セラフィムの学園   作:とんこつラーメン

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第22話 悪戯小僧のピノッキオ

 姉さんがドイツから帰ってきたのはいいが、また忙しくなってしまい、家にいる時間が極端に減ってしまった。

 まぁ、こればっかりは仕方が無い。

 悔しくはあるが、あの支部長の持つ権力は間違いなく本物だ。

 下手に逆らえばどうなるか、想像も出来ない。

 でも、まだ会える時間が僅かでもあるだけマシだろう。

 ついこの間までは、会うことすら出来なかったのだから。

 

 一夏は姉さんがIS学園で教師をしていることは知らない。

 姉さんなりの配慮ではあるのだが、いつかはちゃんと話さなくてはいけないだろう。

 その時にどんな反応をするか、それがちょっと心配だけど。

 

 姉さんが戻ってきてから、芳美さんにも笑顔が増えた。

 二人は親友同士だと言っていたし、きっと嬉しいんだろうな。

 

 だが、私は少々浮かれ過ぎたらしい。

 姉さんが帰って来て、俺が置かれている状況を少しだけ忘れかけていた。

 

 そして知る。

 俺にとっての怨敵は、大島一人だけではないのだと。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 今日も今日とて学校の授業が終わり、放課後はいつものように訓練所での活動になる。

 カバンの中には俺専用のISスーツが入っている。

 今日からはこれを着ての訓練だ。

 なんか、俺も段々と委員会代表っぽくなってきたんじゃないか?

 

「あれ?」

 

 一夏?

 いきなり窓を見てどうした?

 

「あそこ……いつもと違う車が止まってるぞ」

「え?」

 

 俺も一緒に見て見ると、校門の傍に停車していた車は……

 

「あ……れは……」

 

 そこにあったのは芳美さんの車じゃない。

 あれは……大島の車だ……。

 

「どうした? 千夏?」

「千夏姉?」

 

 な……なんでアイツが……。

 また俺に何かをする気か……。

 

「千夏姉? どうしたんだよ?」

「はっ!?」

 

 一夏に片を叩かれて、やっと我に返った。

 

「お……おい、汗が凄いぞ?」

「大丈夫かよ?」

「あ……ああ……」

 

 急いで汗を制服の袖で拭って、一夏と弾に向かっていつもの表情を作る。

 

「大丈夫だ。問題無い」

「それ、逆に心配になるぞ…」

「見事なフラグだな……」

 

 何を言っている?

 

「と……とにかく、行ってくるよ」

「ああ。気を付けてな」

「うん」

 

 最大限に気を付けるさ。

 けど……。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 急いで校門にある車の元まで行くと、運転席から大島が顔を覗かせて、にっこりと笑った。

 

「さ、早く乗って」

「は……はい……」

 

人質を取られたに等しい俺に逆らえるわけも無く、大人しく助手席に座った。

乗った直後に車は発進した。

 

「な……なんでお前が……」

「おやおや、随分とフランクになったねぇ~」

「お前に敬語なんて使えるか。今までの自分をぶん殴りたくなる」

 

 なんでこんな下種野郎に敬語を使っていたんだ……。

 本当に反吐が出そうだ。

 

「芳美さんは今日も訓練所に呼ばれているんだ。あの人も君のお姉さんと同じように忙しいからね」

「そうか……」

 

 元代表候補生ともなれば、色んな事に引っ張りだこになるんだろう。

 俺の訓練にばかり付き合う訳にはいかない…か。

 

「今日も親父からの呼び出しさ」

「…………」

「あれ? 理由は聞かないのかい?」

「聞いたら鬱になりそうだから、聞かない」

「あっそ」

 

あの親父もいやらしい目で俺の事を見ていたな…。

まさか、あいつも……。

 

「そんな訳で、今日は少し時間がある」

「だから?」

 

 途中、児童公園に車が止まった。

 

「……?」

「ここの公園さ、この時間帯はあまり人がいないんだよね」

 

 こいつ……。

 

「あの公衆トイレで……一発やっていこうか?」

「このクソ野郎……」

「なんとでもいいなよ。君には拒否権なんて無いんだしさ」

 

 結局、俺は大島によって公園内にある男子トイレに無理矢理連れ込まれ、また犯された。

 制服は脱がされた為、汚れずに済んだのは幸いだったけど。

 アイツの精液で制服が汚れるのは絶対に耐えられないから……。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「あ~スッキリした」

「…………」

 

 くっ……ちゃんと全部拭けたかな?

