マスターソードに装着された、ダークマター族への帰属装置。
これはダークマター族に属するボスやモンスターの心をリセットしつつ、仲間になる様に思想を変化させるアイテムだ。
しかし今現在白キリト・影キリトの目の前に君臨しているのは、既に負の感情そのものが具現化したものとなっている。
そう彼の者は既にダークマター一族というモンスターではない。
物質的なものであれば、この機能は使用出来たかもしれない。
だが概念である今だと、この機構は無用の長物へと変化してしまっている。
そこで彼の者を撃破するには、彼の者の中心であるあの黒の憎しみと赤の怒りに包まれた紅の瞳を貫くしかない。
この貫通方法は二種類ほどあるが、一方は現実的ではない。
もう一つはできるにはできるが、命を失う可能性がある。
つまり詰んでいる。
彼等はこの選択を迫られている。
徐々に強くなる負の感情。%で言えば、60%。
概念と化したその者は、命の保全という考えを捨てた様だ。
しかし彼の者は何故こんなに強い憎悪を抱えてしまったのか、白キリトの疑念は尽きない。
さてこの概念化した物を貫くには、負の感情の真逆な物で吶喊しなければならない。
マスターソードそのものだと、この負の感情を増幅する可能性がある。
そこで対となるクレイジーソードで、破壊していくしかない。
だがこのソードは持つ者に、最凶の不幸を振りまくという説明がある。
これを無意味にするには、陰陽同化して二振りの剣を同時に持ち進むしかない。
クレイジーソードを持つのは、影キリトが持てばいいじゃないかと考えるだろう。
しかし今は陰陽離脱をしている状態だ。この状態で影キリトは、負の感情が強すぎて前に進めない状態だ。
こんな状態で戦うのは、片手其々に三キロの荷物を持つのと同じだ。
効率性を増すと両手で6キロの荷物を持った方が楽であるのと同じように、
この二対の剣を陰陽同化で左に『理壊の剣』右に『創主の剣』を持ち運用する。
そして最後の決め手は、ドリームエナジーという『アンチ・ヘイト』属性を持つ対概念体だ。
これを二振りの剣に纏わせれば、周囲の負の感情を抹消することができる。
遂には目の前のラスボス的存在を撃破することができる。真に悲願である。
対する二極属性である『負』と『正』だけだと、全く持って意味がない。
そこで『負』を作り放っている彼の者の波導を『破壊』し、『正』を抽出し『創造』の力で増幅する。
これで拮抗から抵抗へ力の均衡を、変化させることが可能になる。
「……キリト」
「何だよ、行き成り」
「テーマフラグ解放についてだが、まだ解放されていなかったのかもしれん」
「はあ!?」
いきなりの暴露に驚愕を以って受け入れる。
だがそんなことは後回しにし、目の前の元凶を撃破する様に働きかける。
「そうだな。今は我々の敵を撃滅せねばなるまい」
「ああ。行くぞ!」
陰陽同化する。
そして意気投合と指針の決定により、ユニゾン率が急上昇する。
そんな事露とも知らない彼等は、二振りの剣を目の前に突き出す。
「『並行展開』!!」
裂帛という己の恐怖を持ってして叫んだその聲ではなく、確実な意思を持っての強い言葉となり発動を宣言する。
この意思にダークゼロも引っ張られ、覇気を持って咆える。
負の塊であるゼロは、黒と赤の衣のようなモノに包まれている。
その中央にはキラリと光る紅の瞳がある。
今でも言葉ではない何かを叫んでいる。呪詛なのか慟哭なのか、号哭を周囲へ喚き散らしている。
80% 強すぎる憎しみは、彼等を押しつぶそうとする。
しかしそれでも彼らは負けない。
量子世界に作られた巨大なスターロッド幾何学群は、3900ヨタワットのドリームエナジーを放出する。
その放出された物を全て掌握し、『マスターソード[創主の剣]』はこれらを増幅する。
キィィィイイイイ
刀身が黄金色から徐々に明るい色へ変化していく。
