ソードアート・オンライン――紅の聖騎士と白の剣士――   作:焔威乃火躙

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News art online(NAO)
皆さんこんにちは、『ソードアート・オンライン――紅の聖騎士と白の剣士――』も終盤。いよいよ決戦!の前にこの世界の様子を見てみましょう。アインクラッド最終戦前、どうぞお楽しみください。
以上、ニュースアート・オンラインでした。


この世界に生きる者たち

 2024年10月下旬、最前線、74層の迷宮区、現在骸骨剣士『デモニッシュ・サーバント』と交戦中……

 

「っ、せい!」

 

右斜めから切り下ろす剣撃を左のバックラーで防ぐ骸骨剣士、ダメージは通るものの微々たるものだ。

 デモニッシュ・サーバントは2mを越える長身で右に長剣、左にバックラーを持ち合わせ、高い筋力パラメーターで設定されている。攻略組でもパーティ全員で1体を仕留めに行くのが定説になるほどだ。

 とはいっても1人で倒せないわけでもない。パターンを全て記憶し、その攻撃ひとつひとつ捌いては隙を突いていく。中にはパリィ攻撃もあるので、それは100%パリィを成功させ硬直時間の短いソードスキルを打ち込んでく。それを続け、気づけば骸骨剣士のHPバーが残り1割に突入した。

 

「ゴォグヮァァァ!」

 

耳障りなサウンドエフェクトを発し、長剣を青白いライトエフェクトが包み込む。片手剣ソードスキル[バーチカル・スクエア]を発動させる。デモニッシュ・サーバントはこのソードスキルの使用頻度が比較的高い。それさえ見切ってしまえばほぼダメージを受けない。4連の斬撃をひとつひとつ躱し、歪な四角形は空を斬って発散する。硬直している今がチャンス、と渾身の一撃を込め片手剣ソードスキル[ノヴァ・アセンション]を発動。

 

「はあぁぁぁ!」

 

鼓膜が破れそうになるほど声を震わせて深々と剣先をはしらせる。スキル発動中、悲鳴に似た断末魔をあげていたようだが俺の耳には届かない。スキルが終わる前に、ポリゴン片となり四散する。最後の一撃はモンスターの体ではなく、何もない空間を切り裂いた。

 

「はあ、はあ、はあ……ふぅ~」

 

張り詰めた緊張感から一気に開放され、安堵に包まれ息をつきフィールドに腰を落とす。無理もない話、さっきのモンスターは単身で倒せないことはないが、10分以上ぶっ通しでやらなれればならない。それに加え、最近アルゴリズムの変わってきた敵の攻撃を全て避けるか捌ききり、尚且つ一瞬の隙を逃さず手早く攻撃を与えるための効率のいい立ち位置、速攻の一撃を正確に撃たなければならない。

 何より、それを延々と続ける集中力の持続が一番の問題。一瞬でも手を誤れば、死は免れない事態となりかねない。連戦をするようなら、それは自殺行為そのものだ。

 そんなギャンブルをする理由はないはずだが、ここ数日はそれを繰り返している。 強力な敵に梃子摺(てこず)り攻略が進まなくなってきたことへの焦りか、次第にボス攻略が近づいていることへの不安の腹いせか……どちらにせよ、 死と隣り合わせの状況が続くのは好ましいものではない。とりあえず、フィールドを去る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第50層『アルゲード』主街区、とある店で今日ドロップしたアイテムを売りに来た。目的の店の前に着いた。

 

「ともかく今日はここで帰りなさい!副団長として命令します」

 

突如、中から声が聞こえた。普通なら扉越しに話を聞くことはできない。だが、例外はある。扉をノックしてから10秒の間なら中からの声を聞くことができる。他にも聞き耳スキルをあげるなどいろいろあるがその中のひとつに、中のプレイヤーの声が一定音量を越えたとき外のプレイヤーにも聞こえるなっている。中のプレイヤーに危険が迫っているとき、助けを呼ぶという意図で設定されたと言う。

 しかし今では、口喧嘩の声も通ってしまうと言うリアルでもよくあるような現状が起きている。実際に危機と言っても、ハラスメント防止コードで大方どうにかできるのでたいした需要は今のところない。

 ドンッ!!と勢いよく扉を開け白コートに身を包んだ男2人組が出てきた。あの2人は副団長護衛隊、とか何とかいったものをやっている奴らだ。確か名前は………

 

「ちょっと、待ってよクラディールさ~ん」

 

「今機嫌が悪いのはわかってんだろ!話しかけてんじゃねぇよ、ルドリッヒ!」

 

