けど、テンプレのように試合をしてばかりだと味気ないと思ったので、ここはあくまで『普通』にいこうと思います。
だって、IS学園って学校ですよ?
「……であるからして、ISの基本的な運用には現時点においては国家の認証が必須事項であり、万が一にでも枠外を逸脱したIS運用を行った場合は、刑法によって厳しく罰せられて……」
教壇にて山田先生が教科書の内容を読んでいく。
ノートと教科書を目配せしながら、俺はペンを走らせる。
少しだけ前にいる一夏の様子を窺うと、後ろ姿からもひしひしと必死さが伝わってきた。
「えっと……今はここだから……」
……本当にギリギリの状態のようだな。
自分で言っておいてなんだが、一夏に勉強を教えておいてよかった。
もしも、何も知らずにここに放り込まれたりしたら、まず間違いなく壊滅的な事になっていたに違いない。
と、ここで一夏の様子が気になったのか、山田先生がこっちに来て話しかけてくれた。
「織斑君。どこか分からない所とかありますか?」
「い……今のところはなんとか。辛うじてついていけてます」
「そうなんですか。偉いですね!」
「春休みに千夏姉に徹底的に教えられましたから」
「千夏さんが……」
タダでさえ難解なISの勉強を一夏に教えるのは本当に苦労した。
基本五教科ならば普通に教えればいいんだけど、これは内容自体が複雑怪奇だから、俺自身も別の意味で勉強になった。
「ここで『分からない』って言ったら、また千夏姉のスパルタ勉強会が……」
「そ……そうですか。頑張ってくださいね。何か分からない場所があったら遠慮無く訪ねてください」
「その時はよろしくお願いします」
スパルタとは失礼な。
前々から思っていたが、一夏は俺の事をどんな風に見てるんだ。
「千夏ちゃんって……」
「結構なお姉さんキャラ?」
戸籍上は立派な『姉』だしな。
「千夏と二人っきりで勉強か……」
「羨ましいですわ……」
なんだか聞き覚えのある声が聞こえた気がしたが、ここは何も聞かなかった事に。
「危うく参考書を電話帳と間違えて捨てそうになったけどな」
「言わないでくれよ……。あの時のマジ切れした千夏姉、本当に怖かったんだから……」
そりゃ怒るだろ。
幾ら分厚いからって、電話帳と参考書を間違えて捨てるか?
なんとか参考書は救出に成功して、今はちゃんと一夏の机の上で存在感を放ってる。
「はぁ~……」
教室の後ろの方で授業を見ている千冬姉さんの大きな溜息が聞こえた。
姉さんには悪いが、これからもっと溜息が増えるかもだよ。
「ち……千夏さんって、怒るとそんなにも怖いんですか?」
「そりゃもう。千夏姉の背後に第五次聖杯戦争のバーサーカーが見えましたもん」
「誰が理性を無くしたヘラクレスか」
「痛っ!?」
余りにも無礼だったので、一夏の大好きな参考書の角でお仕置きしてやった。
どうだ、嬉しいだろう。
「山田先生。授業の続きを」
「あ……はい!」
姉さんの鶴の一声にてグダグダになりかけた授業が再開されることに。
一夏……後で覚えていろよ。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
休み時間になり、各々が思い思いの場所に移動する。
だが、俺は別に動きたい気分でも無かったので、そのまま机に座っている事に。
すると、箒とセシリアの方からコッチにやってきてくれた。
「ち……千夏。一夏にマンツーマンで勉強を教えていたというのは本当なのか?」
「うん。千冬姉さんに頼まれてね。何も知らないままだと確実に悲惨な目に遭うだろうと」
「流石は千冬さんだな。ちゃんと先を見据えているとは」
ここで教師をやっているからこそ、IS学園の授業レベルの高さを実感出来ているんだろう。
