魔法少女育成計画とかどうでもいいから平凡に暮らしたい 作:ちあさ
トットポップが可愛くて可愛くて、彼女にも幸せになって欲しいと書いていたのですが…
なんかマサさんと7753の話になってました。
そういうのがお嫌いな方はブラウザバックよろしくです。
今回までの3話分で7753三部作ということにして次回から魔法少女同士のお話にもどりますので、ご容赦を。
魔法の国の変革を目論む反体制組織は派閥などの兼ね合いでいくつも存在している。
中には同盟関係などもあるが、派閥や利益、思想の関係でお互い信頼しあっている組織などは稀である。
トットポップの所属する"素材にこだわる解放戦線"はそんな稀に当たる同盟を結んでいた。
だがその同盟相手は先日壊滅してしまった。
同盟相手の最期の生き残りである魔法少女が鉄腕組へと殴り込みをかけて死亡したしたのだ。
だがたった一人で鉄腕組の本部ビル、しかも白き災厄の目前まで迫った彼女の存在は裏業界に驚愕を与えた。
鉄腕組、しかも白き災厄を狙おうと画策して行動を起こしたものは多いが、
だが大抵ろくでもない目にあって、白き災厄の目の前にたどり着くことなど出来たものはいない。
そんな災厄のような存在に目の前まで迫れた彼女の強運と実力を後から知った各組織は、
どうして生前に勧誘できなかったのか。
せめて彼女が仇討ちに出る時に協力できていれば成功したのではないか。
と悔やむ声があちこちからあがった。
同盟を組んでいたトットポップたちの組織では特にその声が大きく、
連絡を取り合っていたトットポップの班への責任追及は苛烈であった。
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「トット達だけで仇討ちですか」
その命令を聞いてこれは見せしめだなと感じた。
「そうだ、聞けば件の魔法少女の死因は一般人だと言うではないか。
いかにそいつが魔王の槍を使ったとは言え、魔法少女が一般人に敗れるというのは外聞が悪いと上は考えている。
なのでそのイレギュラーの一般人を早急に排除する必要がある」
トットたちなら仇討ちという理由で襲撃をしてもおかしくはない。
そして殺した後からそいつは魔法少女だったということにするらしい。
それにトットたち複数人が襲撃すれば当然向こうも魔法少女を出してくるだろうし、やっぱり彼女が死んだ理由も魔法少女が支援していたからだということにするそうだ。
トットが考えるだけでもかなり穴がある計画に見えるけど、
上層部が作戦の素材にこだわり机上の空論を振り回すのはいつものことだ。
その作戦に振り回される生贄の順番が回ってきたに過ぎない。
“外人女性に弱い日本ボーイを捕まえて憧れの結婚生活”という雑誌の特集に騙されてホイホイ日本に来た結果がこれだよ。
いくら楽観主義のトットでも流石に今回ばかりは死ぬなーという思いを振り払えなかった。
せめてイギリスから付いてきてくれた部下たちはなんとしても生きて返さないと。
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今日はマサさんと念願のデートです。
あの上司が交渉してセッティングしてくれるなんてケダモノの槍でも降るのでしょうか。
もし降るならデートが終わってからにしてください。
先日のスノーホワイトさんへの調査の後、寿退社を申し出たのですが、
せめて実際に結婚してから言えと却下されました。
でも私の一週間に及ぶ説得にあの上司もとうとう折れ、
鉄腕組への長期的な監査及び交渉窓口という名目での赴任を得ることが出来ました。
ですが、折角同じ職場にいるのにマサさんには組の仕事や訓練で忙しく、お食事を一緒することすらなかなかできずにいました。
更にマサさんは何気に女性人気が高く、一般人からだけじゃなく魔法少女たちからも慕われていることがわかりました。
その事の愚痴を毎日報告書に延々と書き連ねていたら、上司が今度はデートをセッティングしてくれたのです。
といっても、正確にはデートというわけじゃなく、
マサさんの新しい武装への習熟訓練に監査という名目で同行するということなんですけどね。
でもこのチャンスを逃す訳にはいきません。
是非とも今回で勝負を決めてみせます。
そのための勝負下着もバッチリだし周期によると今日は的中率が高いはず。
妊娠しない魔法少女だからと油断しているところに、タイミングよく変身を解除すれば既成事実を作ることが可能なのはできちゃった婚に成功した元同僚から確認済みです。