ドリームは数多の者がみる色とりどりの夢。経験と思想により、それらは常時変化する。
それを色として表すのならば、虹と呼べるだろう。
彼等は膨大なドリームエナジーがもたらす余波で、周辺の負の感情を駆逐するようになるバリアを手に入れる。
バリアは透明だが、負の感情が吹きすさぶ風により削られたその軌跡は虹色を鮮やかに映し出す。
「『雷鵺剣』!!」「『鳳凰剣』!!」
二人が表裏で叫ぶとき、一つの肉体が二色に一瞬変化する。
白キリトは後光なのかどうかわからない、未知数のエネルギーを産出する『神光』を放つ。彼は光と化す。
影キリトは闇なのかどうかわからない、無量大数のジュールを放出する『黒焔』を放つ。彼は黒と化す。
二対の者と物が、合わさればそれは究極なのか最弱なのか、よくわからない事象をこの世に生み出す。
これこそ有頂天。色として示すことができない真髄そのものだ。
ユニゾン率は青天井と化す。
「行くぞ!!!」
肉体色を一つへと変化させる。100%を過ぎれば、それはもう……完全体であるのだ。
二者として不完全な肉体と意思は、一つとして収束する。
キリトは両手にある真っ白な二振りの剣の切っ先を合わせ、吶喊しやすいようにする。
そして駆ける。疾駆。走るわけではなく、鳳凰と雷鵺が作り出す推進力で一気に前に進む。
彼の軌跡には、虹色のドリームエナジーが散乱しており見事に彩られていた。
100%
事象の崩壊を迎えるソレ。本来なら何事もこれに流されるが、彼の者には通じなかった。
限界を超えた彼は、その物を貫く。
そして貫いた後、彼らは陰陽離脱を行う。
3900ヨタワットを超えるエネルギーは、無茶も無茶な現象を発生させる。
別位相で原点に交わらせ陰陽同化と同等の能力を引き出しながら、この3次元世界に投射し概念と化しているゼロへ攻撃を行う。
「『紅の場合』『蒼の場合』『碧の場合』これ等を全て合わせ、究極のスキルを使う」
――――『無の場合』――――
これを使うと、超巨大で極太の灼熱の劫火が周辺を脅かす。
空中や地上を薙ぎ払う爆炎だけでなく、位相等全ての空間を焼き払う劫火・地中を燃え盛らせる獄炎も発生。
これ等の効果後、圧倒的な攻撃系バフが彼らに付与する。
次に絶対零度よりも数十度低い温度を、周辺へ無限侵蝕させ天上天下を支配する。
この圧倒的温度差で、普通であらば死んでいる。
だが概念にそんなものは効果がない。
絶対零度が生み出す鋼鉄よりも固い薄氷が、彼等を全ての危機から救う。
最後に雷光が周辺を蛇の様に這い、隼のように駆ける。
全てを須らくと統一し、檻どころか全ての法則に捕らわれてしまうようになる。
この雷光は彼等を包み、雷ではなく光の速度を付与する。
両者が行うのは、滅裂な天の攻撃と揶揄できそうな攻撃だ。
「『天靭:冥獄』!」「『冥靭:天神』!!」
ありとあらゆるところを光速で切りつけて、空間に傷口を創る。
四方八方数多のいろんな位相や空間・次元から攻撃され、ゼロは木端微塵に破壊され夢の中へ溶けていった。
夢で描かれる憎悪や怒りは、徐々に時を経るごとに忘れて行くものだ。
過去の悪い事情や事実等は、基本的に甘美なものとして話草の種になる。
まあ例外はあれども、それは人を形作る物として、楔として心の中へ残り未来を紡いでいく。
「ふぅ……」
「終わったな」
両者は二振りの剣を、鞘にしまう。
黒い空間は晴れて、蒼穹の空と深緑の草原となだらかな丘陵の世界でくつろぐ二人。
後は鏡が出てくるまで待つ事だ。
しかし、全く戻るための鏡が出てこない。
「おいおい」
「キリト。上空から反応だ」
元に戻った影キリトは、上を見上げる。
何処かわからない白キリトの為に右手で指示[さししめ]しながら、左手で頭を固定する。
身体は分裂しているが、思っている事は同一なのでどう動かせばいいかわかる。
白キリトが見る先には、真っ白な何かが翻っていた。
其れと共に、何か光っている?
