艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相

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第七話 鈴谷マジ天使

 衝撃のファーストコンタクト(電撃)から数分後、マッドサイエンティスト明石の実験室から外に放り出された石壁と新艦娘の鈴谷は廊下の椅子にこしかけて話し合っている。

 

 鈴谷は最上型重巡洋艦の三番艦、重巡洋艦鈴谷の艦娘である。

 

 鈴谷の見た目は、お嬢様学校のブレザーじみた服をきた長髪の女の子だ。服装のせいもあって年の頃は女子高生位に見える。

 

 特筆事項はその髪色だろう。夏の青空を想起させるような透き通る青色の髪は、思わず見とれてしまいそうになるほど美しい。

 

 が、現在雷撃の余波で服はところどころ焦げているし、髪はほこりまみれで見る影もない。

 

「私は鈴谷だよ、ここは色んな意味でにぎやかな艦隊だね」

「いや、ホントごめんね」

 

ペコペコと頭を下げる石壁に、鈴谷は溜息を吐く。

 

「まさか背後から首を180度回されるなんて死に方するとはおもわなかったよ、艦娘になるときも電撃で黒焦げにされるし……マジどうなってんの?ショッキングピーポーマックスだよ?」

「……記憶ガンガンのこってるのね」

「全部残っている訳じゃないけどねー、でも首大回転は衝撃的すぎて覚えてるよ」

「マジかー……」

「まぁ、提督も黒焦げになって倒れてたし、もういいよ」

 

 手をヒラヒラさせながら笑顔でそういう鈴谷に、石壁の罪悪感が若干軽くなる。

 

「おおう、ホントごめんね?これからよろしく、僕の名前は石壁、この泊地の総司令長官だよ」

「え!?泊地だったのここ!?うそ、どこが!?これじゃペリュリュー島かサイパン島の地下要塞じゃん!?」

「ですよねー」

 

 ちなみに、ペリュリュー、サイパンともに陸軍の要塞陣地があった為、太平洋戦争の陸上戦闘においては屈指の激戦地の一つである。

 

 ヨミガエルダー!!コノデンゲキデー!!!

 トォォ↑オウ↓⁉

 

「あ、熊野だ」

「毎回あれ言わなきゃダメなのか……」

 

背後の臨時工廠から明石と熊野(推定)の声が響く。先ほどの電撃を思い出して二人揃ってげんなりとする。

 

しばしだべっていると、室内から熊野がでてくる。彼女は最上型重巡洋艦四番艦にあたる艦娘である。服装は鈴谷のものと同一のもので、顔の造形や声の質は姉妹艦だけあってよく見聞きすると似ている。

 

しかし、熊野は話し方も髪型もお上品にまとまっており、お嬢様らしいお嬢様といった様な雰囲気がする艦娘であった。

 

「ごほっ、御機嫌よう、重巡、熊野ですわ」

「あははー、熊野も黒焦げじゃん」

 

が、鈴谷と同様に今は見る影もない。まるで没落したお嬢様の様だ。

 

「ひ、ひどい目にあいましたわ……部屋で休んでたらいきなり黒づくめの怪人に首をきゅっとやられてしまいまして……そしてこれ、やってられませんわ……」

 

はぁ、とため息を吐く熊野、どうやらこちらもばっちり記憶が残留しているらしい。

 

「あはは、でもこれで南方棲戦鬼のしごきに耐えて働くひつようないんだよねー」

「それだけは救いですわね」

「どんだけ辛いんだ深海勤務」

「文字通りのブラックだよねー」

「上司の機嫌が悪いと46cm砲弾が飛んでくる様な職場でしたわ」

「パワハラってレベルじゃねーぞそれ」

 

ヨミガエルダー!!コノデンゲキデー!!!

