魔法少女育成計画とかどうでもいいから平凡に暮らしたい   作:ちあさ

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本日1話目です。

昨日は2話分投稿したので見逃した方は前話から読んで下さい。






やっぱり行くのかい?

 

 

玄関を出るところで、マスターに声をかけられた。

彼女にはここ数か月本当に世話になった。

戦うための知識、魔法に関して、そして彼女のパートナーには私に戦うための牙を与えてもらった。

 

 

私は本当にどうしようもない人間だった。

 

 

中学の頃、私は家庭内暴力で一年ほど少年院に収監された。

そのことについて、私は今でも悪いとは思っていない。

ただ、私は母に対して無理解だったのではないかと後悔することもある。

もっと理解していればあんなことにはならなかったのではないかと。

だがあの頃の私にはそれを考える余地などなかった。

少年院から出て家に戻った私には居場所というものがなかった。

 

 

パートナーさんが私の体の最終調整をしてくれている。

もはやこの痛みもだいぶ慣れてきた。

 

 

私の魔法は毎日1個だけ未来のアイテムを取り出すことができる能力だ。

だけど1日経つとそのアイテムは壊れてしまう。

だが彼女がそのアイテムを他の物の素材として改造するとそのアイテムの効果が永続的に引き継がれて、壊れることなく使い続けられることが実験で分かった。

そしてマスターの車椅子を強化するための素材を提供する代わりに私はここで保護されていた。

そしてある日私は試しに未来アイテムを私の体への改造素材にできないかと聞いてみた。

マスターは面白がって許可してくれた。

私の体は機械でできているロボットという設定だ。

なんとなくできるんじゃないのかという想像はあった。

そして結果、想像通り私の体の素材にされたアイテムの効果は私の固有能力として定着した。

ただし、その改造は想像を絶する痛みでもあった。

麻酔なしで体を切り刻まれて異物を組み込まれる。

たとえ魔法少女となって痛覚が和らいでいるといっても流石にこのレベルになると耐え難いものがあった。

しかも意識が途切れないのだ。

本来意識を失うと変身が解けてしまうが、改造中は魔法の効果なのか意識が途切れることなく私の変身解除もできなくなる。

更に、強力なアイテムであればあるほど改造時間は長時間になる。

酷いときには一日中私の悲鳴が途切れることがなかったほどだ。

苦痛の施術のさなかに失神することもできない混濁した私は走馬燈のように何度も過去の記憶を見た。

 

 

暴言を吐いてそして傷つけ少年院から戻ってきた私は母にとってはもういない存在だった。

いくら話しかけても反応すらしない、ただ一日無気力に座っているだけの母。

母が精神を病んでいるのはわかっていた。

それでも娘の私のことは分かってくれる、いつか思い出してくれると。

ただそれだけを願って毎日母に学校であったことを話しかけていた。

だが母の容態はおかしくなる一方だった。

ふらっと出かけて行っては包丁を買ってきて一日中それを見ている母。

学校に来ては私の隣席に座ろうとして先生に連れていかれる母。

何度も同じアニメを繰り返し繰り返し見る母。

そんな母を介護するストレスを私はスマホゲームなどをやって解消してはいたが、とうとう耐えられなくなり中学卒業と共に私は家を出ることにした。

幸い別居している義父は生活費だけは振り込んでくれるし、そのお金を定期的に母の目につくところに置いておけばなんとか自分で食事などを買ってくることはできていた。

だから私は家を出て、少年院時代の友人に仕事を紹介してもらったりして半ばホームレス生活をしていた。

 

 

魔法少女になった切っ掛けはほんの偶然だ。

友人の部屋に泊めてもらう代わりに、彼女が男目当てでやっているゲームのレベル上げを頼まれたのだ。

そのゲームは私が昔やっていたゲームと同じだったので懐かしさもあり引き受けた。

そうしたら私は魔法少女になっていた。

 

 

名前も見た目もすべて本当の私ではない借り物の私。

母を捨てた私にはおあつらえ向きだとすら思った。

だが魔法少女になって少しして彼女に会ってしまった。

 

 

初めて見たときは心臓が止まるかと思った。

いつも良くしてくれるホームレスのおじさんに差し入れを持っていったら、

出ていく際に捨てていった私のアバターがそこにいたのだ。

何故そのアバターが眼の前にいるのか。

考えると恐ろしくなって逃げてしまった。

何か無いかととっさに出した魔法のアイテムも使えないものだったので投げ捨てて空へと飛んで行ったら、彼女はそれを私へと投げつけてきた。

捕まって押さえつけられた私は彼女に自分の名前を言ったら、それを聞いた彼女は一瞬泣きそうな顔をした。

だが彼女は結局その名前を聞かなかったことにしたらしい。

そのまま私をここへと連れてきて、二人に預けて帰っていった。

 

 

捨てた私は、今度は捨てられる立場となったわけだ。

 

 

置いて行かれた当時は諦めと悲しみしかなかった。

マスターに言われるままにアイテムを差し出すだけの人形だった。

きっと私にいらないと言われて病んでしまった母もこんな気持だったのだろう。

それを思うと更に悲しみと後悔で押しつぶされそうになった。

 

 

だがその後、キャンディ争奪が始まってから、彼女は毎日少数だがキャンディを送ってくるようになった。

そしてウサギのぬいぐるみも。

私は捨てられたわけじゃないのだと気付いた。

魔法少女たちの殺し合いが始まってると聞いて、私をそれに巻き込まないように守ってくれているのだとやっと気付いたのだ。

そして、やっぱりプレゼントはこれしか思いつかないのかと思ったら少し笑えるようになった。

 

 

最終調整が終わった。

ならば行くだけだ。

今度こそ間違わない。

いつまでも守られているだけの私じゃいられない。

胸を張ってただいまって言えるように。

 

 

マスターが頑張って来いと、柄にもないことを言ってくる。

ありがとう、でもねマスター、私はもうそんな名前じゃないよ。

その名前は他人が付けた名前だ。

私にはもう新しい名前がある。

 

 

 

私は鉄腕少女、母に貰った大切な宝物(なまえ)だ。

 

 




前々回の番外編「母」の続きです。

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