と彼が思った時に、そのナニカはこの地に落ちた。
爆風で周囲が荒れてしまった。
別に木々や岩一つ何もない平原なので、浴びせられたのは土だけだ。
とにかく近寄ることにする。
其処にあったのは、赤黒い液体に塗れた透明な結晶だった。
その結晶は割れはじめ、割れた結晶の中に居たのは……少女だった。
つまりゼロの根源は、この少女が何かしたという結論に至る。
だが戻ろうとしても、鏡が出てこない。
まさかと思うが、これは……。
「ゼロは途中までちゃんとしたボスで、概念化した瞬間にデータ毎とんだのか?」
「可能性はある。とにかく、ギラティナの夢波長を合わせ、空間的に移動できないか?」
「あのな、光と闇の間でぎりぎり会話しかできなかったんだ。
できるとしたら、パルキアかアルセウス位だろ」
二人が議論を重ねていると、徐々にここら全てにある草原が青空と共に消失していく。
やばい雰囲気を感じ取ったのか、陰陽同化して少女を抱えてドラグーンに乗って空中で待機する。
草原にあった結晶は、草原が消滅するのと同時に暗黒の闇へ落ちて行った。
この光景にキリトは冷や汗を掻く。
そして、彼等は巨大なエネルギーを感じ取ったパルキアに助け出されることになった。
なんと通常の三次元空間から、一億位離れた位相にいたらしい。
故に探すのに時間がかかったという事だ。
帰る途中空間の狭間で、アルセウスとユニゾンしたシリカとピナに出会う。
彼女達が云うには、ディアルガで時間を早送りにしても部屋が消失するだけで鏡は出現しなかったとの事。
やはりフラグ自体が、この裏ダンジョンは壊れている可能性がある。
しかし鏡でキリトと彼女がいる場所以外は、鏡が出現し帰還できた。
なのでこれはゲーム側のバグとしかいいようがない。
パルキアの腕の中で眠る少女を見て、シリカはキリトに対して名前等情報を聴くが全く手掛かりなしという。
最初から睡眠状態で、起床していないと伝える。
ドラグーンに乗ってパルキアの速度に合わせるキリト。
飛んでいくとギラティナのやぶれた世界への出入り口があった。
此処から入り込んで、闇の鏡の世界へ行くことでプププランドへ向かうことができる。
バグの最中、この状態はまずいのではないか、と思う彼等。
シリカはキリトに話を通すが、最後のラスボスを撃破した瞬間を見たとのこと。
その時に出てくるコンソールの移動のようなもので、ゼロが消失し違うものが出現したという話だ。
「シリカ。それはどういう奴だったんだ?」
「それが一瞬の事だったので、全く分かりませんでした」
「そうか……」
「とにかくキリトさんは、アスナさんに通達してその子の介抱をお願いします。
私は別に出口がないか、そのフラグと共に探ってきます」
「頼んだ!」
一度シリカ達と別れる。
ダム穴に入って、そこからやぶれた世界へ入る。
その世界には、多くの伝説級のポケモンがいる。
彼等の中の一匹が、表の世界へ行く場所を案内してくれる。
そのままドラグーンで突入する。
突入するとその先にあるのは、青空だった。
そして夢波長でアスナを直感的に探し出して、その場へ行く。
「っそい!」
ドラグーンから勢いをつけて飛び降りる。
入り込むのはDDD城の通路だ。
この通路に入り込むには、一定間隔で建てられている柱の間をぬって行かなければならない。
彼の場合、このようなことはお茶の子さいさいだ。
「ぐふっ」
勢いが付きすぎたのか、壁に衝突する。
少女は無事だが本人が無事じゃない。
(「おいおい。崩落させるなよ?」)
「わかってるって」
壁からでてきた土塊が、ポリゴンとなって消滅していく中壁も修復される。
彼は床に着地する。
そんな中足音が複数あって近づいて来るのが良く解る。
「ちょっと、何をしたのよっ!って、キリト君!」
