ソードアート・オンライン――紅の聖騎士と白の剣士――   作:焔威乃火躙

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News art online(NAO)
『ソードアート・オンライン――紅の聖騎士と白の剣士――』も残すところあと2話となります。
ここまで読んでくださった方々、誠にありがとうございます。そして、今作、次回作もどうかお楽しみください。



命刈り取る骸

 偵察の翌日、団長の召集により、退団中だったキリトたちが呼び戻された。そして、団長室に呼び出された2人は驚愕の事実を耳にした。

 

「偵察隊が壊滅!?」

 

 団長から告げられた残酷な現状はキリトたちを唖然とさせた。さらに団長は話を続ける。

 

「そうだ。昨日、レイ君とその他19名のギルド合同偵察隊にボス部屋へ向かってもらった。今回のボス戦は困難を極めると予測されるため、最大規模で行った。まずは10名のタンカー部隊が先に踏み込んでもらった。しかし、彼らが中央に到達した途端に部屋の扉が閉まったようだ」

 

「と、扉が、勝手に!?」

 

 アスナは驚愕した。

 

「外からはその扉をどうすることもできず、再び開いたときにはプレイヤーはおろか、ボスの姿もなかったようだ」

 

「なるほど、完全なるブラックボックスか……つまり、俺たちを呼び出したのはそのブラックボックスに突入する戦力になれ、ってことか」

 

「そのとおりだ」

 

「……わかった。だが、もし危険な状態になった場合、パーティ全体よりもアスナの身を最優先に守りますからね」

 

 その言葉に微かに笑みを浮かべ、団長は了承する。

 

「よかろう。何かを守ろうとするものは強いものだ。期待するとしよう。君たちを含めた32人のパーティで挑む。75層のコリニア市ゲート前、3時間後に集合だ。では、健闘を祈るよ」

 

 そう言って、団長と俺は部屋を去る。

 部屋の扉を閉め、少し先を歩く団長を追いかける。ほんの小走り程度で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 団長室を後にしてから2時間と30分が経過した。あのあと、何をすればいいか分からず彷徨っていた。気付けば集合場所に1人ポツンと立っていた。ほんの10分前の話だ。あれからここを動かずいるが、未だ誰も現れない。

 そこへ2人の影が目に入る。リグレスとセーレだ。

 

「あれ?レイじゃん!こんな早くにどうかしたの?それともうっかり時間を間違えたとか?」

 

「いや、そうじゃない。時間は、ちゃんと、覚えてる……」

 

 セーレの質問にキョドりながら答える。

 

「いつ頃に来たの?」

 

追い撃ちをかけるが如く、リグレスが問い掛けてきた。

 

「つ、つい……10分前に着いたところで……」

 

「10分前に?」

 

「……おう」

 

「1人で?」

 

「…………ぉぅ」

 

「ずっと?」

 

「………………」

 

 セーレがう~んと唸り、終いにはこう言う。

 

「友達、いないの?」

 

「そこまで可哀想な人に見える!?」

 

 そう聞くと2人揃って首を縦に振る。けっこうへこむ……

 あれから、かれこれ数十分経つ。あまりの事実に驚愕したのか、自分自身驚くはほどヘコんでた。

 その間にも続々とプレイヤーが集まりつつある。その中には、エギルもいる。

 そしてそのとなりには、侍を連想させるコスチュームと刀に、一際目を引く赤いバンダナを額に巻いた男性がいる。以前にキリトやエギルから話を聞いたことがある。名は確か……

 

「なんだ、クラインたちも呼ばれてたのか」

 

「おお、キリト!おめぇも相変わらずだな」

 

「まあな、しかしエギルまで召集するとはな」

 

「フン!今回ばかしは苦戦するって言うから、こっちは店を投げ打って来てやってんだ。この無私無欲の精神が理解できないとはなぁ」

 

「そうかそうかよ~くわかった。じゃあお前は戦利品の分配からは除外しておくよ」

 

「い、いや、それはちょっと……」

 

 視界の右端から現れたキリトの発言にエギルは焦りを見せる。しかし、アスナの姿は?と思った矢先、

 

「レイ君」

 

後ろから右肩をつつかれ、その方を向くと彼女がいた。

 

「どうしました?」

 

「今回、貴方にも指揮官として手伝ってほしいの」

 

「それは、副団長としての命令でしょうか?」

 

 そう聞き返すと、彼女は耳元に囁く。

 

