久々なので、ちゃんと書けるか心配です。
基本的に。戦闘シーンは三人称で書きたいと思います。
そっちの方が分かりやすいと思うので。
ステージの中央付近で専用機を纏った千夏とセシリアが対峙する。
漆黒の装甲に金の装飾が施された『
見た目の印象や色彩なども対照的な二体だった。
「それがセシリアの専用機か」
「えぇ。ブルー・ティアーズ。私が故国から授かった専用機ですわ」
「俺の機体と違って、随分と綺麗なISなんだな」
「あら。千夏さんの機体も味わい深いと思いますわよ?」
「そうか。悪い気はしないな」
何気ない会話。
だがしかし、話しながらも二人のコンセントレーションは着実に高まりつつあった。
「にしても、まさか俺達の試合を見にここまで人が集まるとはな」
「誰かがどこかで噂を聞きつけて、学園中に吹聴したんでしょう。よくある事ですわ」
その犯人に心当たりがある千夏は、装甲の中で苦笑いを浮かべた。
「こんな風に大勢の人間に見られながらの試合は初めてだから、どうも変な気分になるな」
「いずれ嫌でも慣れますわ。千夏さんも委員会代表というお立場にある以上、これから先もこんな機会は沢山あるでしょうから」
「それを想像すると、気が滅入ってくるな」
ぐるりとアリーナを見渡せば、観客席には所狭しと大勢の生徒達が見学しに来ていて、よく見ると中には裁縫部の先輩や楯無と虚の姿も見える。
「………無様な試合は見せられないな」
「そうですわね」
瞬間、二人の間に漂う空気が一変した。
それを感じ取ったのか、先程まで観客席でざわついていた生徒達も途端に静かになる。
「セシリア」
「なんですか?」
「俺は今、とても嬉しいと思っている」
「嬉しい?」
「あぁ。こんな風に友と思える誰かと互いを高め合える事が、何よりも嬉しい。俺は、セシリアに出会えて本当によかった」
「千夏さん……」
「だから、これからの一分一秒を全力で楽しもう」
「はい!」
両足を広げ、右手を前に、左手を腰に当て、いつでも飛びかかれるように構える千夏。
それを見て、セシリアも自身の機体の主武装であるレーザーライフル『スターライトMk-Ⅲ』を両手で持ち、いつでも射撃できる体勢を取る。
痛いほどの沈黙が流れ、二人はお互いを見つめながら微動だにしない。
まだ試合が始まらないのか。生徒達がそう思い始めた時、一人の少女が滲み出た汗で手を滑らせて、持っていたジュースをコンクリートの床に落とした。
その瞬間、試合開始のブザーがアリーナ全体に鳴り響く。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
(消えたっ!?)
試合が始まった瞬間、セシリアの眼前から千夏の姿が消えた。
刹那、セシリアは本能的な危険を察知し、反射的に体を右に捻る。
捻った場所を、蒼い炎を纏った鋼鉄の拳が凄まじい速度で通りすぎた。
「「なっ!?」」
次元覇王流
先制攻撃としては申し分ない一撃にして、千夏が一番最初に会得した技。
簪以外の相手には外した事の無い攻撃を、目の前の少女は見事に回避してみせた。
(今のは間違いなく回避不可能なタイミングだった。それなのに外したって事は、セシリアは頭で考えるよりも先に本能で回避したということか)
(なんて鋭い一撃……! 回避をしても、その衝撃波だけでどれだけの威力を持つ攻撃か理解出来ますわ……!)
二人はそれぞれに相手に対して戦慄を覚え、間髪入れずに次の攻撃に移行する。
「はぁっ!!」
「くっ!」
今度は炎を纏った蹴りを放つ。
今度は回避出来ないと判断したのか、セシリアは咄嗟に持っているライフルを盾のようにして防御する事に。
(これも直撃しないか)
(お……重い……! こんな攻撃を一発でも直撃したら、それだけで大ダメージは必至!)
