ソードアート・オンライン――紅の聖騎士と白の剣士――   作:焔威乃火躙

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News art online(NAO)
本作では新たにプレイヤーが登場するとの情報が入っています。中層戦の重要な戦力ということで期待の声が高まっています。ここでそのプレイヤーさんの有力な情報が入りました。え!?『とてつもなく残念なお方』……とのことです。ま、まぁ、実力に関しては素晴らしい方なのでしょう。……多分……
い、以上、ニュースアート・オンラインでした。


一時の休息

 第50層『アルゲード』主街区、 転移門前である人を待っている。

 

「……遅いなぁ」

 

 待ち合わせ時間はとうに過ぎている。

 

「ごめんごめん、遅れた」

 

 転移門を飛び出して綺麗に着地し、後ろから顔の前で手を伸ばして歩いてきた。

 

「30分オーバーだぞ。何やってたんだよ」

 

「わりぃ、思いのほか狩りに手間取ってな」

 

「全く、時間くらい守ってくれよな」

 

「わりぃわりぃ、じゃあいくか!」

 

 まだいろいろ言いたいことがあるがきりがないので押し止め代わりにため息をつく。

 

「わかった……けど、暴走だけは勘弁してくれよ。ガーネス」

 

「安心しろ、おまえが抑えられる程度が限界だ」

 

「はぁ……暴走する気しかないのかよ……」

 

 ガーネス、彼の名である。同い年くらいで好奇心旺盛だ。片手剣使いで第32層でパーティを組んだ1人。紅い瞳が特長で彼の名を象徴するものでもある。

 

「しかしあれだな。おまえ、相変わらず友達が少ないな」

 

「な!?そ、そんなの今関係ないだろう!」

 

「えぇぇぇ?だって、先週もおまえと一緒に狩りに行ったろ?大抵オレっちとしか行ってないみたいだしよ」

 

「いやいや、どこ情報だよそれ!」

 

 まぁ、ある程度は予想はつくが……

 

「ん?アルゴに決まってんだろ」

 

 やっぱり……なんて情報を売りさばいているんだ。それ以前になんでそんな情報を持っているんだか……

 そんなことに振り回されているようでは正直に言ってきりがない。冷静に対処できるように態勢を立て直す。

 

「そろそろ行こう。日がくれる前にある程度は終わらせなきゃいけないからな」

 

「あいよ!」

 

 そう言い、フィールドへと足を運ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここのフィールドモンスターは大して厄介ではない。安全マージンはしっかりとっているし手馴れ2人もいれば軽く叩き潰せる。よほどのことがない限り、死にはしない。

 

「大分減ったな」

 

「あぁ、結構疲れはしたがな。おまえが暴走しなかったらもっと苦労せず行けるはずだっただろうがな……」

 

 そうか?と言いガーネスは大笑いする。人の苦労も知らないで……

 

「っ!おい、あれ見てみろよ」

 

 何かを見つけ少しばかり緊張感が漂う。

 

「なんだ?」

 

 彼の隣で姿勢を低くし視線の先に目をやる。

 そこには今まで見たことないモンスターが現れていた。全身銀色に輝き、鋭い眼光は獲物を狩る狼そのものだ。研ぎ澄まされた鉤爪は全てを切り裂くと言っても過言ではない。〈シルバーウルフ〉、あのモンスターにふさわしい名だ。

 

「やるか?レイ」

 

「それ以外の選択肢があるとでも?」

 

「そう思った。じゃ、いきますか」

 

 低い姿勢を保ちながら戦闘準備する。左腰の剣の鞘を握りしめ、様子をうかがう。溢れだしそうな殺気を押し殺しつつ警戒を怠ることのないよう細心の注意をする。

 奴が一瞬の隙を見せた瞬間、飢えた獅子の如く駆け出す。奴が気づく頃には既に懐に飛び込み疾風の如く首、胴、腰に赤い筋が等間隔かつ平行に刻みつける。片手剣ソードスキル[シャープ・ネイル]、奴に放った技の名前だ。

 まぁ、ただ無防備のまま殺られてくれるわけもない。シルバーウルフはすぐ体勢を立て直し鋭い牙をこちらに向け飛んでくる。スキル発動による硬直で回避はできない。俺の左肩に牙が届くその直前にガーネスの剣がシルバーウルフの牙を弾く。

 

「サンキュ!」

 

「どういたしまして!」

 

