ソードアート・オンライン――紅の聖騎士と白の剣士――   作:焔威乃火躙

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News art online(NAO)
今作はオリジナルソードスキルが出てきます。実際にどのようになるのか確認して書いたので、言葉通りに体を動かす方がわかるかも知れないので是非やってみてください。
以上、ニュースアート・オンラインでした。


血の盟約

 第1層攻略してからもう1年が経つ。この鋼鉄の城も半分近く攻略し折り返し地点に来た。このままのペースで行けば、あと1年ほどで100層目までいけるだろう。だがそれは、あくまでこのままのペースで行けばの話だ。

 そう思い始めたのは25層ボス攻略のときだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2023年3月31日、第25層『クリーゼリット』、迷宮区ボス部屋前、その日はクォーターポイントのボス攻略のため30人弱の部隊できた。この頃はヒースクリフはまだ攻略に参加していなかった。それでも、被害を最小限まで抑えてあの層までやって来た。

 この頃攻略を指揮していたのは『アインクラッド解放隊』と呼ばれるものだった。第2層から攻略の主戦力を担う団体と言っても過言ではない。

 その他、『ビーター』と罵られながらも攻略隊の中でも片手の指に入る実力の持ち主であるキリトやそのパートナーのアスナ、さらには少数とは言えど有力候補と言えようギルドのメンバーも参加している。もちろん、ソロプレイヤーとして俺もボス攻略に参戦する。

 これまで24層も攻略してきたからかみんな少し落ち着いているようにも見える。しかし、そんな中でもいざ攻略となるとやはり強張ってしまう者もいる。そして、今回のボス攻略戦は苦戦を強いられると予想されているのでなおさらだ。

 今までも5の倍数の階層は他の層のボスより厄介だということもこれまでの経験で頭に刷り込まれている。

 かといって、ここで引き下がるわけにもいかない。結果、やるしかないのだ。そう意を決しボス部屋の前に佇むプレイヤーたち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鋼鉄で出来た扉は先頭プレイヤーにより重々しい音をたてながらゆっくりとボス部屋への口を開く。ガコン!と大きな音と共に扉は止まる。

 プレイヤーたちは中に恐る恐る入っていく。そこはオレンジの光に照らされ、壁に彫られた紋様は古の大戦を連想させる地獄絵図のように禍禍しいもの。

 そして、その部屋の守護神と言わんばかりの覇気を纏ったモンスターが1体、俺たちは愚か今まで戦ってきたボスとは比べ物にならない巨体に豪腕の握り締める物はこれまた、えらい優れものの斧2種類をフロアに突き刺している。全身を固そうな皮膚で覆いその胴体の上には首元から2つに分れ、紅い瞳の右頭と青い瞳の左頭が仲良く並んでいる。そいつの頭の上あたりに3本のHPバーと《The bicephalic giant》という表示が現れる。ザ・ディサファリック・ジャイアント、双頭の巨人それが奴の名なのだろう。

 

「ゴキャャャャャャ!」

 

 奴の咆哮がこの部屋を、いやこの迷宮区全域を振動させる 。

 

「怯むな!行け!」

 

 奴の咆哮に続き、攻略組の何名かが奴に向かって突進する。タンク隊が前方で攻撃を受け止め、スイッチやサイド、バックから攻撃をする手はずになっている。

 

「さぁ、こい!」

 

「グォォォォォォ!」

 

 ディサファリック・ジャイアントの右腕の赤色の柄の斧を横一線に凪ぎ払う。

 

「な!?」

 

 ディサファリックの下段の一撃でタンクの体勢を意図も容易く崩す。攻撃部隊はその一瞬を目の当たりにし立ち止まってしまう。

 完全に無防備な状態のタンク隊に無慈悲な一撃が放たれる。あまりに一瞬の出来事で理解が追いつかない。気づけば、タンク隊のほとんどがイエローゾーンに突入していた。中には、攻撃に耐えきれず光の欠片となり、2度と帰らぬ身となるものも少なからずいた。

 限界近いタンク隊にさらにもう1発強力な一撃が飛んでくる。

 

「させるか!」

 

キリトが猛ダッシュでディサファリックの左腰を捉える。そのおかげでタンク隊へ攻撃は届かなかった。

 

「一旦下がれ!!回復するまで大人しくエリア外にいろ!」

 

 俺はタンク隊を下げさせる。さすがにアインクラッド解放隊の統括者のキバオウもここまで呆気なくやられたのを見て動揺している。

 

「俺がこいつの攻撃を引き受ける。その間にサイドから攻撃を!」

 

 キリトがそう叫ぶと同時に奴は両方の斧をキリトに向け振り下ろす。上手くかわしダメージは受けていないようだが、1人でどうにかし続けれるほどのものでもない。

 なら、俺も奴の攻撃を何とかしよう。

 

