終わりのないラブソング   作:シズりん

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第1話

 

光さえもが輝きを失う闇の奥深く、神々しく強大な蛇がいた。

神に命じられた蛇は、自身の尾を口に含むことで輪を創り、始まりと終わりを表す『世界観』の象徴を宇宙開闢以来ずっと闇の奥深くで担っているのだ。

 

蛇は微睡む意識の中考える。

まだ天には光が照らされているのだろうか。

同じように別な使命を与えられた兄妹達は今も自身と同じく神(ちち)の使命を果たしているのだろうか。

 

このむせ返るような自身の尾を吐き出し、神(ちち)の命(めい)を破ったらどうなるのだろうか。

 

蛇は気持ち悪くなるほどの吐き気と同時に暗い考えが頭の中で膨らんでいくのを感じる。

 

なぜ神(ちち)は私にこの様な終わりの無い使命を与えたもうたのか。

私は神(ちち)に疎まれているのではないのか。

 

憎い。

 

そう憎いのだ。私を闇に押し込めた神が憎い。

強大な力を持っている自身の存在が神は疎ましいのだろうか。

憎い。

何故神は私に死(やすらぎ)を与えてはくれないのか。

 

憎い憎い憎い憎い。

蛇は神(ちち)への復讐を考える。

 

私の名は光を照らす者(ルシファ)。神(あなた)が愛してやまない世界に光を掲げよう。

例えそれが煉獄の業火だとしても。

 

 

そして蛇は、ゆっくりと自身の尾を吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

すれ違う人の表情にも影を落とす貧民街(スラム)の路地裏が、今日は異様な熱気を帯びていた。普段貧民街のましてや路地裏など人が集まるどころか近寄りさえしないものだ。しかし今目の前には王都でもなかなか見れない程の熱気を帯びた人だかりがある。

 

「なんだ、なんかあるのか?」

近くにいた男に訪ねてみると

「ディヴァちゃんが歌っているんだよ邪魔しないでくれ。クソッここからじゃ見えねえな。」

男は2、3飛び跳ねると器用に人混みの中にすり抜け入って行った。

ディヴァ…その名には聞覚えがある。世界中を旅している男はいろんな所で情報を得るのだが、その中の1つにディヴァの名前がある。

彼女は名前の通り歌姫(ディヴァ)であるようで、都市や街はもちろんのこと、村や丘の上だとかで歌っていたなどと言うどこまでが本当なのか分からないような噂まである。だが、こんな裏路地にもいるのなら噂もあながち嘘ではないのかもしれない。

彼女の歌は主として神への賛美歌や愛を詠うという。

平和だった昔ならいざ知らず、多々ある大小様々な国が小競り合いをする今の世の中において、神を本気で信仰する者は殆んどいない。精々心の拠り所程度と分かっていて信仰する人間が少数いる程度だ。どんなに祈っても祈っても祈っても、過去神が救いの手を差し伸べたことはない。直接裁きを下したこともない。しだいに人々の心から神の存在は薄れて行くのは当然だと思う。

だから本来なら歌姫が神への賛美歌を歌っていてもバカにされこそすれ、人々が集まることはない。

にも関わらず人々が集まるのには別の理由がある。

 

聞くところによれば彼女はとても美しいのだとか。

突き抜けるような黄金の髪は太陽の光を浴びてキラキラと輝いてなびく。

陶器のように滑らかでサラサラした肌は透き通るような白さで、傷1つないと言う。

吸い込まれそうになる瞳は月明かりが美しい夜のような色をしていると言う。

聞いた情報だけでもこれだけあるのだから、人だかりの向こうにいるであろう彼女はきっと女神のごとく美しいのだろう。

しかし今の目的は歌姫(ディヴァ)ではなく、貧民街の路地裏にある鍛冶屋だ。興味を引かないわけではないが目的地へと歩を進めようとした。

 

 

グレイ…

 

 

何と無く誰かに呼ばれた気がした。

辺りを見回してみるがここいらにいる人物は老若男女に至るまで歌姫の方に気がいっているので気のせいかと再び目的地へと歩を進めるのだった。

 

