携帯獣の能力を宿す者の幻想伝 作:幕の内
今、仙界では三つの戦いが繰り広げられていた。
ある場所では黒い空と共に雷雲が立ち込め、雷が暴風雨のごとく降り注ぎ、雷鳴が轟いていた。
別の場所ではいくつもの火柱と陽炎が立ち込めるすさまじい熱気に包まれていた。
この二つの光景を遠目から見ただけでも尋常ではない激しい戦いが起こっていることは一目瞭然だろう。
だが最後の一つは・・・・
「・・・・・・・・・」
ヒュウウウウウウウウウ・・・・・
『・・・・・・・・・』
最後の一つは他の二つと違い、時折北風が吹く程度しかなくほぼ静寂に包まれていた。傍から見ると他の二つの光景と比べると見劣りするだろう。
しかし、少なくとも今戦いを繰り広げようとする当時者たちは違った。そのあまりの静寂は残りの二つとは違う緊張感が走り、青蛾と屠自古、そして妖夢はまだ反撃には出れずにいた。対して三人を相対するスイクンは三人は静かに見据えている。それだけでも凄まじい威圧感を放ち、その姿は静寂なる水の君主というかのような姿だった。
ヒュウウウウウウウウウ・・・・
北風はまた吹いていく。この戦いの場を支配する静寂は三人にとってまるで永遠に続くのではないかと思うほどだった。だが戦いの火蓋は唐突に訪れる。
ビュゴオオオオオオオオオオ!!!!!
北風は激しい「ふぶき」へと変わる。その冷気は大地をみるみる凍結させ、三人を飲み込もうと迫る。
「はあああ!!」
ズバア!!
一閃。妖夢は刀を抜き放ち真空の刃で迫りくる「ふぶき」を切り払う。これにはスイクンは少し驚いたが、顔色はまるで変わっていなかった。そして今度は
ズッドオオオオオオオ!!!
『!?』
今度は大地から凄まじい水圧の水柱がいくつも発生する。三人は何とか回避していくが、水柱はますます増え続け追い詰めていく。
「くっ、邪符「グーフンイエグイ」」
青蛾はスイクンに向かって相手を追い回す弾幕を発射する。弾幕はスイクンを取り囲むが
カキ――ン!!
「!?うそでしょ!?」
スイクンは自身を「ミラーコート」で包み込み、そして弾幕を反射させた。弾幕は「ミラーコート」の効果で威力が増加し、今度は青蛾を追い回す。青蛾はそれを何とか回避しようとするが
ドゴオ!!
「ガハ!!」
スイクンは水柱の勢いと共に青蛾に「たきのぼり」をくらわせ、上空へ吹き飛ばす。そしてそのまま上空に跳躍していき口に膨大な水のエネルギーを集約して「ハイドロポンプ」を発射しようとしていた。
「そうはさせるか!!」
すると屠自古は手に電撃を溜めて天にかざす。すると・・・
バリバリ!!ド――――ン!!
すると天から雷が落ち、それはスイクンに直撃した。スイクンはみずタイプのポケモン。電撃である雷は効果的な攻撃だった。しかし・・
バッシュ―――――ン!!!
『!?』
しかしスイクンはそれをもろともせず、標的を屠自古に変えて「ハイドロポンプ」を発射した。遠くから見るとビームと見間違うほどの集約されたすさまじい速度で放たれた水流が屠自古に迫る。
「人鬼「未来永劫斬」!!」
すると妖夢が屠自古の前に現れ「ハイドロポンプ」を切り裂こうとする。しかし水流の勢いは凄まじくどんどん押し返される。
「くっ!!」
ズッパアアアアアアアアアン!!!ズドドドオオオ!!
妖夢は何とか「ハイドロポンプ」の軌道を逸らすことに成功する。水流はそのまま地面へと向かっていく。当たった個所は両断され、その後天高く水柱が立ち昇った。
「お二人とも大丈夫ですか?」
「ああ。助かった」
「私も危ないところでしたわ。あの水流がもし直撃したら・・・」
(正直ギリギリだった・・・)
青蛾は錬丹により自身の体を鋼以上の硬度にすることができ、「たきのぼり」は何とか耐えることが出来た。しかし「ハイドロポンプ」は別。あれが直撃したら肉体はバラバラに引き裂かれてしまったことだろう。妖夢も逸らすことが出来なかったらそうなっていたことだろう。
「あいつは今どうですか?」
「あの巫女の言う通り確かに雷は効くようだが・・・あれくらいではあいつには威力不足か」
屠自古の雷はスイクンには確かに効果的ではあったものの、あれくらいでは通じんぞとでもいうようにスイクンは余裕で耐え、麻痺すらしていなかった。三人は改めてスイクンは途轍もない強敵だと認識する。
「臆してばかりではいけません!!」
妖夢は目にも止まらぬ速さでスイクンに迫る。スイクンは水柱と氷柱、「バブルこうせん」で応戦するがそれを華麗に回避していく。やがて距離はつまり妖夢はスイクンに切りかかる。
ズバア!!
!?
