セラフィムの学園   作:とんこつラーメン

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やっと千夏が専用機に搭乗します。

ここまで長かったですね…。













第16話 初搭乗

 本格的に訓練を始めてから数日後。

 俺はまだISに乗る事は愚か、触れてもいない。

 

 と言うのも、芳美さん曰く『最初は基本的な体力作りから』…らしい。

 などと言っても、流石にこのままISに関わらないままでは少し不味いので、今日は俺の専用機(の予定)であるディナイアルについて整備員の人に話を聞きに行く予定。

 

 そんな訳で、俺はいつものようにISスーツに着替えた後、芳美さんと一緒に格納庫に向かった。

 前と同じ場所に向かうと、そこでは数人の整備員らしき人達がディナイアルの事を色々と調べていた。

 

「お疲れ様~」

「お疲れ様です」

「お? 松川さん。それに……」

「織斑千夏です。数日前から、ここにお世話になってます」

「ああ……君が……」

 

 全員が俺の方を向いて物珍しそうな顔をした。

 俺の事は予め教えられていたんだろうか?

 

「で? この機体の事は分かった?」

「はい。まぁ……大体は」

「なんか煮え切らないわね。分からない部分でもあったの?」

 

 ははは……と、苦笑いをしながら頭を掻く整備員。

 プロでも分からない事があるのか……って、そりゃそうだ。

 だって、人間だもの。

 

「取り敢えず、ある程度のデータはこれに纏めてありますから、見てください」

「分かったわ」

 

 芳美さんが整備員から端末を受け取って、その画面を食い入るように見つめる。

 

「な……なによ……これ……」

 

 ん? 何を驚いてるんだ?

 そう思って、横からそっと覗いてみるが、さっぱりわからなかった。

 分かるのは、ディナイアルの全体図が写っていることだけ。

 それ以外はちんぷんかんぷんだった。

 

「これ……第3世代機…なのよね?」

「はい、一応は」

 

 一応ってなんだ、一応って。

 

「このディナイアルは、ISとしての完成度が恐ろしく高いんです。言うなれば、限りなく第4世代機に近い第3世代機って感じですかね」

「そのようね。しかも、これ……」

「分かります?」

「ええ。全身装甲のISなのに、各部関節部の可動範囲が広すぎる。まるで、人体の動きを極限まで再現しようとしてるみたい」

「みたい、じゃなくて、実際にそういうコンセプトのようです。操縦者の技量や性格、果ては癖まで反映する性能を持っています」

 

 それは凄い……のか?

 

「そこまでダイレクトに操縦者の能力を反映するのなら、これに搭乗する千夏ちゃんが強くなればなるほど機体も強大になるけど、技量が伴わなければ逆に弱体化するってことよね?」

「そうですね。ディナイアルは機体性能に頼った戦いが出来ない『機体に嘘が付けない』ISなんです。でも、この機体を使いこなせば使いこなすほど、他のIS以上に操縦者の思い通りに動いてくれます」

「良くも悪くも、千夏ちゃん次第って事ね……」

 

 ……つまり、俺は他の連中以上の努力が求められていると?

 

「しかし、これほどの機体をドイツが作り上げるなんてね…。日本もウカウカとしてられないわね」

「それなんですが……」

「どうしたの?」

「これ、正確にはドイツで製作された機体じゃないようなんです」

「どう言う事?ディナイアルはドイツから送られてきたんでしょう?」

「確かに譲渡されたのはドイツからですけど、それだけなんです」

 

 どゆこと?

 

「実は、こっそりと向こうの整備員に聞いたんですけど、このディナイアルはある日突然、IS委員会のドイツ支部に送られてきたらしいんですよ」

「なによそれ? そんな怪しい物を送ってきたの?」

「その理由は分かってるんじゃないんですか?」

「ピーキーすぎて誰も乗りこなせず厄介払い、もしくは廃棄処分同然に譲渡された……だったっけ?」

 

 ディ……ディナイアル……不憫にも程があるだろ……。

 ちょっと同情するぞ……。

 

「機体性能に関しては申し分ないから、整備する身としては非常に勉強になるんで助かってますけどね」

 

 向上心高いな。

 真面目でいい事だ。

 

「成る程ね。取り敢えずは承知したわ。で、武器はどんなのがあるの?」

「ないですよ」

「「へ?」」

 

 武器が無い?