⁉⁉⁉⁉

 

「お、次はだれかなー?」

「そういえば、部屋の隅に軽巡(死体)が三体ころがってましたわね」

「じゃあ軽巡かな」

「やっぱり言うんだあれ」

 

***

 

「川内参上!夜戦(ゲリラ戦)ならまかせておいて!」

 

 一人目は川内、川内型軽巡洋艦三姉妹の長女で、ツインテールの元気な少女だ。年の頃は中学生高学年から高校生ぐらいだろうか。活発な美少女という印象をうける女の子だ。

 

余談だが、初見で彼女の名前を「かわち」ではなく「せんだい」とよめた人はどれだけいるのか個人的に気になるところだ。

 

「あの……神通です……どうかよろしくお願いいたします……」

 

 二人目は神通、川内型の次女だ。おどおどとした雰囲気で、長髪が魅力的な穏やかな女の子である。

 

「艦隊のアイドル!那珂ちゃんだよー!よっろしくー!」

 

 三人目は那珂ちゃん、川内型の三女だ。髪を左右にお団子でまとめた髪型をしており、花の咲くような元気な笑顔が魅力的な女の子だ。次女の神通とは対照的な、キャピキャピ(死語)とした女の子である。

 

「気のせいかな……一人ルビがおかしかったような気がする」

 

閑話休題

 

石壁が鎮守府の現状をかいつまんで話すと、約一名を除いて室内にどんよりとした空気が漂う。

 

「うすうす気が付いてましたけど、この泊地もどきにはエステどころか、コンビニすらないんですわね」

「うわ……正直ひくわ……」

「つまり、夜戦(ゲリラ戦)やりたい放題ってわけね!!うでがなるねー!!」

「ね、ねえさん……」

「あはは、川内姉さん楽しそうだねー」

 

 

バトルジャンキー丸出しの川内といつも元気な那珂ちゃん以外天を仰いでいる。

 

 

「あはは……まあ、口が裂けても快適とは言えないけど、ようこそショートランド泊地へ」

 

 石壁はそういいながら、入口の方へ歩き出す。

 

「じゃあ、設備は少ないけど、要塞を案内するからついてきてくれるかな?」

 

***

 

「まずは今いるこの場所が、この泊地の工廠区画だよ、統括責任者は明石、現在の主な任務は武装の生産だよ」

 

そういいながら、工廠の武装開発室の扉を開く。そこには大勢の妖精さん達がひたすら12cm砲を量産していた。

 

「お、総司令長官殿」

 

石壁の存在に気が付いた工廠妖精がとてとてとこちらによってくる。顔には皺があり、声からも相当年のいったおやっさんといった雰囲気だ。

 

「やあおやっさん、進捗はどう?」

「まあ今のところは予定通りって所だ、急ピッチで増産しているが、なにせ数が数だからなあ、相当時間がかかるぞ」

 

おやっさん妖精はそういいながら、顎をなでる。その時、石壁の背後にいる鈴谷達に目が行く。

 

「お?新入りか?」

「ああ、今日うちに来たんだよ。みんな、こちらの妖精さんはこの武装工廠のリーダーで、工廠全体の副管理者だよ。みんなからはおやっさんっていわれているんだ」

「へっ、そんな大層なもんじゃねえよ、機械いじりが趣味の陰険オヤジさ」

 

 鈴谷達はそんなおやっさんに口々挨拶をする。石壁は顔を合わせたついでに、軽く現状を問う。

 

「新兵器の開発状況は?」

「そっちはもっと駄目だ、なにせゼロから作るんだからなあ、せめて現物でもありゃあ、だいぶ違うんだが……」

 

 おやっさん妖精がそういうと、鈴谷が「新兵器?」と呟いた。

 

「ねえ提督、新兵器ってどういうこと?」

「あー……実はうちの工廠は艦娘が作れないうえに、武装も殆ど作れないんだ……」

「ええー……なにその無理ゲー……」

 

 鈴谷はあまりにも無残な状況に顔が引きつる。

 

「せめて20㎝連装砲くらいは準備したいんだけど……そんな重装砲(*比較対象12cm砲)もっている艦娘うちにはいなくて……」

「鈴谷もってるけど」

「そうだよなー、もってるよなー、そんな都合のいいこと……え?」

「いやだって、鈴谷重巡洋艦だし。よかったら使う?はい」

 

