ソードアートBro's   作:名無しの権左衛門

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6:鏡の世界 決戦1

6:鏡の世界 決戦1

 

 

 光と闇の境界。

ここには既に多くのギルドが集まっている。

 

何故こんなに集まっているのかというと、アスナによるキリト救出をKoB団長にメールでお願いしたからだ。

ただの副団長が、GMに影響力を持っているのかはいまだに不明だ。

しかしそれのおかげで、色々と話を聞いて集まったギルドやソロが一同に介した。

 

 そして今は、黒の英傑連盟団待ちだ。

 

 こうやって待っている間、ダンジョン内で見つけた茫然としているプレイヤーをどうするか話し合っていた。

 

「一人荷物が増えてしまうな……」

「嗚呼、こういう時に趙雲が居てくれれば……!」

「殿、長坂の戦いとは違い、狭い場所になるでしょうから少々厳しいです」

「ちょ、趙雲!?」

「おお、趙雲殿。息災であったか!」

「子龍!どこほっつき歩いてたんだ!」

 

 ディアベルらギルドマスターと英雄らによる会議。

そこにツッコミというよりも、劉備を一目見たく割り込んできた趙雲であった。

劉備は趙雲が話しかけてきた事に驚きつつも、内心冷静を保つ。

実際心の中は、ウキウキだ。

 

 そして、五虎将軍と創作の中で謳われた趙雲を喜ぶのは、まだそんなに有名でなく義勇団時代から知る関羽と張飛である。

そんな彼等の温かい出会いを、月英と諸葛亮は遠くから見る。

 

「嗚呼、なんとも明るい光景でしょうか」

「ええ。三國の鼎立で対立し、命を落とす事もないでしょう。

 こんな光景が、何時までも続いたらよいのですが」

 

 二人は子供を見守るような表情で、悟る様な表情をする。

 

「いや、劉備に逢いたかったら行けばいいじゃん」

「水魚の交わりと聞いた事があるな、行って来い!」

 

 リズとエギルは、二人を掴んで劉備の前に引きずり込んだ。

 

「え、ちょ」

「ま、待ってください!まだ、心の準備が!」

「そんなもの、厠でやってきなさい!」

「月英、お前の肝はその程度か!」

 

 そんなざわめきが生まれるので、劉備は周囲を見渡す。

そしてリズとエギルは、この夫婦を輪に入れる。

 

「劉備!こいつらの相手も御願いね!」

「よお、玄徳!水餃子でも食いながら、水魚の交わりでもしてこい!」

「い、行き成りなんですか、リズ殿・エギル殿って、おお!?」

 

 劉備を含む三兄弟は、諸葛亮ら登場に沸いた。

こういう風景を仕方ないと眺める、ディアベルとヒースクリフ含めるギルドマスターたち。

 

 

さて、話を元に戻そう。

 

「今回、殿という名の護衛を、それぞれのギルドから4人選んだ。

 君たちには、この赤い布を頭に巻いてもらう。

 まさに、紅巾党だが、これは護衛として任務を果たしている最中だということを、

 周囲に誇示するものである。

 故にその鉢巻を、外してはならない」

 

「「「「わかりました」」」」

 

 護衛に選ばれたのは、盾等を装備していない人物だ。

やはり盾は耐久性があって壊れるので、長い目で見ると不必要。

だからここは俊敏性がある人を選んだ。

こうすれば、ある程度攻撃が来ても回避することができる。

 

 それにタゲを取っても逃げ回ればいいし、攻撃の要になる可能性もある。

これを4人に十全に理解してもらう事にした。

 

 

 これら会議が終わったころ、闇の鏡の世界から入ってきたギルド集団がいた。

彼等こそ攻略の要、黒の英傑連盟団だ。

キリトを筆頭に、その自信にあふれる顔つきなレジェンドたちは、息をのむそういう雰囲気を纏わせている。

 

 