 下着に染み込んでないといいけど……。

 

「やっぱり君は最高だね。こんな美少女中学生と和姦が出来るなんて、僕は幸せ者だなぁ~」

「和姦じゃない」

 

 俺は一回とて同意も受け入れてもいない。

 明らかに強姦だ。

 

「はっはっはっ! 君がなんと言おうと、千夏ちゃんが股を開いた事実は変わらないよ?」

「………っ」

 

 もう……いやだ……。

 なんで俺がこんな目に……。

 もしも不感症じゃなかったら、とっくに心が折れていたかもしれない……。

 

「でもね、今日はまだ終わりじゃないんだぜ?」

「え?」

「今日の親父の用事は、今までの様な話じゃない……って言えば分かるかな?」

 

 嘘……だろ?

 冗談だよな?

 

「あ、着いた」

 

 車が日本支部についてしまった…。

 嫌だ……。

 

「ほら、ちゃっちゃと降りて」

「嫌だ……もう嫌……」

「我がまま言わないの。君の大事な家族がどうなってもいいのかい?その気になれば、織斑千冬にある事ない事なすりつけて、スキャンダルで破滅させることも不可能じゃないんだぜ?」

「………………」

 

 選択肢は無い……のか……。

 

「さ、支部長室まで行くよ」

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 支部内に入った途端、俺は支部長室まで一直線に連れてこられた。

 俺は一人で支部長室に入らされて、そこにはいつも以上にニヤニヤ顔でこっちを見ている支部長がいた。

 

「やぁ、よく来てくれたね。千夏君」

「は……はい……」

 

 大島以外に生理的に受け付けない人間は、これで二人目だ。

 あ、この人も『大島』か。

 

「そう言えば聞いたよ」

「何を……ですか」

「君……博之と寝たんだって?」

「!!!!」

 

 この男は……やはり……。

 

「それで、私も興味を持ったのだよ」

「何に……」

「勿論、君の『具合』にだよ」

 

 そう言うと、いきなり支部長は俺の腕を掴んできた。

 

「なっ……」

「ほら! 大人しくしろ!!」

「や……やめ……離し……」

 

 本気を出せば振りほどけたかもしれない。

 でも、この時の俺は恐怖で力が出せず、こいつの腕を振りほどけなかった。

 

「ほれ、暴れるな!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 そのまま支部長室に隣接している簡易休憩所に連れ込まれた。

 

 そこはベットがポツンと一台置いてあるだけで、それ以外には置時計ぐらいしかなかった。

 

「ふん!」

「きゃっ!?」

 

 ベットに放りながられて、俺は咄嗟に支部長の方を見る。

 その顔はいやらしく歪んでいて、これから俺になにをするかが一発で分かった。

 

「ん? とっとと服を脱げ」

「い……いや……」

「私は別に着衣プレイも好きだが、制服が汚れたり破れれたりしてしまうぞ?それでもいいのか?」

「う……うぅぅ……」

 

 震える手を押さえながら、少しづつ制服を脱いでいった。

 

「あはは……親父、相変わらずじゃないか」

「ひっ!?」

 

 お……大島……?

 

「おお、来たか」

「こう言うのはさ、複数でやった方が楽しいもんな」

「全くだな!」

 

 このクソ親子……地獄に落ちろ……!

 

「ぬ……脱ぎました……」

「下着も……と言いたいけど、それは俺等が脱がしてあげようか?」

「それがいい。偶には脱がすのも悪くない」

 

 大島がすぐに服を脱いで、パンツだけになってから俺の両腕を掴んだ。

 支部長も同じようにパンツだけになり、俺に覆いかぶさってきた。

 

「いい香りだな~。やはり、犯すならば若い娘の方が断然いい」

「だろ? そこら辺のビッチとは具合が段違いだからさ、親父も早く突っ込みなよ!」

「それは楽しみだな。おっと……想像したら……」

 

 助けて……誰か助けてよ……。

 

「もう……いや……」

「さっきまでの威勢はどこに行ったのかな?」

「大人しい方がこっちとしてはいいがな」

 

