魔法少女育成計画とかどうでもいいから平凡に暮らしたい 作:ちあさ
今日は可愛い眼鏡のあの娘が登場ですよ。
今回もアリスちん視点だと思ってた君、残念、マナちゃんでしたー。
ゴメン待って物投げないで。
大丈夫、アリスちんは今後も活躍あるはず。
ではどうぞ。
「捜査中止!?ふっざけるんじゃないわよ!」
マナは激怒していた。
上が捜査の中止を決定した。
速やかに結界内の端まで退避、結界解除後に撤収するように通達が来た。
だが私たちはもはや引くことが出来ないところまで来ている。
仲間が奴らに殺されたのだ。
ここで引いたら彼女は何のために死んだのか分からなくなる。
外交部門からの横槍すら我慢ならないというのに。
それを事件の解決の為、彼女の仇を取る為にとなんとか不満を飲み込んだ。
カラオケルームで合流して、今後の捜査方針を話し合っているところに中止の連絡が来たのだ。
今回の捜査対象である暗殺者は魔法の国の上層部や、上層部にとって都合の悪い人物を狙って殺害していた。
考えたくもない事実だが魔法の国の何処かの部門が飼っている暗殺者なのだろう。
そして今回の事件はその暗殺者をトカゲの尻尾と切り捨てた結果起きたのであろうと推測していた。
非常に腹立たしいことではあるが。
なので外交部門が結界を張ったのも、切り札の魔王パムを派遣したこともまだ納得できる。
捕まえて政治的な駆け引きにするのか、それとも知られたくない情報ごと暗殺者を葬り去るか、魔王パムの戦力からして恐らく後者だと思っていた。
考えるだけでテーブルを蹴り飛ばし何度も踏みつけてしまいたい衝動に駆られるが、それでも奴らはこちらの顔を立てようと多少は配慮しているのが分かるだけマシである。
好き勝手動かないように手綱を握りしめておこうと自分を納得させようとしていた。
外交部門ができることなんて精々この程度だと思うことで心の平衡を取ろうと努力していた。
だが今聞いたことは何だ?捜査中止?どういうことだ!
部門はそれぞれ独立していて明確な上下関係はないとは建前上なっている。
なので監査部門の捜査に途中から割り込むならまだしも、実際捜査チームが動いて被害が出ているにも関わらず中止させるなんて権限や大義名分など存在しないはずだ。
いや、こいつはただの連絡係。
こいつに怒鳴ったってしょうがない。
落ち着くんだ私。
荒れてしまった声を何とか鎮めようと心のなかで素数を数えてから聞く。
「これはまだ顔を出していない人事部門の差し金ですか」
「いえ、今回の件に関してはもっと上からの通達です」
「上?どういうことだ?」
もしかして暗殺者を飼っていたのは想像以上に上の人物なのか?
だが現実はもっと酷かった。
「先程、あの鉄腕組から今回の事件に対して武力鎮圧するという通達がありました。
その際、現地捜査員がそれを阻んだ場合、生命の保証は出来ないとも。
それを受けて現在各部門の上層部が緊急会議を開き、捜査の中止、そしてB市の地図の書き換えと情報操作の準備に入っています」
あの鉄腕組って、あの魔王の?
なんであんなヤクザ共が介入してくる!
それに上層部もなんであんなヤクザ共の言いなりになってる!
ダメだ、頭の血管が切れそう。
薬を飲んで素数を数えよう。
精神を強くする錠剤を無理やり飲み込む。
「鉄腕組の言い分として、暗殺者は鉄腕組が封印管理していたグリーフシードとジュエルシードを強奪して逃走。
その後、逃走途中で戦略自衛隊から戦略級広範囲破壊兵器であるN2ミサイルも強奪してB市に立て籠もった。
逃走を許してしまった責任を取って所属する全魔法少女を投入してでも鎮圧すると。
そういうことになっているわ」
「なっている?」
「介入するための建前と上層部は考えています。
今回の暗殺者がそんなことが出来るなんて誰も信じていないようよ。
だけどそれらの名前を出してきたってことは、今回それらを使うつもり。
そして使った際の被害を全部暗殺者に擦り付けるつもりなんでしょうね。
都合のいい火力演習とでも考えているんじゃないかしら。
そういうわけで私達も貴方達を無駄に死なせる気はありません。
どうにかやり過ごしてください」
あまりもスケールの大きい展開に呆然としていると通信は終わっていた。
グリーフシード?ジュエルシード?
どちらも街一つ壊滅させる可能性のある兵器だ。
それを使って火力演習?