 キリトとアスナ・アーロイは、一層で鬼神の如き戦闘を行った。

サトシとシリカは、25層で魔神その者としての働きをした。

キリト達以外は知らないが、メタナイトとDDDも圧倒的実力を持っている。

 

 

「待たせた(カービィ達は……いるな。今は近寄ってこないか)」

「待たせすぎだ、キリト君。今度アスナ君に、ラーメンを作ってもらいたいのだが、いいかね」

「……現実でデスマーチしながら、徹夜でカップラーメンでも啜ってたんだろ」

「……そ、そんなことはない」

「どもるなよ……」

 

 目が泳いでいる茅場。

そんな彼に呆れるが、今キリトは多くのギルドマスターから期待の眼差しを受けている。

しかし彼は全く動じない。

 

彼の心は今、此れからに対して向けられているからだ。

 

「まあ、その件に関しては、アスナと相談してくれ。

 行くぞ」

「うむ。これより、2レイドパーティでの攻略に向かう!

 敵は裏ボスであるため、心してかかれ!」

 

 48層のボスは、ダイナブレイドで1レイドパーティ、合計30人。

高速で飛翔し、鋼の肉体を持つその鳥。

攻撃方法は空気砲や肉弾戦法ばかりだが、その防御力の高さは異常で中々ダメージを与えられなかった。

 

 そして、今回はどうだ?

 

 彼等2レイドパーティ、合計96人。

数多のギルドが集まったぐちゃぐちゃの精鋭部隊。

そこには英雄や数多くの死地を潜り抜けた猛者が、大勢いる。

 

なにせ英雄の出現で、鍛えられたり共に歩む事で前線の攻略組に入るプレイヤーが多くなっている。

 

更に基本的に表ボスが雑魚で、裏ボスが頭を捻って考えた上での手ごわいボス。

これらを考えれば、多くの英雄に関わってきたギルドメンバーは、ソロよりも圧倒的な強さに育っていた。

 

 

 彼等が歩み高みに登った先にある、鏡界の境界。

そこに待ち受けるのは、裏ボスである。

 

その数は1なのか、それとも……。

 

 

 ヒースクリフが先頭だ。

その歩みは誰にも止められない。

威風堂々なその風格は、後ろに続く全ての者に自信と勇気を与え圧倒的なプライドを保持させる。

彼が出た戦場は、被害あれど負けることはなかった。

 

 彼に続くのは、戦場の猛者……鬼神とも呼ばれたり狂人と呼ばれたりするプレイヤーばかり。

 

その中でも異彩を放つのは、黒の英傑連盟団。

 

 エギル・リズベットら支援特化タンクプレイヤーが、軒並み熟練度が最大で彼等のギルドを後方支援している。

その支援を可能にしているのが、月英・趙雲・諸葛亮という三國の蜀という国家の英雄だ。

彼等はエギルやリズベットにお願いされて、フィールドへ狩りにいく。

 月英はリズベットの武器造りに於いて、余ったインゴットを兵器造りに転用している。

 趙雲は卓越した馬捌きを見せ、どんな場所でも勇猛果敢に攻め入りエギルらに頼まれた物を取ってくる。

 諸葛亮は情報屋や他の商人から値切り等をして、資金管理やその他諸々の管理を任されている。

 また35層の田園地帯に、多くの土地を購入しそこで月英が作った兵器の試乗や諸葛亮の『采配』スキルで、部下に畑仕事を行わせている。

 

 

 キリト・アスナ・シリカ・アーロイ・サトシ。

彼等は黒の英傑連盟団きってのアタッカーである。

そして攻略組の最高峰ギルドとして有名である。

 

 その理由とは何か。96人が境界に入るには、ひとりずつ入る必要があるためここで説明しよう。

つまり暇だから時間つぶしをしよう。

 

 キリト。いわずもがな、ブラッキー先生だ。

黒子のように、真っ黒な装備を纏っている。

ふざけている様だが、全くふざけていない。

暗闇からの強襲や即行パーティ編成でフィールドボスを狩る等、目覚ましい活躍をしている。

 今現在影を奪われているので、真っ白な状態だ。

裏ボスは訳有りな状態が多いので、一々全身真っ白等で説明責任を果たさないといけないなんてことはない。

 

