セラフィムの学園   作:とんこつラーメン

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千夏の状況が目まぐるしく変化していきますね。

でも、まだまだ原作突入は遠そうです。







第13話 引き返せない道へ

 IS委員会日本支部の支部長室。

 そこには、大島の実父である支部長が座っている机の前に、多くの投影型モニターが映っていた。

 

 映っているのは、各国支部の支部長とIS委員会の委員長だ。

 

「……と言う訳です」

『成る程な……』

 

 大島支部長は委員長に千夏の事に関する、今分かる全てを報告していた。

 

『あのブリュンヒルデの妹がSランクを叩き出すとはな』

「ええ。私も聞いた時は我が耳を疑いました」

『だろうな。だが、君のアイデアはいいと思うぞ』

「おお!」

 

 自分の提案が褒められた事に、年甲斐も無く喜ぶ。

 その様子は、傍から見ると実に醜いものだった。

 

『もしもSランクなんて結果を見たら、表も裏も大きく騒ぎ出すだろう。ならば、その前に我等の手元に置き、自分達の手駒にする。とっさの判断にしては上出来だ』

「お褒め頂き光栄の至り……」

 

 画面越しに頭を下げる支部長。

 自分よりも強い存在にはとことん腰が低い。

 典型的な俗物の姿がそこにはあった。

 

『私は反対だ!』

 

 だが、それに意を反する者が現れた。

 それは、イタリア支部の支部長だった。

 

『いくらSランクで織斑千冬の妹だからと言っても、本人は何処にでもいる普通の少女に過ぎない! そんな少女をいきなり世界初のIS委員会代表のIS操縦者にしようだなんて、常軌を逸しているとしか思えない!』

「黙れ! お前は彼女が馬鹿共に利用された挙句、モルモットにされてもいいと抜かすか!」

『そうは言っていない! だが、時期尚早だと言っている! 判明したのはついこの間だと言うじゃないか!』

 

 一応言っておくが、大島支部長の言葉は心からの言葉ではない。

 咄嗟に言った言い訳に過ぎない。

 

『黙り給え』

「『うぐっ……!』」

 

 委員長の一言に圧され、二人は黙ってしまった。

 

『私としても、彼女の委員会代表就任については賛成している』

『い……委員長!?』

『この世界はね、常に新しい『風』を求めているのだよ』

「新しい……風?」

『そうだ。今までISと言う存在に塗れた時代を引っ張てきた織斑千冬は、自ら引退を表明した。そうだね?』

「は……はい。もう家族を危険な目に遭わせたくないと言って、そのまま……」

『私は、去る者は追わず来る者は拒まずの主義だ。彼女が引退したいと言うのならば、引き留めようとは思わない。実際、潮時だと思っているしな』

「どう言う事でしょうか? まだまだアイツには利用価値があると思いますが……」

『織斑千冬は敗北した。そこにどのような事情があろうとも、彼女は自分自身の意思で敗北を受け入れたのだ。今の時代に、負け犬の『象徴』は必要無い』

 

 『象徴』という言葉に妙に力が入っていた。

 

『そこで、今の我々に必要なのは織斑千冬に成り代わる新たな『象徴』だ。それが……』

『織斑千夏……だと?』

『そうだ。織斑千冬の実の妹で、しかも、姉と同じSランク。これだけでも充分に世間の目を注目させられるだろう』

「おぉ……」

 

 その脂ぎった顔を醜く驚愕に染めて、ポケットから出したハンカチで汗を拭く支部長。

 

『彼女は間違いなく、次世代の『偽りの偶像(アイドル)』になってくれるだろう』

『彼女を……利用する気ですか……』

『その言い方は適切ではない……と、言いたいところだが、その通りだよ。私は利用できるものはなんでも利用する質だ』

『くっ……! 失礼する!!』

 

 イタリアからの通信が切れた。

 激昂して、向こうから切ったようだ。

 

「馬鹿な奴め…」

『言ってやるな。世の中には彼の様なフェミニストも必要だ』

「はぁ……」

『彼女はそこにいるのかね?』

「いえ。近日中には来させるつもりですが…」

『それでいい。慌てる必要はない』

「分かりました」

『織斑千夏は日本支部代表ではなく、IS委員会全体の代表と言う事にする。異議はあるか?』

 

 委員長が映っている全員に語り掛けるが、誰も何も言おうとしない。

 

『満場一致……ではないか。イタリアが反対していたな』

「ですが、それ以外は賛成しています」

『そうだな。ならば、織斑千夏のIS委員会代表操縦者就任を決定とする』

 

 モニターに映っている全員と、大島支部長が拍手をする。

 

『書類などはそちらで書かせたまえ。こちらはこちらで準備をしよう』

「準備とは?」

『彼女を大々的にお披露目する準備だ』

 

 それだけで、支部長は全てを悟ったようだった。

 

「ランクはどうしますか?」

『発表までは秘密にし、彼女の就任を披露する際に発表しよう。インパクトはありすぎて困る事は無い』

「そうですな。『裏』の連中も、委員会を敵に回そうとは思わないでしょうし」

『そう言う事だ。我等が彼女の最強の盾になる代わりに、彼女には色々と役に立って貰うとしよう』

 