時間して僅か数秒の出来事。
だが、二人はたったそれだけの時間で自分が今、戦ってる相手がどれだけの技量を持っているか判断出来た。
これ以上は攻撃が通らないと感じた千夏は、バックステップをするようにして少しだけ後退した。
(舐めていた訳じゃない。油断もしていない。それなのに、俺のファーストアタックが全く通用しなかった。セシリアの反射速度が俺の想像を遥かに凌駕していただけだ。遠距離戦主体の機体だと思って接近したのが仇となったな……)
(最初の攻撃……千夏さんの拳を振るう瞬間が全く把握出来なかった。
呼吸を整えながら、二人は僅かな時間で得られた情報を整理する。
相手を見る目は何よりも鋭く、全てを射抜くかのような迫力があった。
「ふっ!」
「くっ!」
体の僅かな揺れが収まり、千夏が再び仕掛ける。
それに合わせて、セシリアは今度こそ自分の距離をキープする為に後ろにブーストを掛ける。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
ピットの中で試合の光景を見ている一夏達は、完全に二人に魅入られていた。
「あれが……千夏姉……? あの大人しい千夏姉なのか……?」
「す……凄い……! なんという動きをするんだ……! だが、なんで千夏は武器を使用しない?」
「使用しないんじゃない。使用出来ないんだ」
「「「え?」」」
箒の疑問に千冬が答えるが、それを聞いて事情を知らない面々は目が点になる。
「千夏の専用機の『ディナイアル』は、私の嘗ての愛機である『暮桜』の設計思想を更に精鋭化させた機体なんだ」
「千冬姉の暮桜って言えば……」
「愛刀『雪片』のみを武装とした、接近戦をする事だけを前提としたIS……」
「ということは……まさか……」
「そのまさかだ、布仏。ディナイアルに武器らしい武器は一切搭載されていない。アレは元々、無手で戦う事を前提とする……つまりは格闘技で戦うISなのさ」
「「「えぇ~~~~~~~~~~!?」」」
世に拳で戦うISは数あれど、設計段階から無手で戦う事を想定するISなど前代未聞。
そんな非常識な機体が実際に存在し、それを目の前で自由自在に操ってみせる少女がいる。
もう色んな意味で三人は驚きまくった。
「あっ! もしかして……」
「どうした一夏?」
「いや……今思い出したんだけどさ、少し前に千夏姉と一緒に部活の見学に行った時、千夏姉が部長さんに希望の部活を尋ねられた時……」
「希望の部活……?」
「ああ。覚えてないか? あの時さ、千夏姉は『空手部があれば入りたい』って言ってた。あの時は何の疑問も感じなかったけど、あれって自分の機体が格闘技を使って戦う事を知っていたから、少しでも腕を上げようと思って入りたいと思ったんじゃ……」
「私も思い出したぞ。そうか……千夏は決して武の道を捨てた訳ではなく、単に私達とは違う道に進んだだけだったのか……」
少し残念なような、でもやっぱり嬉しいような、なんとも複雑な気分の箒だった。
「それじゃ~、あの全身を覆う炎は一体……」
「あれこそが、ディナイアルの特殊機能『バーニング・バーストシステム』だ」
「そのものズバリな名前だな……」
「ISの格闘戦はお世辞にも高い攻撃力を持つとは言えない。それを補うために存在しているのがバーニング・バーストだ。あれが発動すれば、ディナイアルの全ての性能が三倍近くまで向上する」
「三倍っ!?」
「あれは機体各所に設置されているクリスタル内にある予備エネルギーを介して発動し、その副次的効果として、あのように蒼い炎が全身から噴出する」
千夏……というよりはディナイアルの周囲にはゆらゆらと蜃気楼が発生しており、どれだけの高温が発生しているかが用意に想像出来る。
「もしかして……千夏姉って物凄く強い?」
「もしかしなくても、千夏の強さは間違いなく本物だ。そうだろ、山田先生?」
「なんでそこで山田先生が?」
「山田先生は試験会場にて、千夏の実技試験の相手をしたんだ」
「マジですか!?」
「はい。私から見ても、千夏さんの強さはかなりの領域に達しています。恐らく、並の代表候補生では相手にすらならないんじゃいかと」
「「…………………」」
絶句。
その言葉が相応しい表情を浮かべ固まってしまう一夏と箒。
「でも、その千夏の攻撃を全て防いでみせたセシリア・オルコットも相当にやるね」
「ピノッキオ君もそう見るか」
「はい。僕から見ても、さっきの千夏の攻撃はそう簡単に避けたり防いだりすることは出来ない。少なくとも、見てから防御態勢に移るのは絶対に不可能だよ。それを退けたってことは……」
