この世界のどこかを目指して-ソードアート・オンライン-   作:清水 悠燈

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第3話.斬り開く勇気

 ソードアート・オンラインには《片手剣》《両手剣》などの他にも様々なスキルがある。

 レベルアップと共にスロットが増える仕組みになっていて、好きなスキルをスロットに埋めることが出来る。

 今のヤシロが所持しているスキルは《片手剣》《武器防御》《隠蔽》《索敵》《壁走り》《軽金属防具装備》、もう1つ空きスロットがあるのだが、まだ悩んでいるところだ。

 攻略組の強いヤツ(例えばキリトみたいな)に聞くという手もあるのだが、少し躊躇ってしまう。

 突然に閃いた。

 左手をパーにし、右手をグーにして叩く。

 

「そうだ! 情報屋の《鼠》の所に行こう!」

 

 

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「そうだナ。そのスキルの構成ダト、キー坊に似てるしナ……《体術》スキルなんてどうダ? 情報料は安くしとくヨ」

 

 語尾が鼻声の情報屋 《鼠》のアルゴはそう言った。

 彼女はお金を払えばどんな情報でも可能な限り教えてくれる、情報屋という職業をしている。

 もちろん、貴重な情報はとてつもなく高い……

 不本意だが、情報を貰ってしまったのでコルを払い、教えてもらった場所へ向かう。

 

 

 

 そこは第2層の山奥だった。

 そこにいたヒゲのオッサンNPCに話しかける。

 

「入門希望者か?」

「あ、あぁ」

「修行の道は長く険しいぞ?」

「お、おぉう?」

「汝の修行はたった一つ。両の拳のみで、この岩を割るのだ。成し遂げれば、汝に我が技の全てを授けよう」

「わ、わけがわからん……!」

 

『クエストを受諾しますか?』と出たので、躊躇いながらも『Yes』をタップする。

 すると、NPCが壺と筆を持ってきた。

 

「ちょっと待て……何する気だお前……!? うわぁぁぁっ!」

 

 ザ・空手家のオッサンにヒゲを書かれた。

 ゴツイ見た目に反して意外と可愛く書きやがった。

 悔しいけどアルゴが消さない理由もわかる。

 

「そこの岩を『素手』で砕け。砕くまでそのヒゲは消せん!」

「はぁ!?」

 

 オッサンの指さす先には巨大な岩。

 ソードスキルを使っても"ヴォーパル・ストライク"くらい使わないと砕けなさそうな硬さだった。

 これを砕けとオッサンは言うのだ。

 正直無理な気がする。

 この時間をレベリングに使いたかった。

 そんな地獄のようなクエストが始まった。

 

 

 

 1時間くらいが経過しただろうか……

 全力で殴ったりしてみたが、ほんの少ししか砕けない。

 その上、ダメージは無いのに手がジンジンと痛むのはどういう訳か。

 茅場晶彦はとんでもないドSに違いない。

 そう思いながら岩を小突いたりしているのだが、びくともしない辺り嫌になる。

 

「これで《体術》スキルが弱かったら鼠のヤツ……許さん」

 

 恨むように呟いてペシペシと殴り続ける。

 先が思いやられるけれど、頑張ろう。

 そう思って岩を思い切り蹴り飛ばした。

 

 

 ──────────────────────

 

 

「そうか、お前も《体術》スキルを」

「まぁ、うん。辛かったよ」

「わかる。俺もめちゃくちゃ疲れた。なんせ3日間も篭ってたからなあ」

 

 第50層のとあるレストランで俺とキリトはお酒 (実際は酔ったりしないが、飲みすぎると《酩酊》というバッドステータスになってフラフラする)を飲みながら喋っていた。

 久しぶりにくつろぐつもりで訪れたレストランにたまたまキリトがいて、命を救ってもらったお礼に奢ると言ってしまい今に至る。

 何故かキリトは《鼠》から美味しいご飯のお店の情報を買っているらしい。よっぽど食べ物に執着があるのか、このお店もオススメらしい。

 

「ん~うまい。1日の疲れが吹き飛ぶよ」

「確かにうまいな。ここ最近、熟練度上げの為に迷宮区に篭ってばかりだったし。たまにはこういうのもいいな」

「そうだろ? 時には休憩も必要だからな」

 

 そう言ってグビッとリンゴの爽やかな香りのするお酒を飲む。

 見た目はただの少年、俺と同じくらいの少年にどれほどの期待がかかっているのか……

 俺は《体術》スキルの情報を買うついでに、キリトについての情報も少しだけ買った。

 《黒の剣士》《ビーター》、様々な二つ名を持つ、攻略組きっての最強ソロプレイヤー。

 ラストアタックボーナスをほぼ全てのボスから得ている実力は誰にも負けないという。

 得られた情報は少ないが、ここでキリトと出会えたのも何かの運命かもしれない。

 今の自分の実力を試すチャンスだ。

 