「左の斧は俺が引き受ける。右の方を頼む」

 

「あぁ、任せた!」

 

 ディサファリックの左上から青い柄の斧が降ってくる。その程度なら難なくさばける。ズガン!とフロアを叩き割る勢いで斧が地面にのめり込む。チャンスと思った俺は奴の左腕を狙う。

 あと5センチぐらいのところで、赤斧が左より下段水平斬りが炸裂する。攻撃があたる瞬間、武器で防御したためダメージは抑えられたが、直撃していたらHP半分は持っていかれただろう。

 ダメージを抑えたとはいえ、吹き飛ばされ地面に4,5回ほど体を打ち付けられた。めちゃくちゃいてぇ。だが、のんびりしている暇なんてない。

 さっきの攻撃は元々キリトに向けて放たれたもので俺は巻添えを食らっただけだが、今俺がいない状況ということはキリトは2つの斧を相手にしているということだ。早く戻り応戦しなくては。

 

「おらぁぁ!!」

 

 怒号と共に片手剣ソードスキル[ヴォーパル・ストライク]を発動。俺の愛剣はオレンジの光に包まれキリトに向け振り下ろす青斧に突進する。

 その衝撃で奴に隙が出来る。その隙にキリト[ホリゾンタル]、しばらくして硬直がとけた俺は[シャープ・ネイル]を打ち込む。

 みごとに決まったがそれでも今やっとHPバー1本目の半分くらいだ。今のでその内の半分を削ったってことはサイドの方はどんだけ硬いんだよと思った時だった。

 

「なぁ、投擲スキルとってるか?」

 

 そう問うと、

 

「とってるがどうした?」

 

「俺が時間を稼ぐから奴らのどっちかの両目を潰してくれないか?」

 

「……わかった」

 

 キリトはそう言って、バックステップで奴らから距離をとる。

 その間、俺が時間を稼がなけばいけない。左右上下より飛んでくる斬撃をことごとくかわす。

 そして、遥か上方でドス!ドス!と音がする。すると、青斧を手放し左手で左頭の目を抑えいる。

 だが、奴も黙ってはいない。右斜め後ろから半円を描くように広範囲攻撃を繰り出す。あれは片手斧ソードスキル[クラッシュ・スイング]、その名の通り凄まじい威力を誇る一撃が襲う。それに巻き込まれ消滅したプレイヤーも少なくない。そのほとんどが『アインクラッド解放隊』メンバーだった。

 俺も片手剣ソードスキル[ヴォーパル・ストライク]で迎え撃つ。互いの武器は大きく跳ね上げられ大きな隙が生まれる。

 

「スイッチ!」

 

 キリトが後ろからトップスピードで入り込む。

 硬直が解けると同時に全力でバックステップする。キリトの剣は綺麗な青いエフェクトを放つ。片手剣ソードスキル[バーチカル・スクエア]、4つの軌道が奴の胴体に刻まれはっきりとした四角形を残す。

 それを食らったディサファリックは大幅に体力を失いHPバー1本の消し飛ばした。全員一旦退避する。俺は奴が動く前に手短に話す。

 

「あいつの弱点は胴体部分だ、俺たちがあいつの体勢を崩す。みんなであいつを仰向けにしてくれ!」

 

「だがよ、あいつの斧2本をたった2人でやれるか?強力なソードスキルが来たら……」

 

 プレイヤーの1人がそう言う。

 

「あいつはそれぞれの頭で片腕しか動かない。それなら、2人でも対応はできる。もしソードスキルが来たら、どっちか一方の頭を突けば2人でもう一方の相手ができる」

 

 もちろん、根拠もろくに聞かされないですんなりと理解するなんて出来るわけもない。しかし、そんな時間は俺たちにはない。ぐずぐずしている中、1人の言葉が響く。

 

「もう迷ってる暇はない!この作戦に掛けよう!」

 

 アスナだ。彼女の言葉で何とか纏まった。その時にはもうすでにディサファリックがすぐそこまで迫っていた。

 

「いくぞ!」

 

 おう!とキリトの掛声に答える。

 ディサファリックが両サイドよりソードスキル発動の体勢をとる。そこへキリトがピックを取り出し投擲スキルを発動。キリトの手より放たれた2本のピックは右頭の目に一直線に向かっていく。スキル発動する頃には両目に着弾しスキルは中断した。

 しかし、左腕の青斧はライトグリーンに染まり、俺に向かって左下段水平斬りを放つ。片手斧ソードスキル[グランドスライス]という下段水平斬りからの垂直斬り下ろしの2連攻撃。威力は[クラッシュ・スイング]のように強力ではない、俺は[シャープ・ネイル]を発動し奴の攻撃を弾き、残った一撃を打ち込む。