「貴方の友人の恋人としてのお願いよ。彼、多分私がついてないと危なっかしいことするだろうから」

 

 予想もしていなかった答えに少し驚いたが、妙に微笑ましく思えた。

 

「わかりました、彼のことはお願いします。彼の数少ない友人として、ね」

 

 それを聞くと、アスナはフフッ、と笑みをこぼし、任されました、と返す。

 お~いとキリトに呼ばれ、俺たちは彼らの所に行く。

 

「アスナ、用は済んだか?」

 

「うん。バッチリ」

 

「おい、キリの字、そこのお三方は?」

 

 赤いバンダナの彼がキリトに言う。

 

「初対面か?なら、紹介するよ。こっちはクライン、悪趣味なバンダナ着けたオッサンみたいだが、これでも最下層からの付き合いだ」

 

「んだよ、もっとしっかりした紹介してくれよ~」

 

「で、こっちが右からリグレス、レイ、セーレだ」

 

「どうも、ソロのリグレスです。自分で言うのもあれですが、片手剣の腕は一級品だと自負しています。以後、お見知りおきを」

 

「私はセーレ、短剣と刀使いよ。あとは……」

 

「せ、セーレさん!お、俺、クラインと申します!24歳独身恋び……」

 

「変なこと口走るな!」

 

 キリトはそう言ってクラインの腹に1発入れる。彼は腹を抱え悶えた。しかし、そんなこともお構いなしに自己紹介する。

 

「KoB団長補佐のレイです。攻略では何度か目にしたことあると思いますが、この場を借りて紹介させてもらいます」

 

「お、おぅ……」

 

 今にも吐きそうな声で答える。

 そうこうしている内に、団長とその他数名のKoB団員が現れた。

 

「欠員はいないようだな。皆、よく集まってくれた。状況は知っての通り、過酷な戦いになるだろう。だが、諸君の力なら切り抜けられると信じている。──解放の日のために!」

 

 団長の力強い言葉にメンバー一同の士気はより一層高まる。団長はキリトに視線を向け何か話していた。それを終えると、再びメンバー一同に声をかける。

 

「では行こう。ボスモンスタールームまでコリドーを開く」

 

 言った後、(回廊結晶)()()()()()()()()()を取り出す。

 あれは(転移結晶)()()()()()()()()()()とよく似ているが、1人のプレイヤーを指定した街の転移門に飛ばすの転移結晶に対し、回廊結晶は記録された地点へ向かう一時的な転移ゲートを開くという超優れものだ。その反面、圏外に出るのお供として持ち歩く転移結晶とは違い、希少でNPCショップにはない。

 そのため入手するには迷宮区のトレジャーボックスか、強力モンスターからドロップするしかないのだ。

 そんな代物を躊躇なく使う団長に、正直どのモンスターよりも恐ろしく思えた。実際、団長の行動には誰もが驚いた。

 そんなことお構いなしに、団長は結晶を掲げ「コリドー・オープン」と言い放つ。濃紺色のクリスタルは散り散りになり消え去る。それと同時に団長の目の前の空間が歪み始める。それは次第に水面に浮かぶ波紋を描き、転移ゲートとなる。

 団長を先頭に次々とゲートをくぐり抜けていく。

 光の門を抜けた先には巨大な扉が静かに佇んでいた。

 周りは、綺麗に磨かれた漆黒の壁と隙間なく敷き詰められた純黒の石畳で埋め尽くされていた。さらには冷たく湿った空気が肌を刺し、|靄()()が地面を這うようにかかり、昨日より薄気味悪い。

 

「なんか……やな感じだね……」

 

 現に誰かがそうつぶやいた。決戦前に緊張と不安でどうにかなってしまいそうだ……

 そんな中でも団長だけはしっかりしている。装備を整えるとパーティの方に振り返る。

 

「準備はいいか。今回のボスは姿・攻撃パターン等一切不明だ。基本はKoBが前衛で攻撃を食い止める。君たちは可能な限りパターンを見切り、柔軟に反撃してほしい」

 

 団長の話を聞き、頷く者、固唾をのむ者、それぞれいた。

 

「レイ君、後衛の指揮は君に一任するよ」

 

「了解しました」

 

「うむ。では、行こうか」

 

 そして、扉を押す。ゴゴゴ、と開く間にも緊張感は激しさを増す。

 全開になり、団長が十字盾から剣を引き抜くと合図を唱える。

 

「戦闘、開始!」

 

