あらすじ
神「異世界転移させてあげます」
私「マジで?」
神「特典はFGOサーヴァントガチャです」
私「マジで?」
ス パ ル タ ク ス


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それは……マッスルだった

 『迷宮都市オラリオ』。

 それは神が、冒険者が多くの物語を紡ぐ街。

 神が人に恩恵を与え、そして人が未知を探求し、望みに向かい歩み出す。

 

 そんなオラリオの町は、今日もいい天気であった。

 快晴と言ってもいい晴れ空。空を楽しそうに飛び交う鳥達。穏やかで温かい風。眩しく輝く太陽。

 

 でもダンジョンに潜れば、そこらへんは全く関係ない話である。

 何度上を見ても壁しか見えない。空気はじめっとしていて、暗くて、微妙にかび臭い匂いもする。

 いくらインドア派な自分でも、この環境に長く居たいとは全く思えない。暗くて不安だし怖いし、化け物で溢れてるし、トイレとかもう悲惨だし。

 

 そして何よりも問題は……。

 

 「ふははははははははははははははははははははははははッ!」

 

 マッスルである。

 

 マッスルとは何か。深い意味は無い、筋肉以外の何の意味があるというのだ。

 そこに灰色の筋肉の塊がいる。身長は2メートルを超える巨体。そう、身長が高いノッポではなく、はち切れんばかりの筋肉の鎧に覆われた巨体だ。

 

 青白く巌如き体。全身を覆う傷跡。喜色に光り輝く瞳。

 そして芸術的な大胸筋。奇跡のシックスパック。黄金の比率の三角筋と広背筋。蠱惑の……上腕二頭筋。語りつくせぬ筋肉。そう筋肉だ。マッスルだ。

 

 その全てはボディービルダーのような、美しさを求めたが故の『筋肉』にあらず。

 その全ては無窮の鍛錬の中で、果て無き闘争の中で、満ち溢れた愛の求道の中で得た『真実』の『マッスル』なのだ。『マッスル』であり、『筋肉』なのだ。

 

 故に、その男の筋肉はオールマイティ。全ての能力を凌駕する。ただ足は遅い。魔力は無い。どうでもいいだろう筋肉さえ、マッスルさえあれば。

 

 マッスルが群がるコボルトを踏みつぶす。

 マッスルがゴブリンを殴る。

 マッスルがダンジョンリザードを抱きしめて骨を破砕する。

 

 さらにマッスルが進撃する。

 マッスルに後退は無い。終わりが無い困難に筋肉が歓喜するからだ。喜びそのままに更なる下階層へ突撃。

 

 マッスルがフロッグシューターを押し潰す。

 マッスルがウォーシャドウを引きちぎる。

 マッスルが、マッスルが、マッスルが、マッスルが、マッスルが……。

 

 ……おい、これいつ止まるんだ。

 

 「共に虐げられた者達を解放するのだ!行くぞぉ!!ははははははははははははははははッ!」

 

 笑いすぎだ。地下迷宮故に、反響して耳が痛い。てかめっちゃ香ばしいマッスルスメルがする。換気したい。でも窓がない。立ち込める汗の香りと血の匂い。道に打ち捨てられた無残なモンスターの山。

 

 本来であれば、こいつらから『魔石』と呼ばれる換金アイテムを回収しなくちゃいけない。

 自分は無一文である。お金がない。今日の宿がない。ご飯もない。無一文なので武器もない。『魔石』を回収しなければ、明日の命どころか、今日の命すら危うい。

 

 しかし、回収する暇は無いのだ。

 

 何故かって?

 

 それはマッスルが止まらないからだ。自分は何の取り柄もない一般男性であり、こいつみたいに耐久と攻撃性に優れたマッスルを持っていない。魔法なんて最近存在を知った、当然使用不可。戦闘の技術?平和国家出身に何を望んでおられるのですか。

 

 そんな自分が戦闘なんて出来るわけがないのである。ダンジョンを止まることなく突き進むマッスルに、剥ぎ取りしていて置いていかれたら死んでしまう。

 

 じゃあマッスルを止めたらいいじゃないかって?

 

 ところがどっこい、このマッスル止まらないのだ。

 

 自分の同意の下に彼は進撃しているのではない。自分は止めたい、てかもう帰りたい。しかし彼は全力全身で爆進するのである。自分の意思は無い。自分マジで空気。

 

 そこにはマッスルを殺さんとする魔物がいる。マッスルを滅ぼさんとするダンジョンの意思がある。彼らはマッスルを数で取り囲み、傷つけ、数と時間により圧殺しようと試みる。

 

 此方は傷を癒す薬は無い。お金が無いからだ。

 

 此方にまともな装備は無い。お金が無いからだ。

 

お金も無く、水や弁当も最低限。長期戦は不可。進めば死。おまけに来たばかり故に、ダンジョンの知識もない。

 

 全てが自分たちの敵だ。勝利の栄光・美酒など得られない、絶望的な苦難。必然的な敗北がそこにはある。

だからこそ、目の前のマッスルは熱狂して喜ぶ。喜んでその敗北に突撃する。

 

 そうすれば勝てるのか。お金が、栄光が手に入るというのか。そんなことは無い、やがてはダンジョンに飲み込まれて全てを奪われるだろう。心も、命も、未来も、人としての尊厳さえもだ。

 全てを奪われる。だからこそマッスルは、この男は進むのである。

 

 この意味が解るだろうか。俺は解らない。つまりそういうことである。

 

 このマッスル頭おかしいのだ。ドMで、狂ってて、某ウィキでは「呼んだら(同伴したら)敗北確定」って書かれてる狂戦士なのだ。

 

 元々そこらへんは知っていたし、解っていたつもりになっていた。そう、「つもり」になっていたのだ。

今、俺は頭ではなく、心で理解した。本当の意味で理解させられた。「あ、こいつあかん奴や」と。

 

 良い笑みでゴブリンの背骨をへし折ったマッスルさんに、恐る恐る近寄る。

 吐血を化粧にした笑顔で此方を見るマッスル。こんなに嫌な笑顔が存在するとは、今日という日まで考えもしなかった。

 

 あの、マッスルさん。そろそろ帰ってもいいのではないでしょうか。ほら、受付のお姉さんも、初心者は様子見で一階層で経験積んでって言ってましたよね?

