セラフィムの学園   作:とんこつラーメン

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千夏がヒロイン達の心を救い、ヒロイン達を含む今までに関わった皆が力を合わせて千夏の心を救う。

そんな作品にしていきたい私です。









第43話 初めての輪廻

 時間は過ぎ、気が付けばもう俺とセシリアの模擬戦の日。

 あ、それと一夏の専用機がやって来る日でもあるか。

 あれ、逆か? 別にどっちでもいいんだけど。

 

 俺は予め制服の下に着こんでおいたISスーツに着替えて、第3アリーナのピットで待機をし、それを横目で見ている面々がいる。

 

「「………………」」

「なんで一夏と箒は黙っている?」」

 

 現在、一夏はついさっきやって来たアイツの専用機、機体名は『白式』と呼称するらしいが、それに搭乗してジッと初期設定が終了するのを待っている。

 箒は後学の為に俺とセシリアの模擬戦を見学したいと言って、ここまでやって来た。

 

「千夏姉のISスーツ姿って……その……」

「なんだ?」

「いや……なんでもない……」

 

 さっきから顔が真っ赤になってるぞ。

 本当に大丈夫なのか?

 

「こうして見ると……その……成長してるんだな……」

「当たり前だ。あれから何年経ったと思ってるんだ」

 

 箒の視線が俺の胸に集中しているのが気になるけど。

 色々と経験した結果、それ系の視線には異常なまでに敏感になっている。

 

「おい一夏」

「な……なんでしょうか……織斑先生……」

「私はお前を双子の姉のISスーツ姿に欲情するような男に育てた覚えはない」

「よ……欲情なんてしてねーし!? ちょっと興奮しただけだし!?」

「一夏。思い切りボロが出てるぞ」

「あ………」

 

 こいつ……俺の体を見て興奮してやがったのか。

 流石にそれは引くぞ。

 

「純情なんだね、一夏は」

「ピノッキオさんは相変わらずのポーカーフェイスなんですね……」

 

 そして、俺の護衛という役目であるピーノも、用務員の仕事を早々に終わらせて駆けつけてくれた。

 彼は訓練所でいつも俺達のISスーツ姿を見ていたから、完全に目が慣れてしまっているようだ。

 それはそれで、なんだか複雑な気持ちではあるが、ピーノらしいと言えばそれまでなので気にしない事にした。

 

「ピノピノは大人なんだね~」

「実際、年齢的にも大人だしね」

 

 驚いたのは、俺個人のマネージャーを自称する本音が一緒にピットまでやって来て、すぐにピーノに懐いた事。

 なんせ、出会った次の瞬間にはピーノにお菓子をせがんでたし。

 

「聞いたよ。君が千夏と同じ部屋なんだって」

「そ~だよ~」

「君なら、きっと彼女と良い友人になれそうだ。これからも彼女と仲良くしてあげて欲しい」

「勿論だよ~」

 

 なんとも和やかな空気になってきたな……。

 あの二人の空気はかなり独特だ。

 

「千夏さんのIS学園での初陣が、まさかの代表候補生だなんて……。でも大丈夫です! 千夏さんならきっと勝てますよ!」

「ありがとうございます。ですが、俺は俺に出来る全力を尽くすだけです」

 

 この中で唯一、俺を真っ当に激励してくれたのが山田先生だけだった。

 毎度毎度思うのだが、山田先生は制服を着て机に座っていれば、完全に紛れてしまうのではなかろうか。

 少なくとも、俺は見つけ出す自信が無い。

 

「さて、まだ少し準備に時間もあるし、柔軟でもしておくか」

 

 屈伸に開脚、震脚にアキレス腱を伸ばして……。

 

「ちょ……ちょっと千夏姉!! ストップストップ!」

「なんだ急に」

「その恰好でその動きは刺激が強すぎるから!!」

「は?」

 

 別に何も問題は無いぞ?

 体はどこも痛くは無いし、異常は見当たらないが……。

 

「ゆ……揺れてた……」

「揺れてたね~」

「一夏め……余計な事を言いおって……!」

 

 揺れる? 何が?

