セラフィムの学園   作:とんこつラーメン

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今回は楯無視点があるので、いつもとはちょっと雰囲気が違うかもです。

千夏の意外な一面が見られるかも?






第40話 生徒会

 部活の見学に行った次の日。

 俺は本音との約束通り、彼女と一緒に生徒会室に行く事にした。

 一夏や箒達には予め教えていたので、これと言って騒ぎにはならなかった。

 簪は少し暗い顔をしていたが。

 姉であるという生徒会長と仲が悪いのだろうか?

 

「ここだよ~」

「ほぅ……」

 

 本音の案内に従って校舎の中を歩いていくと、そこには学園の他の施設とは雰囲気が全く違う扉があった。

 基本的に最新技術の塊であるIS学園の施設は、大抵の扉が認証機能が設置された自動ドアなのだが、ここだけは一昔前の木製の洋風の扉になっている。

 お蔭で、ここだけ違和感が凄い事になってる。

 

「………………」

「どーしたの? なっちー」

「いやな。中学の時は生徒会になんて縁も所縁も無かったんでな。柄にもなく緊張しているようだ」

「珍しいね~。なっちーの事だから、どんな時も悠然と身構えてると思ってたよ~」

「そんな事は無いよ。俺だって人間なんだ。緊張もするし、恐怖もする」

 

 事実、あの代表発表記者会見の時は緊張しっぱなしだったからな。

 もしも、あの会見の時に一人だったらと思うと、今でも身震いする。

 会長さんと山本さん、それからピーノに感謝だな。

 

「それよりも、早く入らないのか?」

「そーだった。んじゃ、ノックしてもしも~し」

 

 袖が長くて全く手が見えてないが、それでもちゃんとノックは出来ているようだ。

 鈍いが、ちゃんとドアを叩く音は聞こえてくるしな。

 

「はい、入ろっか~」

「向こうからの許可は取らないのか……」

 

 マイペースと言うか、なんというか……。

 本音の方が緊張なんて言葉とは無縁の人間なんじゃないのか?

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 私がパソコンで作業をしていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。

 きっと、本音ちゃんが千夏ちゃんを連れてきてくれたのね。

 

「虚ちゃん。お茶の準備をお願い」

「分かりました」

 

 虚ちゃんが奥に引っ込んでから、私は一声かけようと口を開けると、何か言う前にドアが勝手に開いてしまった。

 

「おじゃましま~す」

「お邪魔します」

 

 せめて、こっちの許可を取りましょうよ……。

 ほら、なんだか千夏ちゃんも気まずそうにしてるし。

 

「かいちょー。なっちーを連れてきたよ~」

「ありがとう、本音ちゃん」

 

 この子が簪ちゃんのお友達であり、史上初のIS委員会代表選手に抜擢された織斑千夏ちゃんね。

 これまでは遠巻きに見たり、資料で顔写真を見たりするだけだったけど、こうして生で、こんなにも近くで見るのは初めてね。

 う~ん……想像以上の美人……。

 この子、本当に一年生なのよね? 本当は大学生でしたとかないわよね?

 さっきから部屋の中をキョロキョロと見渡してるけど、その仕草もとても大人びてるんですけど。

 まるで、子会社の査定に来た親会社の視察員の人みたい。

 

「なっちー?」

「あ……すまない。学校の生徒会室なんて初めて入ったもんだからつい……な」

 

 なにこのクールビューティーな萌えっ子。

 ギャップ萌え? ギャップ萌えなの?

 

「初めまして。織斑千夏ちゃん。私が、このIS学園の生徒会長を務めている二年の更識楯無よ」

「こちらこそ初めまして。織斑千夏と言います。貴女の事は本音から軽く窺っていました。簪のお姉さんだそうですね」

「そうよ。いつも、簪ちゃんと仲良くしてくれてありがとう」

「俺は大したことはしてませんよ。寧ろ、こっちの方こそ簪に感謝したいぐらいです」

 

 話し慣れてる……ってよりは、年上の人間との会話に慣れてる感じ?

 でも、それも仕方がないのかもね。

 だって、学校の同級生や訓練施設の子達を除けば、周りにいるのは全員が大人ばかりだったでしょうし。

 嫌でも、こんな時の会話の仕方が身についている……か。

 

「どうぞ。遠慮無く座って頂戴」

「失礼します」

「わ~い!」

 

 丁寧に座る千夏ちゃんとは対照的に、本音ちゃんはいつも通りに座ってる。

 別に仰々しくしろとまでは言わないけど、もう少し慎みを持った方がいいと思うわよ?

