セラフィムの学園   作:とんこつラーメン

24 / 51
台風が来ると聞いて地味に焦ったのですが、先程天気予報を見たら…他所にそれたようで、なんだか肩透かしを食らった気分です。

でも、雨は降るでしょうから油断は禁物なんですけどね。
主に雨漏りとか……。

今のうちにバケツとか用意しておこうかな…?






第23話 東友会

 山本さんが支部長室に行ってから十数分が経過した。

 

 もう俺はピーノの体から離れている。

 流石の俺にだって羞恥心ぐらいはある。

 何時までも同年代の男の子に抱き着いてはいられない。

 

「…大丈夫?」

「うん…。もう…落ち着いた」

 

 正直言うと、まだ完全にショックは取れていない。

 けど、ピーノのお陰で少しだけ精神が安定した……かも。

 

「恥ずかしい場面を見せた」

「気にしてないよ」

 

 本当にマフィアなのか?

 見た目は普通の男の子にしか見えないが……。

 

「あ、山本さん」

「え?」

 

 廊下の向こうから山本さんが肩を大きく動かしながら歩いてきた。

 気のせいか……本気で怒ってないか?

 

「……………」

「や……山本さん?」

 

 目の前まで来た山本さんは、じっと俺の事を見据えている。

 

「千夏ちゃん……」

「え?」

 

 すると、いきなり山本さんが土下座をした。

 

「な…何をして……」

「半分しか血が繋がっていないとは言え、俺の弟が仕出かした事だ。こんな事で許されるなんて到底思っちゃいないが、それでも今はこれぐらいはしたいんだ!」

 

 なんて誠実な人なんだ。

 絶対にヤクザになんて向いてないぞ。

 

「と……とにかく頭を上げてください。そんな場所で土下座なんてされたら、こっちの方が戸惑ってしまいます」

「すまねぇ……」

 

 自分の二倍以上の歳の人に土下座をさせるとか、俺には普通に無理。

 気まずさと罪悪感で胃が痛くなる。

 

「始めて見たよ。ジャパニーズドゲザ。凄い迫力だね」

 

 マイペースだな。

 

「千夏ちゃん。今日の予定はどうなっている?」

「一応…今日は訓練は休みって事になってますけど……」

 

 本当なら、今からでも行くべきなんだろうけど……今は少し……な。

 

「なら、俺達と一緒に来ないか?」

「はい?」

「連れて行くんですか?」

「ああ。あそこなら他の連中には聞かれないだろうし、アイツ等は口が堅い。それに……」

 

 少しだけ考えるような仕草を見せた山本さんは、顔を上げてまたこっちを見た。

 

「ウチの頭なら……君の事をなんとかしてくれるかもしれない」

「頭?」

 

 それは……山本さんがいる東友会の組長さんの事か?

 

「詳しい話は向こうについてからだ。ここではどこで聞かれているか分からないからな」

「分かりました」

 

 そう言ったのはピーノだ。

 その顔は相変わらず普通にしているが、だからこそ真剣だと分かる。

 

「千夏ちゃん」

「山本さん?」

 

 急に俺の肩の上に手を置いてどうしたんだろう?

 

「アイツの兄としてのせめてもの詫びだ。君の事は絶対に助けてみせる」

「あ……」

 

 頭を撫でられた……。

 やっぱり、この人からは父親の様な包容力を感じる……。

 

「じゃあ、行くぞ」

「「はい」」

 

 俺達は支部内にある地下駐車場に向かって歩き出した。

 

 その間、ピーノがずっと俺の手を握ってくれていたが、なんでか両手の指を絡ませる『恋人繋ぎ』だった。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 山本さんが運転する車(黒光りする高級車。左ハンドルだったから、多分外車)に乗って連れられたのは、見るからにブルジョアが住んでそうな高級なビルだった。

 ざっと見ても七階以上はある。

 

 傍に隣接している駐車場に車を停めて、彼についてくようにビル内に入る。

 一人ならば絶対にビビっているだろうが、前に山本さんがいて、隣にピーノがいてくれたから、不思議と冷静だった。

 

「ここは……?」

「東友会のあるビルさ。他の人には内緒にしていてくれよ?」

「はい」

 

 ヤクザのアジトの場所を言いふらす程、俺は命知らずじゃない。

 

