その時の自分のリビドーに任せている結果なんですが、なんとも情けない限りです。
自分の気持ちが落ち着いたら、それぞれの作品の更新速度は安定すると思います。
一日だけの入院生活(生活って言っていいのかな?)が終わって、俺は退院して、千冬姉さんと一夏と一緒に日本に帰国する事になった。
前にも言われたが、俺の体には殆ど怪我らしい怪我は無く、それよりもメンタル面の方が心配された。
そりゃ、そうだよな。
普通の少女なら、間違いなく精神崩壊していてもおかしくないし。
俺みたいに精神破綻者だったことが、不幸中の幸いと言うべきか……?
本来、モンドグロッソの選手として来た姉さんは、別のルートで帰国する予定だったのだが、本人の強い希望によって俺達と一緒に帰国出来る事になった。
その際、またマネージャーさんが色々としてくれたらしい。
マネージャーって凄い……。
帰る際、俺の荷物はなんでか全部一夏と姉さんが持ってくれた。
『これぐらい俺が持ってやるよ! 千夏姉!!』
『当然、私もな。偶には家族に頼れ』
……と言われてしまい、何も言い返せないまま、荷物を持ってもらう事になった。
自分的には充分なくらいに頼っているつもりなんだが……。
日本に帰国した後、俺は二人に言われて、学校を一日だけ休むことになった。
二人曰く、『一日ゆっくりとして、心を落ち着けた方がいい』だ、そうだ。
別に大丈夫なんだけど、ここはお言葉に甘えることにした。
皆が学校や仕事に勤しんでいる時に一人休むことは、不思議な優越感がある。
久方振りにそれを堪能する事にした。
学校側には、帰国した直後で時差ぼけがまだ治っていない為、今日一日だけ休ませてもらう……と、言っているらしい。
そんなんで本当に休めるのか?
いや、中学なら大丈夫か?
そして、次の日、一日たっぷりと休んだ俺は一夏と一緒に学校に登校した。
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「千夏ぅ~!!」
登校中、一夏と一緒に並んで歩いていると、鈴が後ろから抱き着いてきた。
「鈴?」
「だ……大丈夫だった!? 風邪とか引いてない!?」
「大丈夫だ。ちょっと時差ぼけで頭が痛かっただけだ」
「ほんと?ホントにそれだけ!?」
「それだけだ」
嘘。
本当はとんでもない目に遭ってきました。
鈴には刺激が強すぎるから言わないけど。
因みに、一夏も俺が強姦されたことは知らない。
知っているのは、俺も一緒に誘拐されたことだけ。
「おいおい鈴。心配する気持ちは分かるけど、それじゃあ千夏が歩き難いだろ?」
「何よ! 弾は心配じゃないの!?」
「いや……俺も滅茶苦茶心配したけどさ……」
呆れ顔で弾もやって来た。
「おはよう、弾」
「おう、おはよう」
コイツはいつも通りのようだな。
「しっかし、時差ぼけで頭痛とか、お前にもか弱い部分があったんだな」
「当たり前じゃない! 例え一人称が『俺』でも、千夏は立派な女の子なんだから」
「そうだぜ。弾は千夏姉をなんだと思ってんだ?」
「気は強いけど、本当は誰よりも女の子っぽい美少女?」
「「よく分かってんじゃん」」
なんだ、その評価は…。
美少女と言われて、俺はなんて反応しろと?
あと、二人はハモるな。
「はぁ……。馬鹿やってないで、早く行くぞ」
「「「はぁ~い」」」
だから、ハモるな。
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教室に行くと、クラスメイト全員がこっちを見た。
「ち……千夏ちゃん! 大丈夫!?」
「小学生の時からずっと休んだことのないお前が休んだって聞いて、皆が心配してたんだぞ!?」
「でも、時差ぼけで休む…か。これはこれでまた萌えるな……」
なんか知らんが、全員が俺の所に殺到した。
どうやら、俺は皆の事をかなり心配させてしまったようだ。
「だぁ~もう! お前等離れろ!! 千夏姉は病み上がりなんだぞ!?」
「あ! シスコン一夏がキレたぞ!」
「誰がシスコンだ!」
朝っぱらから元気だなぁ……。
病み上がりじゃなくても、早朝からここまでの元気は出ないわ。
「本当に……」
「男子って……」
「「「「「ガキよねぇ~」」」」」
言われてやんの。
「ちょっとは千夏ちゃんのクールさを見習ったらどうなのよ?」
「超同感」
俺の場合はクールじゃなくて、根暗と言った方が正しい気がするけどな。
だが……。
「……悪くないな」
「え?」
本当に帰ってきたって感じがする。
そう思った直後、俺の口が自然と動いていた。
「皆……心配してくれて…ありがとう」
「「「「「……………」」」」」
あ……あれ?
なんでいきなり静まる?
