こんな篠ノ之箒ちゃんはいかがですか?   作:妖精絶対許さんマン

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一話投稿して評価が五・・・・・・驚きです。


篠ノ之箒、昔を思い出しています。

書道室ではまたも夫と隣の席だった。当時はどうも思わなかったが、今思い返すと教師陣の方でも連絡を取り合っていたのか私と夫が同じ選択授業なら隣の席になるように話をしていたのかも知れない。

 

「三神ー、もう少し綺麗に書けないのか?」

 

「・・・・・・筆とシャーペンは感覚が違うんです」

 

当時の夫は筆で書く字はとにかく汚かった。辛うじて読める程度の文字だった。シャーペンで書く字は綺麗に書けるのに筆で書く字は汚い・・・・・・謎だ。

 

「篠原さんの字って綺麗だね」

 

「・・・・・・・・・・」

 

隣から覗きこんで来た夫は私が書いた字を綺麗だと言ってくれた。今の私なら『綺麗だね』などと言われたら娘には見せられないほど表情は緩んでるだろうが、当時の私は夫にこれと言った感情は持っておらず、聞き流していた。

 

「・・・・・・・・・・」

 

再度、夫は苦笑いを浮かべながら頬を掻いていた。ずっとそうだった。どれだけ話しかけられても無視をして、周りを拒絶していた。仲良くなれば別れる時が辛くなるから。もう、あんな思い(・・・・・)をするのは嫌だったから。夫は私と話すのを諦めたのか黒板の方を向いた。

 

(そうだ、それでいい・・・・・・。私に構わないでくれ)

 

当時の私は自分のことを世界一不幸な人間だと思っていた。姉が発明した物によって、一家離散に追い込まれ、初恋ーーーーーー今思えば私が『彼』に抱いていたのは『恋心』じゃなくて『憧れ』だったのかも知れないーーーーーーの相手と離ればなれになり、『篠ノ之箒』という人間を否定されていたのだから。思い上がりも良いところだ。昔の私に会えるのなら説教したいぐらいだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「マ、ママの説教・・・・・・?」

 

「どうかした、唯?」

 

「う、ううん・・・・・・何でもないよ?」

 

洗濯物を直し終わり、昼食の用意をしながら昔の話をしていると唯の声が少し震えていた。どうかしたのだろうか?

 

「ねえ、ママ。話に出てきた『彼』って誰?パパのこと?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

唯の言葉に鍋をかき混ぜていた手が止まってしまった。『彼』とは学園を卒業して以来会っていない。いや、会おうとしていないの方が正しいのかもしれない。夫との結婚式の時は『彼』にも招待状は送ったが、『彼』の姉だけが参加した。正直、来なくて安心した自分がいた。

 

「・・・・・・・・・・」

 

「ママ?」

 

「・・・・・・また、今度話してあげる」

 

夫と結婚して、唯も産まれたが未だに『彼』に対する負い目のような物が棘のように私に突き刺さっている。夫を好きになって、愛して、結婚して、唯を産んだことを後悔なんてしていない。ただ、それでも、初恋の『彼』を忘れられない自分がいる。

 

「・・・・・・どこまで話したっけ?」

 

「えっ?えーと、書道室でママがパパを無視したところまでかな?」

 

・・・・・・思ったより話していなかった。ま、まあ、この頃の私は夫のことをどうも思っていなかったからしょうがない。・・・・・・自分で言っていておいて辛い。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

私が夫と同じ中学に転校して二週間が過ぎた。この頃になるとクラスの生徒は誰も私に話しかけなくなった。・・・・・・ただ、一人を除いて。

 

「篠原さんは昨日の番組見た?あの芸人面白かったよねー」

 

「・・・・・・・・・・」

 

ーーーーーー夫だ。転校初日に徹底的に無視をしたのに、夫はこの二週間ずっと私に話しかけてきていた。正直、煩わしい。あれだけ無視したのに私に話しかけてくる夫の神経を疑った。

 

「でさ、その芸人が『押すなよ!絶対に押すなよ!』って言いながら、自分で足を滑らせて熱湯の中に落ちたのが本当に面白くてさ!」

 

私の胸の内など知らずに夫は楽しそうに話している。楽しそうに話している夫に苛立ち、私は無意識の内に机を叩いていた。教室が水を打ったように静かになった。

 

「少し・・・・・・黙ってくれ」

 

気がつけば私は夫を睨んでいた。夫には悪いことをしたと思う。

 

「・・・・・・ごめん」

 

夫は目に見えて意気消沈と言った風だった。私は夫を一瞥し、外を見る。当時の私はここまですれば夫はもう話しかけてこないと思っていた。

 

「・・・・・・何あれ、感じ悪」

 

「ホント、転校してきたからって調子に乗ってるんじゃないの?」

 

教室の端の方からそんな声が聞こえてきた。心が麻痺していたのか、そんなことを言われてもどうも思わなかった。・・・・・・転校する度に周りから孤立するような態度をとっていれば当たり前だ。

 

(・・・・・・・・・っ)

 

それでも、その言葉は刃物のように鋭く、当時の私の心を切り裂いた。私だって本当は他の生徒と話をしたい。友人も作りたい。だが、当時の私の周りがそれを許してくれなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「・・・・・・ママってボッチだったの?」

 

「べ、別に友達が一人もいなかった訳じゃ・・・・・・!」

 

・・・・・・ないとは言えなかった。友人と呼べる人間が出来たのは夫と打ち解けた後だし、結婚してからも付き合いがあるのは中学校時代の友人は五人、学園時代の友人は三人、大学からの友人は皆無。

 

(私・・・・・・友達少なすぎない?)

 

自分の交遊関係の狭さに内心ショックを受けた。・・・・・・学園時代にもっと友達を作る努力をしておけば良かった。


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