聞いていて頭が痛くなってくる。
発想が常人のそれを超えている、だからこその魔王なんだろうが。
目の前の自称魔王とは頭のネジの吹っ飛び加減が何段も上だ。
「でも今は結界が張っているはず。
一体どうやってB市に入る気なのよ」
そう、現在B市は外交部門が張った結界で魔法関係は人も物も出入りが出来なくなっている。
この結界は24時間しか保たないが性能は折り紙付き。
どんな強力な魔力があろうと全て弾き飛ばしてしまう。
それが例え魔王の攻撃であろうと。
「それは私が説明しますよ」
いつの間にか部屋の奥に白い女の子、いや魔法少女が立っていた。
羽菜も魔王パムも気付かなかったのか驚いた顔で身構えている。
「はじめまして、鉄腕組のスノーホワイトです。
皆さんには”白き災厄”と言ったほうが分かりやすいですか?」
白い魔法少女が自己紹介をしながら一礼する。
こいつが?
白い災厄などと呼ばれているからもっと化け物みたいなやつを想像していた。
だがやつはセーラー服のような可愛いコスチュームを着て、少女のようなあどけない顔にニコニコと笑顔を浮かべている。
見た目からはそこらへんにいる普通の女子中学生のように見える。
だがこいつ、一体どこから現れた?
振り返ってこの部屋唯一の出入り口であるドアを見る。
ちゃんと”閉まって”いるし、そもそも今奴が立っているのは部屋の奥、ドアから反対側だ。
ドアから入って私達の前を通り奥まで行く?
バカバカしい。
そんなことをしたら羽菜や魔王パムどころか私ですら気付かない訳がない。
スノーホワイトは私達を見て笑っている。
こちらを見透かすような嫌らしい笑い方だ。
思わず激高しそうになるのを必死で押さえつけて睨みつける。
「ふふふ、移動手段については優秀なアッシー君がいますので。
貴方達3人がいる場所ならいつでも来られますよ」
そう言って羽菜をちらりと見て指を振るスノーホワイト。
「ピティ・フレデリカの魔法か。奴め、生きてやがったのだな」
魔王パムが得心いったとばかりに頷いている。
スノーホワイトが今度は魔王パムを見て左右に指を振っている。
一体何の動作だ?
それにしてもピティ・フレデリカか。
確か2年ほど前に失踪した有名なスカウト兼試験官だった魔法少女だったか。
彼女の失踪は突然で、何故か上層部の面々が顔を青褪めて四方八方捜索していたのを覚えている。
結局見つからず誰かから恨みを買って殺されたのではないかと風のうわさで聞いていた。
だが真相は魔法の効果を買われて鉄腕組で優雅に左団扇の生活って言うことか。
あの時はまだ下っ端だった私はドブ川の底まで潜らされて捜索していたんだぞ、ふざけやがって。
「貴方が魔王パムさんですか」
スノーホワイトが魔王パムに微笑みかける。
相変わらず指をあっちこっちに振りながら。
「お噂はかねがね聞いています。
随分強いらしいって、会うのが楽しみだったんですよ」
「ほう、お前のような強者に言われるとは面映いな」
魔王パムにとってスノーホワイトは結構な評価らしい。
私には強そうには見えないのだが強者なりの判断方法というものがあるのだろうか。
「偉大なる大魔王リップル陛下からの伝言です。
“どちらが魔王に相応しいか雌雄を決しようじゃないか自称魔王殿。とはいっても所詮ロートル。どうせ勝つのは我の方だろうがな。ああ、もし万が一、何かの奇跡でも起こって一撃でも入れることが出来たなら『魔王を名乗ってもいいで証』を発行してやろう。ありがたく受け取るが良いぞ。どうせそんなことは起こるまいがな”
ちゃんと伝えましたよ。
頑張ってくださいね」
しきりに指を忙しそうに振りながらもニコニコと楽しそうに笑っているスノーホワイト。
それとは対象的に魔王パムは凶悪な笑みを浮かべて身構えている。
今にも衝突しそうな圧力を感じて、私は再度精神を強くする錠剤を口に放り込んだ。
「それにしても挨拶に来て良かったです。
いくら私でも深層心理まで”聞く”には直接合わないといけませんから。
その隠している2枚の事、分からなかったら事故が起きるところでした」
そう言って指をビシっと魔王パムの背中へと指し告げた。
スノーホワイトのその言葉に魔王パムがぎょっとして一瞬固まる。
そして魔王パムは突然振り返り、羽をドアの方へと飛ばした。
羽は”開いて”いたドアをくぐり抜けて飛んでいく。
