「さて、オレは目的のカタナも手にしたしもう行くよ。」
木製の扉のドアノブに手をかけると、ひやりとしたものが手に触れた。見ればディヴァの手がグレイの手を両手で抑えていた。
「…ちょっと、何をするつもりですか?」
「聞いてなかったのか?オレはもう用事が済んだから帰るのだが。」
「今開けたら私が見つかってしまうじゃありませんか。」
「オレには関係ない。」
「うわっ、サイテー。今の聞きましたか鍛冶士(スミス)さん。この男(ヒト)、困ってる女性(わたし)を平気で見捨てる気ですよ。」
そう言ってディヴァは何故か鍛冶士と一緒になって白い目でグレイを見ている。
「最低でも別に構わないがディヴァ、あんたの腰に下げたその神剣で追っ掛けなんか追い払えばいいじゃないか。オレはこれでも冒険者の端くれだ。その剣が只物じゃないことくらい分かる。」
「え?私にこれは扱えませんよ?」
「は?なんでだよ。それは両手剣だぞ?腰にとはいえ軽々しく背負っているんだから扱えないなんてことはないだろ。」
「ああ、これ装備しなければ重さがないんですよ。ほら持って見てください。」
そう言って神剣をぞんざいな扱いでグレイに投げるように渡すディヴァ。慌てて両手で神剣を受け取ったグレイは度肝を抜かれた。見た目である程度の質量や重さを予測して受け取ったグレイは、予測外な程の軽さに尻餅をついてしまったのだ。
その様子を見たディヴァは楽しそうに笑っている。
「なんだこれは。軽いと言うより重さがまるでないぞ。」
「その剣は先ほども言いましたが装備しない限りは重さがないんですよ。試しに両手で持って構えて見てください。」
グレイはディヴァに言われるままに実戦さながらに両手で構えた。すると先ほどまで羽かなにかのように軽かった剣は突然堰を切ったかのようにグレイの両手に重くのしかかり、ついには支え切れなくなり神剣を床に落としてしまった。
それを見たディヴァは笑いながら床に転がっている神剣を片手でヒョイと持ち上げ元の鞘に戻した。
「この剣(こ)の名は天壌乃剣(セレスティアルソード)と言って、あの…」
「オレの事はグレイで良い。」
改めて名前を名乗るとディヴァはハイ!とパッと咲いた花のような笑顔で応え
「グレイの想像通りその剣(こ)は神代の時代の武器です。その剣(こ)には意思の様なものがあるらしくて、必要な時に必要な技量持った英雄にしか扱えないそうです。グレイはレベルが足りないのですね。」
笑顔で毒を吐いた。
笑顔を見る限り全く酷い事を言っている自覚がないところが益々持ってタチが悪い。しかしディヴァの笑顔を見ていると毒気を抜かれてしまい、結局グレイは黙ってそのまま飲み込むことにした。
「扱えない武器なんて持っていたって仕方ないだろ。野党や盗賊辺りに狙われるリスクもあるだろうし。」
「そんな事はありませんよ。鞘に収められたその剣(こ)に布を巻けば枕にもなりますし、硬くて開けられない缶詰めも刃先を上手く使えば簡単に開けられますし、何かと便利ですよ。」
およそ神剣とは思えない扱い方だ。ディヴァの笑顔を見る限り何処まで真面目に応えているのかも微妙だ。
そこでグレイは質問を変えた。
特に歌姫に強い興味がある訳でもないが、時間を潰してやれば外で歌姫を探している追っ掛け連中も諦めて散会するだろうと言う思惑もあるのだ。
「ディヴァは何で神への歌なんか歌っているんだ?今時神を信じる者なんて殆どいないだろう?」
「神は確かにいます。何処にいるかはわかりませんが。」
「それは心の持ち様だろう?悪いがオレは見た事がないものや見えないものは信じないんだ。」
ちょっとキツいものの言い方だったか?グレイは少しだけ躊躇いを覚えたのだが言われたディヴァは笑顔を絶やさずに、白くそして美しい指先でドアを指差した。
「この先には海があります。」
「は?扉の向こうは街だろ?」
そう言ってグレイと鍛冶士(スミス)はお互い視線を交わして首をかしげる。
「活気に溢れた人波を越えましょう。太陽の光を受けて黄金に輝く稲の穂波を抜けたその先に広がる草花の香る草原を、そよ風に吹かれながら歩きましょう。丘を登り、暗い森を抜け、時に険しい山を越え…ずっとずっと行った先には海があるんです。」
「そりゃあ全ての大地は陸続きってわけじゃないんだから何処へ向かったっていずれは海に行きつくだろうよ。」
グレイが言うとディヴァは微笑む。
「では、これはどうですか。私たちのいるこのお部屋には空気があります。」
「そりゃあそうだろ。」
素っ気無いグレイの返事に両腕をいっぱいまで広げて微笑むディヴァ
「グレイには空気が見えますか?」
「…なるほど、ディヴァおまえの言いたい事は分かった。海も空気も見えないが確かに存在するものがある。神も見えないが存在(い)ると言いたいんだろ?」
グレイの返事に満足そうに頷いた。
「そうです。見えずとも空気という恩恵の中で生物は生を謳歌しています。神も例え姿が…」
「ディヴァおまえは少し勘違いしている。オレは神が存在(い)る存在(い)ないかで信じてないのではなく、神やその意志を具現化する天使どもの事を信用していないという意味でだ。」
「神の存在は信じているのですね。」
そう言って花のように笑顔を咲かせるディヴァに思わずつられて顔をほころぼしそうになるのをグッと堪えたグレイは
「フッどうだかな。そんなことよりだいぶ時間は潰せただろう?日も既に落ちた。ディヴァ誰にも見付からずに街を出るならそろそろ頃合いじゃないのか?」
素っ気なく振る舞うグレイが、あえて時間潰しに会話をしていた事に気付いたディヴァは少しだけ驚いた様子の表情をしていた。
例によって〜なろうでノンビリ書いてるオリジナル作品です。
()はルビの機能が違うのでフリガナだと思っていただければと。
そのうちに直します…多分
シズク