セラフィムの学園   作:とんこつラーメン

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いつの間にか、地味に評価が上がってて嬉しい今日この頃です。

緑が黄色になっていた時は驚きました。







第37話 二日目の朝

 入学初日から色々な事があったが、それからは何事も無く無事に二日目の朝を迎えられた。

 ただ一つ問題があるとすれば、それは俺の同居人である本音の寝相だった。

 

「………どうして俺のベッドに潜り込んでるんだ」

 

 昨夜は確かにお互いに別のベッドで就寝した筈。

 この目でちゃんと確認してるからな。

 それなのに、朝起きたら本音が俺の体にしがみ付いた状態で寝ていた。

 自分で言ってても訳が分からん。

 

「まずは起こした方がいいか」

 

 じゃないと俺も身動き取れないからな。

 

「本音。とっとと起きろ。もう朝だぞ」

「ん~……? なっち~……?」

「そうだ。お前のルームメイトの織斑千夏だ」

 

 体を少し揺らしながら声を掛けると、ようやく夢の世界から帰還してくれた。

 

「……あれ? なんで私、なっちーと一緒に寝てるの?」

「それはこっちのセリフだ。どうしてお前がここにいる?」

「わかんない……」

 

 この反応。本当に分からないみたいだな。

 だとすれば、これは単純に本音の寝相が最悪だったという事になるのか。

 何をどうすれば、器用に自分のベッドから隣にあるベッドに移動出来るんだ?

 ある意味で凄くないか?

 

「むふふ……♡」

「急にどうした」

「なっちーの体……とっても暖かくて、いい匂いがするね~♡」

「そうか」

 

 ISに関わってからコッチ、ずっと体を鍛え続けてるから体温が高くなってるのか?

 いい匂いの方は全く自覚が無いから分からないが。

 ディナイアルのお蔭で嗅覚が戻っても、自分の匂いは分からないからな。

 これは全ての人類に共通している事だそうだ。

 余程の事が無い限りは、人間の脳は自分の匂いを『害のない存在』として認識しているせいで、自分の体臭がどのような匂いか分からないらしい。

 

「それよりも、とっとと起きて準備をするぞ。少し早いが、遅刻するよりはずっとマシだ」

「は~い♡」

 

 返事だけは一丁前だな。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 制服を着て、今日の授業で必要な教科書類を詰め込んだ鞄を持って、俺は本音と一緒に部屋を出て寮の食堂へと向かう事に。

 少し早めに出てきたせいか、人気が疎らになっている。

 これならゆっくりと食べられるし、いい席を確保できそうだ。

 早起きは三文の徳と言った人は天才だな。

 

「千夏さん! おはようございますわ!」

「千夏、おはよう」

 

 途中、俺達と同じように準備を済ませて食堂に向かう簪とセシリアに出会い、そのまま一緒に行くことに。

 

「なんで本音と千夏が一緒なの?」

「私となっちーが同じ部屋だからだよ~」

「「えぇっ!?」」

 

 そんなに驚くような事か?

 

「まさか、ここで本音が出てくるなんて……」

「布仏さん……千夏さんとは一切交流が無い方でしたから、全くのノーマークだったのに……」

 

 ブツブツと話しながら歩いていると、何かにぶつかってしまうぞ。

 

「どうしたんだ二人共」

「さぁ~?」

 

 朝から元気なのはいい事だが、どうも元気の方向性が違うように思えるのは俺だけだろうか。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 食堂に付くと、予想通り生徒はまだ少なく、好きな席に座る事が出来そうだった。

 この食堂は食券を購入してから注文するスタイルになっていて、この辺は他の高校と大差無いように思える。

 他の高校、知らないんだけどな。

 

「何にします?」

「そうだな……」

 

 味を感じない俺にとって、食事とは栄養補給以外の目的が無い。

 だから、基本的に緑黄色野菜を多く摂るように心掛けている。

 

「これでいいか」

 

 野菜サラダとトーストとコーヒー。

 スタンダードだが、迷った時はこれに限る。

 

「千夏、野菜が好きだよね」

「そうなんですの?」

「うん。時々、外食をする時も野菜多めの食事をする事が多々あるから」

「なっちーは偉いね~。ベジタリアン?」

「そのつもりはないんだけどな」

 

 普通に楽なだけだ。他意は無い。

 

「千夏姉、ここでも野菜ばっかなのかよ」

「食生活も昔と余り変わってないんだな」

 

 ……いつの間に一夏と箒が来ていた?

 俺達が話している間か?