 じゃないと、虚ちゃんの雷が落ちてくるかもだから。

 

「どうやら、丁度良かったようですね」

「お姉ちゃ~ん」

 

 ナイスなタイミングで虚ちゃんが人数分の紅茶を持って戻ってきた。

 ここからでも、紅茶のいい香りが漂ってくる。

 

「お姉ちゃんって事は、この人が本音の……?」

「そ~だよ~」

「お初にお目にかかります。本音の姉である、三年の布仏虚と申します」

「これはご丁寧にどうも。一年の織斑千夏です。妹さんにはいつもお世話になっています」

 

 およそ女子高生とは思えない会話が展開されてるんだけど。

 こうして並んでると、千夏ちゃんと虚ちゃんって雰囲気が似てるように感じる。

 

「そうですか。千夏さんとご一緒のお部屋になったと聞いて、何かご迷惑をお掛けしていないかと思って、心配していたんです」

「おね~ちゃ~ん……」

「迷惑だなんて、とんでもない。俺は、本音がルームメイトで本当によかったと思っています」

「なっちー……♡」

 

 わ……私はハブられてる……!?

 生徒会長なのに……私が千夏ちゃんを呼んだのに……。

 

「どうぞ。私が淹れた紅茶です」

「ありがとうございます」

「はい。本音にもね」

「ありがと~!」

 

 そして、無言で私にも紅茶が置かれた。

 その時の虚ちゃんの目は『少しはお嬢様も千夏さんの事を見習ってください』だった。

 グゥの音も出ないわ……。

 

「いただきます」

 

 千夏ちゃんが淹れたての紅茶を口に運ぶ。

 資料によると、彼女は幼少期に交通事故に遭い、その時の後遺症で嗅覚と触角と味覚を失ったと聞いたけど……。

 どうしても、それを直に確かめてみたかったのよね……。

 我ながら、相当にゲスい事をしてるって自覚はあるけど。

 本当にゴメンね……千夏ちゃん……。

 

「いかがですか?」

「はい。香りも素晴らしいですし、それに……」

 

 長い髪をかき上げながら、誰もが見惚れるような微笑を浮かべながら千夏ちゃんは言った。

 

「とても……優しい味がします」

 

 千夏ちゃん……アナタって子は……アナタって子は……。

 

(メチャクチャいい子じゃないのよ~~~~!!!)

 

 本当は味なんて感じていない筈なのに、紅茶を淹れてくれた虚ちゃんに不快な思いをさせないように、敢えて『美味しい』や『不味い』といった感想じゃなくて『優しい』という言葉を使った。

 こんなの咄嗟に出てくるもんじゃないわよ。

 千夏ちゃんが他者への気遣いが出来る良い子だって、何よりの証明じゃない!

 

 でも、同時にハッキリと分かった事が一つだけある。

 あの紅茶を飲んだ時、千夏ちゃんは躊躇いも無く飲み込んだ。

 淹れたての紅茶なら結構な熱さがある筈なのに、この子は熱がる素振りを全く見せなかった。

 つまり、千夏ちゃんは『味』だけでなく『熱さ』も感じていなかったってことになる。

 彼女の五感の内の三感が機能していないという情報は正しいみたいね……。

 

(※ 楯無はまだ千夏の嗅覚が治っている事を知りません)

 

 情報が正しい事が知れたのはよかったけど、その代償として罪悪感ががががが……!

 

「ところで、どうして俺を呼んだのですか?」

「え?」

 

 ちょっとボ~ッとして油断してた……。

 

「え……えっとね。実は委員会日本支部の支部長さんからの依頼で、千夏ちゃん達の護衛をしてくれるように言われてるのよ」

「それで一度、直に千夏さんとお会いして、人となりを見ておきたいと思った次第なのです」

「あの会長さんが……。でも、護衛って事は、もしかしてピーノと協力して……?」

「そうなるわね。まだ彼とは話してないけど、近い内にこっちから接触を試みるつもりよ」

「そうですか」

 

 あら。意外と冷静。

 愛称で呼んでるから、千夏ちゃんとピノッキオ君が付き合ってるって情報が正しかったと思ったんだけど、実はガセネタだったのかしら?