天国のお父さん、お母さん、小鳥は見事やり遂げてみせるので応援していてください。
ちなみにその元同僚の変身解除後の姿はちょっとアレで、トラウマになった旦那さんがその後、勃たなくなったそうです。
とりあえずヤル前に化粧はしておこう。
そんなわけでやってきました富士の樹海。
磁場の関係で良い感じに方向感覚が狂って格闘練習には最適だそうです。
デートには向いているかどうかは知りません。あ、また仏さん見つけた。
とにかく、この際ムードはどうでもいいです。
少しでも好感度を高めるために何かできないでしょうか。
魔法のアドバイスとかなら自信があるんですが、格闘技術は専門外なんですよね。
しばらく歩いて少し開けた場所に来たので、私はレジャーシートを敷いてお弁当の準備。
マサさんは早速持ってきた少し短めの二本の刀を使って訓練をしています。
あの刀、禍々しい気配を放っていますね。
きっとリップルさんの槍みたいに曰く付きの武器なんでしょう。
一体どこからあんなものを探してくるのか。
それにしても、訓練に励むマサさんとご飯の準備をしながら見守る私。
将来はマサさんの隣に息子と私の隣に娘が…なんてステキな未来でしょう。
とちょっと現実逃避をしていました。
というのもさっき考えた魔法のアドバイスの件。
実は先日お会いすることができたリップルさんに提案したんです。
マサさんの将来の妻として、少しでも役立つアピールをしたくて、私の能力で魔法のアドバイスができることを。
私のゴーグルで魔法の詳細を見ることによって、その人の魔法の限度、制限、効果範囲など事細かな情報を得ることが出来ます。
それを新人魔法少女に伝えることで効率よく魔法を使うことが出来ることができるベテラン魔法少女へと一気にステップアップすることが出来るのですが、それをリップルさんにお伝えしたら、
「全く使えん能力だ、特に新人には絶対それを教えるんじゃないぞ」
と言われてしまいました。
自分の魔法の性能をきちんと知ることはベテラン魔法少女になるためには大事なことだと思っていたので反論したら
「人間っていうのは成長するんだ。
そして成長するには努力が必要で、それには頑張れば出来るんだという希望が必要だ。
お前はテストで60点しか取れない人間だから、その60点で行ける学校を探せって言われたら勉強なんてする気がなくならないか?
魔法少女っていうのは今ある性能に妥協して無難にこなしていく仕事なのではなく、自分の個性を信じてどこまでも育て伸ばし表現していく芸術だ。
お前のその魔法は魔法少女というものを侮辱するものなんだよ。
限界なんてもんは突き抜ける為にあるが、新人なんてもんはベテランにそうだって言われたらそうなのかって思って成長が止まっちまうんだ。
まぁそれを聞いて反骨精神むき出しで伸びるやつもいるが、そもそもそんな奴にはアドバイスなんて不要だしな。
特に魔法っていうのは精神的なものだ。
思い込みや常識ってのが足かせになる。
だからこそ僕は新人に対して魔法ってのは自由なものだ、常識なんてものは捨てちまえって教育をしてるんだよ。
自分というものをまだ何も分かっていない新人に、お前の性能はこうなんだってドヤ顔で言える今のお前には人を育てる才能はない。
悔しかったら何が悪いのか考えて努力しろ。
それが出来なかったらお前はいつまでも便利に使われる機械のままだ」
そして目障りだからもう顔を出すなと言われました。
ちなみに呼び名は”スカウター”に決まったようです。
まさにピンポイントで捻りがなくどれだけ私に興味が無いかが分かります。
それにリップルさんが魔法少女教育で優秀なのは彼女の元に集まる魔法少女たちを見れば分かること。
マサさんの妻として認めてほしいと焦って、ドヤ顔で釈迦に説法を説いてしまった私の株は今や大暴落です。
マサさんにも失望されてしまったかもしれません。
「考えるのをやめるな。
ありとあらゆる可能性を常に模索しろ。
これで大丈夫と考えたときが死ぬときだ。
アネさんにいつも口酸っぱくして言われています」
マサさんが刀を振りながら話しかけてきました。
「悔しかったら何が悪かったのか考えて努力しろ。
それはアネさんがいつも期待している人にかける言葉です。
アネさんは本当に駄目だと思った人には何も言いません。
ただ忘却するだけです。
7753ならきっと乗り越えてくれる、そう信じているんですよ」
でも、もう顔を出すなって言われました。
「きっと7753の魔法で見透かされるのが怖いんですよ。
あの人はたしかに強いけど非常に臆病でもありますから。
知ってますか?
