今度はどうなるでしょうか?
学校で行われたISランクの簡易検査において、まさか俺がSランクと言う、誰もが(俺自身も)予想だにしなかった結果が出た。
俺は係の人に言われて、全員の検査が終わった後に一人残っていた。
係の人が先生に部屋を借りて、俺達は生徒指導室へと向かった。
で、今俺はその係の人と一対一で向かい合っているのだが……
「はぁ……」
さっきの検査結果を見て、何回も溜息をついている。
溜息をつきたいのは俺の方だ。
だって、適性があるだけでも驚きなのに、まさかSランクとか。
誰が想像するだろうか?
「あの……」
「あ? あぁ……ごめんなさいね」
このままだと、何時まで経っても帰れそうにないので、俺から話す事にした。
「まず、結論から言うわね」
「はい」
「検査の結果、貴女はSランクと判断されたわ」
うん、さっき聞きました。
「織斑千冬の妹だって言うから、高いランクは期待していたけど、これは色んな意味で予想外だったわ」
「……どう言う事ですか?」
「ん? なにが?」
「だから、なんで俺が千冬姉さんの妹だと、高いランクだと思ったんですか?」
「あれ? 貴女……何も聞かされてないの?」
「は?」
だから何がだよ?
「織斑千冬のISランクはSなのよ」
「ほぅ……」
姉さんもSランクとは。
前々から凄い人だと思ってはいたが、そこまでとはな。
「因みに、Sランクは世界規模で見ても極少数しかいないとされているわ」
「具体的には?」
「貴女と貴女のお姉さんを含めて、5~6人いるかいないか……って言えば分かりやすいかしら?」
世界規模で5~6人って……。
希少にも限度があるだろうに。
「もしも、この事が知られたら、間違いなく注目を受ける。いい意味でも、悪いでもね」
「それは……」
なんとなく予想はつく。
表沙汰になれば、各国や各企業等がスカウトに走るようになるし、裏では裏で、俺達を誘拐したような連中がまたやって来る可能性が非常に高い。
「中学生の貴女にこんな事を言うのは抵抗があるけど、ここで隠してもいずれ知ると思うから言わせてもらうわね」
「はい」
「恐らく、最悪の場合は貴女は非合法な研究所で人体実験のモルモットにされるかもしれない…」
人間としての尊厳すらも奪われる……ってか。
あれ……待てよ?
「俺が狙われる可能性があるのならば、俺の家族である一夏や姉さんも……」
「狙われる可能性があるわね。ま、あのブリュンヒルデに喧嘩を売ろうと思う馬鹿がいるとは思わないけど」
言い切ったな。
俺も同感だけど。
けど、もしもそうなったら……
(また、前のように誘拐されるかもしれないのか……)
それだけは絶対に避けなければ。
一夏にはもう、あんな思いはさせたくない。
「どうすればいいですか?」
「まずは、貴女のランクを秘密にする事ね。知っているのは一部の人間だけにした方がいいわ」
「例えば?」
「まずは貴女のお姉さんである織斑千冬。彼女ならちゃんと理解してくれるでしょう。そして、この結果を直接見た私達。後は、貴女の後ろ盾になってくれる人達ね」
「後ろ盾?」
「そう。確かに貴女は世界的有名人の血縁者だけど、それだけ。今の彼女はかなりの影響力を持っているけど、それだけじゃ守れない事もある」
確かに。
世界大会の優勝者にどれだけの力があると言うのか。
姉さん自身も自分の影響力については否定するだろう。
「でも、俺のような中学生に誰がバックについてくれるんですか?」
「それは今から考えるしかないわ」
でしょうね。
即席で思いつくなら誰も苦労はしない。
「大丈夫。私達はIS委員会の日本支部から出向してるの。だから、この件を持ちかえればきっといい方法を思いつくわ」
「いいんですか?」
「勿論。困っている子供を助けるのは大人の義務みたいなものよ」
いい事言うな。
このご時世には珍しいぐらいいい人だ。
「だから、ここは私に任せて」
「……わかりました。どうかお願いします」
礼儀として、俺は深く頭を下げる。
「うん。貴女のように礼儀正しくて、将来有望な子がいれば、ISの未来も明るいわね」
「言い過ぎです」
俺はそこまで高尚な人間じゃない。
寧ろ、普通よりも劣っている言っても過言じゃないだろう。
その後、少しだけ話して、その日は解散した。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「……と、言う訳です」
「ふむ……」
IS委員会の日本支部。時間は夜。