 硬直が溶けた直後、隙だらけになったシルバーウルフに数えきれないほどの斬撃を浴びせる。その間にも牙や鉤爪の傷痕が数を増やす。

 

「はあぁぁぁ!」

 

「グワァァガッ!」

 

 2体の唸り声が交差し、互いの武器が火花を散らしぶつかり合う。無数に飛び交う攻撃の嵐、切傷は増え次第に身体(からだ)が重くなりフィールド中に響き渡る轟音が耳を切り裂く。

 こいつの強さははフィールドボスクラスだ。さすがにきついと思ったとき、後ろから走る音が聞こえてくる。鋭い鉤爪を振り被って襲いかかるシルバーウルフ、その右前足を弾くと後方の剣士に向け叫ぶ。

 

「スイッチ!!」

 

 その言葉と同時にバックステップする。シルバーウルフの真ん前ががら空きになった所へ俺の脇を猛スピードですり抜け、シルバーウルフの腹部に深々と剣を突き刺す。シルバーウルフは悲鳴を上げ地に身を落とす。

 

「うし!」

 

 ガーネスはやりきった感丸出しにしているが、まだ息はあり油断しているガーネスを狙っている。立ち上がる前に四肢を切り落とす。止めに頭に一撃いれると力なく地面に突っ伏した。そして、ピクリとも動かなくなったその身体は青白い光に包まれ四散した。

 もう疲れきってこれ以上の連戦は危険と判断し、近くの安全エリアに移動する。そこにはひときわ大きな樹木が悠々と立っている。その木に2人して身を預ける。

 

「お疲れ」

 

「おうよ!おまえもな。しっかし、やたらと強ぇ奴だったな。さっきの奴、会ったことあるか?」

 

「いや、初めてみた……」

 

 首を横に振って答える。

 

「それより、おまえ油断し過ぎだ!あいつの攻撃をまともに受けてたらどうするんだよ!」

 

「いや~、あん時は助かったわ。ありがとな」

 

「『ありがとな』じゃねぇよ……」

 

 彼の答えに呆れ溜め息をつく。予想通りとはいえ、かなり疲れる。

 

「そう言えば、何か出たか?」

 

「あぁ、とんだ上等品だ」

 

 そう言ってウィンドを可視化状態にし見せる。

 

「なっ!?こ、これって……」

 

 ニヤリと笑いながら右目をウインクして答える。

 

「あぁ、S級食材『シルバーウルフの肉』だ!まさか、ここでゲットできるとは思ってなかったがな」

 

 『シルバーウルフの肉』、情報屋でもそのアイテムのドロップ場所は不明だった代物。臭いがキツいのと少々固いが味は一級品とのこと、実際に食べた者はいないという。

 

「よし!じゃあこれを今夜のご馳走にしようぜ!」

「どうせ、料理するのは俺だろうがな……」

 

「そうだ!あの2人も呼ぶか?よし呼ぼう!てか、もう誘っちまったけどな」

 

「なら聞くなよ!」

 

 やっぱり疲れる。そして、さらに増えるのかよ……内心そう思ったこと、今まで何度あっただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第29層《ルゲネイド》、薄暗い街並みで通りに人が溢れ返ることはほぼない。物静かなこのエリアはときに極度の緊張を引き起こす。ちなみに俺のホームもこの層にある。

 

「しかし、いつ来ても慣れないな。この不気味なところは」

 

 まぁ、この層の攻略のときもこの不気味な威圧感に支配された者は少なくはない。まぁ、5ヶ月もここに住んでいればある程度の耐性はつく。

 

「どうする?ここらでお開きにするという手もあるが?」

 

「な、何を言うか!これくらい、別に、怖くねぇし」

 

 あからさまに怖がっている。 無理もないが、いつ見ても面白いというのもまた事実。正直、日頃の恨みと言えば大袈裟だが仕返しとしてこれほど効果的なものはない。

 

「ついたぞ」

 

 目の前に建つ一軒家、象牙色の石材造りで見た目通りの頑丈さと落ち着きを持ちこの層で上位を争うほどの良質物件だ。おまけに、家賃は一般的なものとほぼ同額という奇跡の物件を奇跡的に見つけたという超ラッキーな体験をしたということもあり、ここには思い入れがある。

 中は生活に必要最小限の物しかなく、客人をもてなす際はその都度、必要なものをストレージからオブジェクト化する。

 

