セラフィムの学園   作:とんこつラーメン

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前回言ったように、またまた飛ばしていきます。

個人的に書きたいと思うシーンは頑張りますけど。





第5話 中国からの転校生

 箒ちゃん達、篠ノ之一家が去って行ってから、暫くが経ち、もう5年生になった。

 

 あれから少しの間、一夏君は明らかに落ち込んでいたが、一週間もすればいつもの調子に戻った。

 ま、この頃の小学生男子はこんなもんだろ。

 もしかしたら、強がっているだけかもしれないが。

 ……って、一応俺も小学生『男子』だった。

 

 そして、4年生の終わり辺りから、我が家は急に金回りが良くなった。

 有体に言えば、月に一回ぐらいの頻度で結構な額の金の入金があるのだ。

 まるで、何かの給料のように。

 

 それと引き換えるかのようにして、千冬さんの帰りが遅くなったり、時には一日から数日にかけて帰宅しないことがあった。

 何かをしていることは分かったが、その『何か』の正体を聞くようなことはしなかった。

 誰にだって聞かれたくない事の一つや二つぐらいはある物だから。

 大体の見当はついてるんだけどね。

 

 それというのも、千冬さんの部屋を掃除している時に、机の上にIS関係の本が置いてあったからだ。

 多分、疲れていて片付けるのを忘れたんだろう。

 

 基本的に、千冬さんは他人を決して自分の部屋に入れようとしない。

 それは単純に、部屋が汚いから。

 あの人は今風に言う『片付けられない女』なのだ。

 少しでも放置しておけば、あっという間に汚部屋に早変わりだ。

 だから、俺と一夏君が定期的に掃除をしている。

 家族という事もあってか、俺と一夏君だけは例外的に入る事を許されている。

 彼なんて、思わず部屋に入った瞬間に『トラマナ! トラマナ!』と言っていたぐらいだし。

 ある意味、あの部屋の床はダメージゾーンではあるな。

 

 気にならないと言えば嘘になるが、それでも本人が言おうとしない以上は俺からも聞こうとは思わない。

 多分、これから先、嫌でも話したり知ったりすることがあるだろうから。

 今はその時を待つことにしよう。

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 そんなこんなで五年生。

 

 まぁ、クラス替えはあったけど、変化と言えばそれぐらいか。

 4年生から一緒の奴も多いから、それほど気にはしていない。

 一夏君もそれは同じようで、早速、色んな連中と話している。

 

 俺的に代り映えしない日常が一ヶ月位経ったある日、『彼女』はやって来た。

 

 いつもと同じ朝のホームルーム。

 いつもと同じように先生が入ってきて、挨拶の後に出席を取る。

 その筈だったが、今日だけは違った。

 先生と一緒に見知らぬ少女が入って来たのだ。

 黒髪のツインテールが印象的だ。

 

(……転校生か)

 

 だが、見た感じではなんか日本人っぽくない。

 アジア系の顔立ちはしているが、あれはなんて言うか……。

 

(中国、もしくは韓国か台湾辺りから来たのか?)

 

 そんな俺達を一瞥した後に、先生は黒板に何かを書き始めた。

 

【凰 鈴音】

 

 ……中国人説確定の瞬間だった。

 

「え~……皆さん、おはようございます。今日は、このクラスに新しく転入してきた仲間を紹介しようと思います」

 

 仲間……ね。

 どうも小学生の教師と言うのは、この『仲間』と言う言葉を頻繁に使いたがる。

 唯のクラスメイトだろうに。

 

「じゃあ、お願いね」

「は……はい……」

 

 見知らぬ土地に見知らぬ国。

 緊張するのは自然の摂理か。

 

「は……初めまして。中国から来た『凰鈴音』と言います。これから、よろしくお願いします……」

 

 随分と流暢な日本語だな。

 きっと、転校するにあたって沢山練習したんだろう。

 

(ファン・リンイン……ね)