 雪崩のように突入し、一気に中央まで入り込む。全員が飛び込んでからしばらくしてから扉が閉まった。これで脱出する方法は、ボスを倒すか、死ぬかに絞られた。

 扉が消え、暗闇の中を見回す。

 しかし、ボスの姿は見当たらない。他のプレイヤーも探すが、未だにボスの姿は確認されない。

 痺れを切らした者が声を出した瞬間、

 

「上よ!!!」

 

 叫び声につられ上に視線を向けると唖然とした。天井にいたからではない。目に入ってきた姿があまりにも悍ましかったからだ。

 全身骨で、百足を連想させる足に、胴はどことなく人の胴にい似ていた。しかし、頭蓋骨は現存する生物とは全く異なる。2対4つの下顎と本物の鬼の形相と禍々しいことこの上ない。これだけでも恐ろしいのに、両腕に大鎌付ときた。さらに驚くことに全長10mという超大物だ。おまけに《The Sukull Reaper》という名のすぐ横に5本のHPバーがある。ここまでくると、もうこれが最終ボスじゃないのかと思いもした。

 その姿を目にすると、恐怖のあまり体が震えだした。スカルリーパーは天井に突き刺さった足を抜くと、そのままパーティ頭上に落下し始める。

 

「固まるな!!距離をとれ!!」

 

 団長が叫ぶと、我に返ったプレイヤーたちはすぐに中央から離れる。

 しかし、3名がまだ動けずにいる。

 

「こっちだ!!!」

 

 キリトの叫び声に気づきこちらを向いた。

 

「走れ!!」

 

 やっと状況を理解した3人がこっちを目掛け走り出した。

 だが、時すでに遅し。3人の背後に落ちた超巨大骸骨は地震のような振動をまき散らし、体勢を崩した。直後、取り残した稲を刈るように鎌が3人を捉える。その勢いで宙に舞った3人は、地に着く前に光の欠片へと成り果てた。

 一瞬の、出来事だった……

 

「そんな……」

 

「嘘だろ!?」

 

「無茶苦茶だ……」

 

 たった一撃で消滅させた事実は全プレイヤーを絶望に叩き込むには十分すぎた。次の獲物に突進しだすと、ターゲットされた者たちは悲鳴を上げ逃げ惑う。

 逃げ遅れたプレイヤーに向かって鎌を振り下ろす。切り裂く瞬間、団長が[神聖剣]で防いだ。

 しかし、もう1本の鎌が恐怖に陥ったプレイヤーを無慈悲に刈り殺す。

 そしてまた、次の獲物に進撃する。

 

「まともに近づくこともできねぇのかよ!」

 

 あまりの危険にそう嘆く声もあった。

 止まることを知らない死神列車は逃げ回るプレイヤーの目の前に現れると鎌を振り上げ狙いを定める。恐怖に絶叫が響く中1人の声が割って入る。

 

「下がれ!!!」

 

 キリトが2本の剣で鎌を受け止める。しかし、ジリジリ肩に押し込まれていく。さらにもう1本の鎌がキリトに向けられる。だが、追撃は団長が止め、押し込まれていた鎌をアスナが弾いた。スカルリーパーは後ろに跳ね除け、やっと止まった。

 団長、キリト、アスナはリーパーと正面に向き合う。容赦なく降り注ぐ連撃を捌きながらキリトは叫んだ。

 

「鎌は俺たちが食い止める!みんなは側面から攻撃してくれ!!」

 

「わかった!よし、反撃開始!!」

 

 それを合図にプレイヤーたちが攻撃を始める。ついにダメージを与えることができた。

 だが、無抵抗でいるはずがない。「あばれんじゃねぇ!!」という怒号を無視して反撃してきた。何が起きたのか見てみると、先端が槍状の尻尾で近づいてきたプレイヤーたちを薙ぎ払ったようだ。数名がこの餌食になった。これ以上犠牲者を増やすわけにはいかない。

 

「尻尾はどうにかする!みんなは攻撃を続けるんだ!」

 

 縦横無尽に襲ってくる槍を躱し、弾けるものは逃さず、隙が出来れば反撃を繰り返す。

 このモンスター、もしくは自分の命が尽きるまで……




DATE
無し


 長きに渡る激闘はプレイヤーの勝利に終わった

 しかし、それも束の間

 新たな敵の出現に一同騒然

 誰も予測出来ない闘いが2人によって始まる

 次回『最後の決闘』

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