この世界のどこかを目指して-ソードアート・オンライン-   作:清水 悠燈

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第2話.ひとつの限界

『ソードスキルってもんは、こーやってモーションを起こしたら発動するんだ』

 

 そう言ってツカサは剣を片手に目の前のモンスターに向かって片手剣単発ソードスキル"スラント"を発動させた。

 

『だが、システムのアシストに頼ってるだけじゃ普通の威力しかでねぇ』

 

 システムに頼って一撃目の"スラント"を目の前のプラント型モンスターに叩き込んだ。

 相手はまだ存命なのか小さな蔓を振り回している。

 

『今のがアシストだけの威力。あ、そいつの処理任せたわ。そんでだな、次が俺なりの工夫を加えた"スラント"だ』

 

 ヤシロが瀕死のプラント型モンスターにトドメを刺す。

 そして、ツカサを見た。

 ツカサの剣が纏うライトエフェクトが先程よりも眩しい。

 

『ハァッ!』

 

 気合いと共に打ち出された"スラント"は一撃目と同じ場所を斬ったはずなのだが、プラント型モンスターは断末魔を上げて爆散した。

 

『こんなもんだ。とまあ、なにも工夫だけが大事って理由でもねぇと俺は思うぜ? 例えば……そうだな、生き残りたいっていう意志の強さとかな』

 

 ツカサはそう言いながら左腰の鞘に剣を収めた。

 右手をヒラヒラさせながら続ける。

 

『俺がわかるソードスキルの工夫はβテストの時に使えた技だけだ。それだけならお前に教えてやれる。だがな、ソードスキルはまだまだあるんだ。それ以降は自分の力で強くなれ。それが出来たら弟子として合格だな』

 

 この時ツカサが浮べた笑顔を忘れる事はなかった。

 

 

 ──────────────────────

 

 

 こんな時に何を思い出しているんだろう。

 走馬灯ってやつかな。

 無限に感じたこの戦いももう終わる。

 プラント型フィールドボスのHPはまだ5割残っているが、俺のHPは残り3割、レッドゾーンに突入した。

 今も敵の攻撃が体を掠める度に削れていく。

 

「51層の中ボスでも俺1人相手にその程度かッ! そんなもんでよくツカサを……ッ! ツカサをォォォォッ!」

 

 叫びながら上位ソードスキルを放つ。

 片手剣7連撃ソードスキル"デッドリー・シンズ"。

 強力な連続攻撃に、流石のフィールドボスもスタンする。……はずだった。

 

「な……ッ!?」

 

 プラント型フィールドボスは『この程度か?』と言わんばかりに咆哮を放ち、強力なソードスキルの代償に長い硬直時間に縛られているヤシロに蔓を打ち付ける。

 吹き飛びながら自分のHPを見ると、ゆっくり減少していく様子が見えた。

 このまま0になって死ぬのだろうか。

 

『生き残りたいっていう意志の強さが大事なんだ』

「ッ!?」

 

 HPの減少が止まった。ほんの少しを残して。

 そして、システムからのメッセージが届いた。

 

『片手剣熟練度が1000になりました。』

 

 可能性を見出した。

 最上位ソードスキルなら、きっとどうにかなるはずだ。

 正直可能性は低い。

 ソードスキルの起こし方もわからないのだから。

 でも、やらなければ。

 フィールドボスは嘲笑うように溶解液を周囲にぶちまけている。

 立ち上がって距離を取って新しく得たソードスキルの名前と初動モーションを確認した。

 目の前にいるモンスターを睨む。

 やってやる。

 ツカサが残したアインクラッド攻略の希望の1人として。

 

「ウラァァァァッ!!」

 

 片手剣最上位10連撃ソードスキル"ノヴァ・アセンション"。

 超高速で放たれた連続攻撃にフィールドボスも絶叫を上げる。

 ボスのHPが残り1割をきった。

 だが、まだ残っている。

 

「トドメを……ッ!?」

 

 最後の一撃を放とうとして、ミスをした。

 思い切り踏み込みすぎたのが原因でコケたのだ。

 大きな隙。確実に一撃は加えられる隙を作ってしまった。

 

「こんなミスで……」

 

 死んでしまうのか。

 フィールドボスの蔓がすぐそこまで迫ってきている。

 もう、ここで終わりなのだ。

 

「終わるのか……」

 

 迫る死を目の前に覚悟を決めて目を閉じる。

 その瞬間、風が凪いでフィールドボスがポリゴンになって爆散した。

 真紅のライトエフェクトと共にフィールドボスにトドメを刺した黒ずくめの男を見上げる。

 片手剣重単発ソードスキル"ヴォーパル・ストライク"。

 威力、速度と共に俺の"ヴォーパル・ストライク"を遥かに超えて、限界までブーストされている。

 生きてる……助けられたのか……

 

「大丈夫か? この辺りのソロは危険だぞ。ヤシロ、か? 安全マージンはしっかりとってから挑めよ」

「あ、あぁ……助かった……ありがとう、キリトか」

「あぁ。最上位ソードスキルが使える実力ならいつかボス攻略で会うかもな」

 

 プレイヤーネーム《キリト》は右手の漆黒の片手剣を左右に振り払い、背中の鞘に差し込み先へと進んで行った。

 黒いロングコートに黒の片手剣。見た目のインパクトが凄いなと思いながら立ち上がる。

 改めて生きているという実感を感じた。

 生き長らえてしまった。そう思ってしまう。

 それでも、生きているのだからやれることはある。

 

「次のボス攻略に参加する……」

 

 そう心に決めて街に帰った。

 


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