 

 中国人の名前って独特だよな。

 別に否定するつもりじゃないけど。

 

 外国からの転校生という事もあってか、いきなりクラス中が騒ぎ出した。

 勿論、俺は一言も喋ってないけど。

 

 一夏君も目をキラキラさせている。

 ホント……ガキだよなぁ……。

 

「はいはい! 色々と聞きたいのは分かるけど、今は静かにしましょうね!」

 

 当然のように先生が静かにさせる。

 少し時間は掛かったが、数秒後にはシ~ンとなった。

 

 しかし、あのクソガキ共(箒の事をイジメていた連中)がいなくてよかったな。

 もしもしたら、間違いなくイジメの標的になっていただろう。

 今頃はどこで何をやっているのやら。

 

「じゃあ、凰さんはそこにいる織斑さんの隣にある空いた席に座ってね」

「分かりました」

 

 本気か?

 確かに俺の隣は空いているが……。

 

(これは間違いなく、なし崩し的にあの子の世話をやらされるパターンだな)

 

 超面倒くさいな……。

 そんな事を考えている間に、チャイニーズガールが隣にやって来た。

 

「え……えっと……よろしくお願いします…」

「あぁ……よろしく」

 

 仕方ない。

 これも運命と思って割り切るか。

 

 だが、この新たな出会いが俺の生活を想像以上に彩る事になろうとは、この時の俺は想像もしていなかった。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 案の定、俺は鈴(本人がそう呼んで欲しいと言ってきた)の世話をする羽目になった。転校初日に机を寄せて教科書を見せたり、分からないことがあれば教える……って言うか、なんでか真っ先に俺に聞いてくる。

 体育を始めとした授業の際に二人組のペアを作る時に、俺が彼女のペアの筆頭候補にあげられる等々。

 兎に角、俺は鈴とセットで扱われる事が多かった。

 その結果。

 

「ねぇ、千夏!」

「千夏、聞いてる?」

「千夏! 一緒に遊びましょ!」

 

 完全に懐かれました。

 

 クラスにもちゃんと馴染んでいて、他の女子や男子とも話したり遊んだりはしているが、基本的に俺の傍にいる事が多い。

 

 俺を通じて一夏君ともつるむことがあるが、俺と一緒にいる時に遭遇すると、まるで親の仇のように睨み付けている。

 それに怯んで、彼はこっちにあまり近づけないでいる。

 それに関しては純粋に感謝してるけど。

 だって、少し前までは一夏君って俺にべったりだったし。

 

「ねぇ~……聞いてるの~?」

「あ~はいはい。ちゃんとキイテマスヨー」

「絶対に聞いてないでしょ」

 

 今も彼女は席に座っている俺に後ろから思いっきり抱き着いている。

 首に腕を回して、顔が近くにある。

 

「ほんと、あの二人ってラブラブよね~」

「えへへ~そうでしょ!」

 

 そこで肯定しない。

 一応、俺は君からしたら異性なんだから。

 

「でも、気持ちは分かるかな。だって、千夏ちゃんってカッコいいもん」

「だよね~!分かる~!ぶっちゃけ、そこら辺の馬鹿な男子よりもずっとカッコいいよ~!」

「クールって言うか、アンニュイって言うか……大人っぽいって言うか……」

「一人称が『俺』なのもいい!」

「俺ッ娘クールビューティー……萌えね!!」

「萌って言うな」

 

 俺は萌えキャラになった覚えは無い。

 

「一夏君と双子だって言うけど、性格は真逆だよね」

「彼もカッコいいとは思うけど、まだまだ子供っぽいかな?」

 

 いや、実際に子供だし。

 お前等だって子供だからな?