「ち……千夏ちゃんがお礼を言った!?」
「誰か録音をしてないの!?」
「ヤバい……めっちゃキュンってなった……」
「こ……これが世に言う『ギャップ萌え』ってヤツか……!」
なんで礼を言っただけでここまで言われなきゃいけないんだ。
「愛されてるな、千夏」
「うっさい」
茶化すな。
「あ……あああ……! 一気にライバルが増大した……!」
「ライバル?」
なんだそれ?
その後も教室は騒がしくて、それは先生が入ってくるまで続いた。
こんな時に笑顔一つ出来ない自分が、少しだけ情けなく感じた。
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放課後。
一夏は一枚の紙を持って職員室へと向かった。
「まさか、あの一夏が部活を始めるとはなぁ~…」
「別にいいんじゃない?昔は剣道をしていたって言うし」
そう、一夏は剣道部に入部する為に入部届けを出しに行ったのだ。
今までも何回か入部しようと思っていたらしいが、千冬姉さんに負担を掛けるようで踏ん切りがつかなかったらしい。
だが、今回の誘拐事件を皮切りに、決心したらしい。
帰りの飛行機で姉さんに相談していたが、姉さんは……。
『私に遠慮をする必要は無い。お前がしたいと思ったのなら、思う存分すればいい』
……と言ってくれた。
道着や防具の金に関しては、千冬姉さんが出してくれることになった。
国家代表の給料ならば、問題は無いとの事。
確かに、あれは凄い金額だったからな。
それまでは、家に少しでも金を入れる為にバイトをする事を考えていたようだが、結局は部活の方に傾いたようだ。
俺的にはそれでいいと思う。
中学の頃からバイトなんて経験する必要は無い。
そんなのは高校生になってからでも遅くはない。
「千夏はしないの? 確か、一夏と一緒に剣道をしていたことがあるんでしょう?」
「俺はいいよ。俺は真剣にやっていたわけじゃないし」
俺の場合はリハビリ代わりにしていただけだし。
俺みたいな遊び半分の奴がいても迷惑なだけだろう。
「でも、その割には運動神経は抜群だよな」
「入学してから、何回か色々な部活に勧誘されてたわよね」
「そんな事もあったな……」
小学生時代の俺の事を聞いた連中が、俺の事を部に入れようと躍起になっていた時期があった。
それらは全て、一夏によって鎮圧されたが。
「運動神経がある事とスポーツが出来る事はイコールじゃないからな」
俺は単純に、事故の影響で体のリミッターが外されて、身体能力が高いだけ。
スポーツなんて、前世と今世も合わせて、一度もやった事が無い。
剣道は除く、だけど。
「お待たせ」
「戻ってきたか」
あ、一夏が職員室から出てきた。
「部活は明日からでいいってさ」
「そうか。じゃあ、帰るか」
俺が持っていた一夏の分のカバンを渡して、下駄箱に向かった。
「これからは、一夏とは一緒に帰れなくなるな~」
「仕方ないわよ」
「ま、家の事は俺に任せて、お前は部活に専念しろ」
「悪いな……千夏姉」
「気にするな。お前には、いつも助けられてるからな」
「千夏姉……」
実際、一夏の方が家事は上手い。
洗濯や掃除はなんとかなるが、料理に関してはどうしようもない。
味が分からない以上、作りようが無いのだ。
それから、話しながらぼちぼちと帰った。
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家に帰ると、すぐに一夏は自分の部屋に直行して、ジャージに着替えた。
その手には、千冬姉さんから借りた竹刀が握られている。
「んじゃ、行ってくる」
「おう。気を付けてな」
「分かってるって」
それだけ言って、一夏はランニングに行ってしまった。
実は、帰国してから一夏は急に体を鍛えるようになっていった。
別に、今までも体を動かさなかったわけじゃないが、いきなりその量が増えたのだ。
その理由が……。
『千夏姉は俺が絶対に守るからな!!』
……らしい。
あの誘拐事件が相当に応えたようだ。
俺的に言わせて貰えば、トラウマにならなかっただけでも充分に凄いと思う。
精神面だけはマジで凄いよな、一夏って。
「さて、一夏が行っている間に洗濯物を仕舞うか」
俺はベランダに干してある洗濯物を仕舞う為に籠を取りに洗面所に向かう。
因みに、今日は姉さんはいない。
どうやら、決勝戦を辞退したことが政府のお偉方に知られたらしく、呼び出しをくらっている。
全く……誘拐されて、姉さんが決勝を辞退したのは完全に俺の落ち度なのに、どうして姉さんが怒られる羽目になる?
