セラフィムの学園   作:とんこつラーメン

47 / 51
ちょっと遅くなりました。

別にモチベーションが下がった訳じゃなくて、どうにもタイミングが無かっただけです。

投稿はちゃんと続けていきますから、御安心を。







第46話 少女達の夕焼け

 千夏とセシリアの壮絶な試合。

 結果は千夏がギリギリで勝利を収めた。

 アリーナで試合を見ていた人間達の多くが、彼女達の勇姿に心を打たれていた。

 それは、観客席で観戦をしていた生徒達だけでなく、彼女達に関わっている人間達も同様だった。

 

 その中の一人、更識簪もピットの中で試合の光景をモニターで見ながら感銘を受けていた。

 

「千夏も凄かったけど、まさかセシリアがあそこまで互角に渡り合えるとは思わなかった……」

 

 訓練生時代に千夏と散々、模擬戦をやって来た彼女だからこそ、今回の試合でセシリアがどれだけ偉業を成したのかよく理解出来ていた。

 

「でも、あの必殺のコンビネーションだけは崩せなかったか……」

 

 簪が言っている『必殺のコンビネーション』とは、試合中に千夏が繰り出した『旋風竜巻蹴り』から『聖槍蹴り』に繋ぐ連携技で、これが繰り出された試合では、千夏はほぼ確実に勝利を収めている。

 旋風竜巻蹴りで体が引き寄せられ、その隙を狙って強烈な聖槍蹴りが炸裂する。

 これの合計ダメージは凄まじく、仮にそれまで全くダメージを受けていなかったとしても、その一連の流れだけでほぼ致命傷を負う。

 

「けど、アレを受けても決して諦めなかったセシリアのガッツは凄かったな……」

 

 清楚なお嬢様の印象が強いセシリアからは想像も出来ない程の食いつき。

 あれ程までに勝利に貪欲な人間だったとは、全く想像していなかった。

 

「なんか気を失ってるみたいだし、保健室に運ばれるだろうから、後で様子でも見に行こうかな……」

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「まさか、これ程だったとはね……」

「えぇ。これは完全に予想外でした」

 

 簪の姉である楯無と、本音の姉である虚も、二人の試合を見て感嘆していた。

 上級生であるが故の若干の余裕が垣間見れるが、その心中は興奮一色に染め上げられている。

 

「最初、千夏ちゃんが委員会代表なんて大役に抜擢された時は、本気で『何を考えているのやら』って思ったけど……」

「悔しいですが、前支部長の判断は強ち間違いではなかったようですね」

「そうね。格闘戦特化型の機体を駆って、遠距離戦主体のブルー・ティアーズをあそこまで圧倒するとはね……」

「データでは近接戦が苦手となっていたオルコットさんが、試合中に近接戦に対応してみせたのは、間違いなく千夏さんの影響が大きいでしょう」

「真の強者ってのは、戦っている相手すらも成長させるものだしね。その点で言えば、千夏ちゃんも立派に『強者』なのかもしれないわね」

「今はまだ成長途中でしょうが、それでも立派に『片鱗』は見え隠れしています。このまま成長していけば、いずれは……」

「記者会見で言っていた通り、本当に三代目の『ブリュンヒルデ』になるかもね」

 

 好意を抱き、同時に愛する妹の一番の親友である少女が、将来的に自分の最大最強のライバルになる可能性を感じた楯無は、無意識の内に己の唇を舐めた。

 

「入学して一ヶ月も経たない内に、こんな試合を繰り広げちゃったんだから、千夏ちゃんは間違いなく、この学園の台風の目になるわね」

「どうやら、今年は今までで最も波乱に満ちた一年になりそうですね」

「別にいいんじゃない? 暇を持て余すよりはずっとマシよ」

「そんな事を言えるのはお嬢様ぐらいです」

「そうかしら?」

 

 嬉しそうに広げた楯無の扇子には、綺麗な文字で『将来有望』と書かれてあった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「「……………」」

 

 ピット内。

 一夏の専用機である『白式』はとっくに設定を終えて本来の姿になっているが、それに目をくれる者は一人もいなかった。

 操縦者である一夏ですらも。

 

「千夏姉が勝った……のか……?」

「そうらしい……な……」

 

 目の前で実際に起きた凄まじい試合。

 それを自分の双子の姉が行い、しかも勝利した。

 あまりの出来事に、現実味が持てなかった。

 

「なっちー……」

「どうやら、二人揃って気絶してるみたいだね」

「「えっ!?」」

「あれ程の試合を繰り広げたんだ。千夏もオルコットも、文字通り精も根も尽き果てたんだろう。無理もない」

「バイタルには何の問題もありませんからは、本当に疲れ果てただけみたいですね」

「よ…よかった……」

 

 さっきから全く動かない千夏を見て、密かに心配していた一夏と箒だったが、真耶の報告を聞いてホッと一安心した。

 

「さて、二人を迎えに行ってやらんとな」

「僕も行きます」

「分かった。私がオルコットを抱えるから、君は千夏を頼む」

「了解です」

「アリーナは凄い歓声に包まれているからな。早く行ってやらないと、アイツ等もゆっくりと休めないだろう」

「ですね」

 

 アリーナ内は、未だに試合の興奮が冷め止まらないのか、観戦をしていた生徒達の叫び声が響き渡っていた。

 

