ソードアート・オンライン――紅の聖騎士と白の剣士―― 作:焔威乃火躙
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キリトと団長の決闘から数日後、ゴドフリー率いる訓練隊で事件が起きた。
隊員の1人がゴドフリーを含む3人の隊員を麻痺、そして手をかけた。それにより隊員2名が死亡、1人がレッドまで減らされたという。2人の命を消し去った張本人は同じ隊のキリト、最後の隊員を殺そうとした。
そこへアスナが駆け付け、からくもキリトを保護。その後、裏切りを謀った隊員はキリトによって消滅。そして、2人は帰還した。
この件により、ゴドフリー、ルイン、そして……クラディール、以上3名の死亡を生命の碑にて確認。
「以上の報告で間違いはない?」
「あぁ……」
質問に答えたキリトは見るからに疲弊していた。プレイヤーの死は実感が薄いのに対し、責任感・罪悪感が濃く鮮明に刻みつけられるというギャップがある。それがまた彼を大きく苦しめる要因だ。
しかし、それは彼に限ったことではない。俺もその1人なのだから……
この事件を引き起こしたクラディールは、以前副団長護衛で問題を起こし、護衛の任を解かれたばかりだった。その者の処遇は団長より任された。そして、彼を副団長への接触を固く禁じることのみとした。
あの時、彼を除名処分にしていたなら、こんな事件は起きなかったかもしれないのだ。そう思うと、ゴドフリーたちを死なせた罪悪感が首を絞める。とてつもなく息苦しい気分だ。
「成る程。しかし、話はそれだけではないようだが?」
「……私とキリト君の一時退団の許可を」
「ほう、理由は?」
団長が尋ねると、アスナはギルドに対する不信感と答える。そうか、と団長は一言漏らした。数秒の沈黙ののち、団長が口を開いた。
「良かろう。だが、君たちはすぐ戦場に戻ってくるだろう」
その言葉を最後にキリトとアスナは団長室を去った。
あの後、俺はギルドを離れたアスナの指揮ていた小隊の面倒を少し見ることになった。今回の事態を伝えると、それぞれ思うものはあったようだ。しかし、いつまでもうなだれているわけにもいかない、とサブリーダーの言葉にその小隊は任務を再開した。
その後は執務をこなしていた。内容はギルド内の人員の調整。近頃こればかり行っている気もする。それもそのはず、なにせキリトの入団決定後から今までずっと続いているのだ。今日もアスナたちの退団に応じて調整しなくてはならない。そのせいか、最近は疲労が溜まりつつある。
夕刻にはギルドでの活動は基本的に終了。俺も日が暮れる前にホームに帰った。この日はすぐに眠りについた。明日は団長より休暇をいただき、ゆっくりできるだろう……
翌朝、ベルの音で目覚める。寝起きの目に映ったのはメッセージ受信のウィンドウ。送り主は……
「ki・ri・to…………キリト!?」
驚きのあまり飛び跳ねる。急いで支度し、ホームを出る。
第50層『アルゲード』主街区、エギルの店に呼び出された俺。渋々中に入る。
「客じゃない奴には『いらっしゃい』とは言わねぇぞ」
「それって遠回しに言ってるのと同じだろ。例の人は?」
そう聞くと、エギルは無言で奥の部屋を指す。
奥の部屋にはキリトとアスナがいた。
「いきなり呼び出してどうしたんだよ?」
「あ、あぁ……」
「それが、その……」
2人してどうした、と思いながら2人が話すのを待つ。
「レイ!」
「っ!おう……」
急に名前を呼ばれ驚く。そこへ間髪入れずキリトの口から飛び出す。
「俺たち……け、結婚するんだ」
「え!?ほんとに!?おめでとう!」
やっとか、という思いは胸の奥に押し込みお祝いの言葉を送る。
しかし、結婚とは思い切った決断だ。一般的には付き合ってから結婚に至るもので、いきなり結婚という結末はいくら彼らの仲とはいえ唐突なのだ。おまけにこの世界での結婚とは手続きは驚くほど簡単なのに対し、リスクは途轍もなく大きいのだ。何せお互いの情報とアイテムの共有することになり、それは相手に生命線を預けるのと同意だ。
それ故に、結婚までに至るものはこの世界にはほとんどいない。
「いつかこうなるとは思ってはいたのになぁ。いざ聞いてみると結構驚くものだな」
正直、こっちまで照れ臭くなってきた。恥ずかしさでどうかしてしまいそうだ。
「ま、まぁ、2人とも、お幸せに……」
「あ、ありがとな」
だんだんぎこちなくなり、今にも心臓が破裂しそうだ。
「そ、そうだ!これから2人はどうするのさ?」
「そうだな、22層で2人静かに暮らそうと思ってる」
「へぇ~22層かぁ」
あの層は大した難所ではなかったため、1週間ほどで制覇したので記憶としてはうっすらとしか残っていない。
「あそこの南西エリアに小さな村があってな、そこのログハウスに引っ越して……ふ、2人で過ごすんだ…………」
正直、2人の関係がここまで急展開を迎えるのは驚きだが、まさか2人下層でのんびり住むなんて予想だにしていなかった。