「オルコットさんは反射神経だけで凌いだってことになりますね」
いずれは自分も通る道。
そう言われて二人の試合を見せられている一夏だが、今の彼にはどんなに頑張っても千夏とセシリアの域に達するビジョンが浮かばない。
「二人共凄いな……」
「そうだな……」
「………ビビってるのか?」
「そうだな……ビビってるよ。俺が知らない間に千夏姉がとんでもなく強くなってて、それと互角に渡り合ってるオルコットさん。二人とも、俺からしたら凄く眩しく見える。自分があの二人とまともにやりあえるようになれるのか……分からないんだ」
「一夏………」
食い入るように試合の光景を映すモニターを見つめるその目には、若干の興奮と、それを塗り潰す不安が見え隠れしている。
それを見抜いたのか、千冬は一夏の方を見て話しかけた。
「今のお前は、昔の千夏と同じだな」
「俺が……千夏姉と同じ?」
「そうだ。私がISの選手になったり、お前が中学になって再び剣道を始めた事に、アイツはあいつなりに焦りを感じていたらしい」
「焦りって……」
「自分の姉や弟が武の道を進んでいるのに、自分だけ何もしなくてもいいのか……とな。千夏は小さな頃から自分の心を隠すのが得意だったからな。ずっと心の奥底に隠していたんだろう。実際、その事を聞いたのもつい最近だしな」
「千夏姉………」
千夏を護る為に強くなると決意をした。
だが、その千夏が自分達に対して引け目を感じていたなんて全く知らなかった。
いや、知ろうともしなかった。
「だが、結局はこのような形に収まってしまった。皮肉だな……」
そう呟きながらモニターを見つめる千冬の目は、なんだか悲しそうに見えた。
この場でそれに気が付けたのは、弟である一夏だけだった。
「今はただ見守ってやれ。お前の姉の戦いを」
「あぁ……!」
無意識のうちに拳を握りしめ、今の自分に出来る事をする。
その決意を感じ取ったのか、白式がほんの少しだけ光を発した。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「そこっ!」
間合いを広げながら、この試合で始めて自分から攻撃を仕掛けるセシリア。
青白いレーザーが真っ直ぐに千夏に向かい、そのまま命中する……かに見えたが、その目論見は外れてしまう。
「炎の幻影……いや……分身っ!?」
レーザーが命中した直後、千夏の体が炎そのものに変化し、そのまま霧消してしまう。
当然、ダメージは全く入っていない。
「…………はっ!?」
背後から感じた『ナニか』に反射的に反応し、体を後ろに仰け反らせながら後退する。
その際、ライフルで自身を防御する事も忘れない。
「チッ……」
それは、いつの間にか背後に移動していた千夏の回し蹴りだった。
蹴り自体は回避に成功したが、炎の余波までは完全に回避出来ず、その圧倒的な熱量がライフルにぶつかる。
蒼い炎をまともに受けたライフルを見て、セシリアは言葉を失った。
(銃身が……溶けているっ!?)
ISの武装は基本的にISと同じ装甲材質で造られている。
何らかの理由で破壊される事はあっても、高熱に晒されて融解するなんて製造した者達でさえ予想もしなかっただろう。
(射撃には問題なさそうですけど、よもやこれ程の高熱を放っていようとは……!)
基本的に、蒼い炎は赤い炎よりも温度が高いとされている。
セシリアとてそれぐらいの知識は有しているが、ISの武装である以上は炎の色なんて単なるブラフであると思うのが普通だ。
だが、ディナイアルの放つ炎だけは違った。
あの炎は、見た目通りの熱量を放っているのだ。
(自分の距離に持ち込んだにも関わらず、また攻撃を外した……! 矢張り、セシリアは強い……!)
己の間合いで攻撃を外す。
このことで千夏は自分でも知らない内に焦っていた。
だが、そこは普段から冷静沈着を己に課している千夏。
ほんの一瞬だけ目を瞑り、自分の心の中から焦りを吹き飛ばした。
(落ち着け俺。ここで焦って何になる。単純にセシリアの技量が俺よりも上だっただけの話じゃないか。それならやる事は単純だ)
千夏が先程以上に全身に力を漲らせる。
それに応えるかのように、ディナイアルの炎も激しさを増す。
(
否定の炎と青き落水。
二人の戦いはまだまだ終わりを見せない。
最初から一話で終わるとは思ってなかったんですが、これは想像以上に長引きそうですね~。
もういっその事、二話どこか三話構成とかにしちゃおうかしら?