「こんなものかな。まぁ、ゆっくりしてて」

 

 そう言ってダイニングを離れる。武装を解除し私服へと着替える。と言っても、ただ《ステータスウィンドウ》の装備フィギュアを操作するだけでそう時間がかかるものではない。

 

「さ、2人がくる前にある程度やっちゃいますか」

 

 ダイニングに戻り、その奥のキッチンへ向かう。

 

「2人もこの層に着いたってよ」

 

 ソファでくつろいでいるガーネスがウィンドウを眺めながら言う。

 

「了解。で、何か要望は?」

 

「お任せで」

 

「かしこまりました!」

 

 そう言うと作業に取りかかる。

 手早く下準備し調理し始める。とは言えど、料理も簡略化されステータスさえあげてしまえばすぐに終わる。あっという間に終了し食事の準備も大方できた。

 ピ~ンポ~ン、ピ~ンポ~ン

 丁度いいタイミングで2人がきた。

 

「は~い」

 

 料理の支度が出来たのでエプロンを外し玄関まで迎えに行く。

 

「よっ、お邪魔しま~す」

 

「久しぶり、入るわね」

 

 黒パンツにグレーのシャツ、それを覆うベージュのコート、秋を象徴するような季節外れの装備に身を包んでいる、年上ではあるが容姿はまだ幼さを残している。彼はリグレス、攻略組でもトップクラスの片手剣使い。

 その左隣の少女は全身薄水色一色装備で背は俺たちよりやや低い。年は俺の1つ下だという。セーレ、彼女の名でお気に入りのキャラ名だそうだ。

 2人とは第44層でちょっとした騒ぎを解決した時、共に調査したのがきっかけでフレンドになった。今ではガーネス含め4人でパーティを組むこともある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 4人集まり、食事をするのは久々だ。最後に集まったのが前の層のボス攻略のときだ。

 

「いや~、やっぱレイのメシは格別だ。売り出したら結構儲かるんじゃねぇ?」

 

「何を言うかガーネス。レイの料理は我々のものだ。他のやからに渡すものか!」

 

「2人共何言っているのよ」

 

「そうだ」

 

 俺はもともとそんなつもりで料理スキルを上げてたわけじゃない。それをわかってくれているのは女子力のあるセーレだけだと思った。

 

「彼の料理は私の商売道具よ!」

 

 わぁーわかってくれてなかったぁー。

 

「人のスキルを金稼ぎに使うな!」

 

そう言うと男2人揃って、

 

「「え?ダメなの?」」

「ダメに決まってるだろ!」

 

 バァンとテーブルのたたき立ち上がった。

 

「ふふふ、冗談だって。あなた、いつものせられ過ぎなのよねぇ」

 

 セーレ……

 

「言っていい冗談と悪い冗談があるだろ……」

 

 呆れた声はいかにも弱々しかった。

 

「それより、最近進んでるのか?」

 

「おぉ~、そうだよな!リグレス!それ気になるよな!な、教えてくれよ」

 

 それよりって、まあいいや。あぶり返すような真似はしたくないし……

 

「多分、ボス部屋前まで来てる。もしかすると、明後日ぐらいには召集されると思う」

 

 昨日最前線で剣を振るっていたとき、マッピングは3分の2は行っていた。そのあと、団長ことヒースクリフから休暇をもらった。

 

「そうか。ギルドの方はうまくいってんのか?」

 

 ……

 

「……そうか。この話はもう終わりにしよう。悪いな、こんなこと聞いちまって……」

 

「いやいいよ、気にしなくて……相変わらず、人の考えてることはお見通しなんだな」

 

「へっ、まあな」

 

 リグレスはいつものばつが悪いと感じたときどうにかしてくれる。からかい上手な癖して、いざとなったら便りになるんだよな。

 

「さ、そろそろお開きにしますか」

 

 そう言って夜会は幕をひいた。




DATE
《garnes》
一人称は『オレっち』、紅い瞳の持ち主で片手剣使いの攻略組プレイヤー、性格はあまりにもおおらか過ぎで好奇心旺盛、すぐに暴走するトラブルメーカー、 剣技は一流だがそれ以上に残念な人柄、愛称は『クレイジーセイバー』


 50層ボス戦、待機となったレイ

 今回もボス戦に参加しない彼の元へ

 そこで聞く、彼の真意とは

 ハーフ・ポイント攻略戦、開戦

 次回『地獄を焼き尽くす炎』

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