 委員長の顔は怪しく歪んでいて、そこにはある種の狂気が見え隠れしていた。

 

『いつか機会があれば、私も新たな『ブリュンヒルデ』に会いたいものだ』

 

 彼が通信を切る際に呟いた一言は、支部長には聞こえていなかったようで、彼は何の反応も示さなかった。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 大島さんに促されるがまま、俺は自分の携帯でドイツにいる姉さんに掛けた。

 

『もしもし?』

「えっと……姉さん?俺…千夏だけど…」

『千夏か。今日はまたどうした?』

「実は……」

「あぁ。そこからは僕が説明するから、スピーカーにしてくれないかな?」

『何? そこに誰かいるのか?』

「ちょ……ちょっとね……」

 

 俺は携帯をスピーカーモードにして、机の上に置いた。

 

「あ~……聞こえますか?」

『……貴様は誰だ』

 

 あ、明らかに怒っている。

 

「僕はIS委員会日本支部に所属している大島博之といいます」

『大島……あの男の血縁者か?』

「あぁ。貴女は僕の父の事を知っているんでしたね」

『成る程。アイツの息子か。道理で耳障りな声だと思った』

「ははは……。いきなり辛辣だなぁ~」

 

 電話越しとは言え、ここまでブチ切れている姉さんは初めてかもしれない。

 

『それで? その息子が私の妹となんで一緒にいる?』

「それを説明するために、彼女に連絡を取ってもらったんです」

『なんだと?』

「実はですね……」

 

 そこから、大島さんは昨日あった出来事を話した。

 学校でIS適性の検査があって、そこで俺がSランクを出した事。

 そして、IS委員会がバックにつくと言い出した事も。

 

「……と、言う訳なんです」

『そ……そんな……千夏が……』

「流石の貴女も驚きを隠せないようですね」

『(なんで千夏に適性があるんだ!? あいつの本当の性別ならば、適正なんてあるはずないのに……)』

 

 あ、なんか静かになった。

 

「どうしました?」

『い……いや、なんでもない』

 

 絶対になんか思ったでしょ。

 敢えてツッコミはしないがな。

 

『しかし、何故委員会がバックにつく?そんな話は今まで聞いた事は無いし、幾らなんでも早急過ぎはしないか?』

「言いたいことは分かります。ですが、もたもたしていたら、それだけ妹さんは危険になるんですよ?どこから情報が洩れているか分からない世の中ですから」

『それは……』

「だから、下手に今から探すよりも、委員会自体がバックについた方が色々と都合がいいんです。準備は手早く出来るし、委員会程、このご時世で強大な後ろ盾は存在しませんよ?」

『ちっ……!』

 

 彼に論破されて悔しいのか、姉さんの舌打ちが聞こえた。

 

 今時、情報漏洩なんて日常茶飯事だしな。

 寧ろ、漏洩しない情報の方が珍しい。

 その時、大島さんの携帯が鳴った。

 

「あ、ちょっと失礼」

 

 大島さんは携帯を持って、そそくさと部屋を出た。

 

『……大丈夫か? 千夏。何か変な事はされてないか?』

「今はまだ……な」

『気を付けろよ。何かあれば、真っ先に私か一夏に言え。いいな?』

「わかった」

 

 可能な限りは自分で何とかしたいが、今回ばかりは姉さんに頼るかもしれない。

 それ程までに、あの大島という男は好きになれない。

 

『それにしても、まさか千夏がSを出すとはな…』

「俺自身が一番驚いてる」

『無理も無い』

「他の人に聞いたんだけど、姉さんもSだったって…」

『あぁ……その通りだ。そのせいで、私も色々な目に遭ったがな……』

 

 どうやら、姉さんも姉さんで苦労が絶えないようだ。

 心中お察しする。

 そんな風に話していると、大島さんが戻ってきた。

 

「やぁやぁ。お待たせしたね」

「『別に待ってない』」

「おう……今度は姉妹揃ってか…」

 

 電話越しに姉さんとハモった。

 貴重な体験だな。

 

「親父から連絡が来たよ。なんでも、IS委員会の委員長が直々に君の委員会代表になる事を認めたようだ」

『なんだとっ!?』

 

 それって、もう確定事項じゃん。

 俺は戻れない場所に来てしまったのか……。

 

「相変わらず親父は仕事が早いよ。僕も脱帽だ」

「なら……」

「うん。近いうちに君にはウチの支部に来てもらって、そこで正式な手続きとかをして貰う事になるかな?」

 

 はぁ……きっと、面倒な書類とかを書かされるんだろうな。

 俺、昔(転生前から)書類とかって苦手なんだよな。

 履歴書書くだけでも超絶億劫になるし。

 

『……待て。一夏には話したのか?』

「まだ話してない。まずは姉さんに相談しようと思っていたから。でも……」

『お前の状況が想像以上に加速している……か』

「うん。お陰でゆっくりと考える事も出来ない」

「だよね~。僕もよく分かる」

 

