ソードアート・オンライン――紅の聖騎士と白の剣士―― 作:焔威乃火躙
ガーネスのCVが決まりました!(独断と偏見です)ガーネス役を務めていただくのは、鈴木達央さんです!イメージとしては〈七つの大罪〉のバンが優しい雰囲気になった感じです。これからは、そんなイメージで読んでくださると嬉しいです。勿論、皆さんのイメージCVでいきたい方はその通りに読み進めていってください。
以上、ニュースアート・オンラインでした。
「食らえ、これが俺の全力!」
「やめろ!」
その言葉は彼に届かなかった。
「[ストライク・ブレイザー]!!!」
辺りが紅蓮の光に包まれ、仮想の肌に獄炎のような熱が伝わってくる。
[ストライク・ブレイザー]、敵を一刀両断する単純且つ強力な一撃。しかし、それは単なる物理的攻撃の話だ。[ストライク・ブレイザー]には、魔法の存在しないこの世界で唯一の炎付加が掛かっている。それを合わせれば、恐らく、フロアボスくらいなら1撃で消滅させることも出来るだろう。だが、そんな大技を誰でも使えるようであれば、ほとんどのプレイヤーが1度でも耳にしているはずだ。そうではないので、[ユニークスキル]とか、そういった類であろう。そこに関しては、聞かされていない。
しかし、そんなソードスキルが周りになんの被害も出ないわけはない。現に、それによって発生した熱風と衝撃に身体は押し飛ばされた。
だが、被害が大きいのは発動者の方だろう。あのソードスキルは発動者のエネルギーを奪い、それを膨大な威力として放つ。つまり、発動者のHPを大量に削り放つ一発限りの大技、それが[ストライク・ブレイザー]。
暫く、高温の風が吹き付け、目を開けることが出来なかった。熱が収まると、長い沈黙が続いた。恐る恐る目を開けると、遥か遠方でボスがピクピクしていた。ちょうどその間に、力を使い果たし倒れ込んだガーネスの姿が……急いで身体を起こし、駆け寄る。彼の上半身を起こしてみると、彼はもう虫の息で、HPバーはみるみる縮んでいく。
「しっかりしろ!今回復してやるから……」
ポーチからポーションを取り出そうとした腕を弱々しく肘を左手で押さえ、何も言わずに首を横に動かす。
「そんな……」
彼の反応を見てすぐに察した。
あぁ、もう、助からないのか……
「……あ、そうだ……」
彼は、不意を突くように喋りだした。
「もし、あのせかいにもどれたら、いもうとのめんどう、みてやってくれ……」
「何言ってんだよ……まだ他に方法が……」
再び、首を横に動かす。やっぱり、もうダメなのか……
「さいたまの……」
詳しい住所、本名を耳元に囁きそれを終えると、彼のタイムリミットはあと数秒まで迫っていた。最後に、メニューを操作して何かをしていた。その時は、視界が少々歪んでいてよくわからなかった。
「これ、おまもり、だいじにして、くれ……」
そう言って渡してきたのは、彼がいつも装備していた紅いブレスレットだ。それを受け取ると、満足気に笑っていた。
「たのんだ……ぜ…………」
その言葉を最後に、彼は二度と帰らぬ者となった。
気づけば、頬を伝うものがあった。結局、最後まで手のかかる奴だった。それでも、共に戦場に命を燃やしていた戦友だった。戦場で命が尽きるのは本望だったのだろうか……
「……勝手に先行くなよ……」
かすれる声でブレスレットに言葉を投げる。
目線を上げ、真っ直ぐ前を見ると未だに伸びているボスの姿があった。HPはまだ残っているが、イエローゾーンまで落ちていた。彼の決死の一撃で半分近く削れた。
しかし、逆に言えば、彼のあの攻撃でさえ
「勝てるのか……あいつに……」
無意識に出てくる弱音、小刻みに震える指先、あまりの強さを見せつけられたじろぐ体、もう逃げ出したくて仕方がない。
だが、それと同時に体の中から煮えたぎるような轟音が聞こえる。それは1秒ごとにどんどん増してくる。次の瞬間、頭に何かが過った。
…………ああ、
その時、俺の中の何かが砕けて消えていく音がした。そこからは、ただ怒りのままに剣を振り回していた。その時の記憶は曖昧で、ただひとつ覚えているのは……俺はあいつを殺さなければならなかったということだ。