 アスナ。栗色の頭髪だと思ったが、光の関係で亜麻色に見える。亜麻色の長い髪を、風が優しく包みたなびかせる。

その時鼻腔を擽る匂いの情報が好きな人が多くいる。 

彼女が取得したパックは、国家レベルを動かせる。

 群や団体、師団、旅団等は多く存在する。

しかし彼女と後述のアーロイとで集めた機械獣は、圧倒的強さで質と量を兼ね備え敵を一網打尽にする。

基本的に細剣を使うが、パックを使用したことで長弓とそのスキルを使用・取得できるようになった。

 

 アーロイ。母なる山の子。人工子宮から生まれ落ち、母無し子として蔑まれていた。

それをロストという人物が、父親代わりに育てた。結果恋愛とか知らない天然系でありながら、芯のある美しい女性になった。

今現在も行く先でフラグを立て、多くの男性偶に女性から求婚されている。

 途中サイレンスという知識欲の権化と知り合い、ハデスという敵と一悶着あった。

これを無事に解決した彼女。今でも多くの土地を巡っている。

主に使用する武器は弓矢で、副武装に槍を持っている。

 実力は非常に高いと云える。

 

 シリカ。20層周辺でレべ上げをしていた中層プレイヤー。

ギルドではなくパーティとしていろんな所を転々としていた。

そんな時に25層の戻りの洞窟に行こうというお誘いを受けたのだった。

 彼女が貰ったパックは、デルタ化に関するものだ。ぶっちゃけ、チート。

ただ反動が強いので、乱発は不可能である。

 

 サトシ。ポケモン30周年記念で、レッドをサトシに替えた結果がこれだよ。

アニメ補正・主人公補正を使い、今まで地方リーグレベルでも優勝させなかったアニメとは違い、完全に本気で戦ってくれるようになる。

 彼の年齢は永遠の10歳だが、数多の地方を巡りすぎて多くの女性をひっかけながら性格的に進化していく。

ただリセットがあるので、一時的に記憶を失うことになる不運な少年。

 実力は折り紙付きだ。相棒のピカチュウと共に、戦場を稲妻のように駆ける。

 

 

 さてプレイヤーとその後を付いてくる者、全てがこの境界にはいった。

その入った場所は真っ白で、何もいなかった。

 

いや、居なかったと思ったら、その真っ白な空に徐々にシルエットが見え始める。

 

「シリカ、作戦通りに」

「はい」

 

 小声でシリカに指示を出すキリト。

その指示とは、シリカがキリトを盾に縮こまることだ。

主に服の裾を持って、小鹿のように足を震わせ涙を尻目に零す。

このようなやりやすい演技をやらせる。

 

 何故このような指示をしたのかというと、やはりエスカルゴンからもらった樹形図PCのせいだろう。

これである程度展開を見て、有利に進める。

 

 

さて、シルエットが完全に晴れた。

 

 そこに見えるシルエットを見て、ある者は息をのみ、ある者は怒りを露わにしていく。

一体そこで何を見たのか。

 

「ヨウコソ、皆様。我ガ最高ノパーティヘ」

 

 空中に浮く黒を主体としたその者達。

全てが深淵よりも深く禍々しい。

 

「なあなあ、ダーク!ボクが好きに選んでもいいのカ!?