あの人、7年前までは人前では恥ずかしがって喋ることすらできなかったんですよ」
組長がそんなことでどうすると娘さんに矯正されたんですけどね、とマサさんは面白そうに笑っている。
「そもそも7753が必要じゃなきゃ、あの小雪様が監査なんて許す訳ありませしね」
とも言ってくれた。
マサさんは少し喋りすぎて照れたのかそれ以降話しかけてくることはなく、私もどのように魔法を活かしていくかの思考に没頭していきました。
今更ですがこれってデートと言えるのでしょうか。
いえ、元々監査でしたね。
そのように没頭していたからでしょう、いつの間にか囲まれているに気づかなかったのは。
いきなり森の中から音符の群れが飛んできて、あわやのところでマサさんに助けられました。
マサさんは大分前から気付いていたらしく、一体どちらが一般人なのかと恥ずかしい限りです。
木々の中から3人の魔法少女が出てきました。
真ん中に立っているギターを持ったロックミュージシャンのような魔法少女がリーダーなのでしょう。
勝ち気な表情で笑いながら名乗ってきました。
「トットは“素材にこだわる解放戦線”、略してソザ解、第三部隊リーダーのトットポップ。盟友”こだわりのある革命家の集い”の仇討ちきたのね」
日本語に不慣れなのかたどたどしく名乗ってきました。
ソザ解、聞いたことがあります。
元々無謀な作戦ばかりで自滅することが多く脅威度は低いとされて、不満派のガス抜きとして放置されていた組織です。
ですが最近になってイギリスからベテラン魔法少女が多数合流したとかで話題に上がっていました。
彼女の自信に溢れた物腰や不慣れな日本語から、そのイギリスの魔法少女なのだろうと想像がつきます。
その魔法少女が3人も。
前線に出て来る以上、彼女もその後ろの2人も当然戦闘ができる魔法少女なのでしょう。
非戦闘型の私ではマトモに戦っても瞬殺されるだけ。
でもここは方向感覚の狂いやすい樹海の中です。
私のゴーグルを使いながら逃げに徹すれば何とか逃げ切れるでしょう。
そして逃走ルートを考えていましたが、
「森の中でトットの仲間たちが囲っていてねー、逃げれば大丈夫と思うのは甘いのね」
万事休すのようです。
今から応援を呼んでもそれまで耐えることが出来るでしょうか。
せめてマサさんだけでも逃がせないと。
私が悲壮な覚悟を決めていたら、マサさんが大丈夫だと頭を撫でてくれます。
「こういう時アネさんならこういうんでしょうね。
飛んで火に入る夏の虫、出オチご苦労様と。
おたくらの頼りの仲間たち、とっくにお寝んねしてるようですよ」
その声とともに、森の中から何人もの魔法少女達が次々と私達の前に投げ飛ばされてきました。
みんな一様にうめき声をあげて気を失っているみたいです。
「これで全員です。小雪様から承ったとおり殺さずに捕らえました」
森の中からメルヴィルさんが更に二人担いて現れました。
何故か敬語です。
それを見てトットポップたちがおののくのが分かった。
「メルヴィル…鉄腕組の切り札、クラムベリーの再来。
彼女がいるってことはどうやらトット達は本当に切り捨てられていたようなのね」
そう言って悔しそうに地面を蹴りつける。
そして覚悟を決めた顔をしてマサさんを睨みつけた。
「鉄腕組のマサ、決闘をしてほしいのね。
トットにも意地があるからここまで来て引き下がれないのね。
だけど勝ってもトットはその後投降するのね。
だから負けてもトットの部下たちは見逃してほしいの」
マサさんはそれを聞いて楽しそうに笑う
「そこまで言われちゃ引けねえわな、いいぜ、かかってきな」
そう言って二本の刀を抜く。
私はトットポップの魔法をゴーグルを見てマサさんにそれを伝えようとしたら
「7753、そいつはいけねぇ。
男が女相手に命かけたタイマン張るんだ。
なのにそんなハンデなんて付けてもらっちゃ勝っても恥ずかしくて生きていけねぇよ」
と遮られてしまった。
「トットはトットポップ、勝負なのね」
「鉄腕組若頭、永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術、不破雅次、推して参る」
先手はトットポップだった。
すごい速さで突っ込んできた。
そして蹴りつけようとしたがマサさんはそれを読んでいたのか危なげなく避ける。
トットポップは持っていたギターをかき鳴らすと音符が飛び出し避けたマサさんに襲いかかる。
