私の事だから、またここら辺で長引きそうな気が……。
俺の代表就任発表と組長さんの新支部長就任挨拶から少しだけ経った。
ぶっちゃけ、あれから色々と大変だった。
近所や俺の学校では文字通り大騒ぎ。
今まではずっと隠していたが、それが全部明らかになったのだから、もう大変。
クラスの女子や後輩達からは一気に尊敬の眼差しで見られるようになったし、男子は男子で俺とお近づきになろうと、バカの一つ覚えのように告白合戦。
当然、全部断ったが。
先生たちも、俺に対してどうリアクションすればいいのか分からないといったようだったが、それは俺から『いつもと一緒でいいですよ』と言っておいた。
そんな中で、あまり様子が変わらなかったのが一夏と弾の二人。
一夏の方は、『最初に話があった際になんとなく、こんな気がしていた』と言っていたし、弾は『お前が何になろうとも、お前はお前だろ?』と言ってくれた。
二人にそう言われた時、不覚にも嬉しくて泣きそうになった。
本当に…俺はいい弟と親友を持ったよ。
そうそう。
発表からこっち、てっきり俺は家にまで取材のカメラや記者なんかが押し寄せてくると想像していたが、実際はそんなことは全く無かった。
不思議に思った俺はピーノに連絡してみた(最初に会った時に実は携帯の番号を交換していた)ら、マスコミの連中は全て、組長さん(新支部長だとまだ俺的に違和感があるため、こう呼ぶことにした。本人も了承済み)が早速、自身の権力をフルに使用し、織斑家に対する一切の取材の類を禁じたという。
更に、万が一に備えて山本さんを初めとした東友会の組員の人達も常に目を光らせているらしい。
実に今更だが、俺はもしかして最強……いや、最凶の後ろ盾を得てしまったのかもしれない。
そして、そうなると当然のように訓練所の皆にも知られてしまったわけで、最初はどんな反応をするのかドキドキしていたのだが、いざ行ってみたら、皆のリアクションは……。
「専用機を受領した時点でタダ者じゃないと思ってはいたけど、まさか史上初の委員会代表だったなんて……凄いじゃない!」
「うん! なんかもう……千夏ちゃんと一緒に訓練をしていたことを誇りに思うわ!」
「今のうちにサインとか貰っておこうかな…?」
とか言われた。
腫物を触るような扱いをされるよりは幾分かはマシだ。
で、簪は……。
「…………………(尊敬の眼差し)」
無言で非常にキラキラした目で俺を見るようになった。
何か言われた方がまだ胃によかった。
後で聞いたのだが、実は簪も日本の代表候補生だったらしい。
何気に彼女も俺と似たり寄ったりの存在だった。
お蔭で、少しだけ気が楽になった。
そして、とうとう『あの日』がやってきたわけで……。
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・・・
・・
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「ちゃんと受験票は持ったか? ハンカチとちり紙は? 筆記用具は全て持ったか?」
「大丈夫だって! さっきもキチンと確認したし」
「もう一回確認しておけ。念には念を、だ」
「千夏姉は心配性というか、オカン属性というか……」
「まだ言うか」
今日は俺と一夏の受験の日。
一夏が受験する藍越学園と俺が受験する予定のIS学園は、なんでか同じ受験会場だそうだ。
なんでよりにもよって一般の学校と同じ場所で受験するんだ?
機密保持とか普通は考えるだろ?
「で、なんで千夏姉はメガネをかけてるんだ?」
「こうしないとまともに歩けないんだよ」
あの日以降、マスコミが来ない代わりに、一度道を歩けば色んな人から話しかけられたり、見られたりするようになった。
これが有名人になるってことか……。
完全に甘く見てた。
お蔭で、外出の際は伊達メガネが欠かせなくなった。
今日は念の為に髪型も変えて、ポニーテールにしている。
「それじゃ、行くぞ」
「おう」
準備が終わって、玄関を開けて外に出て、鍵を閉める。
すると、丁度いいタイミングで見慣れた一台の車が家の前に停まった。
「お、来た来た」
運転席から顔を覗かせたのは、お馴染みのピーノ。
「お待たせ」
「俺達も今出たところだ」
あれ? なんだ、この会話…。
「今日も冷えるから、早く乗った方がいいよ」
「そうだな。乗ろうぜ、千夏姉」
「うん」
こんなところで風邪とか引きたくないしな。
俺達が車に乗った直後に、車は発進した。
因みに、俺は助手席で一夏が後部座席。
車内は暖房が利いていて、とてもポカポカしていた。
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「なんか、すいません。こうして送ってもらってしまって…」
「気にしなくてもいいよ。僕は千夏の護衛として、受験会場までついていかなくちゃいけない。そのついでだよ。それに、この方が電車賃が浮いていいでしょ?」
「そうですね。ありがとうございます」
走る車の中、一夏とピーノが話している。
俺のような『なんちゃって女子中学生』とは違い、ピーノも話しやすそうだ。
(やっぱり……ちゃんとした男同士のほうがピーノも気が楽なんだろうか……)
あれ? 俺は今、何を考えた?