 こんな時……物語ならご都合主義で誰かが助けに来てくれたりするよね……。

 でも、現実はそんなに甘くは無い……。

 

「言わずとも分かっているとは思うが、もしも逆らったりしたら……」

 

 それ以上言わなくても分かってるよ……。

 姉さん達の身に何が起きても知らないって言うんだろ……。

 

「さてと、そろそろ味わうとするか」

「んじゃ、俺はその可愛いお口でご奉仕して貰おうかな?」

 

 下着を全部脱がされた後、俺は二人に無理矢理…姦された。

 その時の事はよく覚えていない。

 いや、覚えていたくないと言った方が正しいか。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 全てが終わった後、俺は支部長室から追い出された。

 

 制服を適当に着崩して、フラフラと支部長室がある階を歩いていた。

 頭の中は完全に空っぽで、何も考えられない…。

 

「あ……あ……」

 

 どうしてこんな事になったんだろう……?

 俺がISを動かしたから?

 それとも、Sランクなんて叩き出したから?

 それとも……。

 

(俺が……転生したからか……?)

 

 窓ガラスには、俺の顔が反射して映っていた。

 

「あはは……目が真っ赤だ……」

 

 ずっと泣いてたからな。

 そりゃ目も張れるわ。

 

 なんか……疲れた。

 思わず、その場にペタンと座り込んでしまった。

 床が冷たくて気持ちいいな……。

 

「千夏ちゃん?」

「え?」

 

 あ……なんで……?

 

「山本…さん……?」

 

 なんか、隣に金髪のイケメンが一緒にいる……。

 歳は俺と同じか、ちょっと上かな……?

 

「おい! 一体どうした!?」

 

 血相を変えて俺の所まで来て、視線を合わせる為に座り込んだ。

 イケメン君も一緒だった。

 

「何があった?」

「山本さん……」

 

 あ……やばい。

 もう……。

 

「あ……あぁぁ……」

「ち……千夏ちゃん?」

 

 ごめんなさい……山本さん。

 少しだけ、貴方の胸の中で泣かせてください……。

 

「あああああああああああああああぁぁぁぁぁ………」

 

 そんな俺の事を、彼は静かに抱きしめてくれた。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 近くのベンチまで連れて行ってもらって、ようやく落ち着いた。

 勿論、一緒にいたイケメン君もいる。

 

「で、本当に何があった?」

「それは……」

 

 どうする? 言っていいのか?

 けど、大島も山本さんに近づかない方がいいと言っていたし……。

 

「言えないような事か?」

「……………」

 

 言えないよ……言えるわけ無いよ……。

 

「博之か?」

「……っ!」

 

 やば……反応しちゃった…。

 

「あのクソが……!」

「あ……」

 

 や…山本さん?

 いきなり立ち上がってどうしたんですか?

 

「アイツは支部長室か?」

「えっと……」

「いや、言わなくていい。多分、アイツに何か脅されてるんだろ?」

「…………」

 

 なんで分かっちゃうかな……。

 

「これは、俺が勝手にやる事だ。君は何も言っていない。いいね?」

 

 この人は本当にヤクザか?

 優しすぎるだろ……。

 

「少し行ってくる。彼女を頼むぞ、ピーノ」

「分かりました、山本さん」

 

 ピーノ?

 彼の名か?

 俺が呆けている間に、山本さんは行ってしまった。

 

「心配?」

「うん……」

「大丈夫。あの人ならきっとなんとかしてくれるよ」

「信じてるんだな……」

「日本における僕の後見人だからね」

「え?」

 

 確かに肌が白いけど、この人はヤクザじゃないのか?

 

「一応、自己紹介しようか。僕はピノッキオ。訳あってこんな名前を名乗ってる」

「ピノッキオ……」

 

 随分と個性的な名前だな。

 訳は……聞かない方がいいな。

 

「君は……なんなの? なんで日本に?」

「う~ん……一応、僕はイタリアンマフィア…になるのかな?」

「マ…マフィア……」

 

 ヤクザの次はマフィアか。

 俺はどんだけ裏の人間と知り合えばいいんだ?