 

「「「「「ホント、男子ってガキよねぇ~」」」」」

 

 ……小学生の女子って怖いな。

 マジで男子共に同情するわ……。

 

「うぅぅ……千夏姉ぇ~……」

 

 今にも泣きそうな目でこっち見んな。

 流石に不憫に感じるから。

 

 こんな感じの日常が続いていき、気が付けば5年生時代の殆どは彼女、凰鈴音と一緒に過ごした。

 

 因みに、俺からの彼女に対する評価は『他人以上友達未満』って感じだ。

 少なくとも、まだ鈴に友情を感じた事はまだ無い。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 鈴が転校してきてから一年が経過した。

 6年生になって、5年生の時以上に色々とした変化が訪れる。

 精神的にも、肉体的にも。

 

 俺の身体は丸みを帯びるようになって、より女性的になった。

 腰は括れはじめ、胸も僅かであるが膨らみ始めている。

 

 だが、どこまで体が女性的になっても、俺の性別はあくまで『男』なのだ。

 これだけは、例え何があっても絶対に変わらない事実だ。

 

 6年生になっても腐れ縁は変わらず続き、鈴はいつも俺にくっついている。

 俺自身も慣れてしまったのか、彼女が傍にいても不快に感じなくなっていた。

 どうやら、俺は自分でも気づかぬうちに鈴の事を『友達』と思っていたようだ。

 

 もうすぐ中学生になるという事もあって、男子女子共に大人びた発言が多くなった。

 同時に、会話の内容も少しだけアダルトな方向になっていっている。

 

 そう、6年生とは『性』と言うものに目覚め始める年頃だ。

 それは、俺達も例外では無かった。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 その日、俺の家に鈴が遊びに来た。

 千冬さんは用事で、一夏君は他の男子達と遊びに行っている為、共に不在。

 今、この家には俺と鈴の二人しかいなかった。

 

 俺達は俺の部屋で話していた。

 

 実は最近、クラスと言うよりは6年生全体の女子の間でなんでか編み物が流行していて、鈴もそれに乗っかって編み物を始めた。

 それに巻き込まれるように俺も編み物をやらされたのだが、いざ始めてみると、これが中々に面白かった。

 前世では触ろうともしなかったが、今更ながらにちょっとだけ後悔した。

 転生して失ったものも多かったが、こうして今までしなかったことにチャレンジするのもいいかもしれない。

 人生のやり直しなんて、反則染みた事をしているんだ。

 折角なら様々な可能性を模索するのも悪くない。

 

 ベットの上で鈴は俺に体を寄せて、極極太の毛糸とアフガン針の十三号を使用するクロス・アフガンと言う交差編みをやっていた。

 俺も同じように隣で編んでいて、時折、鈴の手の動きを観察していた。

 

 俺達が編んでいるのは、バルキー・セーターだ。

 最初は渡す相手もいないセーターなんて編んでどうするんだと我ながら思ったが、編みながら普段頑張っている千冬さんに渡そうと思った。

 彼女の体のサイズはちゃんと把握している為、問題は無い。

 

「なぁ……鈴はそのセーターを誰に渡すつもりなんだ?」

「え? 勿論、千夏だけど?」

 

 俺かい。

 まぁ、悪い気はしないけどな。

 

「俺の体のサイズ、知ってるっけ?」

「今迄、何回千夏に抱き着いたと思ってるの?」

「そうだったな……」

 

 もう数えるのも馬鹿々々しくなるほどに抱き着かれたな。

 

 窓の外では木枯らしが吹いていて、もうすっかり冬なのを実感させる。

 風の音が聞こえた途端、鈴が俺に更に体を寄せてきた。

 心なしか、彼女の顔が上気しているように見える。

 暖房を付けているから寒い筈は無いんだが、鈴は寒さを感じているのだろうか。

 

 俺が暖房のリモコンを持って、少しだけ温度を上げようとした時、鈴が俺の手に自分の手を重ねてきた。

 

「ねぇ……千夏」

「……なんだ?」

「キス……って、したことある?」

 

 なんだ? いきなり……。

 

「お前はあるのか?」

「ううん……」

 