 

「どうやら、このディナイアルは最初から徒手格闘戦で戦う事を前提にしてるようで、射撃武器は勿論、手持ちの近接武器も一切搭載されてません」

「はぁっ!? ISの格闘戦で与えられるダメージなんて微々たるものだって理解してないの!? この機体を造った奴は!?」

「あ。でも一応、手首の部分にショートレンジのビームソードがありますけど……」

「それじゃあ、射程距離的に格闘戦をするのと同じじゃない!」

 

 ごもっとも。

 

「はぁ……ドイツが廃棄したくなる気持ちも分かるわ…。武器を一切装備せずに、徒手格闘で戦うISなんて、前代未聞よ……」

「格闘戦が出来るISもありはしますけど、それも操縦者の癖に合わせた結果そうなっただけであって、ディナイアルみたいに最初からそんな風に製造された訳じゃないですからね」

 

 なんか、これからが大変になりそうな会話をしてんだが。

 俺はちゃんとディナイアルを乗りこなせるのか?

 

「最初はここにある訓練機から乗らせて、それから専用機に移行しようと思ってたんだけど……」

「あくまで私見ですけど、下手に訓練機で癖を付けさせるよりは、最初からディナイアルに乗って、それに合わせた訓練をした方が手っ取り早いと思いますけど」

「そうね。いくら射撃の訓練とかしても、肝心の専用機に射撃武器が無いんじゃ意味無いもんね」

 

 完全に無意味……じゃないけど、生かす機会は少ないだろうな。

 

「ちゃんと拡張領域はあるから、後付けで武器は搭載出来ますけど……」

「でも、基本的には格闘戦が前提なんでしょ?」

「はい」

 

 格闘技か。

 知識だけならディナイアルに触れた時に植え付けられてるけど、それと使いこなせるかどうかは完全に別問題だしな。

 

「どうします? 今から乗ってみます?」

「そうね。まずは試しに搭乗して貰って、そこから考えましょうか」

「まだ初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)は出来てませんけど?」

「別に試合をするわけじゃないから大丈夫でしょ」

 

 そうなのか。

 よくわからんけど。

 

「動きながらでも設定は可能だし……千夏ちゃん」

「はい?」

 

 やっと声が掛かった。

 さっきまでずっと蚊帳の外だったし。

 

「乗ってみる?」

「そう……ですね。俺も乗ってみたいです」

 

 これから長い付き合いになるんだし、早く乗り心地を知りたい。

 

「決まりね。射出口まで移動させるから、先に行きましょうか?」

「はい」

 

 俺と芳美さんは一緒に射出口近くまで移動した。

 すると、ハンガーに固定されたディナイアルが自動的に運ばれてきた。

 

 ディナイアルは俺の目の前に止まり、まるで俺を受け入れようとしているかのように、装甲が観音開きになった。

 

「慌てなくていいから、ゆっくりと乗ってみて」

「了解です」

 

 えっと……そのまま体を預ければいいのか?

 

「そう。座るような感覚で体を預ければいいわ」

 

 腕に足、体や頭を装甲に入れ、全身が機体内に入ると、全ての装甲が同時に閉まって、プシュー…と言う空気が抜ける音が聞こえた。

 長い髪は後頭部にある穴からポニーテールのように出た。

 

 その瞬間……俺の意思が…遥か彼方にぶっ飛んだ。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 そこは荒野だった。

 何も無く、唯只管にだだっ広い荒野だった。

 周囲が全て蒼い炎に包まれて、足元に広がる地面は赤く染まっている。

 

「ここは……?」

 

 なんだ?