「スノーホワイトの言葉で魔王パムさんが動揺した隙に誰かが現れてドアから出ていきましたよ。
姿が見えなかったので迷彩系の魔法を使っていたと思います。
噂に聞くメルヴィルさんかと」
羽菜が説明してくれた。
「バレちゃいましたか。
でも挨拶したかったのは本当ですよ」
スノーホワイトがクスクスと笑う。
というかこいつ、現れてからずっと笑ってばかりいる。
本当にムカつく女だ。
「ふふふ、そろそろマナさんが怖いので用件だけ言いますね。
鉄腕組は偉大なる大魔王リップル陛下の命により、暗殺者一味を月の裏側まで吹っ飛ばすことに決まりました。
我ら鉄人組魔法少女、全48人による蹂躙の始まりです。
例えB市を灰燼に帰すことになろうが我らは止まることはありません。
それを阻止するものは誰であろうと叩き潰せと命じられていますので邪魔はしないでくださいね」
その言葉を聞いて私は思わず立ち上がってふざけるなと怒鳴り散らしてしまう。
羽菜も険しい顔をしているし、魔王パムは頭に血管を浮かべて無表情になっている。
「そうそう、逃げる際に街中を通るのならば注意してください。
もうしばらく経ったら暗殺者共をあぶり出すためいえいえ暗殺者共が私達をあぶり出すためにグリーフシードを街中にばら撒くでしょうから。
ばら撒かれた程度では危険はありませんが、魔力を持った魔法少女や魔法使いが側に来ると反応して一気に孵化しちゃいます。
どんな魔女が出るかは孵化してからのお楽しみ。
大当たりのウルトラレアは”ワルプルギスの夜”ですよ、楽しみですねー。
みなさん頑張って良い声を”聞かせて”くださいねー」
そう言って笑い声を上げながら彼女は空中に出現した手に引かれて消えていった。
「いっちゃいましたね」
羽菜が力尽きたとばかりにぐったりとソファに座り込み、深く息を吐き出した。
「外のやつにも逃げられたな。
なかなかの手練だ、それにしても気付いたか?
スノーホワイト、想像以上の化け物だぞ。
一撃でもマトモに入れられる気が全くせん。
あいつが魔王だと言われても納得が行くぐらいだな」
化け物?一体何のことだ?
確かにムカつくし、言っていることは無茶苦茶だったが、それほど強いとは感じなかったのだが。
訝しげに思い羽菜を見る。
「あー、あの人はですね、私も魔王パムさんも最初から何度も攻撃しょうとしていたんですよ。
でも行動を起こそうと思う度に目線を向けてきて、
こちらがどういう攻撃をしようとしているかを指でなぞってきていたんですよ。
全部が全部、こっちの行動を恐ろしいぐらい見透かしていたんです。
もう格が違いすぎて泣きたくなります」
「読心系の魔法と聞いてはいたが、あれほどのものとは。
面白い、まだまだ強いやつが野にはいるのだな。
そしてあんな狂人を従える魔王リップル。
とんでもなくデカイ器の持ち主か、何も気づけない大馬鹿者か。
相まみえるのが愉しみだ」
魔王パムは一転してご機嫌のようだ。
私はもう錠剤の飲み過ぎで胃が痛くなってきた。
「今後の方針だが…」
なんとか心を落ち着かせて私が話し始めると。
「何をしている、とっとと行くぞ」
魔王パムは話も聞かずに立ち上がりドアへと歩きだす。
「ど、何処へ行く気だ!まだ話は…」
「既に撤収命令が出ただろう。
だが結界の端とは言っても何処の端かは指定されていないな。
ならばB市の真ん中を突き進んで反対側の端に行こうではないか。
そのついでに暗殺者もあいつらも全部叩き潰せばいい。
グリーフシード?
面白い、魔女如きで魔王パムが止まると本気で思っているとはな」
唖然とした。
だが、たしかに面白い。
このまま指を加えて終わるのを待つのか?
冗談じゃない。
そんなのは私ではない。
あんなやつらに怯えて小さく生きるより、何処までも突き進んで笑って死んでやる。
今に見ていろ、吠え面かかせてやる。
鉄腕組も上層部もみんなまとめてくそったれだ!
私はマナだ、舐めるなよ。
ちなみにリップルは今も何も知らずにアニメ見ています。
今回から戦闘に入ると言ったな?
アレは嘘だ。
いや、マナマナ達のシーンを書いていたら思いの外ノッてしまいました。
ノリにノッてしまってなんか酷いことになっています。
これがキャラが勝手に動き出すっていうやつですね、ゴメンナサイ。
さて次回こそは戦闘に入れるかな?
いつ書き上がるか分かりませんが。
どうか気長に待っていてください。