セラフィムの学園   作:とんこつラーメン

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久々の再開に想像以上に反響があって驚きの私です。

そんな皆さんに朗報です。

私、少しだけやる気スイッチがONになりました。

もしかしたら、今年は新作を出さずにこれまでの作品を再開する形になるかもです。







第33話 懐かしの再会

「大丈夫か?」

「あぁ~……」

 

 一時間目の授業である『IS基礎理論』が終了し、一夏は机に体を預けながら頭から知恵熱による湯気を出していた。

 

「今回はマジで千夏姉に感謝するよ……。春休みを返上して千夏姉が勉強を教えてくれなかったら、絶対にここで瀕死レベルのダメージを負ってた……」

「そうか」

 

 一夏ではないが、確かにここの授業のレベルはかなり高い。

 そこら辺の進学校なんて目じゃない程に。

 正直に言って、私も委員会代表なんて立場にいなければ、間違いなく今の一夏と同様の状態に陥っていたに違いない。

 

「だが、こんなのはまだまだ序の口だぞ」

「分かってる……」

 

 最初の授業でコレなんだ。

 これから増々、授業のレベルがアップするのは想像に難くない。

 

(俺も、場合によっては山田先生とかに勉強を教えて貰う事を考慮しないとな……)

 

 どうしても、自主学習だけでは限界が来る。

 そんな時に一番頼りになるのは間違いなく先生達だ。

 特に山田先生なら、あの性格からして親切丁寧に教えてくれるだろう。

 

「で。弟よ」

「なんだ、千夏姉」

「さっきから何やら牽制し合っている女子達をどう思う?」

「俺に聞かれても困る」

 

 そう。クラスの女子達が先程からずっと一夏の方をチラチラと見て、誰が先に話しかけるか話し合っているのだ。

 それだけならば、まだマシだ。

 問題は、廊下にも生徒達が大勢やってきている言う事態だ。

 一年生だけならまだしも、明らかに二年生や三年生も交じっている。

 まだまだ初心な一年ならいざ知らず、アンタ等は多少は人生の酸いも甘いも経験しているだろうに。

 今更、男子なんて珍しくもなんともないだろう。

 それなのに、どうしてアイドルの追っかけみたいにやってくる?

 

「千夏姉がいなかったら、精神的にも潰れてたかも」

「具体的には?」

「放課後になって、すぐに保健室に胃薬を貰いに行く」

「それは大変だな」

 

 この歳でもう胃薬の世話になるのか。難儀な弟だ。

 

「……少しいいか」

「「ん?」」

 

 こんな状況で話しかけてくる猛者がいるとは。

 誰かと思い顔を上げると、そこには俺と一夏にとっての幼馴染である篠ノ之箒の姿が。

 

「箒……か?」

「らしいな」

「……………」

 

 会話が苦手な俺にとって、久し振りに再会した友人に挨拶をするなど、物凄く難易度が高い行為だ。

 一夏とは違って、俺はお世辞にもコミュ力が高い方じゃないからな。

 

 箒に話しかけられて固まっている俺達の遥か後方で、セシリアも話しかける機会を窺っているようだった。

 少しだけ後ろを見たら、なんだかソワソワしている彼女の姿が見えたから。

 

「廊下でも構わないか?」

「お……おう」

 

 箒に誘われて一夏が立ち上がる。

 ここは黙って見送るべきか。

 千夏はクールに待機しよう。

 

「千夏も来てくれ」

「俺も?」

「あぁ……頼む……」

 

 そんな懇願するように見られると『嫌だ』とは言いにくい。

 感覚が無くて表情も死んでいても、人としての良心だけは無くしていない。

 

「……分かった」

 

 俺も立ち上がり、二人と一緒に廊下に出る。

 それだけなのに周囲がざわめき、まるでモーゼのように道を開けてくれた。

 俺達は決して聖者などではないんだがな。

 

 因みに、ちゃんと後ろからセシリアもつけてきていた。

 お前はストーカーか。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 流石に人が多すぎたので、俺達は教室のすぐ傍にある階段の踊り場に移動する事にした。

 それでも、野次馬根性を見せた生徒達が壁から顔を覗かせているが。

 

「こうして会うのは六年振り……になるのか……」

「そうなるな……」

「年月が経つのは早いよな~」

 

 一応、俺から話を切り出してみたが、そこまで発展しなかった。無念。

 

「そういや、思い出した」

「何を?」

「ほら、去年の新聞記事だよ」

「去年……あぁ。アレか。箒が剣道の全国大会で優勝したと書いてあったやつか」

「なっ……なんで知って……」

「いや。今さっき新聞で知ったって言ったよね?」

「なんで新聞なんか見るんだ……」

「「いや見るだろ」」

 