 

「あら、お二人共。来ていらしたんですのね」

「来てたっつーか、皆の後ろにいたっていうか……」

「最初は話しかけようとも思ったんだが、食堂に入ってからでも遅くないと思ってな」

 

 別に遠慮をしなくてもいいのに。

 

 その後、一夏と箒の二人を含めたメンバーで食券を購入し、適当に空いている席に座る事に。

 今の時間帯ならば、大勢で座っても余裕があるからいい。

 

「ところで、どうして一夏と箒は一緒にいたんだ? 途中で会ったのか?」

「いや、私と一夏は同じ部屋になってしまったんだ」

「あらまぁ」

「ご愁傷様」

「簪……ありがとう……」

「あれ? なんでまだ何もしてないのに、俺が悪い感じになってるの?」

 

 さぁな。

 

「恐らく、二人が知り合いだったからと言う適当な理由で一緒にしたんだろう。学園側が考えそうなことだ」

「それならば……私と千夏が一緒になってもよかったのではないか?」

「そうだよな。俺と千夏姉が一緒でもよかったじゃねぇか」

「「「いや。お前はダメだ」」」

「なんで同時に言うっ!?」

「もしも一夏と千夏を一緒にしたら……」

「間違いなく襲いますわね」

「近親相姦、ダメゼッタイ」

「しねぇよ! 俺にだってそれぐらいの常識ぐらいはあるわ!」

「なんて言いつつ、家で何回も俺の裸を見たのは誰だったかな?」

「千夏姉っ!?」

 

 一応、誤解が無いように言っておくがな。

 俺にだって人並みの羞恥心ぐらいは持ち合わせているんだぞ。

 ただちょっとリアクションが薄いから、そうは見えないだけで。

 女に見られるのは慣れてしまったが、幾ら家族とは言え、男に裸を見られるのは恥ずかしいさ。

 ………精神的にも女性寄りになりつつある証拠だな。

 

「「「死刑」」」

「なんでっ!?」

「千夏の裸を見るなど万死に値する」

「火炙りの刑ですわね」

「いや、針串刺しの刑に処す」

「どっちも嫌なんですけどっ!?」

 

 少しだけ嫌な事を思いだしそうになったが、ギリギリで踏み止まれた。

 自分で自分の地雷を踏むとか、馬鹿もここまで極まれば凄いな。

 

「そ……そーゆー千夏姉のルームメイトは誰なんだ?」

「私も気になるな。是非とも教えて欲しい」

 

 一夏め。上手く自分へのマークを外したな。

 我が弟ながら見事なもんだ。

 

「俺のムールメイトは、隣にいる本音だよ」

「だよ~」

「布仏さんか~。なんか、千夏姉がせっせと世話している様子が簡単に想像出来る」

「千夏と一緒の部屋か……羨ましいな……」

 

 この違いだよ。

 一夏と箒。一か月ぐらいの辛抱とは言え、上手くやっていけるのか?

 

 その後、食堂がやって来た生徒達で賑わい始める頃を見計らって食事を終え、それぞれの教室に向かった。

 勿論、遅刻なんてしなかった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 二時間目が終了し、一夏は机に体を預けた状態で項垂れていた。

 頭からは知恵熱による煙が出ているように見える。

 勉強は常に限界突破で挑んでるから、実際にオーバーヒートはしてるだろうが。

 

「大丈夫か?」

「なんとか……。初日にも言ったかもだけど、千夏姉のスパルタ勉強が無かったら、ガチで終わってたわ……」

「やっと理解したか」

「あぁ……。やっぱ千夏姉ってスゲェわ……。マジで尊敬する」

「俺だって必死に勉強したよ。ただ、勉強した時間と量が一夏よりも多いだけさ」

「それだけでも十分に凄いって……」

 

 俺でも出来たんだし、頑張れば一夏も十分に出来ると思うんだがな。

 

「今はギリギリついていけている感じか?」

「一応な。でも、それも時間の問題かもしれない……」

「その時になったら、また俺か先生にでも言え。そうしたら、いつでも教えてやるから」

「千夏姉の勉強……」

「なんだ。嫌なのか?」

「そ……そんな事はねぇよ?」

(分からなくなった時は、山田先生に聞きに行こう……)

 

 気のせいか。一夏が失礼な事を考えたような気がする。

 

 そうしている内に休み時間が終了し、三時間目に突入。

 

「そんな訳で、ISとは本来ならば宇宙空間での活動を想定して開発されているので、操縦者の全身を特殊なエネルギーバリアで包み込んでいます。また、他にも生体機能の補助をする機能も持っていて、操縦者の肉体状態を常に安定した状態に保とうとします。主に心拍数や脈拍、呼吸量や発汗量、脳内エンドルフィンなどがあり――――」

 

 ここら辺は既に学んでいる部分だから大丈夫。

 一夏にもちゃんと教えてあるから、問題は無いとは思うが……。

 

「………………」

 

 無言でノートと向き合ってる。

 どんだけ必死なんだよお前は。

 

 クラスの女子の一人が山田先生に質問し、そこから変な空気になっていった。

 山田先生も必死に教えようとはしているが、どうも脱線してしまうようだ。

 

「山田先生。あまり変な方向に行かないように」

「あ……すみませんでした」

 

 千冬姉さんによってブレーキが掛けられ、ようやく授業が再開。

 だが、それもほんの少しの時間だけだった。

 またもや女子の質問で空気が変になり、キャッキャッウフフな感じになった。

 年頃だと言えばそれまでだが、ちゃんと授業ぐらいは受けて欲しい。

 真面目にやってるのは箒やセシリアや本音を覗いたら、僅か数名しかいないじゃないか。それでいいのかIS学園。

 

「「あ」」

 

 そんなこんなしている内に、授業が終了。

 結局、本来進まないと行けない部分の半分も行ってないんじゃないか?