俺に気づきこともなく、2人は去っていった。副団長ことアスナは護衛なんて要らない、とは言っていたが万が一に備えておくべきだと言う意見に渋々承諾したのだ。無論、俺も護衛は1人でも置いておくべきだとは思うが……クラディールの素行とアスナへの執着心はあまりにも目に余るものだ。

 しかしまあ、今そんなことを気にしても仕方ない。とりあえず中に………

 

「ああ~もう!何なのよあいつ!だから護衛なんていらないって言ったのよ!」

 

「おいおいアスナ、俺とラグー・ラビット置いて行ってどうすんだよ~!」

 

再び勢いよく開く扉から出てきたのは、アスナとキリトだった。彼女らも気づくことなく店を後にしていった。

 嵐の後の静けさとなった店内に入る。

 

「大分静まり返ったな」

 

「ん~?あぁ、レイか……どうした?なんか用あんのか……」

 

「どうしたんだよそのどん底空気は……」

 

いつもはバカみたいにプレイヤーの売るアイテムを安く仕入れて高笑いしているような漢が、こうも意気消沈するとは余程のことがあったのだろう。まあ、大方察しがついている。

 

「ラグー・ラビットか?」

 

「その話は止してくれ……」

 

さらにへこんでしまいそうなので止めておく。

 さて、本題に戻るとしよう。

 

「こいつらを買ってくれ」

 

そう言って、メニューを操作しアイテムウィンドウを開く。エギルはそれを覗き込んでしばらくすると、いかつい顔を緩め金額を提示する。

 

「23点合わせて1万コルだな」

 

1万コルと聞いて大分高く着いたと思うものもいるだろう。実際そうでもない。俺の売るアイテムの中にはレアアイテムも含まれている。一番高いのでさっきの半分は軽く越える。その他にも1,000コルオーバーの物はいくつかあるが、それら全てで1万は明らかに安すぎるのだ。

 しかし、俺は金に困っているわけでは無いし、何より彼の目的を知ってる。それもあって、最近は全く気にしてない。

 

「わかった。じゃあ、さっさと済ませようか」

 

そう言って、アイテムをトレードウィンドウに入れる。エギルもコルをトレードウィンドウに入れ、トレード開始のボタンをタップする。一瞬のうちに売却は終わった。

 

「毎度!いつもすまねぇな」

 

「気にするな。まあ、有効に使ってくれよ」

 

「応!……そうだ、あの2人……なんかあったのか?」

 

「あの2人?」

 

記憶を遡るように思考を巡らす。そして、ある2人のことに行き着いた。

 

「ああ~、あの黒白コンビか。最近仲いい感じになってきたからな」

 

「へぇ~、キリトのやつが俺に黙って……」

 

少し嫉妬しているのか、彼の顔はモンスターも怯む恐ろしさで溢れかけた。

 

「でも、エギルも向こうに奥さんいるんだろ?そんな様子知られちゃまずいんじゃないか」

 

「ま、まぁな……」

 

その一言で強張った空気が解放された。

 以前、エギルから聞いた話では、リアルでは喫茶店をやっていて奥さんと2人で切り盛りしていたそうだ。2年前、例の事件発生する直前の日……ソードアート・オンラインを入手したものの1人分しか用意できずどっちが先にやるかという話になった。結果は見ての通りエギルが先にナーヴギアを被った。今では俺が先にこの世界に来ていて、奥さんをこの世界に閉じ込めることにならなくて良かったと言っている。ここまで来ると2人の仲は余程良いというのは俺でなくともわかる。

 あの2人も早くそうなればいいのに……そんなことをふと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、今日は休養をもらったのでのんびりと過ごす予定。のはずだったが……

 

「なんで君たちがいるのさ?」

 

「いや~、なんたって珍しく休暇だって言うから久々に一緒に行動しないか?ってこと」

 

「そうそう、最近『仕事あるから』ってギルドに籠りっぱなしじゃない。もう少し付き合い多くても良いと思わない?」

 

リグレスとセーレはそう言っているが、彼らの目的はわかっている。

 

「今日はNPCレストランで済ませるつもりだから」

 

「「え!?作ってくれないの?」」

 

「そのだけのために人の家に押し掛けてくるな!」

 

どうやら、のんびりすることは叶わないようだ……この2人のせいで…………

 そんなこんなで、結局自分で作ることになった。恐らく今日1日中居座るだろう。2人が訪れたのは昼前、朝食時に来なかったのが幸いだ。それはさておき、気になったことを聞いてみる。

 

「休暇だってどうやって知った?」

 

ギルドのメンバーならまだしもアルゴも知らないはずだが……

 

「ヒースクリフが教えてくれた。丁度昨日呼び出されてな、その見返りにって」

 