 どうしてここに?

 

「俺はさっきまで格納庫にいた筈……」

 

 これは夢か?

 回りを眺めながら歩いてみると、どこからともなく『声』が聞こえた。

 

『やっと会えた!』

『やっと会えた!』

「はい?」

 

 それは少女と少年のような声だった。

 

「誰だ? 何処にいる?」

『選ばれし子!』

『運命の子!』

 

 いや聞けよ。

 

『真っ直ぐ歩いて!』

『真っ直ぐ真っ直ぐ!』

「はぁ……」

 

 この声の主達が誰かは知らないが、会話が成立しない。

 ならば、声に従って歩くしかない。

 

 仕方ないので、トボトボと荒野を歩いていく。

 炎が傍にあるのに、全く熱くない。

 ま、体性感覚が無い俺には最初から無意味だけど。

 だからと言って油断して、火傷だけはしないようにしないとな。

 

 暫く歩いていくと、前方に人影が見えた。

 と言っても、地面に横たわっていて身動き一つしないが。

 自然と早歩きになって傍までよってしゃがみ込む。

 

「大丈夫………え?」

 

 そこにいたのは『俺』だった。

 いや、『織斑千夏』だと言った方が正しいか。

 

 私服を着た『織斑千夏』が全身を血に塗れた状態で横たわっている。

 その目は虚空を向いていて、生気は全く無い。

 

「死んでいる……のか?」

 

 熱や脈を測りたいが、今の俺にはそれすら出来ない。

 実に歯痒い。

 

『死んでるよ!』

『死んでる死んでる!』

『『君が殺した!!』』

「なに……?」

 

 俺が……殺した?

 

『君が転生したから』

『君が憑依したから』

『『その子は死んだ!』』

 

 つまり……この、目の前で死んでいるのは……オリジナルの織斑千夏……なのか?

 

「……………」

 

 そっとその目に手を当てて、目を閉じさせた。

 

『気にしないで!』

『気にしない気にしない!』

『『その子は死ぬべくして死んだんだから!』』

 

 死ぬのが必然だった……だと?

 

「……すまない。俺が…君の体を奪ってしまった。しかも、その体を汚し、傷つけ、こんな風にしてしまった……」

 

 自分が罪深い事は重々に承知していたが、こうして形として見せつけられると……こう…クるものがあるな…。

 せめて、彼女の体を抱きしめようと思い、その体に手を伸ばそうとすると……

 

「………え?」

 

 いきなり、『織斑千夏』が爆発した。

 まるで内側から爆裂したように、俺の顔に血飛沫が掛かった。

 

『『それ』はもういらない』

『だから消しちゃおう!』

「貴様等……!」

 

 歯ぎしりをして立ち上がると、後ろに気配が現れた。

 

「なに一丁前にブチ切れてんだよ。加害者の分際で」

「……!?」

 

 後ろを振り向くと、そこには緑色のフードを被った青年が立っていた。

 顔立ちは非常に整っていて、間違いなく美青年と言っても差し支えない。

 

「理由はどうあれ、手前がオリジナルをぶち殺したことに違いは無いだろ。その死体が目の前で砕け散ったからって、それで怒るのは完全にお門違いってもんだ」

「……………」

 

 その通りだ。

 全ては俺が原因で起こった事。

 

「そう……だな」

 

 立ち上がって振り向き、彼の方を真っ直ぐに見据える。

 

「全ては俺が悪い。俺は死しても罪を犯した。いや…それだけじゃない」

 

 今までの事を振り返ると、俺がもうちょっとしっかりとしていれば何とかなった事が多い。

 

「俺がしっかりしていれば一夏も俺も誘拐なんてされなかった。姉さんもドイツに行かなくて済んだかもしれない。俺がもっと……」

 

 もっと昔の事なら、俺がもっと箒の事を見ていれば、彼女がイジメられることも無かったかもしれない。

 

「そうだ。全てはお前の『弱さ』が招いた罪だ」

「その通りだ」

「なら……どうする?」

「決まっている……」

 