 選んでもいいのなら、あいつらと戦いたいのサ!」

「アア構ワナイ。ダガ我ガ先ダ」

 

 ピエロのようなその一頭身は、とある真っ黒な人物と喋る。

真っ黒な人物……そのものこそ、影キリトであった。

口角を歪め、目下にいる2レイドパーティを選定する。

 

「ダークマター。貴様ハ虹ノ剣ヲ持ツ者らとやれ」

「御意」

 

  サングラスのような仮面・ローブに頭髪のようなものを生やした剣士は、

旅先で手に入れた攻略道具を持つ人物が所属するパーティを別次元に移送する。

選ばれたパーティの人たちは、その場からこの部屋にいる仲間以外に干渉できなくなる。

つまり誰かに触れてもすり抜けるだけだ。

 

「ナイトメア。貴様ハスターロッドヲ持ツ者ト当タレ」

「排除しよう」

 

 旅先でスターロッドを多数手に入れたパーティとその人物のみを、

ナイトメア自身諸共別空間に転移させる。

 

 マルク・マホロア・ゼロツー・ドロシアソーサレス・ダークマインド・ダーククラフター。

彼等、錚々たるラスボス勢が攻略組ギルドパーティを、徐々に別の空間へ移動させていく。

皆が皆選ばれながらその場で視認出来、位相のずれで触ることができない状態にある。

 しかしこの場所にはぶられた人物がいる。

 

 それは黒の英傑連盟団とテーマフラグ英雄達。

彼等は誰にも指定されず、その場に待機している状態だ。

彼等は影キリトと戦闘することになるのか、と心の中で思う。

 

だがその中で、キリトとシリカ・メタナイト以外は何故影キリトという存在が出て来たのか謎に思う。

そう、キリトは教えていないのだ。

何せ今回の演技で、今後が左右されるため下手に情報を共有すると、自然さがなくなってしまう。

 

 どのような演技なのか、そろそろ功を成す頃合いだろう。

 

「さて次は……ん?」

 

 影キリトは何かに気づく。

いや、気づいてしまった。

 

 それはシリカだった。

涙目で腰が引けて、キリトの後ろに隠れている引っ込み思案を装っている少女。

その少女を守るように位置取っているキリトは、影キリトから見て非常にやりやすい場所にいると断言で来た。

何せシリカは、黒の英傑連盟団団長キリトとそのほかギルドメンバーに守られるように、中心に位置しているからだ。

此れを見て非常に愉快な気持ちになる。

 

 

 ダークマター族は色々あるが、負等マイナスとなるモノが大好きだ。

だからこのように、ギルドにとって大切な存在を壊す事で暴走する人間を圧倒的な力でねじ伏せるのは、

愉悦以上の快楽にふさわしいと思っているのだ。

 

 だからこそ、影キリトはシリカを標的にする。

 

「シリカ!」

「キリトさん!」

「空間転移!コイツハ、我ガユックリト味ワウ」

「いやっ……」

 

 

 影キリトはいつの間にかシリカの隣に立っていて、彼女の腕を引っ張り一気に空間転移し移送したのだ。

彼の者、影キリトはこの空間に禍々しい聲を響き轟かせる。

 

<さア、命を賭けタ戦いダ!ヤれ!>

 

 影キリトは徐々に、キリトの聲になってきており徐々に違和感がなくなる口調で話してきている。

その中かの者が命令したのは、ターン無視キルの事だ。

 

闇夜の黒猫団を匿っているギルド。

そして彼等を守っている殿は、彼らに攻撃される。

 

「「「!?」」」

 

 不意打ちに驚くのは、何も知らされていないパーティのみ。

そして攻撃された殿は、その不意打ちを全て受けきっている。

 

「いやぁ、『きあいのタスキ』は非常に便利だ。やれ!」

 

 聖龍連合の幹部が、他ギルドの殿まとめて命令し、元闇夜の黒猫団のプレイヤーを一刀の下両断した。

HPは一気に無くなり、そのままポリゴンと化す事に成功した。

ポリゴンと化した彼等の跡地からは、ダークリムラが少々出てきたが即行で撃破された。

 

 『きあいのタスキ』は、あらゆる攻撃からも体力を1残す事ができるアイテムだ。

勿論一度きりで、入手には25層ポケモンリーグでポイントを使って購入しないといけない。

 

 こんなレアアイテムを使った殿プレイヤーは、体力を回復する。

 

 不意打ちに失敗したのにも関わらず、敵の戦意喪失はない。

寧ろ笑みが深くなった。

そして彼らは転移されていく。

 

