セラフィムの学園   作:とんこつラーメン

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中学生編は、ちょっと密度が高いかもです。

色々とイベントがありますから。






第6話 二回目の中学生

 それは、ほんの偶然だった。

 

 その日、俺は学校から帰った後に、暇つぶしにコンビニに行って立ち読みでもしようと思った。

 バカ一夏(最近になって呼び捨てにし始めた。理由は無い)は家に何故か置いてある木刀を持ってどこかに行ってしまったし、鈴は家の用事で遊べない。

 そんな訳で、俺は今非常に暇なのだ。

 家から少し離れた場所にあるコンビニに向かい、迷うことなく入る。

 

「らっしゃーせー」

 

 店員の気の抜けた言葉を聞いて、真っ直ぐにブックコーナーへと向かう。

 漫画の単行本や雑誌が蘭列している中、俺はある雑誌に目が止まった。

 

「これは……」

 

 それは『インフィニット・ストライプス』と呼ばれるIS関係の雑誌だった。

 主にISの選手のインタビューなんかを載せているが、別に雑誌自体には一切興味はない。

 俺が気になったのは、その雑誌の表紙だった。

 

「……姉さん……」

 

 表紙には、我等が姉である織斑千冬の顔写真がデカデカと記載されていた。

 写真と共に『日本代表【織斑千冬】の活躍に迫る!!』と言う字が書かれてあった。

 

「こういう事だったのか……」

 

 まさか、日本の代表に抜擢されていたとはね。

 道理で金回りが良くなるはずだ。

 国家代表ともなれば給料は凄いだろうしな。

 

 ウチはあんまりニュースや新聞を見ない。

 俺も一夏も興味が無いし、別にクラスなどでも話題にならないからだ。

 っていうか、小学生のうちにニュースに興味を持ち始めたら、間違いなくそいつの将来の夢はサラリーマンか公務員だろう。

 気になるニュースがあればネットで見ればいいし。

 

 試しにちょっとだけ読んでみると、俺達が知らない間にモンドグロッソと呼ばれるISの世界大会に出場し、優勝したようだ。

 この間、通帳に振り込まれていたアホみたいな金額の金は優勝賞金だったのか…。

 

「はぁ……」

 

 数ページだけ読んで元に戻した。

 多分、俺達をISに関わらせないようにする為だろうが、少しぐらいは話してくれてもよかったのではないか?

 俺にだって身内を祝いたいと思う心ぐらいはあるつもりだ。

 それは一夏だって同じの筈。

 

「過保護と言うか、何と言うか……」

 

 あの人は俺に対して特に過保護な感じだ。

 体に色々と問題があるのは分かっているが、俺は特に困ってはいない。

 

 その後、ミネラルウォーターを二本買って、コンビニを出た。

 一本は一夏の為。

 多分、汗だくで帰って来るだろうから。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 時が経ち、小学校を卒業し、俺達は中学生になった。

 国家代表として忙しい筈の千冬姉さん(さん呼びは流石に失礼だと思ったので、姉さんと呼ぶ事にした)も卒業式と中学の入学式に来てくれた。

 

 現在、俺達は中学校の校門にて一夏と鈴と千冬姉さんと一緒にいた。

 姉さんと鈴はいつの間にか仲良くなっていたようで、今も二人で話している。

 一夏は完全に蚊帳の外だ。

 

「中学の制服、良く似合っているぞ、千夏」

「そうか?」

「そうよ! なんかちょっとだけ大人びて見えるもの」

「ふ~ん……」

 

 ちょっとだけ……ね。

 中学生なんてまだまだ充分なぐらいにガキだしな。

 

「しかし……」

 

 スカートを少しだけ摘まんでヒラヒラさせる。

 凄い違和感がある。

 

「これからは毎日がスカートか……」

「慣れないか?」

「ああ。これは苦手だ」

 

 小学生までは私服だった為、俺はよっぽどの事(鈴などに無理矢理着せられる)が無い限りは、いつもズボンを穿いていた。

 体がこんな風になっても、俺の心は男なのだ。

 スカートはそう簡単には容認できない。

 

「気持ちは分かるが、こればかりは我慢だ」

「分かっている」

 

 そう言えば、千冬姉さんも私服はズボンばかりだったな。

 俺の服の半分はこの人の御下がりだし。

 

「なんでスカートを着たがらないのかしら? すっごく似合っていて可愛いのに……」

「そうだぜ。千夏姉はもうちょっと女の子っぽい服装をしてもいいと思うぞ?」

 

 女の子っぽい格好……ね。

 残念だが、俺は男なんだよ。

 身も心も……な。

 ここで言っても意味無いから、言うつもりは無いけど。

 

「ところで千夏。教科書は重たくないか?」

「大丈夫だ。問題無い」

「千夏姉がネタ発言した……」

「は?」

 

 ネタ? 何が?

