セラフィムの学園   作:とんこつラーメン

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書きたいと思った時に書く。

それが普通の事なんですよね。







第49話 ほんの少しだけ姉らしく

 俺とセシリアとの試合から少しだけ時間が経過し、もう4月も下旬に差し掛かった。

 桜の花びらはすっかり散ってしまい、緑の葉がちらほらと見え始める。

 地面に落ちた花びらを掃除するのにピーノが四苦八苦していたのが面白かった。

 おっと。話が逸れてしまったな。

 

 今、俺達はグラウンドにてちょっとした実習授業を受けていた。

 勿論、私達の目の前に立っているのはジャージ姿の千冬姉さんだ。

 

「それでは、今回はISの基本的な操縦飛行を専用機持ち達に目の前で実践して貰う。千夏、織斑、それからオルコット。三人共、前に出てISを展開し、実際に飛んでみせろ」

「「はい」」

「は…はい」

 

 お呼びか掛かった俺達は、皆の前に出てからいつものようにISを展開。

 そのお蔭で今知ったのだが、セシリアの『ブルー・ティアーズ』の待機形態はいつも耳についていたイヤーカフスだったのか。

 そして、一夏の専用機である『白式』はそのガントレット(見た目は完全に白いブレスレットだけど、一応はガントレットになるらしい)だ。

 ISの待機形態とはどれもこれもがこうも洒落た物なんだろうか。

 

「よし」

「完了ですわ」

「見事だ。流石は熟練者だな。二人揃って展開までに一秒も掛かっていない」

 

 授業で姉さんに褒められる機会はかなり少ないので、地味に嬉しいな。

 俺のディナイアルは全身装甲だから表情は見えないけど。

 

「え…え~っと……」

「早くしろ。千夏から展開のコツぐらいは教えて貰っているのだろう?」

「い…一応は……」

「授業が押すだろうが。とっととやれ」

「りょ…了解……」

 

 こればかりは完全に『慣れ』だからな。

 一夏のようについこの間、専用機を受け取ったばかりじゃすぐに展開するのは難しいだろう。

 実際、俺も最初はかなり苦労したもんだ。

 

「一夏。前に俺が言った事を思い出せ。頭の中で白式の事をイメージするんだ」

「イ……イメージ……」

「それが難しかったら、心の中で白式の事を呼ぶとかしてみろ」

「それなら……!」

 

 結果、一夏は何故か右腕を前に出して、それを左腕で掴むという特撮ヒーロー染みたポーズでなんとか展開が出来た。

 お前は無自覚かもしれんが、今のは相当な黒歴史だぞ……。

 

「こうして近くで見ると……」

「うん。千夏ちゃんのISって、まるで本当のロボットみたいだね」

「全身装甲なんだから、仕方ないんだろうけど……」

「このゴツさであんな動きを普通に出来る千夏ちゃんって……」

「かなり凄いよね……。流石は千冬様の妹って感じ?」

 

 ……なんとも複雑な評価をありがとさん。

 成る程。これが有名人を家族に持つ者の辛さってことか。

 

「全員無事に展開できたな。では、飛行を開始しろ」

「「「はい」」」

 

 そう言われたと同時に、俺達は一斉に上空へと飛んでいく。

 あっという間に目標高度まで到達し、俺とセシリアはそのまま待機をする事に。

 因みに、一番が俺で二番がセシリアだった。

 んで、我等が愚弟はというと……。

 

『何をモタモタとしている。ディナイアルはともかくとして、スペック上では白式はブルー・ティアーズよりも飛行速度は上なんだぞ』

 

 なんとなく分かってはいたが、まだIS慣れしていない一夏は最下位だった。

 しかし、白式ってそんなに高性能な機体だったのか。

 地味にディナイアルの方がもっと凄い的な事を言っていたような気がしたが。

 