「《黒の剣士》キリト、頼みがある」

「ん、なんだ?」

 

 右手を振り、メニューを呼び出し、目的のボタンを押す。

 すると、キリトの目の前に1枚のウィンドウが出現した。

 

「俺と勝負してくれ」

「断る。あんまり手の内を明かしたくないんだ」

 

 即答だった。

 だけど、引き下がるわけにはいかない。

 

「今の実力を証明しなくちゃならない……ツカサのためにも……」

「……ッ! なるほど。君がツカサの弟子って訳か」

「あ、あぁ。確かにツカサにソードスキルを教えてもらったけど……」

「そうか……わかった。その勝負を受ける」

「ど、どうしていきなり……?」

「あいつには借りがあるんだ。それを返せなかったからな……」

 

 そう言ってキリトは《Yes》のボタンに指を載せた。

 

 

 ──────────────────────

 

 

 レストランを出てすぐの一本道の大通り。

 そこでデュエルが行われる事になった。

 ルールは《初撃決着モード》。

 ソードスキルを一撃叩き込むか、HPを半分まで削れば勝ちだ。

 お互いに剣を構え、睨み合う。

 2人の間に開始までのカウントダウンが始まる。

 

「負けない……ッ!」

「俺だって、あいつに負けで借りを返すつもりは無いさッ!」

 

 カウントがゼロになった。

 俺は片手剣単発突進ソードスキル"ソニックリープ"で一気に距離を詰める。

 対する《黒の剣士》も"ソニックリープ"で突撃してきた。

 ぶつかり合う2本の剣が火花を散らして均衡する。

 俺は無理矢理剣の方向を変え、キリトの剣を受け流す。

 そこからは凄まじい展開となった。

 噂を聞きつけて集まったプレイヤー達が唖然としている。

 それもそうだ。

 2人の技量がほぼ互角でとんでもない速度での斬り合いになっているのだから。

 

「《黒の剣士》と互角!? 誰だよあいつ! 全く無名の剣士じゃねぇか!」

「僕も知らない! でも、すごい戦いだよこれ……!」

「ニャハハハハッ! あいつ、なかなかやるナ。キー坊も今回はキツそうダ」

 

 観衆の声が遠ざかっていくような心地よい感覚。

 自分の剣とキリトの動きしか見えない。

 速度がまだまだ上がる。

 上がる上がる上がる。

 キリトもそれについてくる。

 お互いのHPがジリジリと削れていくが気にしない。

 一瞬、ヤシロの速度がキリトを上回った。

 

「ここだッ!」

 

 片手剣最上位ソードスキル"ノヴァ・アセンション"10連撃。

 ヤシロの剣が紫色のライトエフェクトを纏って輝く。

 その瞬間、キリトが動いた。

 ソードスキルを放つ前の一瞬の隙を突く完璧なタイミング。

 体術スキル"弦月"。

 相手を蹴り上げる一撃だ。

 ヤシロの身体がへの字に折れ、姿勢を崩されたことによってソードスキルによるシステムアシストが無理矢理解除される。

 高速で行われていた戦いには大きすぎる隙だった。

 

「ハァッ!」

 

 蹴り上げられた事に気づいた時には、キリト渾身の"ヴォーパル・ストライク"が目の前に迫っていた。

 

 

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 翌朝、ある知らせがヤシロの元に届いた。

 差出人はキリト。

 内容は、

『第51層のボス部屋が見つかった。今日の昼13時から攻略会議やるから遅れないように。』

 というものだった。

 遂にボス攻略が始まる。

 ヤシロにとって初めてだ。

 装備類の準備は完璧。

 愛剣 《エングレイブ・ザ・ソード》も知り合いの鍛冶屋に強化してもらい好調だ。

 

「軽く散歩でもしてくるか……」

 

 独り言を呟いて宿屋から出ると、そこには数十人のプレイヤーがいた。

 

「な、なん……!?」

「「「おぉぉぉぉッ!!」」」

 

 昨晩の《黒の剣士》とのデュエルはやりすぎたらしい。

 

 

 

 観衆から逃げること30分。

 人通りの少ない路地裏に逃げ込むことに成功したヤシロは肩で息をしていた。

 

「こ、こわっ……」

「ねぇ、君ってもしかして……」

「ひゃぅ……ッ!?」

 

 誰も居ないと思っていたのに突然話しかけられ変な声が漏れてしまった。

 声の主の方を見ると、そこにいたのは……

 

「やっぱり! ヤシロくんだ!」

「ど、どうして君が……」

 

 探しても見つからなかった彼女だった。

 


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