 

「千夏ちゃんは、何かもう部活って入ってるの?」

「まだです。でも、入ろうと思っている部ならあります」

「何部?」

「裁縫部です。もう入部届も書き終えてます」

「そうなんだ……」

 

 まだなら、この機に生徒会に所属して貰おうと思ってたけど、一足遅かったみたいね。

 この分だと、弟の一夏君の方も剣道部辺りに入部してるかも。

 

「か……簪ちゃんから聞いたんだけど、千夏ちゃんって編み物が得意なんですって?」

「得意って程じゃないですよ。あれはただの趣味です」

「でも、前に簪ちゃんが嬉しそうに手編みの手袋を付けてたのを見たけど、凄く上手に出来てたわよ?」

 

 少なくとも、私には絶対に無理。

 編み物は私が世界で一番苦手な事だ。

 それが出来る千夏ちゃんは、本当に尊敬できる。

 

「偶々上手に出来ただけです。プロの方々には敵いません」

「でも、前に見せて貰った、なっちーの作った編み物の写真、凄かったよ~?」

「そうか?」

「そんなのがあるの?」

「まぁ、一応。作った作品は逐一、写真に収めるようにしてるんで」

「ちょっと興味がありますね」

「私も見てみたいわ」

「………別にいいですけど」

 

 無表情だけど、千夏ちゃんが照れてるのがよく分かる。

 だって、僅かに頬を赤くしてるんだもん。

 マジで可愛いと思っちゃった。

 

 千夏ちゃんが自分のスマホを取り出すのを見て、私達は彼女の傍に行って、覗きこむようにスマホの画面を見た。

 そこには、プロ顔負けの出来の手編みのセーターが写っていた。

 

「これは、俺が小学六年の時に千冬姉さんに向けて作ったセーターです」

「「小学六年……」」

 

 小学生の時に、既にこれ程の出来栄えだったの……!?

 私じゃ一生掛かっても無理だと思う……。

 っていうか、何気に近くに千夏ちゃんの顔があるし。

 睫毛長い……肌も綺麗で……いい匂いが……。

 猛烈に抱きしめて、頭をナデナデしてあげたい~!

 

「そして、これが一夏に作ったマフラー」

「本当に見事ですね……」

「まるで、お店に売ってる品物みたいだね~」

 

 全くもって同感よ。

 もう、将来はISから手を洗って、編み物のお店とかしたらいいんじゃない?

 絶対に繁盛するわよ。私が保障する。って言うか、私も手伝う。

 

「後は、ピーノに作ったニット帽に……」

 

 そこからも、出るわ出るわ、千夏ちゃんが今まで製作した編み物の数々が。

 ここまで夢中になれるって事は、本当に大好きなのね。

 熱中できる何かがあるのは、純粋に羨ましいわ。

 

「こんなに素敵なら、私も欲しいなぁ~……」

「いいですよ?」

「へ?」

 

 無意識のうちに呟いた一言を聞かれた!?

 しかも、いいって言った!?

 

「季節が季節なんて、今は合わないでしょうけど、ゆっくりと作っていけば、今年の冬頃には間に合うんじゃないかと」

「そ……そんな悪いわよ! それに、今のは魔が差したって言うか……」

「俺は気にしませんよ。好きでやってる事なんで。それに、時間ならタップリとありますから」

 

 千夏ちゃん……本当にこの子は……。

 

「よかったら、虚さんにも何か作りましょうか?」

「いいんですか?」

「勿論。なんでも好きな物を言ってください」

「そこまで仰ってくれるのなら……」

「なっち~。私の編みぐるみは~?」

「心配しなくても、ちゃんと作ってやる」

「やった~!」

 

 まるで皆のお母さんみたいね、今の千夏ちゃんは。

 家でも、家事の殆どを任せてるって織斑先生が言ってたけど、どうやら、織斑家の舵を握ってるのは千夏ちゃんのようね。

 なんとなくだけど、将来は絶対にいいお母さんになるって思うわ、この子。

 

 結局、その後も千夏ちゃんの編み物の話で盛り上がって、下校時刻までずっと話し込んでいた。

 簪ちゃんが千夏ちゃんを好きな理由……なんだか理解出来た気がする。

 理解が出来たからこそ、より一層、守ってあげたいと思えた。

 改めて誓うわ、千夏ちゃん。

 あなたの事は、お姉さんが絶対に守ってみせる。

 もう絶対に……大人の悪意の犠牲になんてさせないんだから。

 

 

 

 

 




意外と敬語は話せる千夏。

本当ならしなくてもいい経験で、自然と鍛えられたのでしょう。

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