「そいつはさっき見たぜ」
そう言いつつマサさんは1つずつ丁寧に刀で逸らしていく。
「魔法少女ってのは見た目や名前がそのまんま魔法や能力へと反映されていることが多い。
水着なら水や泳ぎに関する能力だったりパティシエなら料理で男を誑かしたりな。
そしてそっちの二人は包帯ミイラ女にボクシング女。
さっき飛んできた音符とは全く縁のなさそうな姿だ。
それに比べておめえさんのはギターと随分とわかりやすいじゃねーか」
そういって次々と飛んでくる音符を斬り逸らし、カラダをひねって避け、屈んでやり過ごしていく。
トットポップも音符を飛ばすだけではなく、間々に蹴りを放ったりギターで殴ろうとしているが当たらない。
「魔法少女ってのは確かに力もスピードも破格だ。
だけど最初っからそういうものだと分かって訓練していれば避けれないわけじゃねえ。
魔法少女も人間である以上、動くからには関節にそって動くし、筋肉の伸縮が必要だ。
勢いをつけるには予備動作だってでてくる。
足運びや目の動きでも次の動きがわかる。
武術の達人にもなればそれらを修練で無くすことが可能だが、魔法少女ってのはどうも魔法と与えられた常人以上の力に奢ってその手の技術の蓄積が浅いんだよ。
手に取るように動きがわかるぜ」
トットポップはたまらず距離を取り音符を大量にだして数で押しつぶそうとする。
「それにしてもおめえさんの魔法、分かりやすくていいね。
どんだけ一杯飛んでこようがきっちりリズムよくビートを刻んでくれるんで避けやすいぜ」
そういってマサさんが納刀したと思ったら一瞬でその姿が見えなくなる。
あっと気付いたときにはもうトットポップの目の前に居て刀を振り抜いていた。
「御神流奥義之肆・雷徹」
マサさんがポツリと呟き、構えを解く。
その一撃でトットポップが崩れ落ちる。
だが峰打ちだったのだろう。
トットポップに出血は見られず、しかし打たれた衝撃で起き上がれずに呻いている。
マサさんはこれでおしまいだとばかりに刀を収めてしまう。
トットポップはまだやれるとばかりにマサさんを睨みつけるが、指一本動かせないようだ。
「もう決着は付いた、おめえさんの首なんかいらねぇからとっとと帰りな」
その言葉にトットポップは悔しげに声を上げる。
「トットが…トットが女だからトドメを刺さないのか。
馬鹿にするんじゃないのね。
これでもトットはピティ・フレデリカの一番弟子ね、とっくに覚悟は出来てるのね」
マサさんはタバコに火を付けながら言った。
「あぁ…女だから、じゃないな。
いい女、だからさ」
その言葉にトットポップの顔が一瞬で赤く染まる。
「部下思いのおまえさんを殺しちゃ、その部下が大人しく帰るわけないしな。
おめえさんのその思いに免じて見逃してやるよ」
マサさんはそんなトットポップの様子に気付くこともなく、早く帰れと手を振る。
トットポップは部下に肩を借りて立ち上がり、
「絶対、絶対トットを見逃したことを後悔させてやるのね………また会おうね」
そう言ってチラチラとマサさんの事を何度も振り返りながら部下たちと帰っていった。
「まったく、魔法の世界も世知辛いね」
一言呟き、マサさんはタバコの煙を空へと吐き出したのだった。
7753の本日の報告
「またライバルが増えました」
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車椅子に乗った女性がその報告書をゴミ箱に叩き込んで深くため息をついた。
まずはお詫びを。
番外編だからと好き勝手しててすいません。
そして何故かマサさんがさすおに化していってます。
主人公は今や伝聞でしか出てこなくなりました。
一体何処に行ったリップル。
7753とマサさんのお話はとりあえず今回までということに。
もし希望があればまた今度書くかもしれないけど、
このまま魔法少女同士のキャッキャウフフが出てこないと怒られそうなので。
次回からは鮮血飛び散るキャッキャウフフがお送りできるように頑張ります。
といってもいつ書くかは分かりませんが。
ああ、今回の話で"白い魔王"がでる魔砲もとい魔法少女ともクロスできるようになったのかな。
そういうわけで今更なんですが他作品のネタとか出てるんでクロスオーバータグを念のため付けておきました。
追記:
車椅子さんはこう思ってます。
「だれだ、やつに報告書の書き方を教えたやつは!更迭してやる!」