<さて、最後ノ貴様ラは、貴殿が相手にしてくれ>

「ええ、構わないでしょう」

 

 空中に名だたるラスボスがいたが、そこに含まれないラスボスが地面から出現する。

謎の会社訓歌と共に登場する二名の者。

 

「始めまして。私はハルトマン。此方は秘書のスージーだ。

 これから君たちには、わが社の負債の為に死んでもらうことになった。

 まことに申し訳ないが、君たちの命をもらい受ける。

 

 さて、挨拶はここまでにしよう。

 スージー。先にそこのプレイヤーを、例の場所へ連れて行きなさい」

「かしこまりました、社長」

 

 スージーと呼ばれる秘書は、どこかへ転移していった。

その瞬間キリト・メタナイト・DDD以外が、転移して消えていった。

 

彼等は何故此処に残されたのか、全く見当がつかない。

 

「フォフォフォ、何故君たちが残されたのか分からないだろう。

 DDD。初代よりラスボスを務めるが、その威厳はもうないようだ。

 故にここで御退場願おう。

 

 次にメタナイト。おまけや逆襲に燃えるが、全てをカービィに阻止される。

 アニメ等に起用され人気を博したが、それもギャラクティックナイトに取られつつある。

 君には失望している。故に、彼らの元へ逝け。

 

 最後にキリト。君には、わが社の新商品の試しとして、この者と戦ってもらいたい。

 場所を移させてもらうぞ」

 

 目の前のハルトマンは高笑いして、DDD・メタナイト・キリトを別々の空間へ移した。

DDDは禍々しい塔を登らされているアスナ達と合流し、塔の一番上を目指している。

またこの場所は飛んでも、周囲からレーザー兵器で落とされることから外周で上には行けない。

 

 メタナイトは隠れラボに行かされる。

そこで彼が見たのは、大量の試作兵器『メタナイト・ロボ』だ。

つまりメタナイトの処刑兼旧式兵器の処理にしたようだ。

 

 

 そして黒の英傑連盟団団長のキリトは、どこか試験場のような場所に来る。

彼は転移された中、周囲を見渡す。

何もない。

本当に何もない。

 

 そんな空間で、誰かの聲が聞こえる。

低くはない。誰かが呼ぶ声。

 

<キリト!そこにいるんだよね!?>

 

 この高い聲。

これこそ、あのピンクボール、カービィの聲だ。

どこからか全く分からないが、この部屋を包み込む位の大音声だ。

 

「ああ、そうだ!カービィ、どこにいるんだ!サチは無事なのか!?」

 

 キリトはこの静寂なくうかんに向かって叫ぶ。

返されるのはただの空虚な木霊だけ。

しかしそれでも、彼はめげない。

 

<……うん、そうだよ、キリト!サチはランディアが亜空間によって、間接的に防御されてる!

 だけど、キリトがどこにいるかわからないから、行けそうにないよ!>

「とにかく、カービィはそこにいてくれ!多分そこに戻れるはずだ!」

<……わかった!>

 

 

 ちゃんと真面目な雰囲気を持つカービィでよかった、と彼は胸を撫で下ろす。

何せこんな場面で言われたら、気が抜ける思いでしかないからだ。

 

これ等の通信が終わったのかを見計らったかのように、何者かが上から降りてくる。

 

 部屋は何もない。

上に天井はなく大きな吹き抜けになっている。

壁はなく、大きなガラス張りである。

 

ただ状況からすると、最悪に近い。

密封状態で何も遮蔽物がない。

これは何かを相手にするとき、困ることになる。

 

その者は何かに包まれているようだ。

 

キリトは息をのんで、その者がこの場に付くまで見届ける。

 

 

 その者は何かの結晶に封印されているようだった。

その者は盾とレイピアを持っている。

赤紫の十字に似たひし形模様が入っている盾。

赤紫色で若干太い刀身であるレイピア。

 

