この世界のどこかを目指して-ソードアート・オンライン-   作:清水 悠燈

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第4話.聖槍の天使

「君もそのゲーム好きなんだ?」

「えっと……君はヤシロくん? うん、好きだよ」

「俺もそのゲーム結構やり込んでるんだ。よかったら一緒にやらない?」

「うん! 喜んで!」

 

 1束だけ三つ編みにし、腰まで伸びた綺麗な茶髪。

 整った顔に豊満な胸。

 男子達に《お姫様》と呼ばれる彼女は笑顔で言う。

 思い返せば、彼女はずっと笑顔だった。

 

 

 ──────────────────────

 

 

 腰まで覆う大きなフード付きマントを羽織る少女。

 フードの間から除く美貌には見覚えがあった。

 

「どうして君がここに……」

「んーっとねぇ……《黒の剣士》と互角に戦った剣士がいるって噂を聞いて、興味本位で来てみたんだよ! それがまさかヤシロくんだなんてねー」

「じゃなくてッ! どうしてSAOにいるんだ……」

「ふぇ? そりゃあ、一緒にやるって約束したの、忘れちゃった?」

 

 もう会えないと思っていた。

 運良くSAOにログインしないで済んだと思っていた。

 それなのに彼女は……《ユキナ》は満面の笑みをヤシロに向けた。

 

 

 

「そっかー。ずっと攻略組と同じ階層で戦ってたんだね」

「攻略組ではなかったけどな……」

「それでもすごいよ! 私なんて、攻略組よりずっと下の階層で戦ってるだけだったから……」

 

 路地裏に並ぶ建物の壁にもたれて座りながら、2人は今まであったことを話し合った。

 ソードスキルや心構えを教えてくれたツカサの死や、《体術》スキルを手に入れるために奮闘したことも全て。

 ユキナもヤシロと出会えなかった理由 (仲良くなったβテスターにすぐ始まりの街から連れ出されたから)や、仲間達の死、戦うと決めた決意も話してくれた。

 

「ねぇ、今日の攻略会議に私も出席していい?」

「ッ! ダメだ……! 君まで失ったら俺はもう立ち直れない……」

「ヤシロくんだって絶対に生きて帰れる保証ないでしょ? 私だってこれ以上失いたくないよ……」

 

 ユキナの目は真剣だった。

 それにヤシロは怯んでしまう。

 彼女は本気でこの世界から生きて帰りたいのだ。

 

「わかってくれないなら……私と勝負して。私だって戦えるって所を見せてあげるから」

「……わかった」

 

 少し悪いやり方だが、一瞬で終わらせて最前線では戦えないって事を教えてやろう。

 そう思って《Yes》のボタンを押した。

 

 

 

 2日連続のデュエル。

 もちろん《初撃決着》だが、ユキナのレベルもわからないので全力でいくとHPを削りすぎる可能性がある。

 

「手加減はしなくていいからね!」

「言っとけ……」

 

 カウントダウンが始まる。

 俺は左腰の鞘から愛剣を音高く引き抜いて構えた。

 対するユキナはインベントリから身長の1.5倍はあるであろう、神々しく輝く純白の槍を取り出す。

 フード付きマントを脱ぎ捨て、薄い服の上に金属の胸当てを着けた軽装で、美しい姿が露わになる。

 HPを削らずに倒す方法、武器を狙う事にした。

 カウントがゼロになる。

 

「ハァッ!」

 

 "ソニックリープ"で一気に距離を詰める。

 上手く行けばこれで決まるはずだ。

 だが……

 

「ていっ!」

 

 槍4連撃範囲ソードスキル"ヘリカル・トワイス"。

 ヤシロのソードスキルがいとも簡単に弾かれる。

 が、残る3回の攻撃は掠りはしたが決着がつかない程度に抑えることに成功した。

 しかし、槍のソードスキルの恐ろしさは《デバフ》にある。

 

「これでッ!」

「くっ……!」

 

 続く槍4連撃ソードスキル"リヴォーブ・アーツ"。

 回避しようとするも、身体が重く、うまく動けない。

 先程の"ヘリカル・トワイス"を受けたことによる《速度低下》のバッドステータスだ。

 回避は不可能と踏み、同じく4連撃の片手剣ソードスキル"バーチカル・スクエア"で迎撃する。

 だが、お互いに掠る程度のダメージを受けた。

 そして、ヤシロのHPバーの横に現れた黄色のアイコン。

 バッドステータス《パラライズ》。

 効果時間の間、ゆっくりと手を動かす以外の行動を禁止する最悪のバッドステータスだ。

 

