セラフィムの学園   作:とんこつラーメン

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なんか、もうすぐ私が住んでいる長崎を初めとした九州に台風が上陸するそうです。

今のところはそんな気配はないですが、後になってから後悔しないように、ちゃんと台風対策をしておかないと……。

九州にお住いの皆さんも、どうか気を付けてください。







第30話 受験(実技編)

 俺の名前が放送で呼び出されて、俺は指定された第4ハンガーへと向かった。

 

 中の構造自体は、俺が先程までいた第1ハンガーとさほど違いは無かったが、雰囲気が違った。

 

 俺が入ってきた途端、全ての視線がある一点に集中したのだ。

 その視線の先は、もちろん俺。

 

ある程度の予想はしていたが、やっぱり……俺に対して色々と思うことがあるようだ。

 

「ねぇ……あの子が……」

「あの会見に出てた……」

「うん。やっぱり受験してたんだ…」

 

 ……別に何を言おうとも、それはそっちの自由だが、せめて堂々と言えないものか。

 

 それとは別に、俺を見つけた係の人がやって来た。

 

「織斑千夏さんですね」

「はい」

「あそこに見えるカタパルトから、試験用のステージに出られます。準備が出来たら、ISに搭乗してあそこから発進してください」

「分かりました」

 

 ふむ……本来ならば、ここで他にも色々と説明があるのだろうが、俺にはそれは無いようだ。

 多分、予め俺が専用機を所持していると聞いていたんだろう。

 それとは別に、俺には細かい説明が必要ないと判断したのかもしれない。

 俺が委員会代表なのは周知の事実だしな。

 

 自分の腕に装着されたディナイアルの待機形態である腕輪をそっと触る。

 すると、ほんの少しだけ腕輪が光ったような気がした。

 

 一回二回とゆっくりと深呼吸をした後、カタパルトに向かって歩るきだした。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 関係者のみが立ち入ることを許可された採点者室。

 ここからはモニターで各ハンガーとステージの様子を見ることが出来る。

 勿論、IS学園の教師である千冬もここにいた。

 

 第4ハンガーを映すモニターには千夏がゆっくりとカタパルトに向かって歩いていく様子が映し出されている。

 

「先輩」

「真耶か」

 

 千冬の後ろには、緑の髪にメガネをかけた、少し幼い顔立ちの女性が立っていた。

 

 彼女の名は『山田真耶』。

 千冬と同じIS学園の教師で、嘗ては日本の代表候補生だった。

 つまり、千冬の後輩にあたる女性ということだ。

 

「次は先輩の妹さんの試験でしたね」

「ああ。確か、お前が相手だったな」

「はい。世界初の委員会代表……どれほどの腕前か楽しみです」

 

 そう言い放つ彼女の顔は、うっすらと笑っていた。

 それは間違いなく、歴戦の戦士の顔だった。

 

「楽しむのは勝手だが、足元を掬われても知らんぞ」

「身内贔屓ですか?」

「そうかもな。だが、それを抜きにしても、千夏の実力は未知数だ」

「と…言いますと?」

 

 千冬の顔が急に真剣みを帯びて、周囲に緊張が走る。

 

「あいつは…未だに成長途中だ。だが、それでも既に代表候補生レベルはとっくに凌駕している」

「つまり…?」

「お前との戦いで、また成長するかもしれないということさ」

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 準備を終えて、私は第2世代型の量産型IS『ラファール・リヴァイヴ』を纏って、試験用のステージに降り立ちました。

 

 すると、その直後に向かい側のハンガーから全身が漆黒に染まった全身装甲型のISがやってきました。

 胴体はおろか、その顔面すらも完全に覆い尽くした機体。

 黒に金といったカラーリングが、不思議な存在感を放っています。

 後頭部から出ている真っ白な髪の毛に妙な違和感がありました。

 

「貴女が……織斑千夏さん…ですか?」

「そうですが……それがなにか?」

「いえ……ちょっとした確認です」

 

 構造上、彼女の表情は窺えないが、それでも、カメラアイから見える目はじっとこちらを見据えている。

 まるで、私の全てが見られているような錯覚になってしまいました。

 

(……なるほどな)

 

 その目、その雰囲気、それだけでも彼女が織斑千冬の妹と言われて納得するには充分すぎるほどの材料でした。

 確かによく似ている。

 こうして対峙していると、それがよく分かりました。

 

「私は試験官の山田真耶と申します。事前に何か確認することはありますか?」

 

 一応、殆ど定型文となったセリフを言います。

 すると、彼女は顎に手を当てて考えるような仕草をしました。

 彼女自身は真剣なんでしょうが、あの姿ではどうにも滑稽に見えてしまう。

 

「この試験の様子は、他の試験官の方々にも見られているんですか?」

「はい。私だけではなく、様々な視点で貴女を採点しなくてはいけませんから」

「成る程。了解しました」

 

 納得したのか、彼女は両腕を自由にしてダランと下げた。

 

 自分の姉にも見られていると分かったせいか、一気に彼女の空気が変化しました。

 言うなれば……そう、まるで本気モードになった先輩が目の前に立っているような……そんな錯覚を覚えます。

 

「では、これより試験を開始します。準備はよろしいですか?」

「はい。問題ありません」

 

 ブー! …と言うコールが鳴り、試験が開始されます。

 

 ですが、彼女は動く様子がありません。

 他の子達ならば、慌てたようにすぐ動き出したのに…。

 やっぱり、ちゃんとした訓練を受けているということですか。

 

(……ならば!)