「ほほう、帰って来たかキリト君」
「よ、アスナ。ヒースクリフ」
アスナはキリトに近づき、HPが減少していないか確認と共に胸に抱かれる少女に気づく。
後方で控えているヒースクリフは、少女の事をみて顎を擦る。
「キリト君、この子は?」
「この子はラスボスと戦闘後に、結晶に閉じ込められて俺達の所に来たんだ」
「俺達?」
「あー、いや、言葉の綾だ」
キリトは己の失言に笑い誤魔化す。
アスナや後ろのヒースクリフは、何が何なのかわかっていない為この事は素通りすることになる。
(「話さぬのか」)
(「あまり情報は出したくない」)
彼はいつまでたっても臆病である。
48層まで来ても、基本的に前線に来たりダークヒーロー等と命の取り合いをしていた。
それに基本的に独りで行動するので、そこまで多くの人間と会う事はなかったりする。
感情のぶつけ合いを避けている為、彼自身の心の成長は促せていない。
寧ろ成長しているのは、他のギルド仲間だけだ。
彼が恐れているのは何なのか。
それはこの二振りの剣だ。
今は鞘にしまっている為、刀身を見せることはない。
おかげでその美麗さに目を奪われることもない。
この武器の恐ろしさは異常である。
それにダークマター族の一員でもある人物が、自分のもう一人を形作っていると知れたら自分はどんな仕打ちを受けるだろう。
彼が討ち果たされていないから、この世界に出入り口が存在しないのではないか?
そんな不安が彼の考えによぎる。
(「キリト。我は一度倒されている。故に思考がリセットされて、お前の半身となり心を知りたかっただけだ」)
ダークゼロはキリトの不安を感じさせない様に、心の中で呟いて見せる。
別に知らなかったわけではない。
あの陰陽同化の時、お互いの持つ情報を共有した。
故に隠し事はお互いまかり通らない。
それでも不安になるのだ。
(一人じゃない。皆がいる。でも、これはだめだ)
彼の本意は大事にする。これはお互い察するところだ。
「とにかく、ベッドに移動させたい」
「わかったわ。『ジーニアスヘッド』、ベッドの整理をしてきて」
近くに潜んでいた猿型機械獣は、すぐさま一番近い客間にベッドを用意する。
そのベッドに彼等は案内され、少女をベッドへ寝かす。
キリトやアスナ達は、部屋に設けられている椅子に座り込む。
しかしヒースクリフだけは、その場に立っている。
彼は少女に近づき、コンソールをいじる。
何をしているのかわからなかったキリトだが、茅場が真剣な表情で弄っているのを見て止める気は更々なかった。
これのおかげで、ヒースクリフは更に表情を深くする。
そしてこの発表のおかげで、未来に起こる出来事を最小限に食い止める事ができる。
「キリト君、アスナ君。今から、シリカ君にやぶれた世界で私と密会できるよう要請できないか」
「シリカじゃなくても、サトシでもいけるぞ?」
「ならばサトシ君にお願いしたい」
キリトはヒースクリフの表情と焦り気味なその言葉に含まれる感情を感じ取って、
直ぐに行動しようと立ち上がる。
しかしその時アスナが、キリトの腕をつかむ。
「キリト君は休んでて。私が行ってくるわ」
「あ、ああ。頼んだ」
アスナは立ち上がってすぐに、この部屋から出ていく。
キリトはアスナが出て行くまでその背中を見届け、消えた後はKoB団長を見る。
彼は団長に聴きたい事があった。けっこうたくさん。その中で選抜した質問を持って、彼に尋ねる。
「茅場さん。彼等の事、何かわかりましたか?」
彼はキリトに聴かれてはっとする。思考に耽っていたのだろう。
彼は気を取り直して再度キリトに聴く、キリトも再度彼に云う。
「彼等は売り元が任天堂、サードソフト開発のHALが作り上げた『スマッシュブラザーズ』というゲームから来た事は間違いない。
