうが──
「ふざけないで下さい! なぜカットなんですか!!」
「いい……いいじゃないか! ここに来てボツなど、最高じゃないか!」
三年の教室の前で何かを言っているふたり。
「和真君……」
「多分俺も同じことを考えてます」
回れ右。触らぬ神に祟りなしというやつだ。
やることも無く、程なく歩いていると、人だかりがあった。
「なんだあれ?」
「先輩、あの子確か先輩のところのメイドさんじゃなかったですか?」
人だかりを見ると、その中心には翡翠がいた。
「翡翠っ!?」
人だかりを掻き分け翡翠を救出する。
「ありがとうございます、志貴様」
「どうしたんだ、翡翠。こんな所に出てくるなんて珍しいじゃないか」
「お昼にこれを持ってまいりました」
重箱の中には、サンドイッチが入っていた。
「これ、翡翠の手作りなのか?」
「はい。志貴様が梅のサンドイッチが好きだと申しておりましたので」
その後は地獄だった。
なんで、パンがピンク色になってるんだ……? なんで、こんなにグチョグチョと湿ってるんだ……?
俺は恐る恐る、それを口に運ぶ。
「……っ!?」
一瞬、川の向こうでお爺さんが手を振っていたのが見えた気がする。
俺は梅の風味が好きなだけで、梅自体はそんなに好きというわけじゃない。
こ、これはやばい。それは和真君も感じ取ったようで、逃げる隙を探している。
「和真君もよかったら一つどうだい?」
「遠慮しておきます! 翡翠さんは遠野さんのために作ったんですから!!」
「いえ、皆様のぶんも作ってきているのでご安心ください」
和真君の逃げ道は一瞬にして潰されてしまう。
和真君にも手伝ってもらい、梅サンドを平らげた。翡翠は味見をしていたらしく、それなりにうまく出来ているとのことだった。
お昼の時間が過ぎ────
『ちょっと、志貴!! 早く目を覚ましなさい!!!』
これから、喫茶店の準備を使用としているところで、頭に声が響いた。
「な、なんだ!?」
『私が回復してやってるんだから、早く目を覚ましなさいって言ってるの!!』
目を覚ます……? それじゃあ、これは……
夢……?
「ああっ! ちょっと待ちなさいよっ!! 今から私がケーキを食べられるところでしょうが!! 今目覚めちゃったら──」
どこからとも無く現れた白い少女。そんな少女をよそに、俺は目を覚ましたのであった。
ざっと、一通りやりました。
わかる人には分かりますよね?
チャイナな琥珀さんはルート的に出せませんでした(*´•ω•`*)…
次回は夢から覚めます。
まあ、よく良く考えたらアクアがいる限り、死にかける(死ぬ)ことって無いからなぁ……