 

 まずは小手調べといきましょうか。

 

 私は右手にアサルトライフルを展開させて、彼女に向かって撃つ。

 一発ではなくて三発程。

 

(さぁ……どう反応しますか?)

 

 回避か。

 それとも防御か。

 

 ですが、彼女はそのいずれもしませんでした。

 

 刹那、千夏さんの右手が高速で動き、数瞬の後に止まりました。

 その手は握られていて、まるで何かを掴んでいるようだった。

 

「まさか……」

 

 そんな筈はない。

 まだ14~5歳ぐらいの少女に、そんな芸当が出来る筈がない。

 そう思う私の心を、目の前の彼女は簡単に裏切った。

 

 スローで開かれた彼女の手から零れ落ちたのは、私が先程撃ったアサルトライフルの弾だった。

 カランカラン…と金属特有の甲高い音を響かせて、地面に三つの弾丸が落ちる。

 

「………舐めてます?」

 

 その一言から感じたのは『怒り』。

 

 自分に対して遠慮も手加減も不要。

 本気で来てほしい……そう言っているようでした。

 

「……すみませんでした。ここからは本気でします」

「お願いします」

 

 試験が始まって、千夏さんが初めて構えた。

 

「今度は……こっちからいきますね」

 

 次の瞬間、千夏さんが眼前から消えた。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 油断をしたつもりはない。侮ったつもりもない。

 だけど、それでも……

 

(疾い……そして、鋭い!!)

 

 千夏さんの専用機……ディナイアルと言うらしいが、あの機体には手持ちの武装が無い。

 だから、遠距離戦に持ち込めば大丈夫。

 そう思っていた数秒前の自分を叱咤してやりたい。

 

「ふっ!」

「くっ…!」

 

 千夏さんの拳が私の顔の横を通過していく。

 更に、彼女の蹴りが胴体を掠る。

 

 先程から、私は防戦一方になり翻弄されている。

 

 距離なんて関係ない。

 射程なんて関係ない。

 

 圧倒的なスピードの前には、二人の間に開かれた距離なんて無意味なのだ。

 

 こうして戦っているとよく分かる。

 このディナイアルという機体は、最初から遠距離での戦闘を想定していない(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 この機体は、先輩の『暮桜』と同様に、極端なまでに近距離戦、より正確に言えば、格闘戦に特化している!

 

 今はまだ致命的なダメージは受けていないが、それも時間の問題かもしれない。

 私が彼女の攻撃を避けられているのは、単純に経験値の差に過ぎない。

 もしもそれが埋まってしまえば、私は簡単に負けるだろう。

 

 成る程、先輩が危惧するのも納得だ。

 もしも千夏さんがこの試験中に経験を埋めるほどの成長をしたならば、その瞬間に試験は終わる。

 

 途端、千夏さんの攻撃が止まる。

 

 彼女は距離を離して大きく呼吸をしている。

 

「フー……フー……」

 

 息吹。

 

 丹田を力を入れるように呼吸をして、気を溜める技。

 やはり、彼女はとことんまで武術を訓練してきたようです。

 

「……ギアを上げるか」

「え?」

 

 ギア……?

 まさか、あの子はまだ本気じゃなかったと?

 

「バーニングバーストシステム……発動」

 

 彼女が呟いた瞬間、ディナイアルの各部に設置されたクリアパーツが紫色に発光し、 同時に両肩や両腕から蒼い炎が噴出する。

 更に、後頭部からも炎が出て、彼女の髪の毛を包み込む。

 

 ステージ内の気温が一気に上昇する。

 思わず頬に流れた汗を腕で拭う。

 

 瞬間、私の腹部に衝撃が走る。

 

「ぐ…はぁっ……!?」

 

 何が起こったのか、本気で分かりませんでした。

 

 必死に目線を目の前に向けると、そこには……

 

「掌…底……!」

 

 炎を纏った掌底を私の腹部に当てている千夏さんがいました。

 

(見えなかった……!?)