もしかして……一夏に嫉妬した?
いやいやいや……まさか、そんな……。
何が悲しくて実の弟に嫉妬しなくちゃいけないんだ?
訳が分からないよ。
「確か、千夏は会場で友達と待ち合わせをしてるんだよね?」
「え? あ…あぁ」
ヤバい。
少しだけボーっとしてた。
「流石に会場までは入れないから、僕は駐車場で待ってるよ」
「分かった」
こっちの受験は長引きそうだが…大丈夫だろうか?
「にしても、千夏姉も大変だよな。IS学園の受験って、筆記と実技の二つがあるんだろ?」
「あそこは特殊な学校だからな」
まずは筆記試験を行い、その後に実技試験を行う。
それを両方とも今日一日で行うのだから、終わるのは何時になるか分からない。
ピーノを待たせるのは辛いが、彼が待つと言っている以上は断るのも気が引ける。
終わったら出来るだけ早く彼の元に急ごう。
うん、そうしよう。
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・
会場に到着し、車は隣にある駐車場に停車した。
「じゃ、行ってくる」
「ん。二人とも頑張って」
ピーノと少しだけ話した後に、俺達は小走りで入口まで向かった。
会場の入り口自体は一か所だが、中で別れているようだ。
「それじゃ、俺は行くけど……迷うなよ?」
「いや、流石にここでは迷わないだろうよ」
そう言って迷うのがお前だろうが。
あぁ…心配になってきた。
姉さんは既に会場にいて、実技試験を見ることになっているらしいし…。
(……いや、もうここまで来たら気にしても仕方ないか)
今はとにかく、全力で頑張るのみ。
俺の場合は半ば裏口入学に等しいが……
「じゃ、頑張れよ」
「お互いにな。千夏姉」
拳をコツンと合わせて、俺達は中に入ってそれぞれ分かれた。
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会場の中に入って暫く歩くと、受付があった。
そして、その近くには簪が待っていてくれた。
「悪い、待たせた」
「ううん。大丈夫」
持っていた単語帳をポケットにしまい、簪はにっこりとほほ笑んだ。
「ちょっと待っててくれ」
「分かった」
まずは受付に行かないとな。
「あの、今日…受験に来た者ですが…」
適当に言ってから受付のお姉さんに受験票を見せる。
すると、急に顔色が変わった。
「か……確認しました。ようこそ、織斑千夏さん。筆記試験の会場はあちらになります。案内がありますので、すぐに分かると思います」
「はい。ありがとうございます」
ま、簪と二人なら迷うことは無いだろう。
「行こうか」
「うん」
俺と簪は言われた場所に向かって歩いて行った。
受付で聞いた通り、途中で案内が壁に貼り付けてあったため、迷わずに行けた。
・・・・・
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・・・
・・
・
筆記試験会場はとても広く、凄く沢山の人がいた。
まるで、前にテレビで見たセンター試験の会場のようだ。
会場全体が喧騒に包まれている。
これ全員がIS学園を受験するのかよ……。
「しかし、これだけ人がいると、空いている席を見つけるだけで一苦労だな…」
「だね…。どこかないかな…?」
二人で空席を探していると、俺の視界にちょうどいい場所が見えた。
「おい。あの金髪の子がいる席の隣…丁度二人分ぐらい空いてないか?」
「あ、本当だ」
これはラッキー。
というわけで、早速そこに向かって歩いて行った。
人込みをかき分けるように歩いて行ったので、少しだけ申し訳ない気がしたが。
贅沢は言っていられない。
「ここ…いいかな?」
「ええ。私の隣でよろしかったら」
「ありがとう」
近くで見てみると、彼女は外国人だった。
肌が凄く白い。
金色の輝く髪も少しだけロールしてるし。
確か、IS学園って外国からの受験者も多いって聞いたな。
彼女もそのクチなのだろうか?
日本語がえらく流暢だし。
経験上、日本語が流暢な外国人は大抵が普通の人間じゃないと思っている。
「…?どうしましたの?」
「あ…いや、なんでもない。じろじろ見て悪かった」
失礼だったな。
ちゃんと人としてのマナーは守らないとな。
俺は彼女の隣に、簪はその俺の隣に座った。
「あら?貴女の顔…どこかで……」
「そ…そうか?」
ここで下手に騒がれたくない。
なんとか誤魔化せないか?
