その町はまだ朝だというのに沈んでいた。
もちろん朝陽を受けて輝く花々、キラキラと生命豊かに輝く小川、そしてその小川の水流で休むことなく回り続ける水車など町を彩る景色はいつもときっと変わらない。
しかし人が集まって始めて町となるにも関わらず、その肝心の町人達の表情が挙(こぞ)って影を落としているのだ。
「ずいぶんと静かな町ですね。」
「まぁ特に目立った産業の無い町はこんなもんだ。」
ディヴァの正体がバレてまた追い掛け回されるのを防ぐためにかぶらせたフード越しとはいえその表情は明るくない。
まるで町の雰囲気が映ったかのように。
そこでグレイは鬱蒼とした雰囲気を変えるのと町の情報収集を兼ねて酒場に向かうことにした。
酒場に着くとディヴァは桃的な飲み物をねだってきた。彼女はどうやら桃がそうとう気に入ったようだ。
しかしまだ朝と言う時間帯もあり酒は出ない。そこでグレイは店主に頼みアルコール抜きで桃を絞り果汁にして造ってもらいそれをディヴァに与えると、先ほどまでの鬱蒼としいた表情が嘘のように晴れ渡るものになる。
「やれやれ、ゲンキンな者だな。」
そんな彼女の姿にグレイは鼻を鳴らす。
収穫の手伝い 200金
野犬退治 150金
など酒場の掲示板に掲げてある紙面を見るが、どれも今ひとつパッとしたものはない。中には100万金なんていう王都に屋敷でも買えそうな超高額な手配書もあるが、この町から遠く離れた首都で起きた50人もの殺人を犯した凶悪な殺人鬼の討伐。相手が殺人鬼と言う凶悪なこともあるがそもそも何処にいるかも知れない者を探すのは苦労が尽きない、それも含めての報奨金なのだ。
ふと目線の端にディヴァの姿が入った。
彼女は桃の果汁を飲むのも忘れて掲示板に掲げてある一枚の依頼書に釘付けなのだ。
「どうしたディヴァ。まさか天使共(やつら)に繋がる手配書でも見つけたか?」
言ってはいるがグレイも本気で天使に繋がるものがあるとは思っていない。ただ話しかけるきっかけにすぎないのだが、声に反応したディヴァの表情は思いの外(ほか)真剣な表情だった。
ディヴァがグレイの腕を取り自分の方に手繰り寄せると何と無く二の腕に柔らかな感触があったが、ここで取り乱してはクールさを心情とした自身に傷が付く。あくまでも冷静さを保ちながらグレイは手にした水を煽りながら手配書に目を通しす。
「なんだ…これは!十万、百万…い、1億金だと?なんだこの常識を逸脱した報奨金は。首都に屋敷どころか小国の国家予算レベルだぞこれは。」
「そ、そんな凄いんですか?」
ディヴァは報奨金の1億と言うあまりにも大きな金額がどのぐらい凄いものか理解出来ていなかったが、グレイの補足を聞いて目を丸くする。
「なになに、標的(ターゲット)は…盗賊だと?何を盗めばこんな金額になるんだ?容姿はグレーの髪にグレーの瞳、身長は180前後の男?」
「なんか…グレイに似てますね。」
「そうだな。同郷って事はないだろうが世界は広い。まぁ1人くらい似たような奴がいても不思議じゃないさ。」
グレイは冷静に言い放ち水を煽りながら続きに目を通し、そして飲んでいた水を吹き出した。
「ブーー!!!」
「キャーちょっと何するんですか汚い!」
咳き込むグレイをディヴァが睨む。
〜大盗賊の捕縛または討伐〜と銘打たれた手配書(それ)には世界にたった一つの至宝である歌姫(ディヴァ)を娶(ぬすんだ)ったいけ好かない男(グレイ)を殺(ヤレ)せと、そう書いてあるのだ。
慌ててフードをかぶりつつ咳き込むグレイの横でディヴァは肩を震わせて笑っていた。
「もう…大丈夫?」
咳き込むグレイの背中をさすろうとしたディヴァに身構えるグレイ。
「なんですか?せっかく妻である私が優しく介抱してあげようとしているのに何で身構えてるのですか?」
「妻だなんだはさて置いたとして…おまえは何でオレを介抱するのに天壌乃剣(セレスティアルソード)に手をかけているんだ?」
「…これはその…1億あったら桃がたくさん食べられるな…と。」
「おまえオレを売り飛ばす気だな!!」
「良いじゃないですか!後で助けに行ってあげますから。」
「嘘吐けー!!おまえは絶対に神剣(それ)でオレを斬るつもりだろ!」
「大丈夫ですよ!痛いのは最初だけですから。先っぽだけ、先の方だけで良いから。ね?」
「ね?じゃねーよてめえ、ふざけるなよバカ女」
「あ!今私をバカって言いましたね?バカって言う方がバカなんですよ?」
酒場の掲示板の前で騒いでいると店の店主(マスター)が慌てて駆け寄ってきた。
「ちょっとちょっとお客さん、夫婦喧嘩するなとは言わないですが剣は抜かないでくださいよ。店で血が流れるのは御免ですよ。」
「ほら見てくださいアナタのせいで私まで怒られちゃったじゃないですか!」
ワザトか天然なのか誤解を振りまかなきゃ気が済まないのかこの女は。心の中で呟くグレイがそれを口にしなかったのには理由がある。夫婦であることを否定すればじゃあ何だという流れに当然なる。彼女が歌姫(ディヴァ)であることが万一バレでもすれば村中が、いや付近の町まで人相が知れ渡り命を狙われるかもしれない。ここは変に否定して突っ込んだ会話になるよりは敢えて流す方が得策だと咄嗟に判断してのことなのだ・・が、グレイにだけ見える角度で黒い微笑みを浮かべる歌姫(ディヴァ)はやはりワザトやっているようだと言うことを悟った。
〜なろうで連載中のオリジナル小説です。
素人な作品ですがよろしくお願いします