セラフィムの学園   作:とんこつラーメン

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グリザイアの果実を見ていたら、不思議とモチベーションが向上しました。

もしかしたら、少しの間はこの作品ばかりを更新するかもしれません。






第42話 試合に備えて

「……と言うわけです」

「そうか。お前とオルコットが模擬戦とはな……」

 

 放課後になり、俺は真っ先に職員室へと向かって千冬姉さんに今朝の話を伝えた。

 最初は大なり小なり難色を示すかもしれないと考えていたが、思っているよりも嬉しそうにしていた。

 

「いいだろう。こっちとしても、遅かれ早かれアイツには試合を直接見学させるか、アイツ自身に試合をさせないといけないと考えていたところだ」

「そうだったんですか」

「だから、千夏の提案は私にとって渡りに船だった。それと、今は放課後だから別にいつも通りで構わんぞ」

「……職員室ですよ」

「気にするな。プライベートの呼び方一つで文句を言うような器量の狭い教師は、ここにはいない。そんな連中は入る前から理事長直々に(ふるい)に掛けられるからな」

「そうなのか……」

 

 ここの理事長はかなりの人格者のようだ。

 いや、それは護衛をする目的でピーノに学園の用務員をさせてくれている時点で分かり切っていたか。

 

「だが、意外と言えば意外だったぞ」

「何が?」

「お前が自分から試合をすると言ってきたことが、だ。昔から千夏は争い事とは無縁の生活を送ってきてたからな。ISに関わるようになっても、自らの意思で試合をした事は一度も無いと芳美も言っていた」

「あの頃は状況に流されていたからな……」

 

 俺自身、右も左も分からない状態でいきなりプロの世界に送り込まれた身。

 ディナイアルと言う専用機を手にしてからも、ISの試合をする事には消極的だった自覚はある。

 

「何がお前を変えたのかな……」

「自分でもよく分からない。だが、セシリアから試合を申し込まれた時、こう……なんて言えばいいのか、胸の奥が熱くなったんだ」

「ほぅ……」

「それを感じた瞬間、俺は生まれて初めて己の意思で誰かと戦ってみたいと思った」

「その気持ち、私にもよく分かるよ」

「姉さんも?」

「いや……私だけじゃないな。代表候補生や国家代表に名を連ねる者達の殆どが、今のお前と同じ感情を一度は経験している」

「それは……」

「言葉で言い表すのは難しいが、敢えて言えば『闘争心』、もしくは『闘争本能』……だな」

「闘争本能……」

 

 そう言われると、まるで野生の獣みたいだな。

 いや、ある意味では人間も立派な『獣』か。

 

「私や一夏もそうだったが、やっぱりお前も『織斑』だったんだな……」

「え?」

「いや、なんでもない。気にするな」

 

 どうも引っかかる言い方だったが、ここは俺も気にしない方がいいと思った。

 

「なに。お前の実力なら他国の代表候補生相手にも十分に通用する。勝ち目はある」

「教師として、一人の生徒を贔屓するような発言はどうかと思うけど」

「言っただろ? 今は放課後でプライベートタイムだ。姉が妹を贔屓して何が悪い?」

「この人は……」

 

 甘い言葉を言いながら、そっと俺の頬に手を寄せても騙されないからな?

 別に抵抗をするつもりはないが。

 

「今からどうする気だ?」

「取り敢えず、昨日出し損ねた入部届を裁縫部に届けに行こうと思う。本格的に体を動かすのは明日の朝からにしようと思ってるよ」

「そうか。また暇な時にでも何か作ってくれ。千夏の編み物は出来がいい上に物持ちがいいからな。本当に重宝している」

「少し予約があるけど、分かったよ」

 

 なんか、ISとは全く関係が無い所で本格的に忙しくなってないか?