 そこへメイス使い4人がかりで奴の膝を叩き折る。たちまち、奴の背は地に打ち付けられ仰向けの状態になる。

 

「今だ!」

 

 キリトがそう叫ぶと雪崩のようにプレイヤーたちが押し寄せる。容赦なくソードスキルを叩き込む。

 みるみるディサファリックのHPは減り、あっという間に2本目のHPバーも消滅した。ラスト1本となるとさすがに奴は体を起こす。

 

「よし、下がれ!」

 

「キリト、いけるか?」

 

「あぁ」

 

 俺とキリトはすぐに構える。

 ディサファリックは大きく左右に斧を振り上げる。今の奴らは互いに通じ合ってるように攻撃体勢に入る。先に動いた方が負ける、俺たちはただ時を待つ。

 痺れを切らしたか振り上げた斧を勢いよく叩き落とす。それを2人がかりで受け止める。あまりの重さに腕が悲鳴をあげそうだ。それでも、ここで奴らの攻撃を許せば勝ちは遥か遠く離れてしまう。筋力パラメーター限界まで力を振り絞り押し返す。バギン!!と鼓膜が破れそうな金属音がボス部屋に響く。

 ディサファリックは大きく体勢を崩す。そこへアスナが飛び込んでくる。疾風の如く横をすり抜けると、首元に向かって突進する。[フラッシング・ペネトレイター]、その一撃はディサファリックを一瞬宙に浮かせた。

 ドドド!!と大きな音をたて倒れるディサファリックにまたしてもスキルの雨が降り注ぐ。最終的には俺が[シャープ・ネイル]を発動し体力を消し飛ばした。その瞬間、ディサファリックは光の欠片となり四散する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ディサファリック・ジャイアントを倒したことに歓喜の声が上がる。

 

「おつかれ、ナイスアイディアだったぜ」

 

 疲れ切り座り込んでいたところにキリトがやってきた。

 

「サンキュー。君のおかげで何とか倒し切ることができた」

 

「そう言う君の案がなければ確実に敗走を余儀なくされていたよ。そう言えば、あいつの弱点いつ気づいたんだ?」

 

 その質問をしてきた時、ボス部屋は静まり返っていた。

 

「あいつらが片腕しか動かせないと思ったのはあまりにも動きが悪かったのに気づいたからだ。あいつら、片方が作った隙に気づいていないことがあったからもしかしてと思ってな」

 

「なるほどな、中々やるな」

 

「そうでもないさ、さぁ、下らない話は終わりにしてそろそろ行こう。もうくたくただ」

 

「フッ、全くだ」

 

 そう言って、26層のアクティベートに向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、『アインクラッド解放隊』は攻略組から脱退した。あのボス戦で大きな痛手を負い、攻略を続けるのは難しいと判断したのだろう。あの日のことをヒースクリフに話すと、さすがの彼も唸った。

 

「多分、この先攻略ははかどらなくなる」

 

「そうだな……そろそろ私も動くとしよう」

 

「どうするつもりだ?」

 

 うむ~、と唸るといつもの冷静な声で予想外のことを口にする。

 

「ギルドを作ろう。無論、私が団長だ」

 

 声には出さなかったが内心とても驚いた。プレイヤーとの接触は極力避けていた彼が自らギルドのリーダーとしてゼロから作ると言うのだ。もちろん、異論はないが疑問に思ったことを聞く。

 

「いいと思うが、何でまた?」

 

「他人のRPGを傍から見ているほどつまらないものはない。私も参加したくなったのだよ」

 

 帰ってきた言葉に呆れたことは今でも覚えている。

 これが後に最強ギルドと呼ばれることなるのだ。彼方の解放の日を訪れさせると己が血に誓い戦う。それがこの『血盟騎士団』だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと、あの日のことを思い出した。クォーター・ポイントに来たからか、あるいは別の要因なのか分からないがただひとつ言えることがある。それは今回のボス攻略もただでは済まないということだ。




DATE
《The bicephalic giant》
第25層ボスモンスター、体長3メートル、双頭の巨人と呼ばれ両腕に赤い柄、青い柄の斧を装備しており、振り下ろされる斧の威力はフロア床を貫通させることもできるほど凄まじい豪腕の持ち主。脇腹から背中は固い皮膚と筋肉でダメージを激減するが正面の攻撃は並以上に効く。それぞれの頭でそれぞれの一方の腕しか動かせないと言う特殊な神経回路を持つ。


 全プレイヤー解放の重荷を背負い戦う日々

 そんなある日の休暇

 戦友と共に向かった先には

 思いがけないものが……

 次回『一時の休息』
 

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