実際、俺からしてもここのレベルは相当に高い。
一夏にばかりかまけてはいられないな。
「はぁ……千夏さんと一緒にお勉強……いいですわね……」
「そうか? 言っとくけど、かなり厳しいからな?」
「それでも構いませんわ! 寧ろご褒美と言うか……」
何がご褒美? 悪いが、俺には理解出来ない領域の話は勘弁してくれ。
変態にはいい思い出が全く無いんでな。
「一夏。それ程までに千夏との勉強会は大変なのか?」
「大変なんて次元じゃねぇって。千夏姉って時間に厳しいからさ、仮に一時間するって言ったら、キッチリ一時間するんだよ。それまでトイレとかは愚か、立つ事すら許されないし」
「なんだと……!」
「あの頃のお前は、少しでも時間が惜しかったからだよ。唯でさえタイムリミットがあったのに……」
「また千夏姉の説教が始まった……」
「説教言うな」
俺は普通に言うべき事を言ってるだけだ。
言われたくなかったら、これからもちゃんと勉強をするんだな。
「なんか最近、段々と千夏姉が千冬姉に似てきたんだよな~」
「「主にどこがだ?」」
「普段の表情とかもそうだけど、怒った時の顔なんてほんとソックリ。まるで千冬姉が二人になったみたいで………あ?」
ここが一夏は気が付いた。
千冬姉さんがいつの間にか教室に入ってきていて、俺と並んで腕組みをしたまま仁王立ちしている事に。
「何か」
「言いたい」
「「ことはあるか?」」
「す……すいませんでした!」
「「問答無用」」
「ぐぇっ!?」
千冬姉さんの出席簿と、俺の参考書が同時に炸裂。
間違いなく、一夏の脳細胞を大量に破壊したに違いない。
「千夏の親切心に文句を言うな」
「それは分かってるけど………」
俺ってそこまで厳しいのか?
なんか地味に落ち込むぞ。
「お前達、急いで席に着け。授業を始めるぞ」
この一声で一斉に皆が着席する。
ここら辺は本当に凄いと思う。
「三時間目は実戦で使用する各種装備の特性等について説明をする……が」
今度は千冬姉さんの授業か。
これは普通に楽しみだが、その前に何か言う事があるようだ。
「その前に、まずはクラス代表を決めておかなくてはな」
クラス代表? 聞き慣れない単語だが、そのままの意味と捉えればいいのか?
「千夏が何やら聞きたそうか顔をしているから答えておこう。クラス代表とは、文字通りの意味の役職を指す。お前達には学級委員と言えば分かりやすいか」
成る程。学級委員か。
「主にやる事は、生徒会で開かれる定例会議や委員会への出席。後は、再来週に開催されるクラス対抗戦へ出場する事だな」
定例会議や委員会への出席は理解出来るが、クラス対抗戦とはなんだ?
何かの大会的な物が催されるのか?
「クラス対抗戦とは、入学時点での各クラスの実力の推移を測るために開催される大会だ。現時点では大差無いかもしれんが、この結果がこれからの指針となる上に、こういった大会を開く事によって向上心を生み出す」
向上心と言うよりは競争心の方が正しいだろうな、この場合。
他の皆からすれば、どっちも似たり寄ったりかもしれないが。
「一応言っておくが、クラス代表は一度でも決定すると、余程の事が無い限りは変更しないのでそのつもりで」
だろうな。それが普通だ。
「では、誰かする者はいないか? この際、自薦でも他薦でも構わんぞ」
いや、一番厄介な役職に自分からなろうなんて酔狂な奴はいないだろう。
間違いなく他薦が殆どを占めると思う。
「はい! 私は織斑くんを推薦します!」
織斑
くんって事は、俺は関係無いな。
ご愁傷様、我が弟よ。
「私もそれがいいと思いま~す!」
はい二票。
このまま過半数を占めるのか?
