ここまで来れたのは、偏にここまで応援してくださった皆様のおかげでございます。
色々と至らない点ばかりではございますが、完結に向けて精一杯頑張りますので、どうかこれからも拙作をよろしくお願いいたします。
遥かな未来のとある教室に、授業の終了を示すチャイムが鳴り響いた。
「おっと、今日はここまでにしよう。皆お疲れ様」
授業を終えた男性教諭が職員室へ帰ろうとすると、とある女生徒が彼を捕まえて質問をする。
「先生、少し質問してもいいですか?」
「なんだい?」
「テレビで、石壁提督の功績になっている事の多くが、実は石壁提督の功績じゃないものが混ざっていると聞いたんですが。どうなんでしょうか」
女生徒のその問に、教諭は頷いて教科書の石壁について記述されている項目を開く。
「そうだね、その意見は、正しいとも言えるし、正しくないとも言える」
「というと?」
「例えば教科書の此処を見てほしい、『石壁提督は群狼作戦を通して政治工作を行い、大日本帝国を揺さぶりをかけた』と記述されているが、厳密にはこれは彼の部下達が独断で行った内容であり、石壁提督はそれを追認、利用しただけだったと言われている。だけど実際に記述されているのはたったこれだけであり、多くの人もこれが正しいと思っている」
男性教諭が指し示した場所を女生徒が見つめる。
「では聞くが……ここまでの話を踏まえた上で、君はこの記述は『間違っている』と思うかい?」
「えっと……事実と違うなら、間違っているんじゃ?」
女生徒の答えに教諭は頷く。
「うん、確かに間違っている。だけど、これはこれで間違いじゃないんだ」
「間違っているけど、間違いじゃない?」
意味が分からないという女生徒に、男性教諭は穏やかに続ける。
「石壁提督は確かに大勢の人達の力を借りて事を成した。だけど、それは逆説的に彼が大勢の人達に力を貸してもらえる程の人物であった証左でもあるんだ」
「大勢の人たちの行為が石壁提督の功績になっているのは、彼が仲間の行為に対してちゃんと責任を取っていた事を意味する。自分以外の行動に責任を持つというのは、当たり前のようでとっても難しいんだよ」
言うは易し、行うは難し。部下の行動に責任を持てる上司しか居ないなら、世の中はもっと生き易くなる筈である。
「君にはまだ分からないかもしれないが……功績は行動を起こした個人に帰属し、名声は責任を負った責任者に帰属する。個人の功績に適切に報いる責任者が、その対価として名声を得るんだ。一見ずるいように見えるけど、石壁提督は部下の行動の責任をとったから、こうして彼には己の行動以上の名声が残ったんだ」
教科書にのっている石壁の功績を一つ一つ指でさしながら、教諭は続けた。
「そして……全ての行動に責任をとったからこそ……彼には、それだけ汚名が多いんだよ」
その時、開いていた窓から風が舞い込み、誰かの教科書が風に煽られて捲られ始めた。
時代を早送りするように、歴史の教科書が捲られていく。
【大東亜戦争】【大東亜共栄圏成立】【絶対国防圏の防衛成功】【東郷提督の死】【痛み分けの日米講和】
第二次世界大戦を超え
【勝者なき講和条約】【戦後大日本帝国】【日米同盟】【国共内戦】【中華民国の勝利】【朝鮮戦争】【日米連合軍仁川上陸作戦】【史上初の核攻撃】
戦後世界を歩み
【高度経済成長】【財閥経済の固定化】【南北統一】【EU成立】【東西冷戦】【大英帝国から英連邦へ】
新たな世界秩序が作られ
【バブル景気】【プラザ合意】【バブル崩壊】【開かれた鉄のカーテン】【失われた20年】
そして世界は混沌へと陥る
【深海大戦勃発】【本土奪還作戦】【終わらない戦争】【南方棲戦鬼討伐】【揺らぐ大日本帝国】【超大国の歪】【鉄底海峡攻略】【最後の英雄】
既に歴史となった石壁達の、戦いの記録の行きつく先へーー
【大日本帝国が滅んだ日】
ーー時計の針は、巻き戻る。