 結晶に封印されているのは、メタナイトに酷似しているがメタナイトは黒が主な色である。

彼の者は白や赤紫が中心である。

 

 

 キリトは一つの芸術であるかのようなその者に見とれていた。

しかしその芸術であるかのようなソレは、突如覚醒する。

結晶を破壊し破片を周囲に散乱させる。

 

 彼の者は覚醒し、己の力を誰からでも見えるように誇示する。

 

 キリトは本能でわかってしまった。

彼の者は並大抵のものじゃないと。

影カービィよりも強い……と。

 

 わかったからこそ彼は駆けた。

やられる前にやれ。

これがこのSAOの現状であるがため、己の武器を握り彼の者に攻撃を加える。

しかしその攻撃は、全く効力を成していない。

 

 

防がれた。

 

カィン……と、盾で弾かれる剣の音。

 

その音を聞いたのか、その者の仮面の奥にある眼と思われるものが紅色となって、彼を襲い始めた。

 

「私はギャラクティックナイト。銀河史上最強と呼ばれている。

 キサマは邪魔である。疾く失せよ」

 

 それを聞いてからキリトは、己を猛らせる。

圧倒的強者の威圧感。

其れに屈してはいけない、屈すると即座に死ぬ。

 

それくらい目の前のギャラクティックナイトが、異常であるかを示す。

 

(今までにないこの威圧感……。カービィがこの部屋の近くにいる中、マスターソードを使うべきか……)

 

 キリトはこんな状況でも、己と外部の事を思い出し充分に対応する。

結果彼が行ったのは、現在最高の武器『ドミネーションオブルーラー』で切りかかる事だった。

この武器はリズベットが、とある階層の裏ダンジョンで見つけたインゴットを使い、

更にいろんなバフを付けて造った武装だ。

 

 何故これにしたのか。

エスカルゴンが作った武器にしなかったのか。

それは相手が格上だからだ。

 

 この武器は意識・地位・レベル・人格、その他諸々が上であるほど能力が上昇する。

だから今現在、銀河最強の戦士である彼を前にすれば、この武器が今までにない位震えあがり強化される事は明白だった。

 

 

「中々の得物だな。ではゆくぞ」

「来い!」

 

 彼らは一閃を交え、そのまま戦闘する。

息をもつかさぬ刹那の間合い。

生と死が、常にまじりあう。

 

一世を風靡したコロシアムでさえも、こんなに強く一つ一つの動きが絵になる者は存在しなかった。

非常に華麗な動きだ。

簡単そうに見えるカウンターも、実にに再現不能なくらいの達人技になっている。

 

 しかし、現実で剣道の達人たる人物に指南してもらった事がある彼は、その程度のカウンターは見切れる。

だがそれでも見切れないのは、攻撃範囲や可動範囲・次への行動だ。

動きが全てにおいてなめらかで、無駄な動きも無駄な力さえも感じない。

キリト自信の力を利用され、勝手に自滅していくような感覚に陥れられる。

 

 それでも前を見て、その圧倒的強者に立ちはだからなければならない。

今でも自分を待っている者がいる。

勝つと信じて、後に逢えると信じて待ってくれている皆がいる。

 

だからキリトは負けられないのだ。

 

 

その為には、どんなにせこいことでもやる気概が必要だ。

 

 

「き……さま……」

「はっ……ざまぁ……」

 

 キリトは接近戦を仕掛ける。

カウンターとして、自滅戦法を狙っていたようだが一瞬彼の者の視線が外れた瞬間、

エスカルゴンの武器『ドリームキャスト:ソードブレス』を捨身で突き立てる。

 

 

 ここで初めて銀河騎士のHPが表示される。

HPは黄色。半分にまで来ていた。

キリトはこのまま抉り、突き立てたままでダメージを与えようとしたが何か衝撃を受けて後方へ吹っ飛ぶ。

彼は空中で態勢を整え、地面に着地する。

 

 

「その勇気・蛮勇……真に素晴らしい。

 私と同じような資質を持つ者と出会え、狂喜の限りよ。

 だが今貴様とは、殺し合わなければならない」

 