しかし何故彼等以外のゲームが、ここにきているのか全くわからない」
スマッシュブラザーズ自体が一種のお祭りゲーである。
数多のサードソフトから販売元としての集まりを考え、それぞれが関連するキャラを集め同じ舞台に上がらせる。
その舞台では戦わせたり会話をさせて、ユーザーにifや二次創作の時に得られる妄想等楽しみを与える。
例えば同じ様に世界を救う勇者だったり、同じような戦乱期に仁政を敷いた者同士の会話だったり。
このように公式でifを作り上げるのも一興なのだが、他にもねらい目がある。
こういうお祭りゲ―は、他作品にユーザーの興味を持たせ購入してもらおうという魂胆もとい経済効果を生み出している。
この策略に引っかかった場合、開発資金が増えて新たなゲームを作り出す可能性が高くなったり、
創っているお祭りゲーに他の会社からいろんなキャラクターを登場させて、人気と周知を拡大させるのに一役買っている。
これらの因果が収束した結果、このゲームにはフィギュアやシール・アシストだったりいろんな要素が要り込まれた。
この中に入っている要素は、SAOで既に発見されている。
「とあるスマブラ体験者に話を聞いてみると、このゲームは他のお祭りゲーも混じっていると聞く」
「明らかに戦国や三国時代の方々がいますし、一応わかっていましたが……」
「ああ。『無双OROCHI』という題名だそうだ」
キリトは聴いたことがないゲームで、簡単に茅場から情報を受ける。
なんでも遠呂智という存在が三國と戦国の人物を合わせて、この絶望から這い上がる乱世の将としての活躍を上から眺め己が滅ぼされるのを待つというシナリオらしい。
ラスボスかどうかは分からないが、確実にフロアボスなのがその遠呂智だと決まった。
この会話が終了するときに、廊下から音が聞こえてきた。
「お待たせ!」
「ギラティナなら既に呼んでいるぜ。ほら」
気難しくはないが、人間に騙されたことがあるギラティナはサトシとシリカ以外の言葉を聞かなくなった。
故に彼等が指示しないと、やぶれた世界等を利用させてもらえない。
更にこの世界に入るには、彼等同行者が必要なので密会をするにしてもシリカまたはサトシが介入しないといけない。
何せこの世界は難しい世界でごく微量の空気や塵以外を外部に出すと、どちらの世界も影響しあうという
真っ当に面倒な世界システムを作り上げられている。
その為彼等はそれを監視しなければいけない。
アスナ・キリト・ヒースクリフ・サトシが、宙にできるダム穴に潜り込みその世界に入る。
相も変わらず可笑しな世界だ。重力や構造が滅茶苦茶だ。
今はこちらの世界のDDD城にいる。
さあ、話を始めよう。
「さてと……君たちには、内密にお願いする。
この世界の根源に関してだ。
簡単に言えば、二人の代表が一つの題材で会議して得られた結果を元に、部下に仕事を割り振る。
これがこのSAOを作り上げている『カーディナル』だ。
そして、この『カーディナル』はありとあらゆることができる。アイテムや通貨の流通等、それらの調整等だ。
そうだな……昔は人の感情についても、人間のスタッフを用意しようと思ったんだが、お金の問題でこれもシステムに任せようとしたんだ」
「つまり、それがこの子なんですか?」
「察しが良くて助かるよ、キリト君」
茅場は今まで見せたことのない表情を、彼等三人に見せる。
その表情は優しさに満ち溢れている。
VRゲームを作る事以上に難しかったであろう『カーディナル』の設計は、
謂わば彼等の宝であり息子であり娘である。
何でもできて頭の良い子供だ。
だからこそこの解決には、ゲームや開発に携わった者ではだめなのだ。