 

「全く重く感じない。これなら余裕だよ」

 

 五年生辺りから気にはなっていた。

 痛覚が無いことの意味を。

 

 昔、とある本で無痛症の人間について書かれていたのを読んだ。

 なんでも、痛覚が無い人間の筋力は通常の人間よりも遥かに強大らしい。

 『痛み』とは一種の危険信号で、これがあるから人間は事前に自身の肉体の限界を知り、肉体の破壊を防ぐことが出来る。

 だが、無痛症の人間にはそれが無い。

 本来ある肉体的なリミッターが最初から解除されているに等しいのだ。

 その代償として、筋肉や靭帯などに大きな負担を掛けてしまい、壊れてしまう可能性が非常に高いが。

 しかも、本人に痛みがない為、壊れた事にすら自分で気が付かないのだ。

 

 この記述を読んでから、俺は今の自分の『力』に興味が出た。

 本気で力を振るえばそれだけの能力を発揮出来るのか。

 だが、それを知ろうとして体を壊してしまっては意味が無い。

 だから、こうして重い荷物を持ったりする時以外は滅多に力を入れようとはしない。

 

 今も、本来ならかなり重たい筈の全教科の教科書をビニールに入れた状態で持っているが、全くもって重さを感じない。

 寧ろ、鈴と一夏の分を持ってやってもいいと思う程だ。

 

「一体、この細い体のどこにこんな力があるのかしらね~」

「千夏姉は俺よりも腕相撲が強いからな」

 

 そんな事もあったな。

 あの時は俺がこいつを秒殺したんだっけ。

 悔しそうにして何回も挑んできたが、結局は俺の全勝。

 一夏は皿洗いをする羽目になったのでした。

 

「こんな姿を見ると、千冬さんと千夏が姉妹だって納得出来るわ……」

「「それはどう言う意味だ? 鈴」」

 

 あ、ハモった。

 

「あ、やば」

「一番怒らせちゃいけない二人を怒らせちまったな」

 

 失敬な。

 今の俺にそんな大層な感情は無いよ。

 有ればいいとは思うけどな。

 

 にしても、もう中学生か…。

 このままだと、高校生まであっという間だな。

 一夏を見習って、俺も体を動かす事をした方がいいかな……。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 中学生になって約一ヶ月半程が経った。

 

 小学校から殆どの連中が繰り上がりで入学したため、交友関係に関してはそこまで苦労はしなかった。

 俺と鈴、そして一夏は相も変わらず一緒につるんでいて、学校では殆ど一緒に行動していた。

 だが、そんな輪に新たな人間が追加された。

 

「でさ~。そこで小杉の奴がさ~」

「え~? マジかよ~」

 

 今、一夏と話しながら歩いている少年『五反田弾』だ。

 赤い髪の長髪が特徴的で、その人懐っこい性格が一夏を波長があるのか、すぐに仲良くなっていた。

 その流れで俺と鈴とも知り合った。

 

「で、その古本屋って何処にあるんだよ?」

「もうすぐよ。千夏と一緒に見つけたんだから」

「へぇ~……」

 

 今は下校中で、帰りに俺と鈴が新たに開拓した店に行くことになったのだ。

 そこは少し古い古本屋で、見た感じは風情がある感じだったが、意外にも結構な掘り出し物があったりするのだ。

 前世でもよく古本屋に行って立ち読みをしていたっけ。

 

「あ、あそこよ」

「あれか……」

 

 鈴が指差す方向に、少し古ぼけた本屋が見える。

 周囲の風景に少し浮いてはいるが、だからこそいいと思うのは俺だけだろうか?

