ソードアート・オンライン――紅の聖騎士と白の剣士―― 作:焔威乃火躙
近々アンケートをとる予定をしています。内容は原作死亡キャラの生存あるいは復活の希望調査を行う予定です。詳細は後日改めてお伝えします。もし、希望キャラがいる場合、この作品の感想にお書きください。
以上、ニュースアート・オンラインでした。
俺たちは今、第1層ボスが待ち構える迷宮区最深部のボス部屋に向かっている。昨日の会議とガイドブックでボス共の大方の情報を頭に叩き込む。そして、最速かつ最小限の被害で終わらせるよう策略を練る。ディアベルの策もあるが一応のために考えておくのだ。
そして、ボス部屋の扉前にたどり着く。ディアベルが扉を後ろにメンバー全員に告げる。
「みんな、ここまで来たら俺から言えることはただひとつ。勝とうぜ!」
「おぉ!」
ディアベルの言葉に続きメンバー全員も士気を上げる。
そして、扉は重々しい音をたてゆっくりと開く。
「行くぞ!」
ディアベルの掛け声に続き、ボス部屋へ雪崩のように攻め込む。
部屋の中央で《イルファング・ザ・コボルドロード》と《ルイン・コボルド・センチネル》 がポップし、プレイヤー軍とモンスター軍が激突する。俺も目の前の《ルイン・コボルド・センチネル》と対峙する。
センチネルはそこまで強くはない、一撃一撃を油断せず正確に躱し、一撃ずつ打ち込んでいく。どのくらい攻撃を躱したか、その隙に攻撃した確実にHPを減らす。そしてHP0になった瞬間、センチネルの体は青白く薄れていき、破裂音と共にポリゴン片へと砕け散った。
《イルファング・ザ・コボルドロード》もHPバー2つはすでに尽きて、残るHPバーもレッドゾーンに差し掛かる。
情報によれば、ここで武器をタルワールに持ち換えるはず、そこからは攻撃を躱してダメージを与えていけば勝てる。
ここまで死者は1人も出ていない。あとはボスを撃退するだけであり、油断しなければ死ぬことはない。みんなで押しきれば、犠牲者は1人も出ないだろう。
だが、ディアベルは単独でボスに向かっていく。俺は彼の行動が理解できない、全員でいけば確実に仕留めれるにも関わらず、単独で挑むメリットなんて何も無い……わけでもない。
しかし、俺は自分の目を疑った。視線の先にはコボルドロードに向かっていくディアベル、そして武器を持ち換えたコボルドロードがいる。武器はきれいな曲線を描いたタルワール……いや違う!あのまっすぐ伸びきった刀身、あれは野太刀、刀だ!ディアベルは気づいていないのか止まる気配がない。
「ダメだ!全力で後ろに飛べ!!」
後方で必死になって叫ぶ声もむなしく、野太刀の軌跡はディアベルを切り裂き吹き飛ばす。さらに、無慈悲に襲いかかるソードスキル[浮舟]を食らいディアベルは空を放物線を描き倒される。
「ディアベルはん!!」
「くそっ!!」
まともにソードスキルを食らって無事なはずがない。ディアベルはすぐ近くにいたプレイヤーに何か言い残し、彼はポリゴン片へと変貌した。
「そんな……」
「……ディアベルっ!」
戦況は、はっきり言って最悪だ。ディアベルの死でメンバー全員が動揺している。ここまではさらに犠牲者が出かねない。だが、ここから立て直すのも困難だ。
そんな状況の中、2人のプレイヤーがコボルドロードに向かっていく。コボルドロードも2人に突進し長い刀を振り上げる。
黒髪の片手剣使いは降り下ろされる刀を弾き上げ、後方のフードを被った
しかし、奴も黙ってはいない。体勢を立て直すとフードプレイヤーに向かって刀を振り下ろす。
「アスナ!」
黒髪の剣士が叫ぶ。ダメージを受けなかったが、フードは攻撃により耐久値を切らし消滅する。
その中からは栗色のロングヘアに容姿端麗でありながら敵を睨むその目は凛々しく勇ましさを放つ女性プレイヤーが現れる。
そして黒髪剣士とスイッチし同じことを何度も繰り返す。着実にHPを減らすがそう何度も上手くいくわけもない。
コボルドロードは[幻月]で2人を吹き飛ばす。黒髪の方は攻撃を受け、すぐに立つことができない。コボルドロードは2人に近づき、刀のゆっくりと持ち上げる。
2人のプレイヤーに向かって振り下ろすそのとき、エギルが2人の前に出る。両手斧ソードスキル[ワールド・ウィンド]で奴の武器を弾く。コボルドロードは飛び退き、体勢を立て直す。
俺たちも前線に出る。エギルは黒髪剣士たちに向かって叫ぶ。
「あんたたちが持ち直すまで俺たちが支える!」
「2人だけで無茶するな!今は任せろ!」