斬撃はスイクンを的確にとらえた。妖夢は続けて攻撃しようとするが
ヒュン・・・スカ
「何!?」
だがスイクンは華麗なステップをしたかと思えば妖夢の斬撃はすり抜けて空を切る。妖夢は訳も分からず驚くが、そのあと後ろから「れいとうビーム」を発射してくる。妖夢は何とか回避し、また斬りつけるがすり抜けて当たらない。
「まさかこの獣、体を液体化させて無効化しているのですか?」
スイクンはステップと同時に自身を水へと変化させて斬撃をすり抜けていたのだ。いくら妖夢が斬っても結果は同じだった。しかしその様子を見て
「ならば私の電撃で攻撃するのみだ!!」
すると屠自古はまた電撃を溜めてスイクンに攻撃を仕掛けようとした。液体化しても電撃なら通用すると考えたのだ。スイクンは妖夢に集中しており、確実に命中させられると確信していた。だが・・・
ピカ!!ビビビ――――――!!!
「え・・・」
しかし背後からオーロラのような鮮やかな色をした光が差したと同時に「オーロラビーム」が発射される。屠自古は完全に不意を突かれて対応できなかった
「危ない!!」
すると青蛾は弾幕を展開して、相殺しようとする。しかし咄嗟に出した物で威力は低くて相殺できず
ド―――ン!!
「きゃああ!!」
「!?青蛾!!」
直撃は免れたものの青蛾は衝撃で大きく吹き飛ばされた。予想外の攻撃で三人は混乱する。そして気が付くと
「三体に・・・分身している!?」
するとなんとスイクンはニ体の分身を作っていたのである。合計で三体。そのうちの一つが屠自古に攻撃していたのである。そう思っているうちに今度はもう一体の方が二人に「オーロラビーム」を発射する。
「うわ!!」
「分身には分身です。魂符「幽明の苦輪」」
すると妖夢は分身を生み出して対抗する。しかしただでさえ手強いスイクンが三体も現れるとなるとその強さは驚異の一言だった。三人はスイクンの猛攻に何とか耐えていくがとうとう屠自古が水柱に被弾してしまう。
「うう・・・」
「屠自古!!くう・・降霊「死人タンキ―」!!」
青蛾はスイクンに向かってスペルカードを発動して反撃に出るが、スイクンはまた「ミラーコート」で反射しようとする。しかし次の瞬間
ズバン!!シュウウウウ・・・
「その結界は物理的な攻撃は跳ね返せないようですね」
妖夢がスイクンを斬りつける。これは分身だったものの数は減らすことは出来た。続いてもう一体の分身も斬りつけることに成功するが、その直後に本体のスイクンが光り出す。そして倒れている屠自古に今度こそ仕留めるために再び「ハイドロポンプ」を発射した。
ズッドッオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
先程よりもさらに威力が上がっていた。先程の光は「めいそう」であり、威力を上げることで軌道を逸らすことすらさせずに止めを刺そうとしたのである。青蛾の弾幕も容易く貫通し、凄まじい勢いで突き進む。
しかし妖夢はその水流の前に再び立ち塞がる。そして妖夢は刀を構え、「ハイドロポンプ」をただじっと見つめていた。
(今こそ修行の成果を試すとき!!私だって強くなったのですから!!!)
妖夢は水流をじっと見つめる。その間の時間はほんの刹那の時だった。しかしそれでも妖夢はじっと水の動きを見ていた。水の流れを、飛沫を、何もかもを、
そして後ほんのわずかまで迫った瞬間
「(見えた!!)はああああああ!!!」
スパアアアア!!!
!?
一閃。
妖夢は「ハイドロポンプ」を一刀両断したのである。これにはさすがのスイクンも驚愕の顔を隠せない。
(真聡さんの修行部屋で誰よりも鍛えてきたのです)
水を斬ることは光を斬ることよりも難しいという。以前までは妖夢はまだその域には達していなかったし、本来なら何十年の修行が必要だった。だが妖夢はそれを短期間で会得した。
しかしこれはあくまでも
妖夢は確かに何十年分の修行はしたのである。しかし実際はたったの数年しか時は経っていない。
これを可能としたのは真聡の作った精〇と時〇部屋と同じ効果を持つ修行部屋によるものである。この部屋の効果で短期間での剣の極意の習得を可能にしたのである。
妖夢は水を斬る極意を会得したのである。とはいえ先ほどまではまだ不完全であり最初は失敗に終わったが、極限の状況の中で遂にそれを完全にものにしてみせたのだ。
「さあ・・決着をつけましょう!!」
妖夢はまた刀を構えてスイクンを見据える。その瞳にはまるで迷いが見られなかった。
スイクンは一瞬怯みかけたが、すぐに平静を取り戻し本気で迎え撃とうと身構える。
決着の時は刻々と迫っていた。
予想以上に長くなりましたが、次回で三犬戦は決着します。まあもちろんこれだけでは終わりませんが。
スイクンの攻撃はこれまたポケモンレンジャーを参考にしています。三体に分身する描写は初代ポケモンレンジャーで見せた攻撃方法です。現実ではゲームと同じようにコマンドバトルというのは出来ませんから、アニメやポッ拳などのポケモンが自由に動き回って行動する描写がある方がとても参考になります。
解説は次回に回します。