 

 

 

木製の、一見しただけではそれが店である事に気付かないような扉を開けると、中から野太い中年男性の声が轟いた。

「お!グレイの旦那、お待ちしておりやしたぜ。」

 

小柄ながらも腕は隆々とした筋肉で覆われ、顔いっぱいに広がる赤いヒゲ。まるで昔話しに出てくるドワーフそのものだ。

「鍛冶士(スミス)、旦那はよしてくれ。オレはまだ24になったばかりだ。それよりモノはできているか?」

「出来たには出来たが…ありゃなんだい?ソードにしては細いしレイピアにしては重い。しかも細いわりにソードを遥かに超える強度だ。しかも刃が片方側にしかないし…長いこと鍛冶士(スミス)をしているがこんなモノ初めてだ。」

「それはカタナと言う武器だ。此処より遥か東の果てのさらに海を渡った先にあるとされる理想郷(アヴァロン)のソードだそうだ。」

「アヴァロンの?グレイの旦那はアヴァロンに行った事があるんで?」

「…」

「ガハハ、冗談ですよ。アヴァロンなんて夢物語、旦那も人が悪い。でも良い仕事をさせてもらいやしたし、何より長い鍛冶士人生で立て続けに二振りもの珍しい神聖武器に出会えるなんてあっしは幸せですぜ。」

「二振り?」

「そうですぜ、きっとグレイの旦那も見たらビックリしやすぜ。」

そう言った鍛冶士は奥の工房から、分厚い布に乗せた一振りの剣を持ってきた。

 

神剣

一眼でそれが判る程の圧倒的な雰囲気がそれにはあった。二振りの神聖武器などとおこがましい。

グレイの頼んだカタナももちろん珍しい部類ではあるし、人の製法による武器としてはかなりのモノだ。

しかし目の前にあるソレはその全てを軽く払拭する。

決して飾りだてが豪華と言うわけではないが、どこか気品のようなものを感じる。ただそこにあるだけで空間そのものを侵食するかのごとき存在感を放つ。

そこそこに武器に精通した者なら誰もが判る神剣

そんな武器であった。

 

「これは凄いな。あんたの鍛冶士としての腕は一流だとオレも思っていたが、まさかこの様な神剣の整備まで任されるなんてな。」

「とんでもない!整備なんてしてやいませんよ。あっしはただ預かって欲しいと頼まれたついでに刃の埃を払った程度ですぜ。それに驚くのはまだ早いですぜ?これを預けたのはあの…。」

 

鍛冶士が名前を言いかけたその時だった。

バン!!

と勢いよく開いた扉を即座に閉め、外の様子を息を殺して探る女が入ってきた。

 

美しい黄金の髪の後ろ姿がとても印象的なその女は、しばらくすると振り向きこちらへ歩いてきた。

 

「鍛冶士さんごめんなさい。観客を撒くのを失敗しちゃって…ってあら、お客様?」

「おおディヴァちゃん。ほらちょうどあんたに預けられていた剣を持っていた所だよ。」

 

そう言って鍛冶士が女に大事そうに抱えた神剣を渡すと、女は鞘らしきものに剣を納めて腰に下げた。

神剣が色褪せるような美少女だった。見た目の年齢は自分と大して変わらないその女は、突き抜けるような美しい黄金の髪を揺らす。繊細で滑らかな白い肌には傷1つ見当たらない。どこまでも澄んだ夜空のような瞳。

 

「まさか…その神剣の持ち主が噂の歌姫だったとは。」

 

グレイは思わず口にすると、少女は噂に違わぬ女神のごとき美しさで微笑んだ。




別サイトの〜なろうでノンビリ書いてるオリジナル作品です。

ルビの機能が違くて直すのがめんどくさ…おっと、私とした事がはしたないですわ。
2話以降もなろうに遅れて載せるかもしれないし、載せないかも…


王道ファンタジーに挑戦です。
よろしければ応援よろしくお願いいたします

シズク

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