 

「日本には、僕を育ててくれたおじさんが見聞を広げる為に行けって言われてきたんだ。山本さんが所属している組の組長さんと僕のおじさんが古い知り合いでね。その伝であの人に付き添う形で日本を見て回ってるんだ」

「そうか……」

 

 マフィアも大変なんだな……。

 

「えっと……俺は……」

「知ってるよ。織斑千夏……でしょ?」

「う……うん……」

「山本さんが話してた。久し振りに見所がある女の子に会ったって」

「見所……」

 

 そんな事を言ってたんだ……。

 

「君に何があったのかは聞かないでおくよ。凄く辛そうにしてるし」

「ありがとう……」

 

 今の俺には、こんな些細な優しさでも嬉しい……。

 

「ねぇ……その……ピノッキオさん……」

「ピーノでいいよ。知り合い達は皆、そんな風に呼んでる」

「じゃあ、俺も千夏でいい……」

 

 なんだろう……山本さんとは違う感じで落ち着くな……。

 あの人はなんか、お父さんの様な感じだったけど、ピーノはなんて言うか……。

 

「ピーノ……」

「なんだい?」

「ちょっとだけ……胸を借りてもいいかな?」

「別にいいよ」

 

 ピーノの胸に顔を押し付けるようにして、体を預けた。

 すると、ピーノがそっと頭を撫でてくれた。

 

「僕には女難の相があるらしいけど、こう言うのも悪くは無いかな……」

 

 残念、俺の本当の性別は男だから、女難の相にはならないよ。

 それからも、俺はピーノに頭を撫でて貰っていた。

 家族以外に、初めて心の底から安心して体を預けられた。

 こんな事もあるんだな……。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「博之っ!!!!!」

「なっ! 兄貴っ!?」

 

 怒りの形相で支部長室に飛び込んだ山本。

 着替え終わった大島は驚いた様子でびくついた。

 因みに、支部長はまだ簡易休憩所にいる。

 防音の為、二人のやり取りは聞こえない。

 

「テメェ……千夏ちゃんに何をした!?」

「はぁ? もしかして、あの子がなんか言ってたのか?」

「勘違いすんな。あの子は何にも言ってねぇよ。けどな、この世の終わりみたいな顔をして、制服を着崩した状態で歩いていれば、誰だって何かがあったと思うだろうが!!!」

「でも、俺が何かしたってあの子が言った訳じゃないんだろ?」

 

 あくまでもしらを切る大島。

 それを見て、山本は本気で怒り、大島の胸ぐらをつかんだ。

 

「大体、ヤクザのアンタにそんな事を言う資格があるのかよ!!」

「ああ、その通りだ! けどな、任侠の世界にも仁義ってもんがあるんだよ!! 俺達にだって、人としてやっていい事と悪い事の分別ぐらいはある!!!」

 

 彼の怒りに完全にビビる大島。

 東友会の若頭、山本がそこにはいた。

 

「俺だってお前の事を偉そうに言える立場じゃねぇ。だから、今までお前や親父がやって来たことを黙認してきたが、今回のは幾らなんでもやりすぎだ!! 未成年の……しかも、まだ中学生の女の子に手を出すなんて、いい歳した大人のやる事か!!!」

「だ~か~ら~! 千夏ちゃんが実際に俺になんかされたって言ったのかよ? 言ってないんだろ? 憶測だけで人の事を犯罪者呼ばわりするのも、いい歳した大人のやる事か?」

「お前!!!」

 

 山本は感情に従って大島の事を突き放した。

 受け身を取れなかった大島は、床に尻餅をつく形になった。

 

「いい機会だから言っておく。ヤクザってのはな、お前等が知らない所で色んな関係各所と繋がってたりするんだぜ。それと……」

 

 ズイっと大島に近づいて顔を近づけて、山本は念を押すように言った。

 

「その気になれば、お前を断罪する方法なんて幾らでもあるんだぞ」

「ひぃっ……!?」

「後、多分この事は親父もグルだな。……もう、終わりだな」

 

 怒りから一転、真剣な表情になった山本は、立ち上がって支部長室を後にした。

 去り際に、山本はぽつりと呟いた。

 

「見せかけだけの家族ごっこもここまでだな。俺達を本気で怒らせたらどうなるか……その身を持って分からせてやるよ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




山本さんブチ切れ。

大島親子の破滅へのカウントダウンの始まり。

そして、初登場のピノッキオがいきなり千夏と急接近?

主人公がチョロインだった話。


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