「え? もしかして、俺の事を言ってる?」
「お前以外に誰がいるんだよ」
「いや……千夏姉の可能性も……」
「その場合、『織斑さん』って言わないか?」
「あ……」
なんか、自分で言ってて虚しくなってきた。
「今のところは織斑一人か。他にはいないか?」
いる訳がない。と言うか、いない事を祈る。
このまま終わって欲しい。
「少しお待ちください」
「オルコットか。どうした」
「一つお聞きしたいのですが、皆さんはどうして織斑さんを推薦なさったのですか?」
「えっと……それは~……」
「まさかとは思いますけど、『学園でたった一人の男子だから』なんて理由じゃありませんわよね?」
「「ギクッ!」」
おい。こいつら口でギクって言ったぞ。
「呆れますわ……。少しは彼の気持ちも考慮して差し上げませんと、可哀想ですわよ?」
弟に助け船を出してくれたことには純粋に感謝するが、何故か嫌な予感が拭いきれない。
セシリア、余計な事を言うなよ……。
「幾ら珍しくても、彼はまだISに関しては皆さんと同じ初心者。逆の立場になって考えて御覧なさい。もしも自分がいきなり『珍しい』なんて理由で推薦なんてされたら……」
「かなり嫌かも……」
「でしょう? 自分がされて嫌な事を他人にするなんて、あまり褒められた事とは言えないと思いますわよ?」
「そう……だね……」
流石はセシリア。
言葉巧みに彼女達を論破してみせた。
「だが、一度推薦された以上は引っ込ませることは出来んぞ。どうする気だ? お前が誰か推薦するか、もしくは自薦でもするか?」
「はい。私も一人だけ推薦したいと思います」
「言ってみろ」
この流れは……まさか……。
「私は、織斑千夏さんを推薦しますわ」
矢張りか……くそ……。
「皆さんも周知の通り、千夏さんはIS委員会の代表操縦者を務めています。それに加え、千夏さんは真面目で頭脳も明晰で容姿端麗で可愛らしくて美しくて……」
途中から惚気になってるぞ。
それに、俺はそんなにも褒められるような人間じゃない。
「四組の更識簪さんから窺った情報によりますと、ISの腕も申し分ないとの事。お話では、以前に訓練生三人を同時に相手にしたにも関わらず、それらを纏めて秒殺したとか」
そんな事もあったな。
あいつ等の顔は全く覚えてないけど。
「よって、全ての面から私は千夏さんこそが最もクラス代表に相応しいと思います」
何故かここでクラス中から拍手喝采が。
いつの間にか、セシリアによる俺のプレゼンテーションになっていた。
「そうだよね……。よくよく考えれば、千夏ちゃんも千冬様の妹な訳だし……」
「ある意味で私達と同じ立場の織斑君よりかは、実力がある千夏ちゃんの方がいいのかも……」
くっ……段々と俺に傾いてきたか……。
「お……俺も千夏姉を推薦する! 中学の時も皆から慕われてたし、申し分ないと思うんだ!」
「私も千夏を推薦します」
弟と幼馴染が目の前で裏切った。
俺に味方はいないのか……。
(ここは、俺自らが動くしかないか)
俺的に最も妥当なのはセシリアだと判断する。
俺以上に頭もいいし、イギリスの代表候補生でもある。
容姿だって文句ないし。
「では俺m「それでは、織斑姉弟のどっちかに決めるとするか」………」
俺の言葉が封殺されてしまった。
一足遅かったか……。
「ならば、この二人で決選投票をする事としよう。山田先生」
「はい。こんな事もあろうかと、既に準備は済ませています」
山田先生の手には、大量の折りたたまれた小さい紙が入った箱があり、それを皆一つずつ取っていった。
「それに二人の内のどちらかの名前を書け。書いたら見えないように折りたたんでから箱に戻すように」
俺の場合は必然的に一夏の名前を書くしかないじゃないか。
流石に自分で自分に投票はしたくない。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「投票結果が出たな」
各々に名前を書いて箱に戻し、それを千冬姉さんが一枚一枚開いていってから名前を呼び上げて、山田先生が黒板に記入していく。
そんな事が数分続き、全ての結果が出揃った。
「織斑一夏は10票。そして千夏は……」
「それ以外の全部ですね」
見たくなかった結果。
あろうことか、俺が圧倒的勝利を飾ってしまった。
「一夏……お前は……」
「勿論、千夏姉に入れたぜ」
だろうな。
もしやと思い、箒の方を向いてみると、見事なサムズアップを返してくれた。
絶対にアイツも俺に入れやがったな。
だとすると、セシリアも俺に投票したに違いない。っていうか、あんなスピーチをして俺に入れないなんて有り得ないだろう。
「では、一組のクラス代表は織斑千夏で決定とする。いいな?」
「「「「「はい!」」」」」
こんな時だけいい返事をしやがって。
俺の意思が全く介入しないまま、クラス代表に決まってしまった……。
「はぁ~……」
本気で先が思いやられる……。
こうして、俺の肩書きに『一組のクラス代表』が加わったのであった。
頼むから、厄介ごとはこれで終わりにしてくれよ……。
普通に投票でクラス代表が決定。
主な戦犯はセシリアですけど。
ちゃんとバトル回も考えているのでご安心を。
別にクラス代表決定戦だけでしか試合が出来ない訳じゃないので。
あのイベントにこだわる必要は無いと判断しました。