携帯獣の能力を宿す者の幻想伝 作:幕の内
~地底~
「うう・・んー?どこだここは?」
伊吹萃香はあの戦いの後は意識を失って倒れた。そして今は誰かが助けてくれたらしくて、今まで布団の中で寝ていた。しかしその部屋はどこか覚えがあった
「・・・この部屋は見たことがある気がするな。もしかして・・・」
「よう!やっと起きたか」
すると萃香にとっては懐かしい声がしてきた。振り向くと
「ふふ。あんたに助けられるとわねぇ・・」
「私もまさかあんなところで会うとは思わなかったさ、萃香」
「そうだね。・・・久しぶりだね、勇儀」
萃香に話しかけてきた妖怪の名は星熊勇儀。地底に住んでいる鬼である。かつて萃香と共に「山の四天王」と呼ばれており、彼女はその一人である。萃香は「技の萃香」と呼ばれているのに対し、彼女は「力の勇儀」と呼ばれている。長い金髪に黄色い星のマークがある一本の赤い角が特徴的である
「しっかし驚いたよ。夜なのに上から大きな振動がしてきて、最後はぶっとい青い光線みたいなのが地上から突き破ってきて、そのあと大爆発が起きたからな。それで現場に行ったらでっかい穴が出来ていて、その真ん中にお前が倒れていたからたまげたよ」
「はは。本気で戦うのは久しぶりだったとはいえ、まさかあそこまで強いとはねぇ。で、その相手の名は・・・」
「ああ、いいよいいよ。相手は大体察しが付くさ。最近地上を騒がせている人間だろ?木戸真聡とかいう」
「ああそいつだよ」
すると勇儀はどこからか「鬼殺し」と書かれた酒瓶を持ってきた。そして盃に酒を入れて萃香に渡した
「まあ飲めよ」
「おお、悪いね」
お互い久しぶりの再会を祝うのも兼ねて乾杯した。そして大きな盃一杯に入った酒を豪快に飲んだ
「ぷはぁー。しっかしまさかお前がやられるとはな。負けるなんていったいいつぶりのことだ?」
「さあね~?もう覚えてないわ」
酒を飲みながら二人は語る
「・・・あんたは相変わらずのようだねぇ。絶対戦いたがってるでしょ?」
「まあな。最近できた弾幕ごっこではなくて、鬼のお前との実戦で勝ったんだ。そこまで強い人間なんて聞いたことがないからねぇ。是非とも戦ってみたいねぇ!!」
と嬉々として勇儀は語った。しかし
「お前は随分暗いな。負けるのはそんなに嫌だったか?」
「いや。私も久しぶりに血が燃え滾るようないい戦いをさせてもらったよ。それに関しては特にいうことはない。ただ・・」
「ただ、なんなんだ?」
萃香は盃の酒を一口飲んで言った
「紫があいつを一体どう見ているのかが少し気になるのさ」
「紫って、あの八雲紫かい?」
「ああ」
少し間を置いた後に語りだす
「あいつは幻想郷を何よりも大切にしている。そして人に忘れ去られた存在である妖怪や神たちの楽園を生み出し、更に妖怪の存在に必要不可欠な人間とうまく調和をとっている。そして大抵の人間は妖怪にはまず勝てず、そして恐れるようにした。だから私ら妖怪は存在できているんだ」
「・・・・・」
「だがあいつは突然外の世界からやってきたということ以外は謎だ。そして強力な力を持っており、多くの異変を解決していった。吸血鬼を倒して且つ兄弟仲を和解させたり、紫でも手が出せないほど強大な妖力を持った西行妖の暴走を止めて、そして今回は鬼である私に実戦で倒してしまった」
萃香は瓶から酒を杯に注いで、そしてまた一口飲んでいった
「そのせいで人間たちに絶大な信頼を得てしまった。あの男なら何とかしてくれるという信頼をね。そうなると人は妖怪を恐れなくなる可能性もある。そうなると」
「私たち妖怪の存続に関わってくることになりかねない、というわけだな。要は幻想郷のパワーバランスが崩れ始めているのかもしれないと」
「そういうことよ」
しばらくの沈黙が続いたが、萃香はまた口を開く
「でもあの男はおそらく妖怪をむやみに殺すようなやつじゃない。性格は至って善人だ。事実幻想郷の危機から救った。だからこそ紫は余計に質が悪いと感じてそうだなと思ったのさ」
「なるほどな」
勇儀は盃の酒を豪快に一気飲みした
~人里~
あれから俺は今度は5日も寝ていたらしい。しかし今ではケガはもうほぼ治った。そしてようやく仕事に復帰し始めると、人々にまた騒がれた。「文々。新聞」にでかでかとそのことで一面を飾ったらしい。しかも写真付きでだ。いくら戦闘に集中していたとはいえ波導をもってしても気づかないとは。あの天狗もかなり神出鬼没だなと思った
まあ何にせよ、ようやく平和が戻ったわけである。俺は今日も普段と変わらない日常を過ごしていくのだった
しかし、また新たな異変が来るまではそう長くはなかった・・・
連載開始から一か月経とうとしてきましたが、閲覧数や感想とお気に入りが増えていって本当に嬉しい限りです。まだまだ誤字など至らない点が多々ありますが、読んでくださる皆様のためにこれからも頑張っていこうと思います