 鈴は俺の顔を……目をジッと見つめ続け、俺も視線を逸らせずにいた。

 

「あたし……千夏とキスしたいな……」

 

 鈴に見つめられて、俺は不思議な無力感を感じた。

 昂ると言うよりは、逆らい難い力を感じたのだ。

 結果、俺は掠れた声でこう言った。

 

「…………いいよ」

 

 言葉が終わると同時に、鈴が俺の唇に自分の唇をそっと重ねてきた。

 

 転生して初めてのキスは……鈴とだった。

 

 どこで知ったのか、鈴は舌を使う事を知っていて、俺の事を終始リードした。

 

「んちゅ……」

「んん……」

 

 舌を絡ませて、互いの唾液を口の中で混ぜ合って、涎が口の端から垂れるのを気にせずにキスを続けた。

 

 少しだけ息苦しくなって唇を離すと、鈴はウルウルとした瞳で見つめながら言った。

 

「大丈夫……私に任せて」

 

 再び、きつく唇を重ねる。

 

 俺は鈴に押し倒されて、その状態のままで、またリードされた。

 下がベットだった為、痛くはなかったが。

 

 互いに唇を吸い合った。

 

 今回は俺からも舌を絡ませて、気が付けば腕が鈴の身体に回っていた。

 一方の鈴は、その手を俺の膨らみかけている胸にあてて、服越しに揉んだり、乳首を弄ったりした。

 俺が触覚を失わなければ、ここで喘ぎ声の一つでも上げたのだろうが、俺は何も感じない。

 感じている事と言えば、キスをしているが故の中途半端な息苦しさだけだった。

 

 無意識のうちに、俺の手は鈴の背中から尻の方に動いていた。

 彼女が俺の胸を触るように、俺の方も鈴の尻を触った。

 

 そんなキスは長時間に渡って続いた。

 

 お互いに披露して体を離した時、二人の唇には唾液によって作られた細長い煌く橋が出来上がった。

 

 キスが終わっても、俺達は抱き合っていて、鈴は俺の体の上に乗って顔を胸に預けていた。

 

「………気持ちよかった?」

「さぁな……」

「アタシは気持ちよかった……」

「そうか……」

 

 初めてのキスをしてしまったせいか、鈴の口数は明らかに少なくなった。

 

「あたしね……千夏の事……好き……」

「…………」

「勿論、これは友達としての『好き』じゃなくて、恋の対象としての『好き』……」

 

 ……どうやら、俺は今、告白されたようだ。

 キスの後に告白って……

 

「順番……逆じゃないか?」

「え?」

「いや……だから、普通は告白の後にキスじゃないか?」

「世間一般の常識に捕らわれちゃ駄目よ、千夏」

「誤魔化したな」

「かもね。ふふふ……」

 

 鈴は俺の上で笑い出した。

 彼女の笑い声を聞きながら、天井をジッと見つめていた。

 

「あ、別に返事はしなくてもいいから」

「いいのか?」

「うん…。自分から告白しておいてなんだけど、ちょっと返事を聞くのが怖いの…」

 

 怖い……か。

 今の俺にはその感情も分からない。

 転生前は分かっていた事だが、今となってはどんな感じだったのか、すっかり忘れてしまった。

 

「なぁ……鈴」

「なに?」

「もうちょっとだけ……抱きしめててもいいかな?」

「いいわよ」

「ありがとう……」

 

 俺は横になって、もう感じなくなった人の温もりを少しでも感じようと、鈴の身体をそっと抱きしめた。

 

「千夏の身体……暖かい……」

「そうか……」

 

 暫くの間、俺達は互いを抱きしめ合っていた。

 

 温もりは感じなかったが、不思議な安心感だけは何故か感じていた。

 

 この日の出来事は、俺の記憶に強く刻まれる出来事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前作同様に、ファーストキスは鈴とでした。

次は中学生回か?

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