 

 スピードがいかに驚異的とはいえ、さっきまでは何とか見切れていた。

 けど、今度は違いました。

 速さが完全に別次元の領域になっている。

 

 いつの間にか右手を振りかぶっている千夏さんを見て、私は既に左手に展開している近接ブレードの【ブレッド・スライサー】で拳を止めようと試みました。

 ですが、それは完全に悪手でした。

 

 動かすのが早かったのか、なんとか防ぐことには成功しました。

 ですが、すぐに様子がおかしいのが分かった。

 

「こ…これはっ!?」

 

 防いでいるスライサーの刀身が、あろうことか熱で溶けかけていた。

 炎を纏ったその拳は、想像以上の熱量を持っているようでした。

 

 無理だと分かっていても、この攻撃は避けるべきだった。

 この炎はあらゆる防御を無意味なものとする。

 必然的に、相手の選択肢を『回避』の一択にしてしまう。

 

 パワーと熱に押され、私は徐々に後ろへと下がっていく。

 

 もうスライサーは使えないと判断した私は、咄嗟にそれを捨ててから後ろにブースターを拭かせて離れた。

 

「これなら!」

 

 右手に残ったアサルトライフルで果敢に接近してくる彼女を迎撃しようとしたが、それすらもディナイアルの炎の前では無駄だった。

 

 千夏さんの全身が炎に包まれて、まるで炎のバリアーのように彼女の体を覆い隠した。

 

 その炎に弾丸が命中すると、その弾丸すらも溶けてしまった。

 

「弾すらもっ!?」

 

 あの炎は攻撃だけでなく防御にも応用が可能なんですか!?

 

 こっちが驚愕している間に、千夏さんが一気に間合いを詰めてきた。

 

 反射的にアサルトライフルの銃身で攻撃を凌ごうしたが、それは手首の部分から伸びたビームソードによって一刀両断されてしまった。

 

 その場で一回転するようにして、千夏さんは再度攻撃をしてきました。

 

 紫に光る刃が私の首に迫る。

 この攻撃は回避出来ない…!

 そう思った……次の瞬間。

 

『そこまで!!』

 

 突然、先輩の声がステージ全体に響きました。

 

『お前の技量は充分に見せてもらった!これにて実技試験を終了とする!!』

 

 光の刃が私の首に触れる直前で止まっていた。

 

 暫くの間……私達は動けませんでした。

 

「「…………」」

 

 無言の時間が過ぎます。

 

 私は少しも動けずに、彼女もまた動きません。

 

 数秒の後、ビームソードが収納されます。

 そして、千夏さんが動いて炎も消えました。

 

「ふぅ……」

 

 彼女が戦闘態勢を解いたのを確認して、ようやく私も動けました。

 

「え…えっと……その……」

「山田さん」

「は…はい?」

 

 な…名前を呼ばれた?

 

「ありがとうございました。では、これで失礼します」

「ど…どうも…。お疲れ様でした」

 

 綺麗なお辞儀をした後、千夏さんは静かに去って行きました。

 

 後に残されたのは、呆然としてしまった私だけ。

 

『どうした真耶。早く戻って来い』

「あ……はい!」

 

 本当に強かった……。

 それ以外の感想が浮かばない。

 

「あ」

 

 戻る途中で思い出したけど、確か彼女ってさっき緊急で試験をした『彼』の双子の姉だって先輩が言っていたっけ。

 

 なんて言うか……

 

「不思議な姉弟だなぁ……」

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 き…緊張したぁ~……。

 

 ぶっちゃけ、夢中で動いていたから、途中で言ったことや行動の一つ一つとか全く覚えてないよ。

 

 ハンガーに戻ってISを待機形態に戻すと、一気にドッと疲れがきた。

 

(い…一応、前世での面接の経験を活かして挨拶とかしたけど、大丈夫だったよな…?)

 

 多分、こういうのは試験の内容だけじゃなくて、その前後の態度とかも評価の対象になっている筈。

 ちゃんと俺は出来ていただろうか。

 

 相手をしてくれた人はなんだか同い年に見えたけど、あの人も姉さんと同じようにIS学園の教員なんだろうか?

 だとしたら、IS学園の先生って凄いんだな。

 

「あの山田って人……強かった」

 

 最初はバーニングバースト抜きでもいけると思っていたが、それは俺の慢心だった。

 実際、能力無しでは直撃を一度も当てられなかった。

 まるで、マタドールに翻弄される闘牛になった気分だった。

 

 バーニングバーストを使ってようやくまともに攻撃を当てられた。

 そこからは完全にこっちのペースだったが、それは明らかにバーニングバーストとアシムレイトの恩恵だ。

 

 それが無ければ、間違いなく俺は負けていた。

 いや、そもそもこの試験に勝ち負けが必要あるのか疑問だけど。

 

 だって、ここに来ているのは大半が今までISに触れたことも無い一般人の少女達だ。

 まともに動かすどころか、ちゃんと歩いたり出来るだけでも充分だろう。

 

 そんな状態で試験官に勝利するって、一体どんな無理ゲー?

 

 俺のように訓練を受けた人間が受験する方がレアなケースなんだ。

 だからこそ、俺の評価はかなり厳しめに下されることだろう。

 

「……まだまだ、精進あるのみ…だな」

 

 こんな状態では、ブリュンヒルデへの道はまだ遠いな……。

 

 俺はまだ……弱い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




受験だけでどんだけ話を繋ぐんだって感じですよね。

これも全て、私の文才の無さと未熟さの致すところ。

本当にすいません。

多分…次回で受験の話は終わります。

……終わるといいなぁ~。

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