意味が分からん。
罰を与えたければ、俺に与えればいいものを。
心の中で文句を垂れながら、俺はひたすらに洗濯物を入れて、畳み続けた。
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「……と言う訳で、今から約一年間ほど、ドイツで教官のような事をする羽目になった」
「「は?」」
夕食時、いきなり姉さんからそう言われた。
「ど……どう言う事だよ?」
「お前達を救出する際にドイツ軍に大きな借りを作ってしまった。それが政府にも知れ渡っていたらしくてな、向こうで一年間ぐらい教官をしてドイツへの借りを返すことが出来れば今回の事はチャラにしてやる……と言われたよ」
「なんじゃそりゃ」
「訳分かんねぇよ…」
いくら国家代表として色々な訓練をしてきたとはいえ、いきなり軍隊の教官をしろとか……何を考えてるんだ?
って言うか……バカじゃないの?
「政府の連中って……バカなんじゃないの?」
あ、言ってしまった。
「私も同感だ。だが、私の立場上…上には逆らえない」
「実に腐ってるな」
「今更だろ?」
それを言ってしまったらおしまいだ。
「すまない……。また家を空ける事になる……」
「いや、謝るのは俺の方だ」
「千夏……?」
「全ては俺が不甲斐無かったせいで起きた事だ。姉さんは何も悪くない」
「何を言っている! お前は完全に被害者だろう!」
「そうだぜ! それこそ間違ってる!」
なんとも優しい二人だ。
だが、それでも自分の未熟さは許容できない。
「と……とにかく、金の方は毎月入金するから、その点に関しては安心してくれ」
「悪いね」
「それは言いっこなしだ」
「そうだったな……」
これまでも、こんなやり取りは何回もあったっけ。
「一夏。千夏の事は頼んだぞ」
「分かってる。千夏姉は俺が守るよ」
「その意気だ。千夏も、無理だけはしないでくれ」
「了解だ」
無理って、どんな事を指しているんだろうか?
日常生活で無理する事って何かあるか?
にしても、帰国してまたドイツにとんぼ返りとはね。
どんだけドイツに縁があるんだよ、織斑家。
その日は夜遅くまで千冬姉さんと話した。
そして次の日、姉さんは再びドイツへと行ってしまった。
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・
何も無い黒い空間に、声だけが響く。
「そろそろかな?」
「そろそろだよ」
「彼が来る」
「彼女が来る」
「彼は不幸」
「彼女は不憫」
「「だからこそ…」」
「彼は」
「彼女は」
「「強い」」
クスクスと言う笑い声が響く。
「まずは『否定』」
「まずは『拒絶』」
「その拳で敵を砕き」
「その炎で敵を焼く」
「彼が目指すのは強さの限界」
「彼女が目指すのは強さの極致」
「「その向こう側を見る為に」」
「戦え」
「闘え」
「「それが君を『至高』へと導く」」
「僕は」
「私は」
「「その日をずっと待っているよ」」
声は次第に収束し、消えていった。
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「く……くそっ……!」
雨降る夜。
黒ずくめの男が路地裏で血塗れになって倒れていた。
その付近には、仲間と思わしき連中が物言わぬ屍となって横たわっている。
「なんで……なんでテメェがここにいるんだよ!!」
男の視線の先には、雨に濡れた一人の女性が立っている。
不思議の国のアリスに登場しそうなメルヘンな格好をしているが、その目は決して笑ってはいなかった。
その瞳は何処までも冷たく、そして怒りに満ちている。
「篠ノ之束!!!」
雷が鳴った直後、稲光で束の顔が見えた。
「なんで……? そんなの決まってるじゃない」
束がゆっくりと近づいて行く。
その足取りは何処までも軽い。
「お前達が誘拐して、集団で強姦した女の子……織斑千夏……いや、なっちゃんの無念を果たすためだよ!!!」
「ぐはっ!?」
束の全力の蹴りが炸裂し、男は派手に吹っ飛ぶ。
そのまま壁にぶつかり止まった。
「ちくしょう……! こんなの聞いてねぇぞ……!」
「そっちの都合なんて関係ない。お前等はここで無様に死ぬんだよ」
束は右手を挙げる。
すると、男の背後に一体のISが降り立った。
「なっ……!? ISだと!?」
漆黒に染まり、腕が長い異形の姿をしたISは、男の体を掴んだ。
「ぐぁっ……!?」
「そのまま潰れろ」
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
グシャッ! と言う音と共に、男は断末魔を上げて血飛沫を撒き散らし、潰れた。
「後は……閻魔様に任せたよ」
その時、束の頬に冷たい何かが流れた。
それが涙なのか、それとも雨なのかは分からない。
「本当に……本当にゴメンね……なっちゃん……」
彼女の静かな呟きは、雨音に紛れて消えていった。
次の日、路地裏にて身元不明の死体が複数発見された。
ドイツ軍の調査の結果、千夏達を誘拐した犯人達だと判明した。
千夏の専用機……今の段階で分かる人はいるでしょうか?
一応、ヒントは出しまくっているのですが…。