「ああ」

 

 キリトはその言葉に肯定する。

実際そうしないと、先に進めない。

 

 再度彼らはインファイトを仕掛ける。

銀河騎士は本気を出したのか、見慣れない攻撃をしてくる。

 

 切っ先から光線を四方八方へ撃ち放ち、周囲の物体を崩壊させる『一閃:解』。

電撃を足元から噴出させる、『紫電』。

雷撃を剣状にし5本射出する、『雷靭:桜花』。

上記の雷撃の剣を多数展開し、大量に降らせる絢爛な剣嵐『雷靭:桜吹雪』。

連続攻撃からソードビームを出す、『明靭』。

空間を切り裂き、そこから必殺の極太光線を出す、『空靭:冥』。

剣にエネルギーを溜め、そこから竜巻を発生させる、『空靭:裂』。

剣にエネルギーを溜めて雷撃を纏わせ、回転切りを行う、『雷靭:螺旋』。

 

 全ての攻撃を、以前よりも更になめらかにつなげられていて、キリトは徐々に追い詰められていく。

通常攻撃以外の攻撃で使うのは、単発重攻撃の剣技のみ。

それ以外は死ぬ。

 

 また銀河剣士は鍔迫り合いではなく、ステップ回避から隙を見て攻撃する方法に変更している。

更にその片手にある盾で防いでは、カウンターをソードスキル[剣技]の発動タイミングに合わせて使用してくるので、

厄介極まりない。

しかもただの防御に、ジャストガードという概念がありプレイヤーの攻撃が全く通らない。

 

 このような事情があって、中々決着がつかない。

しかし徐々に相手の剣技に、隙があることに気が付いてくる。

結局相手もプレイヤーと違うようで同じ隙を持っている。

 

 プレイヤーはスキルを使うとクールダウンが発生して、攻撃後に隙が生まれる。

英雄は剣技を使っても冷却時間がないかわり、攻撃時の隙が生まれるという事になっている。

これらを踏まえたうえで、キリトは相手の隙を見て攻撃しちまちま削る。

 

最終的にこの剣士の撃破を完了する。

 

「ちまちまと……。まあよい、負けは負けだ。

 持っていけ」

 

 

 銀河最強の戦士は徐々に光り出して、ポリゴンの光を周囲に爆散させる。

そして砕け散ったポリゴンは、キリトの中に入る。

彼はメニュー欄上に表示されるものを見る。

 

『ギャラクティックナイト ソードスキル コンプリート』

『ハルカンドラ製レイピア オーバーロード』

『ハルカンドラ製シールド クロスエンダー』

 

 上記の物を無償で手に入れる事ができた。

さて彼はこのスキルを確認して、装備等の整理を行ってから新たに出現した台座に向かう。

台座は中央に出現。

 

「ふぅ……カービィ……」

 

 キリトは元の場所に戻る。

そこに誰もいないわけがない。

カービィとサチ。

彼等がいる。

 

「あ、キリト!」

 

 カービィが、彼の足音に気づいたのかぱっと顔を上げて駆け寄ってくる。

サチはその場に座り込んでいる。よく観察すればわかるが、目が虚ろで生気が宿っていない。

この事を感知するキリト。

 

しかしカービィに悟られない様に、顔を繕って彼等との再会を喜ぶ演技を行う。

 

「よかった!無事だったんだね!」

「ああ!」

 

 カービィはジャンプするが、キリトの身長の方が高いので届かない。

そこで彼は腰を曲げて、カービィとハイタッチする。

キリトは完全にロータッチだが。

 

「キリト、サチにも報告してよ」

「わっと、待ってくれよ」

 

 

 カービィは背を向けて、サチの下へ走り出す。

 

 

キリトを急かすがため、手をつないだまま。

 

 

故に中腰になりながら、カービィに引っ張られ走る。

 

 

カービィは徐々に、走る速度を上げる。

 

距離にして、まだ少し遠い。

 

 

サチはいまだに虚ろの瞳。

 

キリトはその様子に歯がゆい想いをする。

 

1プレイヤーとして、この世界から現実へ戻りたいと思い行動を起こした勇敢な者。

 

 

彼等の想いを踏みにじる、”彼等”に利用されるサチ。

 

 

お前たちはこんな事の為に、自分の身体を動かされたくはないだろう?