そういって、鈴谷が艤装を展開する。

 

艤装の一部の部分にあるカバーを外すと、武装スロットからカードを抜き出してあっさりと渡してくる。

 

カードのサイズと厚さは板チョコほどで、カードというよりはスマートフォンの様なタブレットに近いかもしれない。

 

この世界の艦娘の武装は、完成するとこの様なカード形態としてあらわれる。艦娘が使う場合、艤装のカードスロットに武装カードを差し込むことでそのカードの力を艤装に充填して使うのだ

 

 また、もう一つの特徴として、持っている人物が念じると、実物大の艦砲の形態にも変更できる。個人で砲弾を装填できる12cm砲の様なものならまだよいが、うっかり戦艦の砲など実体化しようものならその場にいる全員が押しつぶされたり、建物が倒壊しかねないから注意が必要だ。

 

 現在要塞のいたるところに設置されている12cm砲は全て実物大の艦砲を改造して設置している。完全に余談だが、石壁は一度誤って12cm砲を実体化させて押しつぶされた事がある。

 

「そ、そんなにあっさり渡していいのか!?大切な武装だろう!?」

 

 石壁が両手で大切に武装カードをもって鈴谷に問う。艦娘は初期装備の武装に思い入れがあることが多く、提督が相手でもあまり初期装備には触らせてくれない事が多い。粗末に扱った日には艦娘の超パワーでぶっ飛ばされかねない程だ。(逆に全然気にしない連中もいるが)

 

「武装の開発には装備の根本的調査が必要だ!カードから『実体化』させる必要があるんだぞ!?いいのか鈴谷!?」

 

 しかも、武装カードは一度具現化させると『二度とカードには戻らない』という事をしっている石壁にとって、鈴谷の行動は驚きであった。

 

「いいっていいって、気にしないでよ提督、これで皆が助かるなら私の装備も喜んでくれるよきっと」

 

そういってにこやかに笑う鈴谷に、石壁は後光が見えたような気がした。

 

「やだ、めっちゃいい娘だこの娘!天使か」

「ああ、この地獄の泊地に菩薩様があらわれたな!」

 

 石壁とおやっさん妖精が感激していると、それを見ていた妖精さん達がワラワラと集まってきて鈴谷を称えだした、妖精さんも連日連夜のデスマーチで若干精神がおかしくなっていたらしく、先の見えない開発状況に光明が差した喜びもあって、あっという間に工廠は鈴谷コールで埋まってしまった。

 

『す・ず・や!!す・ず・や!!』

 

「ちょ!?や、やめて本気で恥ずかしいから!?」

 

 やってきて数分で工廠のアイドルになってしまった鈴谷に、那珂ちゃんは戦慄に目を見開いていた。

 

「アイドルは那珂ちゃんだもん!!ま、負けないんだから!!」

「まって意味わかんないし!!鈴谷アイドルになった覚えないし!!」

 

 涙目の那珂ちゃんに、顔を赤らめる鈴谷。止まない鈴谷コール。工廠の混乱は収まる気配がない

 

「つ、次いこう提督!!早く早く!!」

「あ、うん、はい」

 

 耐えきれなくなった鈴谷に促され、そそくさと工廠を出ていく一同を、工廠妖精たちは笑顔で見送った。

 

 余談だが、この時鈴谷が20cm連装砲を渡してくれた事で、工廠妖精達はこの砲の事を『鈴谷砲』と呼ぶようになり、工廠の奥で現物は大切に保管されることになる。数十年後、この砲は博物館に寄贈され、工廠の妖精がこっそり作っていた鈴谷の銅像と一緒にこの時渡した連装砲が「鈴谷砲」という名前で展示され、教科書にまで記載される事を、この時まだ誰も知らなかった。

 

 

 

***

 

 




友人の指摘で今回の武装のカード化についての補足説明を活動報告に記載しておりますので
もし気になったり違和感を感じた方がおられたら閲覧してくださいませ。
なお、読まなくても本編には一切影響はございません。

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