 ネット社会になっているとは言え、まだまだ新聞も捨てたもんじゃない。

 俺は寧ろ、テレビのニュースよりも新聞の方が好きだ。

 それを言うと爺臭いと言われてしまうが。

 

「にしても、まさか箒もIS学園に入学してるとは思わなかった。ぶっちゃけ、俺としては顔見知りがいるってだけで安心したよ。でも、なんでここに来たんだ? 箒ってISに興味なんてあったっけ?」

「一夏」

「千夏姉?」

 

 俺が一夏の肩を叩いて首を横に振る。

 それだけでコイツは察したようで、バツが悪そうな顔になる。

 

「その……ゴメン。ちょっとズケズケと聞きすぎた……」

「いや。別に気にしてない」

 

 最後に『慣れてるからな』と呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。

 どうやら、箒も箒で俺達の想像以上に辛い目に遭ってきてるようだな。

 

「ところで……だな……」

「ん? どうした?」

 

 俺の方を向いてモジモジしている箒。

 何かを言いたそうにしているが、上手く言葉に出来ていない感じだ。

 

「千夏の髪……は……その……どうしたんだ……?」

 

 ………聞かれると分かっていても、いざ本当に面と向かって言われると戸惑う。

 

「昔は綺麗な黒髪だったのに……どうして真っ白に……」

「それは……」

 

 もう一回一夏の肩を叩いて首を振る。

 今度は違う意味合いを込めた。

 

「あれからコッチも色んな事があってな。こんな醜い姿に成り果ててしまった」

「いや、私は別に醜いだなんて……」

「箒がそう思ってなくても、俺自身があまりこの髪を好きになれないんだよ」

 

 この髪は俺の『罪』の象徴。

 だから、好きにはなれないが、受け入れる覚悟はとっくに出来ている。

 

「全ては俺の弱さが原因だ」

「そんな事!」

「いいんだ一夏。いいんだ」

「でも……千夏姉は何も悪くないじゃねぇか……。完全に被害者だろ……」

 

 そうかもしれない。それでも、こんな姿になったのは俺の精神が脆弱だったせいだ。

 だからこそ、俺は俺を一生許すつもりはない。

 

「久し振りに会ったのに、こんな姿になっていて驚いただろう?」

「驚きはした……。だが、私は決して今の千夏が醜いだなんて思ってないからな。寧ろ……綺麗になったと思う……」

 

 綺麗……か。

 普通なら純粋な褒め言葉として受け取るべきなんだろうが、俺の立場からすればなんとも複雑な気分だ。

 なんせ、体は女でも生物学的には男なんだからな。

 

「箒こそ綺麗になってて驚いたよ。なぁ一夏」

「お……おう! 本当に変わったよな!」

「千夏ぅぅ……一夏ぁぁ……!」

 

 急に涙ぐんだ箒は、そのまま俺の胸に飛び込んできた。

 いきなりで引きはがしそうになったが、ここはグッと堪えて身を任せた。

 

「ずっと……ずっと二人に会いたかった……会いたかったんだ……」

「箒………」

 

 胸の中で泣いている彼女を見て、俺はそっと腕を回しながら頭を撫でた。

 今の俺に出来るのはこれぐらいしかないと思ったから。

 

「俺も会いたかったよ……箒」

「千夏ぅぅぅ………」

「こうして再会出来て、本当に嬉しく思う」

「私も……私も嬉しい……」

 

 彼女が泣き止むまではこうしてやろう。

 と言っても、休み時間が終わる方が早そうだが。

 一夏にしては珍しく空気を読んで静かにしている。

 だがここで、意外な乱入者がやってくることに。

 

「あ……ああああああアナタ!! 千夏さんの胸に顔を埋めて何をしてますの!!」

「「あ」」

「なに……?」

 

 我慢出来なくなったのか、顔を真っ赤にしながらセシリアのご登場。

 あれは明らかに怒ってますね。

 

「なんだ貴様は……」

「私はセシリア・オルコット! イギリスの代表候補生にして、嘗て千夏さんと一緒に受験をした仲ですわ!!」

「なんだとっ!?」

 

 そんなに驚くような事か?

 

「ち……千夏……今の話は本当なのか……?」

「あぁ。確かに俺は受験会場でセシリアと隣の席になって、一緒に受験をしたな」

「そ……そんな……」

 

 いや、割とマジで箒がそこまで愕然としている理由が分からん。

 

「千夏姉。いつの間に外国人の友達なんて出来てたんだ?」

 

 一夏は一夏で普通の反応をしている。

 それと、俺達共通の友人である鈴も立派な外国人だからな?