「そんな訳だから、織斑はISを待機形態に戻した後、山田先生から専用機に関するマニュアルを貰え。その後は大人しく寮に戻るように。篠ノ之と布仏もそれでいいな?」

「えっと……なっちーのお見舞いには……」

「そうだな。まずは保健室に運んでからだ。その少し後ぐらいになら行ってもいいだろう。ただし……」

「はい。分かってます」

「ならいい」

 

 珍しく、本音がハキハキとした口調で話す。

 それを見た千冬は、それだけ彼女が千夏の事を心配しているのだと察した。

 

 その後、千夏とピノッキオの二人はアリーナに降りてから、千夏達を回収した後に保健室まで運んでいった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 IS学園 保健室。

 そこにある二つのベッドに、千夏とセシリアが仲良く横たわっていた。

 流石に気絶している人間を着替えさせるわけにもいかず、二人は未だにISスーツの姿のままだ。

 

「なっちー……」

「「千夏……」」

「千夏姉……」

 

 寝ている二人の傍には、一夏に箒、本音に簪と、いつものメンバーが勢揃いしていた。

 ついさっきまでピノッキオもここにいたのだが、彼は今、掛かってきた電話に出るために席を外している。

 教員である千冬と真耶の二人は、試合の後片付けをしているから、ここには来ていない。

 

「う……ううん……?」

「千夏姉!? 起きたのかっ!?」

「うるさいぞ……一夏……」

「あ……ゴメン」

 

 保健室では静かにしましょう。

 

「具合はどうだ? 怪我とかしてないか?」

「ISに乗っている以上、大きな怪我とは無縁だろうよ。特に俺のディナイアルは全身を覆ってるからな」

「それでも心配するんだ……」

「そうか……」

 

 表情が暗い箒を想い、口数が少なくなる千夏。

 起き上がろうと試みるが、本人の想定以上に体力を消耗しているようで、起き上がる気力が残っていない。

 

「なっちー……」

「俺の試合はどうだった、本音」

「カッコよかったよ……すっごくカッコよかった……」

「そう言って貰えただけでも、頑張った甲斐があったよ」

「なっちぃ~……」

 

 思わず泣きそうになる本音の頭を撫でる千夏。

 それを見て、地味に羨ましいと思った箒と簪であった。

 

「また一段と強くなってるね」

「鍛錬は怠ってないからな」

「それでもだよ。私もう、千夏に勝てる自信ないかも」

「冗談でも止めてくれ。簪は俺の目標なんだぞ」

「初めて聞いた」

「初めて言ったからな。恥ずかしくて」

「そっか……」

 

 好意を抱いている相手から『目標』と言われ、喜ばない人間はいないだろう。

 簪もその例に漏れず、本当に嬉しそうな笑みを零していた。

 

「そうだ。千夏姉、喉乾いてないか? なんか飲み物を買ってくるよ」

「頼む。出来ればお茶系がいいが」

「分かった」

「私も行く。一夏に任せておくと、紅茶とか買ってくるかもしれん」

「酷ぇ……」

「私も喉乾いたから、一緒に行く~」

「私も行こうかな。今思ったら、試合が始まる前から何も飲んでなかったから」

 

 結局、ぞろぞろと全員揃って買い出しに行くことに。

 保健室に残ったのは千夏とセシリアの二人だけになった。

 

「「………………」」

 

 カーテンの隙間から夕陽が差し込み、二人を暖かく照らし出す。

 少しだけ目を瞑ってから、千夏は横を向いた。

 

「起きてるんだろう?」

「……バレてましたのね」

「途中から寝息が無くなってたからな」

「千夏さんには敵いませんわね……」

 

 苦笑いを浮かべながら、セシリアは天井を見上げた。

 

「今回の試合……お見事でしたわ」

「そのセリフはそのまま返そう。まさか、セシリアにあれ程の闘志があるとは思わなかった」

「私だって代表候補生の端くれ。どんな事をしてでも勝利を渇望するのは当然ですわ」

「確かにな」

 

 肺の中の空気を吐き出してから、千夏はそっと体の力を抜いてベッドに体を預けた。

 

「セシリアと試合をして、俺はまたもや沢山の反省点を見つけられた」

「それはこちらも同様ですわ。自分の弱点を克服することの重要性を改めて理解したような気がします」

 

 普段は表情を変えない千夏が、その時ばかりは見惚れるような笑顔でセシリアの顔を見つけた。

 それを見た途端、セシリアの顔が一気に急速沸騰したのは言うまでも無い。

 

「セシリアと試合が出来て、本当によかった。ありがとう」

「それはこちらのセリフでしてよ。ありがとうございます、千夏さん」

「フフフ……」

「ウフフ……」

 

 お互いに微笑みかける二人。

 試合を通じて、二人の絆がより強固になった瞬間でもあった。

 

「でも、いつか必ずリベンジは果たしますわ」

「望むところだ。俺はいつでも誰の挑戦も受けるよ」

「それでこそ、委員会代表ですわ」

 

 そこで一旦、会話が途切れる。

 どこまで買いに行ったのか、一夏達はまだ戻ってくる気配がない。

 

「あの……千夏さん」

「どうした?」

「今から独り言を言いますので、どうか聞き流してくれませんか?」

「これまた唐突だな」

「なんでか、急に言いたくなったんです」

「それなら存分に話すといい。俺は別に気にしないからさ」

「重ね重ね、ありがとうございます」

「どういたしまして」

 

 そこからセシリアは静かな口調で話し出した。

 彼女の過去と、その心の中に抱いている想いの全てを……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんか長くなりそうな感じだったので、短いですがここで一旦区切ります。

次回はセシリアの過去話が主な話になると思います。





▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。