 嘘つけ。

 そのニヤニヤ顔が本気でキモイ。

 

「弟君にはある程度の事は話してもいいんじゃない? どうせ、遅かれ早かれ世界中に知れ渡るんだし」

『どう言う意味だ……』

「おっと。こればかりは貴女にも話せません。委員会の機密に関わりますから」

 

 大体の事は想像がつくけど、敢えて考えないようにしよう。

 

「貴女も黙っていてくださいよ? もしも話したりしたら……」

『分かっている!』

 

 ここまで堂々と姉さんを脅すか。

 コイツが委員会の人間じゃなければ、真っ先に殴っていたな。

 

『む? ……すまない。呼び出しをくらってしまった。ここで失礼する』

「こちらこそ、お忙しいところを失礼しました」

 

 絶対に心からの言葉じゃない。

 

『千夏……もう一回言うぞ。気を付けろよ』

「了解」

『ではな』

 

 通話が切れて、俺は携帯をポケットにしまった。

 

「さて、次は弟君に説明しに行こうか?」

「学校にはいいんですか?」

「そっちは親父の方から説明するさ」

 

 俺は俺で、目の前の事に専念しろってか?

 

「じゃあ、行こう」

 

 大島さんと一緒に部屋を出て、俺は一夏が部活をしている剣道場に向かった。

 一緒に歩いている途中、彼の手が妙に俺の下半身に向かっている気がした。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「……と言う事なんだ」

「そんな……」

 

 剣道場に来て一夏を見つけた俺は、丁度休憩中だったのを見計らって、こっちに呼んだ。

 そして、隣にいた大島さんが自己紹介の後に、昨日の事を説明した。

 勿論、細かい場所は全部カットしているが。

 特に俺のランクの事は話していない。

 精々、『高いランクが検出された』と言ったぐらいだ。

 

「そんな訳で、千夏ちゃんには近いうちに日本支部まで来てもらう事になると思う。多分、手続きの他にも色々とやる事があるから、基本的には放課後は定期的にこっちに来ることになるだろう」

「そうですか……」

 

 いきなりの事に、一夏はどんな表情をしていいか分からないような感じがした。

 無理も無いだろう。

 俺だって一夏の立場だったら同じような反応をすると思う。

 

「流石に今日いきなりって事は無いけど、君もそのつもりでいて欲しい」

「分かりました。帰りとかはどうするんですか?」

「遅くならないうちに、こっちでちゃんと家まで送るよ。彼女は今や、立派な人材だからね」

 

 濁したな。

 どう考えても、それが本音だとは思えない。

 俺の事を道具ぐらいにしか考えてないに違いない。

 

「今日は僕もこのまま帰るよ。部活の邪魔をして悪かったね」

「いえ……」

 

 一応、会釈をする一夏だったが、本能的に彼の危険さを悟ったのか、その表情は曇ったままだった。

 

「それじゃまたね。一応、何かある時はこっちから連絡するから」

「分かりました」

 

 非常に不本意だが、剣道場に来るまでの間に彼と携帯の番号を交換しておいた。

 彼からの着信がある度に、俺の心は更に暗くなりそうだ。

 大島さんはこっちに手を振りながら、この場から去っていった。

 

「悪いな……また迷惑をかける……」

「気にすんなって。何回も言うけど、千夏姉は何も悪くない。誰もこんな状況になるなんて想像出来ないって」

「そう……だな」

 

 今日ばかりは一夏の慰めが身に染みる。

 許されるなら、ここで全てを白状したい。

 けど、それは出来ない。

 一夏の事を守るために。

 

「これからは、皆が忙しくなるんだな」

「そうなるな。家事が疎かになってしまう」

「その辺は俺がなんとかするよ」

「お前は……」

 

 唯でさえ部活で忙しいのに、家事まですると言い出すとは……。

 俺は一生、一夏に頭が上がらないな…。

 

 その後、俺は剣道場を後にして、そのまま帰路についた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「これか?」

「らしいな」

 

 ISの操縦者を育成する訓練所。

 ここでは未来の日本代表を生み出す為に、多くの訓練生や代表候補生が日夜訓練に明け暮れている。

 そこの格納庫に、一体の全身装甲のISが鎮座していた。

 

「話だと、これってドイツから詫びとして貰ったんだって?」

「表向きはな。でも、実際は廃棄処分に近いらしいぜ」

「なんで?」

 

 格納庫では、二人の整備士がISを見ながら話していた。

 

「性能がピーキーすぎて、今だに誰も乗りこなせてないんだと」

「それって、事実上のガラクタじゃねぇか。そんな機体に誰が乗るんだ?」

「なんでも、あのブリュンヒルデの妹だってさ」

「マジで!?」

「マジマジ。世界最強の妹なら大丈夫なんじゃないかって思ったらしいぜ」

「うわぁ~……。その妹ちゃんもいい迷惑だな」

 

 彼等の前に存在しているISのカメラアイが怪しく光る。

 まるで、自身の主を待ちわびているかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




もしかしたら、次あたりに千夏の専用機が判明するかも?

皆の答えは当たっているかな?

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