「こっちだ」

 

 エレベーターに乗って上がっていくと、最上階の七階についた。

 

 降りてからまた廊下を歩いていくと、階の中央辺りに一際高級感に溢れる大きなドアがあった。

 ここがきっと東友会の人達がいる場所なんだろう。

 

 こっちが心の準備をする間も無く、山本さんが扉を開けてしまった。

 

「今帰った」

「おう! 兄貴!!」

「お疲れ様~っス!!」

 

 入った途端に、任侠映画とかに登場しそうな人達が沢山こっちを向いて、一斉に山本さんにお辞儀をし始めた。

 本当に尊敬されてるんだな……。

 

 ちょっと部屋の中を見てみると、これまた任侠映画の背景の様な光景が広がっている。

 

 達筆過ぎて読めない掛け軸があったり、日本刀や薙刀が飾られていたり。

 意外な事に床や壁はピカピカに磨かれていて、毎日丁寧に掃除をしていることが伺える。

 綺麗好きなヤクザ……か。

 ちょっと俺の中のヤクザのイメージが変わっていく。

 

「お? ピーノ! 日本に来て早速女が出来たのか!?」

「やるじゃねーか! 流石はイタリアの伊達男!」

「いや、勝手に伊達男にしないでよ。僕はそんなキャラじゃない」

 

 ピーノがからかわれている…。

 失礼かもしれないが、ちょっと面白い。

 

「って、この子って中学生ですかい?」

「おいおい……流石にヤバくねぇか?」

「大丈夫だ。この子は俺の客人だからな」

「「「「「ええっ!?」」」」」

 

 三十路を過ぎた山本さんが女子中学生を連れて来て客人とか言えば、そりゃそうなるわな。

 

 けど、一応は自己紹介をするべきだろう。

 

「え…えっと……おr……じゃなくて、私は織斑千夏と言います……」

 

 ヤバいな……今までで一番緊張する……。

 

「千夏ちゃんか~。いい名前じゃねぇか!」

「ん? 織斑?」

 

 あ、やはりそこに食いつくか。

 

「ま、ここで隠してもいずれはバレるだろうしな。この子はあのブリュンヒルデ、織斑千冬の実の妹だ」

「「「「「おお~!!」」」」」

 

 声がでかい……。

 ちゃんと防音設備は整っているんだろうな?

 

「あのブリュンヒルデに、こんな美少女な妹がいたなんてな!」

「しかも、その美少女ちゃんが俺達の目の前にいるなんて!」

「ははは……人生分からねぇもんだぜ」

 

 それには激しく同感。

 

「ところで、組長は何処にいる?」

「組長なら部屋にいますぜ」

「分かった。千夏ちゃん、一緒に来てくれ」

「は…はい」

 

 山本さんに背中を押される形で部屋の中を進んでいって、奥にある部屋に入っていった。

 なんでかピーノも一緒に来てくれた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

「失礼します」

 

 そう言って山本さんはノックの後に扉を開けた。

 

「し…失礼します…」

「失礼します」

 

 俺とピーノも一緒に挨拶をして中に入る。

 すると……。

 

「お? 信彦か?」

 

 どう見ても80代と思わしきおじいちゃんがパソコンと向き合っていた。

 頭は完全に禿げ上がっていて、黒い着物を着ている。

 

「お仕事中でしたか」

「いや、問題無い」

 

 何をしていたか興味があるが、ここは下手に詮索しない方が身のためだろう。

 

「この方がウチの組長だ」

「よろしくな。お嬢ちゃん」

「は……初めまして……です」

 

 凄く言葉を選ぶんですけど。

 馬鹿みたいな受け答えとかしたら、即座に殺されそうだ。

 

「で?どうした?」

「はい、実はうちの馬鹿オヤジとアホな弟についてなんですが……」

「遂に見限る気になったか?」

「はい。ですが、その前に彼女の話を聞いてください」

「ん?」

 

 あ、こっちを向いた。

 

「ふむ……今更だが、そのお嬢ちゃんは誰だ?」

「彼女は織斑千夏。あの織斑千冬の妹です」

「ほぅ……。ということは、お前さんが例の委員会代表か」

 

 なんでそこの事を……。

 

「もう知っていましたか……」

「まぁな。こいつから聞いた」

 

 組長さんは自分の方を向いているパソコンの画面をこちら見せた。

 そこには、偉そうな外国人の中年男性が映っていた。

 

「お前は……!」

 

 え? 誰?