この子供……孫が持つ本来の能力は、プレイヤーに発揮されるものだからだ。
「この子は人間の感情を観察しその情報を入手したり研究し、プレイヤーの心理状況に関するアドレナリン等の神経伝達物質の調整を行う役割を与えられている。
”MHCP(Mental Health Counseling Program)”精神的健康補佐計画の試作第一号『YUI』」
「yui……」
アスナはその名を呟く。
普通こんな話をされると、理解しがたいがわかりやすい説明に頷きを返すことはできる。
「さて、彼女の事だが……君たちに任せたい」
「「え?」」
「まあ私情なのだが、現実で私とアスナ君は知り合いでね。その友人とあれば、託すのには申し分ない理由だよ」
―――それに良い表情をする。
あまりの事に口を開き茫然とするキリトとアスナ。
彼等にとっての衝撃波は、意外と強かったようでサトシが笑いだすまで硬直しっぱなしだった。
「最後に私と共に来てほしいところがある。
これをしなければ、その子は消えてしまうからだ」
「はあ!?な、なんでだよ!」
「彼女の今の状態。いわば、バグだ。それに私も見たことがないフラグやプログラム改変が入っている。
向こうに帰ったらできるだけ早く、其処へ向かう事にしよう。
でなければ、この世界が終わるかもしれない」
キリトはそれを聴いて息をのむ。
アスナもその確定宣告を受けて、呆然とする。
両者は同じようで同じじゃない驚愕をしている。
キリトはこの世界の終わりを既に体験しているからだ。
それはゼロという負の感情の塊そのものによる、この世界を巻き込んだ大崩壊を引き起こそうとした。
実際戦闘後にあのラスボスの部屋は、プログラム毎消滅してしまった。
そしてyuiはゼロを倒した後に出てきた。
もしかすると、YUIが変化してあのゼロになったかはたまた逆になったのか。
それは分からないが、圧倒的情報量によって押しつぶされた両者はその空間毎崩壊しかけた。
いやゼロは本来の意味で崩壊した。
(「このダンジョン自体、バグの可能性があるな」)
(「其れは俺も思っていたよ。そもそも、48層自体が崩壊しているんじゃないか?」)
(「それとなく聞いてみてくれ」)
その言葉に心の中で頷く。
「ヒースクリフ。その場所に向かう前に、俺はこの48層を少し調査したいんだ。
主に、誰がパックを貰ったのか、そしてこの層のテーマフラグ英雄は表で誰だったのか」
「え、いないわよ、キリト君」
そのアスナの言葉に耳を疑った。
更に最前線で戦うサトシからも、こんな言葉が聴ける。
「リザードンやピジョット達に捜索してもらったけど、それらしい奴はいなかった。
それに48層もしびれを切らした聖龍連合が、そのまま吶喊して滅ぼしたしな」
「そもそもこの階層が、どんなテーマかわからなかったのよ。
ここ、茅場さんがいうには、47層と同じ意匠だって言ってたし」
「そうだ。全てにおいてここ48層は、本来のSAOの47層と酷似どころかそのままだ。
キリト君、君は何か知っている様だね。ここで話せないかな?」
机に肘を付き口前で、手の平を合わせている彼は何かを感じた様だ。
彼が長時間帰ってこなかったその理由の一つだという事も、彼やアスナは薄々感じ取っていった。
流石にここにきても口を割ろうとしない彼に、アスナは訝しむ視線を送る。
それでもキリトは口を割ろうとはしなかった。
この情報はやばい。
彼自身の能力はパックなしでこれだからだ。
故にキリト……自分自身も、バグまたはチートである可能性があるからだ。
だからカーディナルに消される可能性がある。
言わなくても危ないが言ってもヒースクリフはともかく、アスナは押しに弱い節があるので、簡単に口を滑らせ他者に情報を渡しそうで恐ろしいからだ。