「(ツンツン)準備準備」
「おっと、そうだった」
ナイスだ簪。普通に助かった。
鞄の中から筆記用具と受験票を出して、机の上に置いた。
念の為に、俺のことが分からないように裏向きにして。
「お二人はお友達ですの?」
「あぁ。色々とあってな」
「そうだね」
俺はもう、完全に簪の事を友達と思っている。
それは簪も同じようで、お互いに殆ど無意識でそう思っていたらしい。
いつの日か、鈴に簪の事が紹介出来ればいいな。
「あら? もう来たようですわよ」
お隣さんが前方を向くと、そこには試験官のような人がいつの間にか来ていた。
道理で急に静かになった筈だ。
『では、これより筆記試験を開始します』
これだけ会場が大きいと、マイクを使わないと声が届かないのか。
試験官の人も大変だ。
前から順番に試験用紙が配られてくる。
こうして、転生してから初めての受験が始まった。
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・・・・
・・・
・・
・
「はぁ~…」
筆記試験が終了し、俺達は休憩所として設けられた複数の部屋の一つで体を休めている。
備え付けのベンチに座って、手にはさっき自販機で買ったホットココアを持っている。
この季節には必須の飲み物だ。
「簪はどうだった?」
「大丈夫……だとは思う。手応えはあったから」
「そうか……」
そう言える自信が純粋に凄い。
「そっちは?」
「俺も同じかな」
いくら結果が決まっているとはいえ、妥協はしたくない。
やる以上は全力で取り組むのが俺流だ。
だから、今回も自分に出来る全力で勉強し、今回の受験に挑ませてもらった。
「後で家に帰ってから答え合わせをしないとな」
「だね」
見直しは絶対にすべきだ。
これが後々に繋がっていくのだから。
因みに、問題用紙は俺達の手にある。
会場には答案用紙のみが残されている。
「お二人は本当に仲がよろしいんですのね」
……なんで、さっきの少女も一緒にいるんだろうか…。
「ところで、先程は聞きそびれてしまいましたが、お二人のお名前はなんて言いますの?」
「それは……」
ここで言っていいのか?
休憩中で人が疎らになっているとはいえ、人影はまだ多い。
ここで迂闊に名前を言ってしまえば、騒ぎになる可能性が……
「そ……そういう時は、まずは自分から名乗るべきじゃないのか?」
少し辛辣だったかもしれないが、まずはこれで凌ごう。
「そうですわね…。これは失礼しました」
謝られてしまった。
少しだけ罪悪感がある。
「私はセシリア・オルコットと申します。イギリスから来ましたの」
イギリス人か。
随分と遠くから来たんだな。
ご苦労なことで。
「私は更識簪。よろしく」
「更識さん、ですわね。どうぞよろしくお願いしますわ」
この流れは……俺も言わなくちゃいけない流れか?
どうする……。
「えっと……」
こうなったら……。
「ちょっとお耳を拝借」
「え?」
俺は彼女…オルコットさんの耳に自分の口を近づけた。
ちょっとドキドキする。
いい匂いもするし…。
(か……彼女の顔がこんなにも近くに!? こうして見ると、とても美しい顔をしてますわ…)
気のせいか?
オルコットさんの顔も赤くないか?
「む~…」
簪は簪でなんか頬を膨らませてるし。
「……俺の名前は……織斑千夏って言うんだ」
「えぇっ!? 織斑ちn「静かに」むぎゅっ!?」
案の定だよ……。
いつでも動けるように構えててよかった…。
「君の言いたいことは分かるが、まずは落ち着いてほしい」
「(コクコク)」
よし。
「プハッ……。驚きましたわ…」
「悪かった。いきなり口を押えたりして」
「い……いえ。急に大声を上げてしまったこちらにも非はありますから」
はぁ……どうしてこうも自分の名前一つ言うのにも苦労しなくちゃいけないんだ…。
周囲の皆もこっちを見てるし…。
「それにしても、まさか貴女があの『織斑千夏』さんだったとは…」
「やっぱり……イギリスでも有名なのか? 俺……」
「それは勿論。初めての委員会代表の操縦者。注目しない方がおかしいですわ」
「そうか……」
少なくとも、これで国外にも俺の名が知れ渡っている事が判明したわけか。
別に行くつもりはないけど、安心して海外旅行にも行けないのか?
「もしかして、そのメガネは……」
「うん。変装」
「……苦労してますわね」
「まぁな……」
あの会見が終わってから急遽、俺は山本さんに言われて急いでこの伊達メガネを買いに行ったが、言うこと聞いてて本当に良かった。
この程度でばれないのが不思議だけどな。
「もう、これ無しじゃ外を出歩けないんだ…」
「千夏はもう殆ど芸能人扱い」
「言わないでくれ」
今更ながらに、もう一度言わせてほしい。
……どうしてこうなった?
『準備が終わりました。30分後に実技試験を開始します』
「あら」
「やっと?」
話しが逸れた…。
これで少しは安心か?
「それにしても、随分と時間が掛かっていたな」
「なにやら、先程から試験官の方々が慌てていたようでしたけど…」
「何か想定外の事が起きたのかも」
「想定外って?」
「さぁ?」
分かんないのかよ。
「とにかく、今は準備を致しましょう」
「だな」
「うん」
もう他の連中は更衣室に向かっているし。
俺達も急がなくては。
こうして、俺達三人も実技試験の準備をするために、更衣室へと急ぐのだった。
だが、俺はまだ知らなかった。
この試験の裏で、弟の人生がとんでもない方向に向かっていることを。
まさかのセシリア早期登場。
なんか、いつの間にかこんな展開に…。
でも、基本的に原作キャラとは仲良くさせたいんですよね。
思ったよりも長引いたことにより、実技試験は次回に。
やっぱり長くなった~…。