 

『ほぅ…? 君が織斑千夏か。写真で見た以上に美しい少女だな』

「はぁ……」

 

 あの……マジで誰?

 

『おっと失礼。自己紹介がまだだったな』

 

 ゴホン……と一回咳払いをして、画面の向こうのおじ様は姿勢を正した。

 

『初めまして、織斑千夏君。私はクリスティアーノ。IS委員会の委員長をしている』

 

 い……委員長? つまり、この人が俺の一番の上司ってことか?

 

「あ……あの……初めまして。私は……」

『ああ。それはいいよ。君の事は既に知っているからね』

「そ……そうですか…」

 

 向こうだけが一方的に知っていると言うのも変な感じだな……。

 

「お久し振りです。おじさん」

『元気そうだな。ピーノ』

「はい」

 

 ピーノが笑っている……?

 

「このクリスティアーノはピーノの育ての親なんだ」

 

 イタリアマフィアを自称するピーノの育ての親がIS委員会の委員長……。

 どう考えても、かなり深い事情があるのは確実だな。

 でも、ここで聞くのは躊躇われる。

 

「で? なんでアンタがウチの組長と話してるんだ?」

『勿論、今後の日本支部についてだ』

 

 今後の?

 

『私としても、あの大島親子の所業は目に余る。碌に才能もない癖に、権力だけは一丁前に利用する。私はそんな俗物が最も嫌いだ』

「じゃあ、なんであの親父を日本支部の支部長にしやがった」

『あんな男でも、私のスケープゴートぐらいにはなるかと思ったのだが、どうやらそれすら出来ない程の無能だったらしい』

 

 言いたいことは理解出来るし、共感もするけど、仮にもトップだろうに。

 そこまで言いますか。

 

『今後、あの親子を排除した後に日本支部の支部長を彼に任せようと思ってな』

「そういや、前からそんな事を話していたな」

 

 なんと。だったら、一刻も早く排除して欲しい。

 

『彼は各国支部の支部長たちとも縁が深いし、各国の政治にも深く関わっている程の重鎮だ。事実、日本の政治家達も彼には頭が上がらないそうじゃないか』

 

 そんな凄い人だったか、このおじいちゃんは。

 

「ふぅ……。なんてタイミングだよ。こっちが決意したと同時かよ……」

『と、言うと?』

「この千夏ちゃんがあのバカ親子になんかされたらしくてな。そこで組長に相談しようと思い……」

「そうか」

 

 短い言葉だったけど、凄い迫力だ。

 

「話してくれるか?」

「……………」

 

 言わなきゃいけない。

 これは必ず俺がいつか向き合わなくちゃいけない事だから。

 でも、やっぱり躊躇はある。

 

「辛いかもしれない。でも、これは君の為なんだ。勿論、口外はしない」

 

 組長さんと委員長、ピーノも頷いてくれた。

 

「分かりました………」

 

 意を決して、俺はゆっくりと話し出した。

 

 あの親子にされた仕打ちを……

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 全てを話し終わった後、最初に響いたのは山本さんの拳から血が出る音だった。

 

「あの馬鹿共が!!! どこまで腐ってやがる!!!」

「とうとう……堕ちる所まで堕ちやがったか……!」

 

 組長さんも凄く怒っている。

 不謹慎だと分かっていても、俺の為に怒ってくれていることが嬉しかった。

 

『何を考えているんだ……! あの豚は……!』

 

 委員長は別の意味で怒っているように見えるけど。

 

「なんだろうね……。今スグにでも殺したいよ……その親子……」

 

 ピ……ピーノ……?

 

『これはもう、一刻の猶予も無いな』

「ああ。俺は警察の上の方にも太いパイプがある。それに、アイツ等は叩けば埃しか出ない奴等だ。罪状なんて幾らでもでっち上げられるだろう」

 

 な……なんか凄い会話してるんですけど?