別に今伝えるべき情報でもないので、ここは黙秘権を執行することになる。
もし相手が恫喝や自白を強要する手段に出れば、強要・脅迫罪で……って何を考えているんだ。
(「俺はこれは言えない。パックを貰って、既成事実がなければ……」)
(「其処は同意しよう。我らの状態はあまりにも不安定だ。実際我も何故実体化できたのか、あまりにも不明瞭だ」)
ダークゼロである影キリトも、そのように決定づけた。
圧倒的味方を得たので、彼は恐怖やらなんやらをおくびに出さず何も隠していない事を伝える。
アスナの疑心暗鬼は深まるが、いつか話してくれればいいなくらいの気持ちに収まった。
そんな彼等の信頼またはその疑いっぷりを見て、茅場は微笑む。
サトシもキリトが前よりも感情を隠しながら、表向きに元気になった事を示すことができるようになった事を内心褒める。
実際あまりよくないが、表情から見受けられ察することや受け止められるのは戦術的にまずい。
だからそれは良いのだ。
「では、此れにて閉廷。向こうへ帰るとしよう……ん?」
ヒースクリフが気づいた時、全てが動き出した。
そう、何もしていないのに、窓から見えるその大地が崩れ始めたのだ。
「なっ……まさか、あっちでも!」
サトシが驚愕し焦燥する。
だがすぐに冷静になって、助けを呼んだ。
「ラティアス、ラティオス。俺とキリトはいいから、ヒースクリフとアスナをのせてやってくれないか?」
「フォオオオッ」
「キュウッ」
二匹は頷く。
ラティアスとラティオスは、両者をサイコキネシスで浮かせて背中に乗せる。
サトシはリザードンに乗り込み、キリトはドラグーンに飛び乗る。
ドラグーンは勢い付けて降りる時、インベントリにしまい込んでいたのでここで使えるのだ。
大地崩壊が続く。このDDD城内から、皆は外へ出ることにした。
そんな時だった。何者かがはるか上空から、光をこの空間に投射する。
彼等の中でキリトだけが、その存在を直視できた。
しかしあまりにも遠いため、その実態をその目に捕えることはできなかった。
目の前が光り輝く。この眩しさに耐えかね、キリト達は目を閉じ腕で目の前を塞ぐ。
光が止んだ時、目の前にあった全てのものが、このやぶれた世界からなくなっていた。
表もそんな大騒動が起こっていた。
「うわあああ!?な、何だ!」
「じ、地震だ!」
「死にたくない!ど、何処へ行けばいいんだ!」
そんな彼らの目の前に、大量の機械獣が集結した。
「私はアーロイ!全ての機械獣を操る英雄だ!全員この機械獣に飛び乗れ!逃げるぞ!」
そんな聲を張り上げると陸上型機械獣は、そのままDDD城の崖にある岬へ行く。
飛行型機械獣は、そのまま天高く移動する。
岬へ向かった機械獣達は、その先に用意される物に飛び移る。
それは『戦艦ハルバード』だった。
メタナイト卿は『ローア』から、この雄大なプププランドを眺めていた。
その時『ローア』が彼と共に居るカービィにわかる言語で、注意という言葉を繰返し言い放った。
カービィはメタナイト卿に、『戦艦ハルバード』を出現させる用意をしておくように通達した。
メタナイト卿はその言葉に頷く。共に星の戦士であるが故、物事の変化や変異は本能的に感じるようになっている。
その為すぐに『戦艦ハルバード』を、乗りやすいようにDDD城先にある岬に横付けする。
これにより崖から飛び乗ったり、岬から艦内へ入れるようにする。
この瞬間、世界が振動し始めたのだ。
瞬く間に恐怖が伝播していく。そしてアーロイが『チャージャー』という羊型機械獣で、彼等の所へ行き精鋭機械獣らを召集する。集めたらそのまま、陸上は戦艦ハルバードへ行き飛行型はそのまま飛翔する。
「えーと、テーマフラグ英雄や学習AIを持つ皆は、急いでハルバードにのって!