 

 

(俺は嫌だ。ならば猶更、ここで決める)

 

 エスカルゴンによる並列PCで、数手先を感じる。

その瞬間……。

 

 

「サチ、勇者様が迎えに来たよ―――」

「キリト、逢いたかった―――」

 

 

 いきなり生気が宿るその瞳。

そしてその笑顔。何かが宿っているとは思えない。

そんな想いが出てきてしまうが、キリトは躊躇わなかった。

 

 

敵は敵。

 

 

 

(会ったのは一瞬。だが、思い出は強烈だ。

 エスカルゴン達の努力は、決して無駄にしない)

 

 

 そんな想いで放った薙ぎ払い。

目標は二つの敵対勢力の排除と自己防衛。

 

 

エスカルゴンのPCで見ていたのは、サチの復活とその端麗な微笑みによる一時的な行動の束縛。

これらを見たキリトは『ドリームキャスト・ソードブレス』で、カービィが振り向き

サチが笑顔とその言葉を放った瞬間薙ぎ払った。

 

 

「あのさぁ……」

「……」

 

 

 カービィの肉体は、二つに掻っ捌かれる事無くジャストガードされる。

結界のようなものは、一瞬で展開されカービィに傷をつける事は叶わなかった。

 

 サチの頭が胴体と別れる。

頭はポリゴンと化したが、肉体が残っている。

 

 

サチの肉体はそのまま胸中央が膨らみ、そこから真っ黒な物体がサチの肉体を破裂させポリゴンとして散乱させながら出てくる。

 

 

「その程度の思惑、読めないと思ってるの?」

 

 一瞬の驚愕から失望へ、そして敵意を含むその歪んだ表情。

実にカービィと云える表情の豊かさに、キリトは奥歯をかみしめる。

 

 

 キリトはすぐに振り切った剣を、懐に戻して突きを放つ。

 

 

カァン…………

 

 

 乾いた音が、空間に響く。

 

 

 

 そして、『ドリームキャスト:ソードブレス』は砕け散り、虚空へ消え去る。

 

 

「あ……」

 

 

 キリトは驚愕する。

この世界の秘密にたどり着き、それを教えてくれた恩人の剣がはじけ飛んだという事に関してではない。

 

 カービィの右手に出現した、実体のわからない真っ黒なその武器にドリームキャストが弾かれた瞬間、

その武器に真っ黒な武器が纏う闇の靄が包み込み耐久値を一瞬にして抹消させた事。

 

これが何よりの驚きである。

 

 

「アハハ……キリト。

 マスターソード[創主の剣]を構えなよ。

 

 じゃないと、ボクのクレイジーソード[理壊の剣]に瞬く間に殺されるよ?」

 

 

 キリトは即座にカービィとの距離を離しながら、スローイングナイフでサチからでたリムラを破壊する。

そしてすぐに黄金色のマスターソードを出す。

 

クレイジーソードは、真っ黒な刀身に周辺に靄を出している長剣。

それを片手に持つカービィは、既に臨戦態勢を整えていた。

 

 彼の眼は据わっていて、そこにかつての温和で純真な優しい魔獣はいなかった。

 

殺し合いが始まる。

 

 




 鏡の世界が後少しで終わるので投稿。
UserAccessが+1されると、俄然やる気がでます。
そして、こんな妄想話に付き合って頂ける皆様に感謝を申し上げます。

 ……7万五千文字も情緒や恋愛もなく、盛り上がりもない話を楽しんでくださった酔狂な方々。
今後ともこの文字列を楽しんでいってください。

 それではまた足を運んでください。お達者で。


 

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