「つ……着いた……」

「ご苦労様」

「二人共早すぎるって……。何をどうしたら、そんなスピードが出るんだよ……」

「「ん~……イメージ?」」

「二人でシンクロしながら言われてもな……」

「だが、そうとしか言いようがないしな。なぁ、セシリア」

「そうですわ。と言っても、別に私達のやり方にあわせる必要はどこにもありませんのよ? 何事も、御自分が最もやりやすい方法を模索するのが一番ですわ」

「やりやすいやり方って言われてもなぁ~……。そもそも、まだ俺には空を飛ぶ感覚自体があやふやって言うか……。因みに二人はどんなイメージで飛んでるんだ? 参考までに聞かせてくれよ」

 

 どんなイメージねぇ……。

 俺はともかく、セシリアが何を思って飛んでいるのは気になるな。

 

「私は、幼い頃に美術館で見た天使を描いた絵画ですわ。こう……自分の背中に翼が生えた感じで……」

「理解出来るような、出来ないような……。千夏姉はどうなんだ?」

「俺か? 俺は……そうだな……あれだ。自分が某超有名な漫画の主人公になった気持ちで飛んでいる」

「誰だそれ?」

「金髪になってパワーアップする、あの男だよ。息子は愚か孫までいて、最近は金髪から青髪にまでなる『アイツ』だ」

「あ~……アイツね。なんとなく分かったわ」

 

 お前なら分かると思っていたよ。セシリアはちんぷんかんぷんな顔をしているが。

 

「後でまた復習でもしておけ。俺が勉強を見てやるから」

「げ。千夏姉が……?」

「なんだ。何か文句でもあるのか?」

「ア…アリマセン……」

 

 全く。俺が折角、お前の為を思って言ってやってるのに。

 

(最近になってより一層、千夏姉が千冬姉に似てきたなぁ~……)

 

 おいこらそこ。お前が何を考えているのか丸分りだったからな。

 後で覚えとけよ。この愚弟が。

 

『もうそろそろいいか?』

「「「あ」」」

 

 通信回線から姉さんのお叱りの声が。

 思わず話しに夢中になり過ぎた。

 遥か真下にいる姉さんの眉間に皺が寄っているような気がする。

 

「こんな場所からでも、ちゃんと下の様子が分かるんだな……」

「ISは元々、宇宙空間での活動を前提としたパワードスーツだ。それこそ、何万キロ先になる星の光を見てから自分の現在地を把握しなくてはいけないのだから、これぐらいの距離は見えて当然だ」

「あらら。私が言おうとしていた事を全部、千夏さんに言われましたわ」

 

 さて。軽いレクチャーが済んだところで、俺達はこれから何をすればいいのかな?

 

『三人共、今から急降下と完全停止をやってみせろ。目標は地表から約10センチとする。いいな?』

 

 10センチ……か。最初から中々な難易度を吹っかけてくるな。面白い。

 

「誰から行く?」

「では、最初は私からよろしいかしら?」

「分かった。なら、二番目は一夏だな」

「お…俺っ!?」

「そうだ。万が一の場合、上と下の両方からフォローできる存在が必要だからな」

「な……成る程?」

 

 こいつ。全く理解してないな。

 

「それじゃあ、お先に失礼しますわ」

 

 そう言ってすぐにセシリアは地上へとダイブし、ここからでも見事に急停止してみせたのが分かった。

 

「次は一夏だ。ほら行け」

「ちょ……急かすなよ……」

 

 ちょっとだけ一夏の背中を押してやる。

 早く行かないと俺が墜落させるぞ? 後が閊えてるんだからな。

 

「せー……のっ!」

 

 あのバカ……力み過ぎて速度を出し過ぎだ。

 恐らく、自分でも加減が出来てないんだろうが、そんな事は今は関係無いか。

 このままでは一夏が地面に激突してしまう。

 それだけで済めばまだいいが、最悪の場合は周りの皆を巻き込む可能性すらある。

 

「仕方がない……バーニングバースト発動」

 