千夏の中学に来ていた係の女性が、高級感溢れる部屋にて、ある男と向かい合っていた。
その男は大きな木製の机に座っており、大きな体格で着ているスーツが張っている。
彼こそが日本支部のトップにいる支部長である。
「まさか、今日行った中学に織斑千冬の妹がいたとはな…」
「それは一昨日言った筈ですが?」
「そうだったか?」
がはは……と、笑いながら体を揺らす。
「それで、どういたしましょうか? Sランクの少女……しかも、それがあのブリュンヒルデの妹ともなれば、間違いなくあらゆる組織に狙われるでしょう」
「確かにな」
「一応、後ろ盾になりそうな企業等をある程度リストアップしてはいますが……」
「その事ならば心配あるまい」
「……と、仰いますと?」
「我々がバックにつけばいい」
「………は?」
女は一瞬、言った事が理解出来ずにポカ~ンとなる。
「だから、このIS委員会の日本支部がバックにつけばいいと言っている」
「ほ…本気ですか!? 未だ嘗て支部所属の正式なIS操縦者は存在しません!」
「その先駆けになればいいではないか。別に禁止されている訳ではない」
「そうですが……」
前代未聞の事を言い出す男に、女は頭を抱えだす。
「それに、我々以上の後ろ盾など存在しまい?」
「それは……」
確かに、IS委員会ほど今の時代において後ろ盾として強大な存在はいない。
「ついでだ。自己防衛の為に専用機でも持たせればいい」
「そんな簡単に……」
専用機とは、文字通りの個人用にカスタマイズされたISの事を指す。
だが、その所持が許可されているのは、訓練に訓練を重ねた企業に所属している人間や、国家代表、もしくは代表候補生のみに限定されている。
それを、いくらSランクで有名人の妹だと言っても、一般人の少女に持たせるなど、普通はあり得ない。
その時だった。
「その点は心配ないさ」
「え?」
室内に一人の若者が入ってくる。
綺麗なスーツに身を包み、高級なブレスレットなどを身に付けている。
「大島さん……」
「博之か」
入ってきた若者の名前は『大島博之』
目の前に座っている支部長の実の息子であり、現在は日本支部に所属しているエリートだが、実際は親のコネで今の場所にいる、典型的な七光りである。
「専用機ならば、前にドイツから詫びの証として譲渡された機体をあげればいい」
「あの機体ですか!? あれは余りにも性能がピーキーすぎて、事実上の廃棄処分に近い形で押し付けられた、所謂『欠陥機』ですよ!?」
「大丈夫さ。だって、彼女は『あの』織斑千冬の妹なんだろ? きっと上手く使いこなすさ」
「楽観視しすぎじゃ……」
「それに、あの機体は例の彼女が誘拐されたことを防げなかった事に対する日本への詫びとして貰ったんだ。ある意味、最も彼女に相応しいじゃないか」
「貴方は……!」
ニヤニヤとしながら話す大島に、女は怒りを隠せないでいた。
「そうだ。どうせなら、この僕に彼女を任せてくれないか?」
「なんですって!?」
大島にはいい噂は無い。
支部内にいる女性達にも嫌われている。
彼女だって例外ではない。
「いいだろう。お前に一任する」
「支部長!!」
「流石は親父。分かってる」
「ここにいる間は支部長と言え」
「りょ~かい。支部長」
そう話す大島の手には千夏について書かれている書類があり、それを見る大島の顔は怪しい笑いを浮かべていた。
(ククク……。中学生は初めてだけど、間違いなく極上の女だ……)
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
検査があった次の日の放課後。
俺は担任の先生に来客用の対談室に案内された。
案内だけして、先生は去ってしまった。
どうやら、予めそう言われていたらしい。
「失礼します」
ノックをしてから扉を開ける。
そこには、昨日とは違う、若い男性が立っていた。
「貴方は……」
「やあ、初めまして。織斑千夏ちゃん。僕はこういう者だ」
カバンの中から名刺を出して、俺に渡してきた。
「IS委員会日本支部所属『大島博之』?」
「お? 僕の名前を一発で読めるなんてやるね~。いつもは読めそうで読めないって言われて、ハクノとかヒロノとかって言われてるんだよ」
「はぁ……」
心底どうでもいい。
「昨日の女性は……」
「ああ。昨日の彼女はあくまで検査係の人間だからね。今日は僕が来たんだよ。君の担当になった僕がね」
「担当?」
どーゆーことだ?