 

「正直、それだけじゃ到底収まりがつかねぇが……」

「言うな。それは俺だって分かっている。だがな、それで千夏のお嬢ちゃんの負担になっちまったら、それこそ意味ねぇだろうが」

「はい……」

『ピーノも。気持ちは分かるが、早まったことはするなよ?』

「分かっています……おじさん」

 

 ……俺なんかの為に、ここまでしてくれるなんて……。

 

「なんで……そこまで……」

「そんなの決まってるだろう?」

 

 え……?

 

「君は芳美が目を掛けた子だし、俺自身も気に入った。なにより……」

 

 また頭を撫でられた……。

 

「困っている子供を助けるのが、俺達大人の役目だからな」

「山本……さ…ん……」

 

 なんか……涙出そう……。

 でも、今は我慢する。

 

「後は俺達に任せろ。でも、その前に……」

「嬢ちゃんの家族にも伝えた方がいいだろうな…」

「でしょうね。このまま黙っていても、いい事は無い」

 

 そうなる……よね……。

 

 分かっていたけど、知られたくはなかったな……。

 

「だが、千夏ちゃんも何回も話すのは辛いだろう。家族には俺から話そう」

「それがいいと思う。僕も…千夏の辛そうにしている顔は見たくない」

「ピーノ……」

 

 不覚にも『ドキッ』としてしまった…。

 どうしてしまったんだろうか。

 

『ほほぅ……? 今まで殺ししかしてこなかったピーノが、まさか女に興味を示すとはな。育ての親としては嬉しい限りだな』

 

 委員長さんが親の顔になっている。

 なんとも優しい顔だ。

 

 けど、サラッととんでもない事言わなかった?

 

『千夏君』

「は……はい?」

『不出来な息子だが、よろしく頼むよ』

「え…えぇっ?」

 

 それはどう言う意味ですか?

 

「ふふふ……若いねぇ~…」

「青春……か」

 

 貴方達もなに黄昏てるんですか。

 急に空気が軽くなってしまった……。

 

『個人的に君達の事は応援させて貰おう。あの親子の事は我々に任せておきたまえ』

「は…はい」

 

 話が変な方向に向いてないかい?

 本当に大丈夫かな?

 

「こうなった以上、俺達『東友会』は嬢ちゃんを歓迎するぜ」

「ど……どうも……よろしくお願いします……?」

 

 なんて言ったものの、これってどう言う意味?

 

「何か困ったことがあったら、そこにいる伸彦やピーノに相談すればいい。なんなら、ここにいつでも遊びに来てもいいんだぜ?」

「いや、それは流石に……」

 

 ヤクザの事務所に気軽に遊びに行く女子中学生と言うのもおかしいだろ。

 明らかにヤバい奴だよ。

 

「まずはあの馬鹿共に相応の裁きを与える。その後は伸彦、お前は千夏の嬢ちゃんの様子を見る為に訓練所に通え」

「うっす」

 

 山本さんが来てくれるのか……。

 

『そしてピーノ。お前には彼女の護衛を命ずる。お前ならば言われなくてもするとは思うが、頼むぞ』

「了解」

 

 ピーノが俺の護衛を……ね。

 これは凄い事……なのか?

 

『彼女と共に過ごす事は、必ずお前の為になる筈だ。必要ならば『フランカ』と『フランコ』を呼ぶこともできるが…どうする?』

「いや、今はまだ大丈夫だよ」

『そうか』

 

 フランカ? フランコ? 人の名前か?

 

『では、そろそろ失礼する』

 

 あ、通信が切れた。

 

「中学生をあまり連れ回すもんじゃねぇ。信彦。彼女を家まで送ってやれ」

「はい」

「ピーノも行くか?」

「そうですね。行きます」

 

 ……ISが操縦出来るようになっても、俺って色んな人に助けられてばっかりだな。

 やっぱり、まだまだ子供って事なんだろうか。

 体もそうだけど、多分…心も……。

 

 はぁ……前世から全く成長してないな……。

 なんて情けない……。

 

 よくよく考えてみれば、こうなったのも全部俺が不甲斐無いせいなのに……。

 

 何時か、皆にお礼をしたいな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ヤバい……!

また暫く、IS要素が無いかもしれない!!

すいません……皆さん。

私も少しでも早く原作に入りたいのですが、いつもの悪い癖が出てしまい、話が長くなってしまって……。

うぅ~…もどかしいよぉ~!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。