ガーネスが消滅した後の彼はただ怒りのままに剣を振るっている。
「キリト君!」
アスナの声で唖然としていた心は戦場に戻ってきた。
「あぁ、俺たちもいくぞ!」
そう言って駆け出す。
「HPが半分以上残っている者はレイ君のカバー・サポートを重視。他の者は待機、場合に応じて戦闘に参加せよ。突撃!」
ヒースクリフも全プレイヤーに指示を出し、ボス目掛けて進撃する。攻撃に回るプレイヤーは少ないとは言えど、雄叫びは一番増していた。
駆けていく中、ボスと対峙するレイにフォーカスを合わせる。彼はノーガードで攻撃を叩き込むだけで徐々にHPを減らし続ける。続いて、ボスの方に合わせる。驚くことにHPは大幅に吹き飛んでいた。しかし、さらに驚いたことに見るからにHPが減っているのがわかる。ガーネスのあの攻撃のせいか、先ほどよりもHPの減りが早まっているようだ。あれには防御ダウンのデバフがあるのだろうか。そうこう考えている間に、どちらもHPはレッドゾーンに突入する。
「グゴォォォォォォ!」
けたたましい咆哮を上げる。思わず耳を塞ぎそうになる。
「はあぁぁぁ!」
レイも雄叫びを上げ、彼の剣は青白いライトエフェクトに包まれる。あの技を俺は知っている。[ノヴァ・アセンション]、既知の片手剣ソードスキルの中でも最強のソードスキルだ。10連撃のスピード重視型で、速さは片手剣ソードスキル中最速で
流星の如く、降り注ぐ連撃が次々と体に吸い込まれていく。ボスのHPゲージは1撃ごと左端へと縮んでいく。
「はあぁぁぁぁぁぁ!!!」
徐々に増していく声には威圧感があった。それにつられるように攻撃は重くなっていくように感じた。あと5センチ、あと3センチ、あと1ドット、そして、左端に達しボスは消滅する。
しかし、一向に残り1ドットが消えることはなかった。視線をレイの方へ戻すと、スキルは終了し、硬直状態になっていた。動けない彼に拳が振り下ろされる。あれを食らってしまえば、彼のHPは0になってしまう。しかし、ここからでは間に合わない。
「させない!」
隣からそう聞こえた。アスナの声だ。
声の方を見ると、目にも止まらぬ速さで飛び出していった。細剣ソードスキル[フラッシング・ペネトレイター]を振り下ろされる拳にぶつける。互いに強力な攻撃を打ち合ったため、大きくノックバックしている。恐らく、二度とないチャンスだろう。この機を逃すわけにはいかない。
オレンジ色に輝く剣は真っ直ぐに標的へと向かっていく。片手剣ソードスキル[ヴォーパル・ストライク]を発動し、最後の一撃を叩き込みに突進する。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」
無意識に鼓膜が破れそうなほどの雄叫びを上げていた。ドスッ!と鈍い音が耳に入り込んでくる。その音と共にHPはきれいさっぱり消え去り、ボスは光の欠片となって四散した。
換気の声が巻き起こる中、俺はアスナとパチン、と無言のハイタッチを交わす。そのときの顔は恐らく、沢かやな笑顔だっただろう。その後、ドロップアイテムを確認する。そこには『エリシュデータ』というものがある。多分、
背後でドサッと音がした。振り返ってみると、レイが倒れていた。
「おい!大丈夫か?」
「……」
疲れきっていたからか、応答することもなく静かに眠りについた。やれやれと思いながら彼を運ぼうと手を伸ばす。そのとき、彼の手に握られていた剣はもうボロボロでひと目見れば耐久値はギリギリまできていることがわかるほどだ。その後、彼が目を冷ますまでそっとしておいた方がいいと判断し、10分くらいそこに留まることにした。
DATE
《regless》
片手剣使いの俊敏型プレイヤー、攻略組ギルド非加入プレイヤーの中でも5本の指に入る強さを持つ、悪ふざけが過ぎるところもあるが他人への気遣いは人一倍ある、基本的セーレとのコンビ活動を主流とする。
50層攻略から数週間
フィールドを彷徨い続けるレイ
ただひたすら孤独の戦いを続ける
そんな彼の前に現れるは……
次回『2人の剣士』