 これでいいのか俺は。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「そんな訳で、今日からよろしくお願いします」

「「「「よろしく~!」」」」

 

 裁縫部の部室まで行き、俺は部長さんに入部届を手渡した。

 どうやら、一年生の新入部員は俺だけのようで、呆気なく入部届は受理された。

 裁縫部の部員は、俺を覗いて五名だけ。二年生が三人に、三年生が二人だ。

 今は三年生の人が部長を務めているが、二学期頃には二年生の誰かに部長の座を明け渡すつもりらしい。

 

「いや~! 織斑さんのような有名人が来てくれるなら、こっちとしては大歓迎だよ~!」

「うんうん!」

「最近は裁縫なんて全くしない子が増えたからね~。一度でも嵌れば楽しいのに」

「織斑さん……いや、ここは敢えて千夏ちゃんと呼ぼう! 名字だと弟君や先生と同じで紛らわしいからね!」

「それで構いませんよ。俺も、あまり名字で呼ばれ慣れてないんで」

 

 想像よりもフレンドリーな部で安心した。

 部室の至る所に、彼女達が作ったと思われる作品群が飾ってある。

 どれもこれもが見事な出来栄えだ。

 

「それで、千夏ちゃんはどんなのが作れるの?」

「一応、色々と」

 

 言葉だけでは説明しにくいので、前に楯無さん達に教えた時のように、スマホに収められている写真を見せる事にした。

 

「おぉ~!」

「これは凄いよ~!」

「間違いなく、即戦力確定だわ……」

「大物新人キタ――――――――――――!!」

 

 自分で作っているとよく分からないのだけれども、そこまで褒められるような代物なのか?

 こっちは普通に作っているつもりなんだが。

 後、裁縫部の即戦力ってなんだ。

 

「早速で悪いんですが、一週間ほど来れないかもしれません」

「何か大事な用でもあるの?」

「はい。実は……」

 

 一週間後、セシリアと模擬戦をする事を先輩方に伝えると、これまた目を輝かせる。

 一々の感情表現が激しいというか、豊かな人達だな。

 表情筋が現在進行形でボイコットしている俺からすれば、なんとも羨ましい限りだ。

 

「セシリア・オルコットって、あのイギリスの代表候補生の!?」

「はい。そのセシリア・オルコットです」

「これまた凄い情報ゲットですな!」

「その試合に向けて、付け焼刃だと自覚はしているのですが、一応のトレーニングをしようと考えているんです」

「成る程ね。分かったわ。そんな事情があるなら、こっちとしても快く受け入れるよ。でも、一つだけ条件がある」

「なんでしょうか?」

 

 変な事じゃありませんように。

 

「試合には絶対に勝つ事! いい?」

「了解です。任せてください」

 

 そんな事なら、お安い御用だ。

 流石に必勝は約束出来ないが、1%でも勝率をアップさせる事ぐらいは可能な筈だ。

 俺に負けられない理由が出来てしまった。

 

「試合、絶対に見に行くから!」

「つーか、もういっその事さ、学園中に情報をばら撒かない?」

「賛成! でも、どうやって?」

「新聞部にリークすればいいんじゃね? あの情報収集大好きな黛さんなら速攻で食いつくでしょ」

「確かに」

 

 おいおい……あまり大事にしないでくれよ?

 あと、黛さんって誰だ。

 新聞部って時点で、あまりいい予感はしない。

 

「裁縫部代表として、頑張れ千夏ちゃん!」

「ファイト~! オ~!」

「ど……どうも……」

 

 裁縫部に所属することにはなったが、俺はあくまでも委員会代表なんですけど……。

 ま、いいか……。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 次の日の早朝。

 俺は、またこっちのベッドの中で俺にしがみ付いて爆睡している本音を起こさないようにしながら、静かにジャージに着替えてからグラウンドに出てからの早朝ランニングを始めた。

 

「はっ……はっ……はっ……」

 

 早すぎず遅すぎず。

 常に一定のリズムを刻みながら走っていく。

 完全に走るのに夢中になっていると、いつの間にか隣に千冬姉さんが俺と同じジャージ姿で併走していた。

 