 それと姉さんは、実の弟に殺気を向けない。

 

 今度は床に座って足を開いて……と。

 ここで少し手伝ってもらうか。

 

「箒。悪いが、後ろから背中を押してくれないか?」

「わ……私がかっ!?」

「ダメか?」

「そ……そんな事は無いぞ!」

 

 背後に回った箒が、そっと背中を押してくれたお蔭で、俺の体はペッタリと床に付いた。

 

「うぉっ!? 千夏姉って体柔らかっ!? まるで体操選手みてぇだ!」

「そうなるように訓練をしてきたからな」

 

 痛みが無いというアドバンテージを利用して、かなり強引に進めていったけどな。

 だが、そのお蔭でこの通り、一夏も言った通りの体操選手並みの柔らかさを手に入れる事が出来た。

 

「……エロいな」

「潰れてるね~」

 

 今度は姉さんか。

 何がエロくて、何が潰れてるんだ。

 

 そこからも、全身をくまなく動かしていき、充分に体が解れた所で向かい側のピットから連絡が来た。

 さっきから姿の見えなかったセシリアと簪は、一緒に反対側のピットで待機をしていた。

 

「織斑先生。オルコットさんも準備が出来たそうです」

「了解だ。千夏、お前も出撃の準備をしろ」

「分かりました」

 

 それでは、行くとしようか……相棒(ディナイアル)

 

「そういや、千夏姉の専用機って、まだ見た事なかったな……」

「一体、どんな機体なのだろうか……」

「気になっちゃうね~。なっちーの専用機、ワクワクだよ~」

「そうか。まだお前達には見せていなかったな」

「これもまたいい機会ですから、よく見ておいてくださいね」

 

 今や、俺の標準装備となっているディナイアルの待機形態である腕輪を掴み、精神を集中させて、そっと心の中で囁きかける。

 

(仕事の時間だ)

(任せておけ)

 

 一瞬だけジュンヤの声が聞こえた後、俺の体が紫の光に包まれ量子化した機体が足元から順に体を覆っていく。

 入学してからこっち、久しく感じていなかった感覚。

 懐かしいとは言えないが、それでも不思議と久し振りな気持ちになる。

 全身が覆い尽くされるまで、約0.35秒。時間にすればほぼ一瞬の出来事だが、実際に纏う身からすれば、結構長く感じるものだ。

 

「これが……千夏姉の専用機……」

「そうだ。これこそが俺の専用機。機体名は『ディナイアル』だ」

「ディナイアル……不思議な感じがする言葉だな……」

 

 あまり聞き慣れない言葉であることには違いないがな。

 

「でも、俺の白式みたいに生身の肉体が全く出てない。まるでロボットみたいだ」

「千夏のディナイアルは『全身装甲(フル・スキン)』と呼ばれるタイプのISだ。今となっては珍しいが、一昔前までは全身装甲タイプのISも多かった」

「本来なら、全身装甲のISは、その特性故に防御力が高い代償に機動性や運動性が低くなりがちなんですけど、千夏さんのディナイアルは数少ない例外なんです」

「例外?」

「これは訓練所でディナイアルの整備をしていた連中に聞いたのだが、この機体はISとしての完成度が恐ろしく高く、人間の動きを極限まで再現しているようで、機体の性能に嘘がつけないと言っていた」

「嘘がつけない? それはどのような意味ですか?」

「簡単に言えば、千夏の技量が機体にダイレクトに反映される。千夏が強くなればなるほどディナイアルも強大になり、逆に千夏のコンディションが悪ければ……」

「機体の方も大幅に弱体化するって事か……」

「そうです。なんでも、千夏さんの細かい癖まで再現する程に敏感な機体だそうです」

 

 説明だけを聞けば、なんだか大変そうに感じるかもだが、だからこそ頑張ろうという気になれる。

 俺の成長がディナイアルの成長に繋がるのだから。

 

「動きだけなら、千夏が生身で戦っているように見える筈だ」

「それに関しては、直接見た方が分かりやすいでしょうね」

 

 こればっかりは言葉じゃ言い表しにくいだろうな。

 

「おっと。説明が長すぎたな。オルコットを待たせてしまった」

 

 これはいけない。俺もさっさと出撃しなくては。

 

「ところで千夏姉。武器は?」

「この体が俺の武器だ」

「「「へ?」」」

 

 何故にそこで目が点になる。

 俺は別に間違った事は言ってないぞ。

 

「一夏、よく見ておけ。俺が今からする戦いを。これから先、お前も必ず通る道だ」

「あぁ」

「そして、知ってほしい。俺はもう守られるだけの存在じゃない。やっと一夏や姉さんの隣に立てるようになった事を」

「千夏姉……」

 

 拳を上げて一夏に向ける。

 すると、こっちの意図を察したのか、慣れな動きで一夏も拳を出してくれた。

 

「絶対に勝てよ」

「流石に必勝は約束出来ない。俺は俺のベストを尽くすだけだ」

「それが聞ければ十分さ」

 

 コツンと鋼鉄の拳を軽くぶつけてから、カタパルトに脚部を固定する。

 

「千夏さん。いつでもどうぞ!」

「了解。織斑千夏、ディナイアル……出るぞ」

 

 アリーナのステージに向けて、俺は漆黒の鎧を纏って飛翔する。

 IS学園での初試合、見事に勝利で飾れるかな?