他の皆はただのNPC!放っておいても、何時か復活するから!」
「ねぇチャーハン、急いで!」
「ええ、わかっているわっ!」
フームやブン・キュリオさん等、特殊な事情を抱えた方々は早速移動した。
ローア・ランディア・ハルバード・デスタライアーに乗り込んだ皆は、空中へ退散する。
すでにぎりぎりだったのか、この世界は縮小を開始される。
徐々にその縮小速度は加速して行き、小さな雫になる。
その雫はどこか別の位相空間へ飛び立っていった。
空間は真っ黒闇に包まれていて、誰も動けなかったがすぐに解決される。
それは天井と呼ばれる上の方のスカイドームに、ヒビが入っていってその亀裂から光が差し込んだ。
そして光が差し込むのと同時に、一気に世界の闇が崩壊した。
闇が晴れたその先にあるのは、空中に浮く超巨大な青々とした世界樹だった。
世界樹は様々な光を携えている。
また世界樹の周囲には、プレイヤーが沢山浮いているのだ。
そのプレイヤー達から見ると、元47層のような花畑が広がる大地が崩壊しだし足場が崩れ始めた。
こんな大層な時、崩壊と真逆な事をするものがあった。
それこそがギルドが入っていったあの洞のある大木だ。
大木は周囲の花やモンスター等全てから、光る粒子を吸い取っていく。
そのままその大木は、一気呵成勢いそのままに急成長を行う。
プレイヤー達はその成長に呑まれ、一部の者はHPを減少させてしまう。
しかも転移結晶は使用不可能。
そんな危機的状況の中、とあるプレイヤーが救出に来た。
「皆さん安心してください。今から助けます!行って下さい、皆!サイコキネシス!」
そうシリカだ。
彼女は複雑な位相空間を作り出す電子空間を潜り抜け、この表の世界に出てきたのだ。
シリカはこの天変地異と膨大な計算に驚いて、この場所に来ただけでもあるがそれでも見捨てられぬことがある。
故にやぶれた世界よりポケモンを出現させて、プレイヤー全員を空中へ退避させた。
大木は超巨大な世界樹と呼ばれるような、青々としたものへと変化した。
其れと伴ってあの大きな洞も大きくなっていた。
大木は突然洞から真っ黒い球体を、外部へ勢いよく出す。
この真っ黒な球体は誰もいないところに展開し、徐々に縮小そしてそのまま半径500Mから半径5Mになった。
そしてその球体はぼろぼろと崩れ落ちて、黒い欠片のままそれは小さな粒となって天に昇っていく。
代わりに黒い球体から光を纏って出てきたのは、上記の原寸ハルバード達だ。
世界樹が天をも突かんとするほど立派に育つ頃、振動や成長が停滞する。
この停滞と共に世界樹が天井と思えるほど広がるその枝葉から、無尽蔵の粒子……いや違う……。
その粒子は徐々に大きなって来る。
それは先ほどのカービィ世界の全てが、ピースとして降りてきた。
このピースの一部に台座が見受けられたので、移動は鏡や台座になることがわかっていた。
降りてきたピースは、それぞれが巨大であり別世界になっている。
それらは木の根に引っかかり、そのままそれがステージ・街・ダンジョンとなる。
天上には燦々と輝く太陽、天下には太陽により煌めく広大な大海原。
空は青空や綺麗な雲がかかっていて、世界樹の神秘さと合わさって非常にきれいである。
周辺にはきらびやかな粒子が漂っている。
ステージ(ピース)が全て木の根に固定化され、全てのステージに木の根から水を与えられる。
最後に大樹の中央下部に開いている巨大な洞に、そのまま蓋で閉じるように黄金装飾の鏡が出てきて塞ぐ。
そして、鏡は周囲に虹の閃光を放つ。
その閃光が当たったピースには、命が吹きこまれていく。
つまり、モンスターのリポップやNPCの再配置だ。
再配置が終えたと思ったら、天より輝く太陽より何かが降りてくる。
正体は黄色い星である。カービィがモブを吸い込んで吐きだすときに出る、星型弾と同型だ。
黄色い星は途中で二つに分裂し、空中を公転回転して鏡の真ん前に来る。
そして一度重なった黄色い星は、横断幕が開かれるように一気に左右に開く。
出現したのは、”Thank you so mach !” ――ありがとう―― だ。
戦艦ハルバード内外・ローア・ランディア・デスタライヤー・飛行型機械獣・サイコキネシスで浮いたプレイヤー達。
全員が感じ始める事になる。
この世界はSAOの枠から解き放たれ、新たな世界になろうとしている……と。
数多のプレイヤーは歓喜一色に染まった。
皆思い想いに大地に降りる。
一番鏡に近い街は『プププランド』と呼ばれ、転移門が設置されている。
洞を塞いだ鏡に入れば、数多のステージにいける『鏡の間』に行ける。
既に境界はなく、闇の鏡の世界もなかった。
これが本当のクリアだ。
仕事で失敗しまくってやる気がでないです。
でもなんとか、ゆっくりと完結させていきます。
他の作品は暇つぶしなのでどうでもいい。
やり遂げて見せます。