 彼に近づいて行き、その顔を至近距離で見つめた。

 

「強くなる。俺自身を守れるようになることは勿論、他の皆…一夏や姉さん。他にも沢山の人々を守れるように強くなる」

「今のお前に出来るのか?」

「出来る出来ないじゃない……やるんだ」

「茨の道だぞ」

「覚悟の上だ」

 

 もうその道を歩き出してるんだ。

 後は……進むだけだ。

 

「ククク……いい顔をするじゃねぇか。さっきまでの呆けた顔よりはよっぽど魅力的だぜ」

 

 彼は俺の首を掴むと、自分の方に寄せてきた。

 

「そこまで啖呵きったんだ。途中下車なんて絶対に許さねぇからな」

「当然だ」

 

 俺自身が許せないからな。

 

「『罪』には『罰』が必要だ。お前は死ぬな。死なずにずっと生き地獄を過ごせ。傷つき、倒れ、その度にまた立ち上がれ。それを延々と繰り返せ。それがお前の『罰』だ」

 

 休むこともゆるされないのか。

 ま、当然か。

 

「お前に唯一許されるのは、寿命による死だけだ。それ以外では絶対に死なせねぇ。俺が何度でも叩き起こしてやる」

「それは有難いな」

 

 これで安心してISを纏える。

 

「お前に会えるのはこれが最後だろうが、それでもずっと見てるからな」

「どう言う事だ?」

「今のお前にはどうでもいい事だ」

 

 首から手を離して、急に頭を撫でられた。

 そして、微笑を浮かべた。

 

「お前は俺のようになるな。『強さ』だけを求めずに、『強さ』の中に『意味』を見出せ。いいな」

「意味……?」

 

 強さの意味……か。

 

「じゃあな」

「ちょ……ちょっと……」

 

 もう少し聞きたいことがあったけど、その前に俺の意識が浮上した。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「はっ?」

 

 目の前には射出口の出口が広がっている。

 

「あれ……?」

 

 今のは……一体……?

 

「どうかしたの? 千夏ちゃん」

「いや……なんでもないです」

 

 目の前に表示された時間を見てみると、俺がディナイアルを装着した時間から一秒しか経過してなかった。

 

(あれが……たった一秒の出来事だったのか……?)

 

 マジでなんだったんだ…?

 夢……? それとも……

 

「くっ……!」

「……大丈夫?」

「はい。問題無いです」

 

 下手に心配をかけても意味無いだろう。

 それよりも早くステージに行こう。

 今は……今だけはあの『夢』の事は忘れよう。

 

「……もう行ってもいいですか?」

「いいわよ。今ステージにいる子達には少しだけ開けてもらったから」

 

 ちょっと悪い事をしたな……。

 とっとと済ませるか。

 

「ちゃんと浮ける?」

「やってみます」

 

 確か、イメージが大切だったな。

 

(……浮くイメージってどうすればいいんだ?)

 

 上手いのが思いつかないな。

 前世で見たアニメのキャラとか思い出してみよう。

 

(パワーアップすると髪が金ぴかになる某有名少年漫画の主人公でも想像してみるか?)

 

 まるで当たり前のように空を縦横無尽に駆け回ってるからな。

 イメージとしてはいいかもしれない。

 

「イメージ……イメージ……」

 

 すると、徐々に俺の視界が上がっていった。

 

「お! 浮いてる浮いてる! その調子よ!」

 

 そうか……これが『飛ぶ』という感覚か。

 ちゃんと覚えておかなくては。

 

「そのまま行ける?」

「はい、行けます」

 

 俺はそのまま、ゆっくりとステージへと向かっていった。

 さて、今の俺はどれぐらい動けるのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最初は、この一話で行ける所まで行こうと思いましたが、執筆途中で次の話を思いついたので、本格的な初陣は次回にする事にします。

千夏はちゃんとディナイアルを使いこなせるでしょうか?

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