 後で自主学習をしておくべきか。

 

「次の授業は空中におけるISの基本制動をやりますからね~」

 

 またもやIS関連の授業。

 ここはIS学園なんだから当たり前なんだけど、一夏の為にも通常授業もやってあげて欲しい。

 

 姉さんと山田先生が教室から去った瞬間、一斉に女子達が一夏の元にやって来た。

 

「ねぇねぇ! 織斑君ってさ!」

「ちょっと質問いいかな~?」

「え……いやちょっと……」

 

 はいはい。俺はお邪魔虫だよね。

 織斑千夏はクールに去るぜ。

 

「ちょ……千夏姉~!?」

 

 ここにいたんじゃ俺も巻き込まれるかもしれないからな。

 薄情かもしれんが、ここは頑張って耐えろ一夏。

 そのまま俺は、本音と箒とセシリアが集まっている場所に移動。

 

「本音。アメちゃん食べるか?」

「食べる~♡」

「餌付けされてるぞ……」

「私もされたいですわ……♡」

「「「え?」」」

 

 割と素で引いたぞ。

 今度からはセシリアの分のお菓子も用意しておくか?

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 休み時間が終わる直後、千冬姉さんの介入で女子達はすぐに着席。

 流石の彼女達も、姉さんの出席簿の餌食になるのは御免なんだろう。

 

「四時間目の授業を始める前に、織斑に伝えておくことがある」

「俺に?」

「今回、学園側からお前に対して特別に機体を……専用機を用意することが決定した」

「せ……専用機?」

「そうだ。ちゃんと予習しているだろうな?」

「え……えっと……前に千夏姉に教えて貰ったような気が……」

 

 常に授業の時に持参している、俺との勉強の時に使ったノートをペラペラを捲る。

 どうやら、目当てのページを見つけたようだ。

 

「国家の代表や代表候補生、企業のテストパイロットなどが持つ事を許された、量産機よりも機体性能が高くて、他にも特殊な機能などを持つワンオフのIS……だよな?」

「少し言葉足らずだが、大まかな概要は間違っていない」

「よ……よかった……」

「千夏に感謝しておけよ。もしも千夏が勉強を見てくれなかったら、お前はここで恥をかいていたんだからな」

「わ……分かりました」

 

 一夏が専用機を貰えると分かると、途端に教室中が騒がしくなった。

 無理もないだろう。本来、専用機とは非常に特別な存在なのだから。

 所持しているだけでエリート扱いをされる例もある。

 少し前までは、俺も一夏と同じような立場だったが故に、こいつの気持ちは理解出来る。

 

「だが勘違いをするなよ。お前は別に実力を認められたわけでもなく、選ばれたわけでもない。単純に『男でISを動かしたから』専用機を与えられたに過ぎない。これがどんな意味か分かるか?」

「男がISを動かした時に得られるデータを収集するのが目的のテストパイロット……的な感じですか?」

「その通りだ。他にも自衛の為などの理由もあるが、大まかな所は間違っていない」

 

 一夏がISを動かした時から予想はしていたが、やっぱり専用機が用意されたか。

 これでコイツも俺達と同じ専用機持ちの仲間入りって訳か。

 

「お前の専用機が学園に運ばれるのは来週の今日辺りになるそうだ。その日の放課後に各種設定や軽い試運転を行う予定でいるので、ちゃんと時間は開けておけよ」

「了解です」

「もしも専用機について分からない事があれば……そうだな。千夏にでも聞け」

「千夏姉に?」

「そうだ。お前の最も身近にいて、尚且つ、お前よりもずっと前に専用機を受領して訓練も重ねている。相談役にはうってつけだろう」

 

 また面倒を押し付けられたような気が……。

 いや、千冬姉さんの言う通り、この場は俺が最も適任か?

 同じ専用機持ちでも、セシリアや簪よりは話しかけやすいだろうし。

 

「そんな訳だから、また頼んだぞ。千夏」

「分かりました。乗りかかった舟ですしね。途中で降りたりはしませんよ」

「助かる」

 

 今までとやる事は大して変わらないだろうし、別にいいか。

 近い内、一夏に専用機を動かす姿を見せるのもいいかもしれない。

 一夏の事だから、実際に目の前で見ればモチベーションがバカみたいに上がるだろうし。

 

「では、少し時間が経過したが、今から授業を始める。山田先生」

「はい」

 

 やっと授業が始まったか。

 午前最後の授業を受けながら、俺は今日の放課後の予定を考えていた。

 この時期は難しいらしいが、ダメ元でアリーナの使用要請をしてみるか。

 それとも、図書室で勉強でもするか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は一夏が原作のように教科書を音読しなかったので、箒の話題は出てきませんでした。
よかったネ! 箒!
そして、一夏はちょっと変則的に白式を受け取る形に。






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