コボルドロードの攻撃をことごとく防ぎ、少しでも時間を確保する。2人の体勢が整えば大方どうにかなるはず。
だが、さすがはボスモンスター、ガードを崩され無防備な状態になってしまう。
追い討ちを駆けるようにコボルドロードは上空高く飛びソードスキルの構えをとる。
「危ない!」
絶体絶命のピンチに黒髪剣士が駆けつけるがこのままではあとわずか届かない。そう悟った彼は[ソニック・リープ]でスキル発動寸前のコボルドロードの背後をとり切り崩す。
不安定になり地面に叩きつけられたコボルドロードに追い討ちを駆ける2人の剣士。
奴の攻撃を黒髪剣士が弾き、スイッチし細剣で攻撃する女剣士。再びスイッチし[バーチカル・アーク]を発動させてボスのHPを消し飛ばし、コボルドロードは断末魔をあげ青白い欠片へと変貌した。
俺たちは勝ったのだ。第1層ボス攻略戦はプレイヤー軍の勝利で幕を閉じた。
「やった~!勝ったぞ!!」
「これで次の層に行ける」
歓喜の声が絶えることなくボス部屋に響き渡る。俺もエギルやパーティメンバーとハイタッチを交わす。そして、窮地に陥った攻略隊を救ってくれた2人のプレイヤーの元にいく。
「congratulation!素晴らしい戦いだった。この勝利は君のものだ」
「ありがとう。エギルだったか、助かったよ。そっちの君もな」
「この隊を救った君に比べたら大したことじゃないさ」
「お疲れ様、なんとか次の層へ行けるわね」
アスナと呼ばれていたプレイヤーも話に混ざって来た。
「おう。しかしアスナ、すごい手慣れだったが何かやって……」
「なんでや!!」
黒髪剣士の話を割って、キバオウは叫んだ。
「なんでディアベルはんを見殺しにした!お前はボスの使う技知っとたやないか!」
「そ、それは……」
「きっとあいつ元『βテスター』だ!だからボスの技を知ってて隠してたんだ!」
ガヤが騒がしくなっていく。便乗や嫉妬といったひん曲がった感情が見える。
「ちょっと待って!ここにいるプレイヤーを救ったのは彼よ」
「別に隠すつもりもなかっただけかもしれねぇじゃねぇか!」
「うるせぇ!ベーターを庇うってことはお前らもベーターなんだろ!他にもいるはずだ!隠れて奴出てこいよ!!」
アスナとエギルの言葉でさらに過激になってしまった。もう和解なんて望めない。そう思った矢先、不気味な笑い声が響く。
「『βテスター』?俺をあんな奴と一緒にしないでもらいたいなぁ。『βテスター』当選者の大半がレベリングも知らないド素人だったよ。お前らの方がまだマシだ。そして、俺は誰も到達できなかった層まで登ったんだ。刀スキルは上の層で刀を使うモンスターとさんざん闘って知ったんだ。もっと知ってるぜ?情報家なんて問題にならないほどにな」
嘘だ。ヒースクリフは10層すら到達されなかったって言ってた。彼が嘘をつく理由、彼は1人で背負っていくつもりなのだろう。
「なんやそれ……そんなんチートや、チーターやん!」
「そうだ!ベーターでチーター、『ビーター』だ!」
「ふん。『ビーター』か、そうだ、俺は『ビーター』だ!これからはベーターごときと一緒にしないでくれ」
彼は
「キリトくん!」
アスナが彼を呼び止める。
その後の会話までは聞こえなかったが、キリトがたった1人で第2層へ行くのをただ見届けることしかできなかった。
俺はしばらくボス部屋に残ったままでいた。あのボスに殺されたディアベルのことを考えていた。
あの時、奴の餌食にならず共に討伐できたのではないか?俺は誰よりも早くに違和感に気付いていた、それを言ったからといって何か変わるというわけでもない。それでも、少しくらい警戒心が上がったのだろうと思うと後悔でいっぱいになった。
ヒースクリフがいってたことが今になって理解できた。
もしそれで、ディアベルを死なせずに済んだなら、こんなギスギスした状況にならなかっただろう。そしたら、キリトも1人で背負い込むこともなかっただろう。
それができたはずの自分に怒りを覚え、悔やんだ。
それでも、進まなければならない。死んでいった者たちのためにも……
DATE
《kirito》
全身黒ずくめで片手剣、盾無しという一目で区別がつくほど分かりやすい特徴を持ったプレイヤー。元『βテスター』で第1層攻略後は『ビーター』という二つ名を持つ。ソロでの活動を主とする。
第1層攻略から1年
攻略の最中、思い返すはあの日の惨劇
激闘の末に刻まれし意思と共に
彼が動き出す
次回『血の盟約』