「トドメッ!」

 

 槍6連撃ソードスキル"トリップ・エクスパンド"。

 トドメの一撃を無抵抗に受け、ヤシロは敗北した。

 

 

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 まさか本当に負けてしまうとは……

 ユキナはドヤ顔で倒れ込んでいる俺を見下す。

 

「どやぁぁぁぁ」

「まじかよ……」

「どやぁぁぁぁ!」

「前半はともかく、後半は本気だったのに……」

「どやさぁぁぁぁ!!」

「うるさいわ!」

 

 本気で悔しい。

 だが、ソードスキルの扱い方が上手すぎる。

 《速度低下》からの《パラライズ》。

 なにより、デバフも100%ではないのだ。

 《パラライズ》ともなると10回に1回が普通くらい。

 どこかに秘密が……?

 

「ん、デバフの秘密が気になるって?」

「心読めるのかよ!?」

「まあね! じゃなくて、秘密はこれ! この指輪!」

 

 そう言って見せてきたのは二枚の羽が施された綺麗な指輪だった。

 

「《戦女神の護輪》って名前で、デバフの発動率を100%にするの!」

「ぶっ壊れ!?」

「25層でトラップに引っかかっちゃって、そこを突破した先にあった宝箱に入ってた!」

「な、なるほど……でも、それは強いな」

「でしょ? もっと褒めてくれてもいいよ!」

 

 えへへぇ、と笑いながら豊満な胸を張るユキナ。

 ただえさえ薄着なのにそんなポーズをとるととてつもなくいかがわしく感じる。

 目の保養になります。

 それにしても……

 

「誰にそんな技術習ったんだ?」

「んとんと、《カナリア》さん! とっても強いランサーさんだよ!」

「へー……聞いたことないな……」

「攻略組じゃないからねー。でも、私の10倍は強いよ!」

「それはいつか戦ってみたいな」

 

 そんな話をしていると、時間はあっという間に過ぎた。

 12時を回ったところなので、そろそろ攻略会議の会場に向かう。

 その間もユキナの笑顔は絶えなかった。

 

 

 ──────────────────────

 

 

 第51層迷宮区最寄りの村にて攻略会議は行われた。

 集まったメンバーは見知った制服に身を包む《血盟騎士団》や他ギルドの精鋭、腕に自信のあるソロプレイヤーたちだ。

 

「今回はボス部屋を見つけた我々、《血盟騎士団》が指揮を取らせてもらう。 私はヒースクリフ。 《血盟騎士団》を率いるギルドマスターだ」

 

 そう言って名乗り出たのは真っ赤な鎧に身を包み、十字剣と十字盾を持った男。

 最近噂のユニークスキル《神聖剣》を持つ、キリトと同等、もしくはそれ以上の実力を持つ聖騎士だ。

 ユニークスキルとはたった1人しか所持していないスキルの事で、ヤシロ自身も見たことがない。

 そんな謎多きスキルを持つヒースクリフが今回のリーダー。

 

「今回はA、B、C、D隊に分ける。Aがタンク、Bがダメージディーラー、Cがポール、Dが取り巻きの処理だ」

 

 第51層のボスはHPが1本削れる事に3体の取り巻きモンスターを召喚する厄介なパターンらしい。

 ヤシロはB隊 (本当はD隊だったが、キリトが推薦してくれたため)、ユキナは槍使いなのでC隊になった。

 緊張の一戦がもうすぐ始まる。

 俺は汗ばむ両手を、1度強く握った。

 

「前層レベルの実力を仮定して、今回は出来る限り消耗を抑えるために《コリドー》を使う。コリドーオープン」

 

 濃い青色の結晶が砕け、目の前の空間に不思議な歪みが現れる。

 《コリドー》とは《回廊結晶》というアイテムの事で、使用すると登録した場所に転移できる便利なアイテムだ。

 もちろんモンスタードロップオンリーのレアアイテム。

 そんなアイテムを惜しげもなく使う聖騎士は一体何者なのか……

 歪んだ空間に続々とパーティが入っていく。

 それに続いて俺とユキナも突入する。

 

「緊張するね……!」

「死ぬなよ……」

「人の心配してる場合かなぁ? 君、私に負けたんだよー?」

「言っとけ……」

 

 歪みを抜けた先にあったのは巨大な扉だった。

 これがボス部屋への入口。

 頬を叩いて気合を入れ直す。

 やれるぞヤシロ。根性だ!

 

「作戦は伝えたとおりだ。行こうか。解放の日のために!」

「「「おぉーッ!」」」

 

 巨大な扉が重々しい音を立てて開く……


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