 

 店の前まで行き、改めて店の外観を見る。

 

「大丈夫なのか?」

「見てくれで判断しないでよね。ほら、さっさと入るわよ」

「「へ~い」」

 

 鈴が真っ先に入って、それに続くようにして一夏と弾が。

 最後に俺が入った。

 

「「おぉ~……」」

 

 中は本が所狭しと積んであって、まさに本だらけだった。

 

「俺はこっち行くわ」

「あ、じゃあ俺も」

 

 男子二人は迷う事無く真っ直ぐに漫画コーナーに直行した。

 あ、俺もある意味では男子か。

 

「ホント……ガキなんだから」

「言ってやるな。いつまでも童心を忘れないのは、男だけの特権だと思うぞ」

「相変わらず、千夏は男子に対して甘いわよね~」

「そうか?」

 

 そんなつもりはないんだが…。

 無意識のうちに甘くしていたんだろうか?

 

「それも千夏らしさだって思うけどね。私はこっちに行くから」

 

 鈴はラノベコーナーへと向かって行った。

 

「俺らしさ……か」

 

 俺らしさって、なんだろうな。

 

「……今考えても仕方ないか」

 

 頭の中に生まれた疑問を振り払って、俺は適当に店の中を見て回る事にした。

 すると、エッセイや詩集などが並べられているコーナーがあった。

 そこで、俺は気になる本を見つけた。

 

「これは……?」

 

『熾天使の一生 ~男と女の狭間で~』と言うタイトルの本だった。

 

 試しに手に取って読んでみる。

 それは、俺と同じ睾丸性女性化症候群として生を受けた『上条涼子』と呼ばれる人物の人生を綴った本だった。

 

 この人が自分の身体の事を知ったのは大学院生の時だったらしい。

 その時、既にこの人は結婚をしていて、順風満帆な生活を送っていたが、子供が出来ない事が唯一の悩みだった。

 何回も病院に行って診て貰ったらしいが、医師は『子宮が未発達』と言われ続けたらしい。

 だがある時、触診の際に自分の腹部の中にしこりの様な物がある事を涼子さんは感じた。

 それで医師に問い詰めたところ、渋々、『子宮の変形』『生まれつきの奇形』だと言われた。

 手術などの手段も考えたらしいが、医師曰く、どんな病院に行っても、どんな手段を用いても無駄……そう言われたらしい。

 医師すらも匙を投げた自分の異常。

 それを聞いて、涼子さんは目の前が真っ暗になったらしい。

 しかし、そんな涼子さんを更に追い詰める出来事があった。

 

 帰り際、涼子さんはナースセンターで看護婦達の会話で、自分が睾丸性女性化症候群である事を知ってしまったのだ。

 

「俺と同じ……」

 

 症状もそうだが、自分の身体をことを知った状況が俺とそっくりだった。

 まるで、この『涼子』と言う人の人生を辿っているかのように。

 

 そこまで読んで、俺は本を棚に戻した。

 なんでか、これ以上は見ていたくなかったから。

 

「あれ? どうしたの、千夏」

「鈴……」

 

 目的の本が見つかったのか、何冊かラノベらしき本を持っている。

 

「なんかあったの? ちょっと沈んでいるように見えるけど…」

「俺が?」

「うん」

 

 今の俺にそんな表情が出来るとはな。

 少しずつ感情が戻って来ているんだろうか。

 

「ま、表情はいつもと変わらないけどね」

「おい」

 

 どうやら、気のせいだったようだ。

 

「それでも、なんとなくそう言うのは分かるもんよ?」

「そうなのか?」

「もう何年の付き合いだと思ってるの?」

 

 そういうもの……なんだろうか。

 

「欲しいやつは見つかったの?」

「いや……特には」

「そう。じゃ、もう行く?」

「そうだな」

 

 それから、俺達は一夏と弾と合流して、会計を済ませた後に店を後にした。

 何気ない日常の一コマだが、俺の脳裏には強く焼き付いた日になった。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 何も無い暗闇の中に『声』が響く。

 

「もうすぐだね」

「もうすぐだ」

「ちゃんと来るかな?」

「ちゃんと来るよ」

「目覚めるかな?」

「目覚めるよ」

「選ばれし子」

「運命の子」

「彼女は天使」

「彼は至高」

「最初は全てを『否定』して、『拒絶』して」

「次に『黒き衣を纏う騎士』となって」

「最後には」

「最後には?」

「「黄金に輝く『威厳ある司教座聖堂』に至るだろう」」

 

 男とも女とも思えないぐもった声は、次第に収束していき、消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




途中に入った話は、この作品の元ネタになった作品の一シーンを描いたものです。

それと、今回の千夏は弾とはくっつきません。

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