 アジア系だから忘れがちになるけど。

 

「それなのに……いきなり出てきて千夏さんと抱き合うなんて~……!」

「私と千夏は幼馴染なのだ。抱き合って何が悪い」

「お……幼馴染ですってっ!?」

 

 いや箒。幼馴染でも普通は抱き合わないと思うのだが。

 

「私は篠ノ之箒。千夏の『大切な幼馴染』だ」

 

 何故に『大切な幼馴染』の部分を強調した?

 

「ちょっと待って」

「誰だ?」

「簪さん……」

「また増えた……」

 

 今度は簪か。

 少し息が切れている様子から、廊下を走ってきたのか?

 よく先生に見つからなかったな。

 

「誰だお前は」

「私は更識簪。千夏とは一年間ずっと同じ訓練所に通ってた仲」

「千夏姉って交友関係が広いな~」

 

 お前の感想はそれだけか。

 

「ん?」

「………………」

 

 簪が一夏の事を睨んでいる?

 まさか、俺の知らない場所でまた何かやらかしたのか?

 

(ここは我慢……ここは我慢……! 本当は今すぐにでもぶっ飛ばしたいけど、仮にも千夏の弟なんだし、今は堪えよう……!)

 

 何があったかは知らんが、後で謝らせるべきか?

 

「わ……私も千夏にギュってしてほしい。というか、その権利があると思う」

「権利って……」

「その根拠はなんだ」

「私と千夏は、前にデートをした事があるから!」

 

 あれってデートだったのか?

 俺的には友達と一緒に遊びに行ったつもりなんだけど。

 一応、性別的な意味ではデートが成立してるけど。

 

「なっ………!」

「なんですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

 こらそこ、大声を出さない。

 周りの連中が何事だと思って聞き耳立ててるから。

 

「そんな訳で、私と千夏は相思相愛」

 

 しれっと俺の腕に抱き着かないでくれないか?

 

「ま……負けるわけにはいきませんわ!」

 

 セシリアが逆の腕に抱き着いてきた。

 お蔭で身動きが取れない。

 

「き……貴様等! 千夏から離れろ!」

「それはこちらのセリフですわ!」

「同感」

 

 そして、俺を中心にして言い争うのは止めて欲しい。

 五月蠅くてかなわん。

 

「一夏」

「どうした?」

「……プリーズ・ヘルプミー」

「遂に千夏姉が棒読みの英語で助けを要請してきた」

 

 それ程までに追い詰められてるんだって察してくれ。

 

「つーか、千夏姉の本命は別にいるだろ」

「「「はぁっ!?」」」

 

 おいこらバカ一夏。

 ここでなんつー爆弾を投下するか。

 

「一夏。俺に本命なんていない」

「あれ? 千夏姉ってピノッキオさんと付き合ってるんじゃねぇの?」

「いや、ピーノと俺は別に……」

 

 歳だって離れてるし。向こうだって俺のような小娘の見た目をした奴を好きになんてならないだろう。

 

「もう既に愛称で呼んでる……だと……」

「も……もしかして、そのピノッキオって……背が高くて金髪サラサラで、どこか哀愁の漂う表情をいつもしているイタリア人のイケメンの事……?」

「そうそう。そんな感じの人。よく知ってるな」

「簪さんはご存じなんですの?」

「うん……。よく、千夏の護衛として一緒に訓練所まで来てたから。同期の子達が皆、ワーキャー言ってた」

 

 確かにピーノは傍から見てもカッコいい男子の部類に入るからな。

 年頃の女子には格好の話題になるだろうさ。

 

「ち……千夏に男が……」

「そ……そんな……認めませんわ……」

「私も最初に見た時は自分の目を疑った……」

 

 落ち込むのは勝手だが、せめて俺から離れてくれないか?

 

「織斑君の取り合いかと思ったら、まさかの委員会代表の子の取り合い?」

「しかも、かなり複雑な関係みたいね」

「三角……いや、四角関係か……。飯ウマね」

 

 ………妙な噂を流されないといいんだが。

 

「なぁ、もうそろそろ休み時間が終わるんじゃないか?」

「そうだ! 急いで教室に戻らないと!」

 

 それから俺達は、落ち込む三人をなんとか正気に戻して教室に急いで戻った。

 別れ際に簪が名残惜しそうにしていたが、『また後で会える』と言ったら笑顔で教室まで戻って行った。

 

 なんとか俺達四人は次の授業に間に合ったとだけ言っておく。

 遅刻ギリギリだったがな。

 

 

 

 

 




IS学園に入ると、途端にシリアスが減る模様。

でも、イベントの時は思いっきりシリアスして貰います。

上げて落とす仕様なのはこれからも変わりませんから。

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