 俺はすぐにバーニングバースト状態で一夏の後を追うように急降下した。

 見る見るうちに一夏に追いつき、そこで後頭部から伸びた炎の辮髪を伸ばす。

 

「動くなよ」

「ち……千夏姉っ!?」

 

 グルグルとあのバカの体に辮髪が巻き付いたのを確認すると、俺は全力で空中にて急ブレーキを掛ける。

 一人分余計に重いせいで体がギシギシと軋みを上げたが、ここは痛覚が無い体を最大限に利用させて貰った。

 心配なのは寧ろディナイアルの方だ。これで余計な負担とか掛かってないだろうな……?

 

「止まった……」

「た……助かった……?」

 

 俺達が空中で静止したの見て、全員が安堵の表情を見せた。

 特に千冬姉さんが心から安心した顔を見せていた。

 

「このまま降りるぞ」

「あ……うん。……ありがとな」

「礼なんていいよ。偶には姉らしく弟を助けたくなっただけだ」

「…………俺はいつも千夏姉に助けられてるよ」

 

 ん? 何か言ったか? 小さくてよく聞こえなかったぞ。

 

「にしても、この炎ってこんな使い方も出来るんだな」

「みたいだな。俺も実際に出来て驚いてる」

「えっ!? 知っててやったんじゃないのかっ!?」

「まさか。炎で物体を掴めるなんて誰が予想する?」

「マジかよ……」

 

 もしかしたら、この『蒼炎』も実はディナイアルのエネルギーの一部だったりするのか?

 それならば、少しは納得出来るような……いや、やっぱ納得出来ない。

 これ、本当にどんな仕組みで一夏を捕まえられたんだ?

 やった俺が一番よく理解出来ん。

 

 ゆっくりと地面に降り立つと、すぐに千冬姉さんお得意の出席簿が振り下ろされた。

 目標は勿論、一夏だ。

 

「この馬鹿者が!」

「痛いっ!?」

 

 ISを纏っているのにダメージが入るとは……我が姉ながら恐るべし。

 

「はぁ~……千夏が止めてくれなかったら大参事になっていたかもしれんのだぞ。分かっているのか?」

「うぐ……本当に申し訳ありませんでした……」

 

 一夏はまだ俺の辮髪に巻きついたままなので、傍から見るとかなり間抜けな光景だ。

 

「千夏。ナイス判断だった。お前が動いていなければどうなっていた事やら……」

「その時は、セシリアがどうにかしてくれていたよ。そうだろう?」

「勿論ですわ」

 

 と言いながら、セシリアはいつでもミサイルビットを発射出来るようにしていた。

 

「あの~……セシリアさん? そのミサイルをどうするつもりだったのか聞いてもいいかな?」

「これで迎撃するつもりだっただけですけど、それが何か?」

「だと思ったよっ! 千夏姉! マジで感謝します!!」

 

 姉の髪に巻きつかれるか、もしくはクラスメイトにミサイルで撃ち落とされるか。

 ある意味で究極の選択だな。

 

「全くこいつは……」

「おりむ~ダメダメだね~」

「惨めだ……」

 

 そう思うのなら、これからは今まで以上に精進を重ねる事だな。

 

「千夏。そろそろ降ろしてやれ」

「はい」

「ぶぎゃ」

 

 バーニングバーストを解除すると、自然と一夏も地面に落ちる。

 まるで蛙が潰れたような声を出したが、気にする事じゃないだろう。

 

「そう言えば、俺の急降下とかは……」

「もういいだろう。さっきので十分に腕前は確認できたからな」

 

 それならばいいのだけれど。少しだけ得したな。

 

「早く立て。今度は武装の展開をやって貰うからな」

「りょ……了解……」

 

 一夏が生まれたての小鹿みたいにプルプルしながら立ち上がっている最中に、俺とセシリアは皆の前に移動していた。

 