「君の話は昨日の彼女から全て聞かされている。君が織斑千冬の妹であることも、検査でSランクと言うとんでもない結果を出したことも」
委員会の人間ならば当然かもしれないが、こんな軽薄そうな男に教えても大丈夫なのか?
「それで、君には今、バックにつく組織、もしくは企業等が必要な訳だ」
「らしいですね」
主に一夏や姉さんの為……だけど。
「で、君の所属が決まって、その報告に来たんだよ」
「もうですか?」
昨日の今日だぞ。
幾らなんでも早過ぎないか?
「君にはIS委員会の日本支部に所属して貰う」
「……なんだって?」
俺が……委員会所属になる……だって?
「ど……どう言う事ですか?」
「そのままの意味だよ。君にはこれから、IS委員会所属のIS操縦者になってもらう」
いきなりの事で頭が追い付かない。
俺が委員会所属?
なんで、どうしてそうなった?
「今まで委員会所属の操縦者はいるんですか?」
「いや? 基本的には企業や国家に属するのが普通さ」
「ならば……」
「でも、駄目だって決まりも無い。だから、君がその先駆けになるんだよ」
「先駆けって……」
どうして俺にそんな大役を押し付けようとする。
俺の事を過大評価しすぎだ。
「織斑千冬の妹である君なら、きっと大丈夫さ」
「俺は姉さんじゃない。同じ役割を求めないでもらいたい」
「でも、大衆は求める。そして、君はそれに応えなくてはいけない」
「そんな……」
「理不尽だと思うかい? でも、それが大人になるってことさ」
言いたいことは分かるが、それとこれとは話が別な気がする。
「それに伴い、君には専用機が授けられる」
「専用機……」
それは俺も知ってるぞ。
ちょっとだけ勉強したから。
「なんでそこまで……」
「それだけ期待してるってことさ」
それに対して言いたい事はあるが、その前に一言。
「こう言うのは、まず俺の保護者である姉さんと相談したいと思っていたんですが…」
「おお。それもそうだ」
いや、保護者に相談するのは常識だろう。
昨日は姉さんが忙しかったようで電話で話せなかったから、今日の放課後に相談しようと思っていたんだが……。
まさか、次の日に決まるなんて予想すらしなかった。
「なら、今から話すかい?」
「へ?」
「番号は知ってるんでしょ?ここで電話して話せばいいじゃん」
「えぇ~……」
どうして、そこまで急ごうとするんだよ…。
マジで意味わからん。
(あぁ~……早く手元において、この体を味わいたいなぁ~。中学生にしてはスタイル良すぎなんだよ。まるで、男に抱かれる為に生まれたような体じゃん)
なんか……いやらしい目で全身を舐め回すように見られてるんですけど。
これが俗に言う『生理的に受け付けない』ってやつか。初めて知った。
嫌悪感に駆られながら、ポケットから携帯を取り出した。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「なにこれ……」
モニターの光だけが光源の暗い空間。
床にはそこら中にケーブルが敷き詰められていて、ここが研究所の類であることを辛うじて示している。
そこに彼女…篠ノ之束はいた。
「なんで……なんで、なっちゃんに適性があるの!? 睾丸性女性化症候群であるなっちゃんには適正なんて無い筈なのに!!」
完全に予想外の出来事に、束は珍しく動揺していた。
その顔に余裕は微塵も無く、焦っているのが分かった。
「なっちゃんだけは……ISに関わらせないようにしたかったのに……」
涙が流れて、床に落ちる。
束の心情を如実に表していた。
「なんとかして、なっちゃんの『本当の性別』だけは秘密に出来たけど……。それでも、Sランクなんて結果が出ちゃったら、間違いなくちょっかいを出そうとして来る馬鹿共がいる。私が傍にいて守ってあげられればいいんだけど……」
だが、束が今、表舞台に出るわけにはいかない。
でれば十中八九、様々な輩に狙われるから。
「どうして……なっちゃんばかりがこんな目に遭うの……? なっちゃんは何もしてない……何にも悪い事なんてしてないのに……」
束の呟きは静かに暗闇に響いた。
「きっと、なっちゃんはちーちゃんに相談するだろうな…。ちーちゃんはどうするのかな……?」
これからどうなるのかは誰にもわからない。
だが少なくとも、まだまだ千夏には安息が訪れることが無いのは確実だった。
怒涛の展開?
ここからIS学園に入るまで、千夏にまた試練が訪れます。