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 千夏が出撃する少し前。

 セシリアは簪と一緒に反対側のピットにて待機をしていた。

 

「何故かしら……柄にもなく緊張してますわ。いつもはこんな事ないのに……」

「それはきっと、千夏との試合だからだと思う」

「かもしれませんわね。にしても、よかったんですの? 千夏さんの元に行かなくても」

「本当は私も向こうに行きたかったけど、セシリアを一人にするのは流石に不憫だったから」

「ズバっと言いますわね……」

 

 ハッキリと本音を言う簪に、少しだけ呆れるセシリア。

 『違う世界線』の彼女ならば、考えられない態度だ。

 

(呼んだ~?)

 

 呼んでませんよ。

 

「簪さんは、過去に千夏さんと模擬戦をした事があるんですのよね?」

「訓練生時代にね」

「試合前に聞くのはアレですけど、千夏さんは……」

「強いよ。千夏は強い。複数の意味で」

「複数の意味で?」

「操縦者としての実力も高いけど、それ以上にメンタルが強い。前に織斑一夏が千夏の事を『冷たく燃える青い炎』って表現してたけど、あながち間違ってないと思う」

「それは私も分かりますわ」

「一見すると我武者羅な動きに見えるけど、根っこの部分に冷静な自分を残してるから、時には恐ろしく緻密なコンビネーションを繰り出す事もある。実際に私も、それにやられた事は一度や二度じゃ済まないから」

「貴女にそこまで言わせるとは……」

 

 IS発祥の地である日本の代表候補生は、他国からも特に注目を受けることが多い。

 その中でも頭一つ分抜きん出ている実力を誇る簪が敗北を喫する事がある。

 その事実だけでも、千夏が微塵も油断が出来ない相手であると嫌でも理解出来る。

 

「どっちかを贔屓するような発言は出来ないから、あまりヒントになるような事は言えないけど、これだけは言っておくね。ほんの一瞬でも気を抜けば、その瞬間に敗北は決定すると思って」

「…………承知しましたわ」

 

 いつもは見せない簪の真剣な瞳に、唾を飲み込みながら答えるセシリア。

 若干、緊張が解れたかのように見えるが、その手は未だに汗に塗れ、小刻みに震えていた。

 

「千夏が出てきたみたいだよ」

「漆黒に金の装飾の全身装甲……あれが千夏さんの専用機……」

 

 黒と金の色合いは、なんとも言えない魅力を感じさせる。

 ステージに登場した千夏は、異質な存在感を放っていた。

 

「では、私も行ってきますわ」

「うん。頑張って」

「はい! セシリア・オルコット、ブルーティアーズ……出ますわよ!」

 

 瞬時に自身の専用機を纏い、自分の対戦相手が待つ空へと飛び立つセシリア。

 この戦いが、これからの彼女の人生を大きく変える程の試合になる事をセシリアはまだ知らなかった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 場面は一転して、ここはアリーナの観客席。

 その一角に、生徒会長でありロシアの代表、そして簪の姉でもある更識楯無が同じ生徒会メンバーである布仏虚と一緒に立っていた。

 

「あの千夏ちゃんと、イギリスの代表候補生との試合……か。普通に考えれば試合をするまでも無く勝敗は決しているかのように思えるけど……」

「私達は千夏さんの試合の映像を資料として見ていますからね」

「私から見ても、千夏ちゃんの実力はかなりの域に達してる。現役時代の、あの織斑先生と互角に渡り合ったと言われている松川芳美から直々に指導をして貰った事も大きいんでしょうけど……」

「それだけでは納得出来かねます。あれは間違いなく、千夏さんの内に秘めた実力でしょう」

 

 『裏』の人間である二人から見た千夏の評価は非常に高かった。

 当の本人は全く自覚は無いが。

 

「にしても、注目の二人の試合とは言え、普通はここまで人が集まるかしらね……」

「大方、薫子さんが学園中に噂を広めたんでしょう。やっている事は褒められませんが、彼女の情報収集能力は侮れませんから」

「間違いなく、将来はパパラッチになりそうよね……」

 

 これ程まで言われる薫子とは何者なのか。

 少なくとも、碌な人物ではなさそうである。

 

「どんな結果になったとしても、この試合で千夏ちゃんの評価が大きく変わる」

「全ては千夏さん次第……ですか」

「うん。相手の子とは違って、千夏ちゃんはまだ正式な試合は愚か、他国の選手との試合すら経験が無い。この試合の勝敗が、これからの千夏ちゃんの『標準』になる」

「つまり、これこそが千夏さんにとっての『正真正銘の初陣』になるわけですね」

「さぁ……千夏ちゃん。貴女の本当の実力を、お姉さんに見せて貰うわよ」

 

 常に持つ扇子を口を隠すように広げ、嬉しそうに笑っている顔を隠す。

 扇子には達筆な字で『お手並み拝見』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 




次回、本格的な戦闘シーンが繰り広げられる?





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