「朝から精が出るな、千夏」

「姉さん」

「お前が走る姿を見るのは初めてだが、ここまで速かったとは思わなかったぞ」

「芳美さんにかなり鍛えられたからね」

「アイツならやりかねんな」

 

 姉さんにそこまで言わせるって。

 現役時代の芳美さんって、どんな人物だったんだよ……。

 

「こうして、朝から妹と一緒にランニングをするのも悪くは無いな」

「そうだな」

「なら、そこに俺も加わろうかな」

「「一夏」」

 

 今度はお前か。

 結局、織斑家三姉弟集合か。

 

「つーか、千冬姉はともかくとして、千夏姉ってこんなに足が速かったっけ? 中学の時の体育の授業じゃ、もうちょっと普通な感じだった気がするんだけど……」

「それは多分、まだ俺が訓練所に通っていなかった頃だろう。あれから相当に体の方を鍛えてるからな」

 

 お蔭で、俺の致命的な弱点も露呈したわけだが。

 それに関しては、まだここで話さなくてもいいか。

 姉さん辺りは既に看破しているだろうが。

 

 そこからは、家族水入らずで静かにランニングをする事に。

 俺達が息を切らせているのに、姉さんだけが終わってからも余裕そうにしていたのを見て、改めて我が姉の偉大さを噛み締めた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 朝のランニングの疲れで授業が少し心配だったが、意外と眠気には襲われなかった。

 寧ろ、体を思い切り動かして気分が晴れやかになっている程。

 矢張り、生きていくうえで運動は大切なんだな。

 何事も無く一日の授業が終了し、あっという間に放課後になった。

 

「放課後も何かトレーニングをするのか?」

「まぁな。一夏と箒は部活か?」

「ああ。入部した以上は、可能な限り休みたくは無いんでな」

「張り切ってるな」

「そのセリフはそのまま千夏姉に返すよ」

 

 さてと。山田先生の話によると、アリーナはまだ使用不可能だが、その代わりに様々な器具があるトレーニングルームが使えると言っていたな。

 放課後はそこに行ってみるとするか。

 

「ねぇねぇ、なっちー」

「どうした、本音」

「私も一緒に行っていい?」

「お前も? 一緒に体でも鍛えるのか?」

 

 本音には悪いが、彼女が体を鍛えている光景が全く想像出来ない。

 それどころか、数秒でダウンしそうだ。

 

「ち~が~う~よぉ~。ほら、今朝はぐっすり寝てて、何にも出来なかったから……。放課後ぐらいは、何かなっちーの役に立ちたくて」

「別に気にしなくてもいいのに」

「私が気にするんだよ~。だから、私がなっちーの専属マネージャーになってあげる!」

「専属って……」

 

 でも、確かに一人で黙々と体を動かしているよりは、今朝のように誰かが一緒にいてくれる方が、こっちとしてもやる気が出る。

 モチベーションの維持は大切な事だからな。

 

「分かった。それじゃ、一緒に準備をして行くことにしよう」

「わ~い! なっちー、ありがと~!」

 

 昼食時に少しセシリアとも話をしたのだが、彼女も彼女で自分なりのトレーニングを頑張っているようだ。

 俺とは違って、己の実力で代表候補生の肩書きと専用機を獲得したセシリアは、間違いなく強敵の部類に入る。

 僅かな期間とは言え、そんな彼女が本気で訓練をしているのだから、その伸び幅は決して侮れない。

 俺も少しハードにいくべきか……?

 

 こうして、試合に向けて俺もセシリアも着実に力を鍛えていった。

 知っているのに知らない相手に、俺はどこまで食いつけるのか。

 全ては、やってみなくては分からない。

 

 

 

 

 




この作品の向かうべき先が本格的に見えました。

千夏には、女版の風見雄二を目指して貰いましょう。

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