 今、俺の記憶が正しければここ六階層なんだけど。受付のお姉さんに怒られるってか、卒倒されるっていうかですね。あの、ね?

 

 「おお、同胞よ。ここは圧制者の城である。奴らに滅びを与えようではないか」

 

 そうだね、圧制だね。

 

 「ああ、圧制だ。奴らは僅かな恩恵で目を晦ませ、多くの者を引き寄せてはその心を蝕み、堕落させて支配する。故に、私達は滅ぼさなければならない。いいね」

 

 あ、はい。

 

 諦めて大人しくマッスルの後方に戻る。

 マッスルは新たに壁から生まれたモンスターへ、嬉々として向かっていった。

 

 ああ、この会話にならぬ会話を何度繰り返したことか。気が狂ってるので全く言葉が意味をなさない。意味をなしても気にしない。ダメだこれ。

 

 おまけにこのマッスルは攻撃全部受け止めるもんだから、全身傷と血まみれである。 それは顔も例外ではない。その顔で、あんな不気味な微笑みを向けられるのだ。

 怖くて何も言えなくなる。こいつやっぱり頭おかしい。

 

 そいうわけでマッスルは止まらない。

 

 蟲の異形に囲まれようが、角を生やした兎に頬を貫通されようが、オークに頭からぶん殴られようが、相手の攻撃をノーガードで受け入れる。

 満面の笑みで全部攻撃を受けてから反撃する。ダメージ?そりゃ受けているに決まってるさ。血も流れるし痛いに決まっている。

 

 しかし彼はそうするのである。

 そうすることで勝つのだと信じている。

 実際勝ってしまってる。もう訳わかんないなこれ。

 

 初めてのダンジョンでこの有様だ。

 そして考えてほしい。人はこんな状況に陥った時、どうなってしまうのかと。

 

 もう未知の上に、未知を積み重ねて進んでいる状態。訳もわからず恐怖と混乱で叫び続けて、自分の喉は枯れてしまった。

 暗所と絶え間ない戦闘、血の乱舞、命の果てる絶叫、生々しいスプラッター音。あと汗臭さと筋肉。……大部分の精神的負荷は最後である。

 もうこの極限状態に精神はとっくにダンクシュート。そのまま夢のイアイアな世界にお持ち帰りされてしまっても、おかしくないと思わないでしょうか。

 

 つまり、どういうことかというと……。

 

 「おおおおおお圧制者に反撃をッ!もうみんなクソだッ!あははは、お前圧制者だな?圧制者だろぉ蝙蝠ッ!」

 

 「その意気やよし!さぁ君も私と共に行こう!圧制者より虐げられし者達を解放するのだッ!」

 

 「あははははははははは!よっしょ一丁解放しますかッ!」

 

 「おお、勇ましい。そして頼もしい。我が同胞、いや、友よ!さぁ、行こうッ!」

 

 気が狂ってもしょうがないと思う。

 目からは涙、口から涎、視線の定まらない目、何故かマッスルよりも先へ駆け出す自分。マッスルも負けじとモンスターを蹂躙し、無茶する自分を庇ってさらに傷を増やして喜んでいく。

 

 途中で出会った冒険者達が、ドン引きした様子で此方を見つめる。悲鳴を上げる。逃げる。

 

 それでも私たちは止まらない。一人はマッスルだし、もう一人は気がやられてしまっているからだ。

 

 大声とかすれ声で笑いながら、互いに笑顔でダンジョンを突き進む。一人でやるよりも二人の方が何事も楽しい。反逆も同じである。マッスルはものすごく満足げで笑った。もう一人も笑顔であり、泣いて意味の解らない言葉を叫んでいた。 

 これどっちもバーサーカーである。

 

 そのまま進撃する事、数時間後。

 

 やがて辿り着いた先にあったのは、巨大な空間であった。

 見慣れてしまったダンジョンの光景とは、全く異なる様相に思わず自分は我に返る。

 「何だこれは」と呆然とする間もなく、彼に襲い掛かったのは体の悲鳴だった。

 服はボロボロ。顔は涎と涙と鼻水に濡れ、足は慣れない運動で筋肉痛。そして足裏は血豆だらけの酷い有様。

 

 激痛と疲労でまた頭がおかしくなってしまうのではないか。

 そう思った直後。ダンジョンが震えた。

 

 顔を上げればそこには巨人とマッスル。

 霞む視界に消えゆく意識。

  

 ……ダンジョンに、マッスルと共に潜るのは間違っているのだろうか。いや、間違ってるよね、うん。

 

 

 

 

 




FGOやってたら、ふとなんか書いてしまっていました。

マッスルというパワーワード、そうマッスル。どう書いたって一発ネタにしかならなくても、そこに筋肉と反逆があったらいいじゃないか。……たぶん。

これあらすじが全盛期です。
たぶん頭がマッスルになってきたら、続くと思います。


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