「まずはオルコット。やってみろ」

「はい」

 

 ダランと腕を下げたままの状態で、セシリアは一瞬にして自身の主武装であるレーザーライフル『スターライトMk-Ⅲ』を展開した。

 相変わらず見事なもんだ。

 

「ほぅ……? こっちの資料では、展開前に腕を前に出したりしていたと書いてあったが?」

「少し前まではそうでしたけど、千夏さんとも試合に備えて特訓を重ねた結果、普通の体勢でも展開可能になりました」

「フッ……流石は代表候補生だな。ならば、近接武装も大丈夫だろうな?」

「勿論ですわ」

 

 これまた一瞬だけ光が放たれたと思った瞬間に、ライフルを持っていない左手に近接用のショートブレード『インターセプター』が握られていた。

 

「近接武器の展開は不得手だと聞いていたが、どうやら克服してみせたようだな」

「それもこれも、全ては千夏さんのお蔭ですわ」

「俺は別に何もしてはいないんだがな……」

「触発された……ということなんだろうさ」

 

 俺の存在が誰かの役に立つ……か。なんだか小恥ずかしいな。

 

「千夏は……したくても出来ないか」

「腕部に内蔵されている『ビームソード』なら出せますけど?」

 

 ディナイアルの武装ってこれしかないしな。

 ビヨ~ンとその存在を主張するように何回も出したり消したりしてみる。

 

「いや、いい。省略できるならそれが一番だ。それよりも……」

 

 やっとこっちまで来た一夏を睨んでから、白式の装甲を軽く出席簿で小突く姉さん。

 早くしろって合図だろう。

 

「お前の白式にも武装はある。それを展開してみせろ」

「武装って……あれか」

 

 聞いた話では、白式は剣一本だけの超ピーキー仕様らしい。

 ウチの家の専用機はどれもこれも、どうしてこうも超接近戦仕様なんだ?

 なんてくだらない事を考えている内に、一夏は武装を展開し終えていた。

 剣道をしているお蔭か、白式を展開する時よりは早かったようだ。

 

「まだ遅い。最低でも0.5秒で展開出来るようにしろ」

「そんなご無体な……」

「何か言ったか?」

「ナニモイッテマセン……」

「よろしい」

 

 あれが一夏の白式の唯一無二の武装である『雪片弐型』か。

 姉さんの専用機である『暮桜』の武器である『雪片』の系列に該当する剣らしいが……。

 

(少しだけ羨ましいな……)

 

 いや。今更何を言っているんだ俺は。

 こんな愚かな考えは早々に捨てた方がいい。

 そうだ。そうに決まっている。

 

「「「ん?」」」

 

 ここで授業終了のチャイムが鳴った。

 もう終わりかと思ったが、ディナイアルのモニターに表示されている時計は、もうとっくに一時間を経過していた事を示していた。

 

「では、今日の授業はここまでとする。織斑、着替え終わったら後で職員室に来い。今回の事でたっぷりと説教をしてやる」

「ハイ……」

 

 一夏。完全に顔が死んでるぞ。

 下手に弁護をして巻き添えを食うのは御免だから。頑張れよ、一夏。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 

 中国から日本へと向かう航空機の機内。

 ツインテールが特徴的な一人の少女が、窓から見える青空と、そこに浮かぶ無数の雲を眺めながら、ポケットから一枚の写真を取り出した。

 

「もうすぐ……もうすぐまた会えるのよね……」

 

 写真には彼女の他にもう一人、白と黒の縞模様になった長い髪を持つ少女が並んで映っている。

 一見すると無表情のように見えるが、よく観察すると少しだけ微笑んでいる。

 

「千夏………」

 

 少女の呟きは機内の音に掻き消されて誰にも聞こえていなかった。

 そして、航空機は一路、日本へと向かって行くのだった。

 

 

 

 




やっとここまで来ました。

次の次辺りで千夏と彼女が運命の再開を果たします。

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