「そっか、何にせよ元気で」
「あぁ」
「ありがとう」
2人が攻略組から去り、はや2週間。攻略も順調に進み、最前線75層の迷宮区も終盤。いよいよ核心のボス部屋への門が遥か彼方に佇んでいる。
「……いつ見ても、この威圧感には圧倒されるな」
「そうですな。しかし、立ち止まるわけには行きませぬ!そうですな?」
そう言ってモルガンティスは覗き込んできた。
「あぁ、ここで立ち止まってしまえば解放の日は遠退く。我々が切り開かなければならない」
「流石は我らが団長殿の右腕、『白の剣士』レイ殿だ!あなたなら我らを勝利へ導いてくれましょう」
「そこまで大層な者ではないさ」
他愛ない会話でパーティの雰囲気は少し和らいだ。
今回のパーティはギルド合同20人の部隊で挑みに来た。そして、その相手は……この先にいるのだ。
今までクォーター・ポイントのボスとは死線の狭間を彷徨う戦闘を強いられてきた。今回はその大玉、恐らくこれまでとは比べものにならない奴が出てくるだろう。
そこで今回の偵察は過去に類を見ない大規模なものとなったのだ。そして、その統率の役を任されたのが俺だ。
今日は偵察隊としてボスに挑む。しかし、敗北の決まっている戦いに参加するのは些か奇妙な感覚だ。まるで、自ら死にに行くような……そんな感覚だ。
いや、そんな考えでこの戦いに身を投じるわけにはいかない。これは生きて帰るための試練なんだ。そう自分に言い聞かせる。
そんなこと考えているうちに巨大な扉の目の前に来た。
「これより、当初の予定通り作戦を実行する!まず、タンカー部隊が先に出る。その後アタッカー部隊が突入。中は恐らく下層同様結晶無効化エリアだと推測される。回復は攻撃範囲内から離脱し各自のポーションで。油断だけはしないように!」
事前に打ち合わせたこのを再度確認し、これ以上無い準備をして来た。いよいよだ……
「よし!では、俺が戦線で指示を出す。タンカー部隊は俺のあとに……」
ついてこい、と言おうとした瞬間、急に力が抜けていった。
「おぉっと」
倒れる直前、モルガンティスが支えてくれた。
「レイ殿よ、最近まともに休めてないでしょう。ここは私目にお任せを、レイ殿はゆっくり休んでください。ほんの少しでも、英気は養っておくものですぞ」
「すまない……なら、任せた」
「というわけだ。私が戦線に出る!作戦は変更せずこのまま行くぞ」
息の合ったパーティの声を聞くと、少しホッとしたのか肩の荷が降りた気がした。
モルガンティスが扉に手を押し当てる。
「準備はよいな?行くぞ!」
そう言って、硬く重い扉はギィィと音をたててゆっくり開いていく。全開になると、タンカー部隊がぞろぞろと入っていく。
本来、モルガンティスがいるところに俺がいたのかと思うと、アタッカー部隊の2人の肩を借りて力なく立っている自分が恥ずかしくなってきた。
部屋の中央まで進んでいったが、何も現れる気配がない。
何事かと思ったそのとき、扉が独りでにギィィと閉じていく。
「っ!!戻れぇぇぇぇぇ!!!」
扉が閉まっていくことに気づいたモルガンティスたちは全力で駆けてくる。が、時すでに遅し。扉は完全に閉ざされ、中に入ったものは閉じ込めりてしまった。
「急いで開けるんだ!」
愕然としたアタッカー部隊は我に返ると、扉を再び押す。しかし、硬く閉ざされた鉄の塊はびくともしない。
「ダメです!我々の力では……」
「どけ!!!」
非力になった体に鞭打ち、鉄塊目掛けて振り下ろした。
しかし、鉄塊は切れるどころか傷ひとつ残ってない。これじゃ全く歯が立たなかった。
だか、そんなことを考えられる程の余裕は存在してなかった。ただ、ひたすらに剣を振り回しているだけ。
「た、隊長!どうかここは落ち着いて!方法は他にもあるかもしれません」
そのとき、彼らの声は微塵も届かなかった。残っているのは野獣の如き怒号と剣を弾く鉄の音だけだった。
そう、あのとき俺は怒りにとらわれていたのだ。こんな不条理な状況と、彼らを救えなかった自分に……
あの後、どれだけ切りかかり続けていたのか、中の者はどうなたのかはハッキリとは覚えていない。ただ、無情な結果だけが押し付けられていた…………
「いじょうが、こんかいのほうこくです」
「そうか……まさかここまでとはな。やはり彼らを呼び戻す必要があるようだな……あ、報告ご苦労。もう上がって良いぞ」
「はい…………」
そう言い残して団長室から立ち去った。
この日の夜はなにもすることなく、ただ、眠りについた。そう、ただ、ただ……
DATE
《morgantis》
血盟騎士団のギルドメンバー、片手棍使いの剛漢、ギルドでの役割は物資管理の責任者、エギル並のマッチョだが心優しい性格、メンバーへの気遣いがとても評価されている
75層攻略最後の砦、敵の情報はゼロ
対するは、最大勢力を揃えた攻略組
どちらかが死ぬまで終わらないデスゲーム
過去最大の戦いの扉が開かれる
次回『命刈り取る骸』