なぜあの人はそういったことを他人に安々としゃべってしまうのか……

 呆れつつもその感情は押し殺し、代わりに1つため息をつく。

 その瞬間、メッセージ着信を知らせる鈴の音が鳴る。何事かとメッセージを開くとそこには団長からの呼び出しが短く書かれていた。──至急、私のところに来てくれ──と必要な情報だけを的確に記されていた。

 

「すまないけど、団長に呼び出されたから行くわ。2人も今日は……」

 

「(俺/私)たちついていく!」

 

「却下!!!」

 

部屋に轟音が響き渡った。ひさびさに出す自分の怒号だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第55層『グランザム』、KoBギルド。団長室に向かう途中何人か話し掛けてくる。

 

「おや、レイ殿!今日はいないと聞いておりましたが……」

 

「団長に呼ばれたんだ。それより物資の補充は済ませた?」

 

「勿論!と言いたいところですが少々ボーダーに届いておらず、調達を急がせておりますが……」

 

「わかった。そちらは追々にして君たちもレベリングに行くといい」

 

「了解しました!ではすぐ他の者にも」

 

そう言って彼は駆けていった。彼はモルガンティス、物資管理の責任者でギルドのアイテム等の管理は勿論、調達も彼らの仕事だ。

 

「あ、レイさん。丁度いいところに、中層プレイヤーの強化は順調、このまま行けばあと2ヶ月程で攻略組に入れることができそう」

 

「了解、引き続き頼む。しかし、無理だけはさせないように」

 

彼女はシーナ、中層プレイヤーの強化担当。ギルド、攻略組の中では一二を争う指導者としての天性を発揮している。

 他にも多くの責任者、担当者が進捗報告に来る度に適格な指示を出す。そんな繰り返しを何度したことか、気がつけば団長室だ。

カンカン

 

「失礼します。ただいま参りました」

 

重たい鉄の扉を開くと、奥に配置された長机を挟んで団長が椅子に腰掛けている。

 

「すまないね、わざわざここまで来させてしまって」

 

「それはお構い無く、して何事ですか?」

 

団長は長机に重心を乗せるとうむ、と一言ついて話始める。

 

「今日、クラディール君が問題を起こしてね、詳細はさておきアスナ君直々に護衛任務の解雇を言い渡されたとのことだ。あとの処理は……」

 

「『私に任せる』といったところでしょう」

 

「すまないね、君に押し付けてばかりで」

 

「ご心配なく、この程度のことをこなせないようでは団長の側近などになっておりませんよ」

 

そう言うと団長は重荷を下ろしたように軽やかに身を起こす。

 

「そうか、ご苦労。今日はもう休んでくれ」

 

一言返事をし扉の前まで戻る。そして、出ようと扉にてをかけるその瞬間。

 

「あ、そうだ。機会があれば、また君の手料理を食べさせてもらっても?」

 

「えぇ、勿論」

 

そう言って部屋をあとにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰路を急いでいるとき、鍛冶屋からメッセージが届いた。メンテに出した武器を取りに来い、と言うので寄ることにした。

 第48層『リンダース』、街中を流れる水路はそこら中に張り巡らされて、この層の建物は水車付きのものが多い。その中の1つ、大きな水車が目印の職人クラス用プレイヤーホームが見えてくる。ここが目的地だ。扉を開けると鈴の音と共に、

 

「リズベット武具店へようこそ!」

 

と張りのある声が出迎える。

 

「すまないねリズ、お客じゃなくて」

 

「な~んだ、あんたね。注文の品、工房からとってくるからちょっとここよろしくね♪」

 

思うことはあるが取り合えずわかった、と返す。

 彼女、リズベットはマスタースミスであり、マスターメイサーでもある。鍛冶屋としてもプレイヤーとしても文句なしの称号の持ち主だ。しかし、彼女はあくまで鍛冶屋、攻略組と比べるとその差は歴然。しかし、鍛冶屋でありながらも中層プレイヤーにも劣らぬスキルの高さはかなりの時間と労力を伴ったものであろう。

 その彼女が1分もしないうちに工房から戻ってきた。まあ、この店の奥が工房だから何ら不思議なことでもないけど……

 

「はい、注文通り研磨は終わらせたわよ」

 

運ばれてきた4本の剣はガシャンと大きな音をたて目の前の台に並ぶ。ありがとと、一言言ってアイテムストレージに収納する。

 

「しっかしねぇ、あんたこの1週間で4本もへばらせるって、どんだけフィールド彷徨ってんのよ!」

 

「じゅ、15時間ぐらい……」

 

その言葉を聞いた瞬間、彼女は石化した。意識が戻ったのは、その5秒後だ。

 

「あんた……死に場所でも探してるの?」

 

ただ苦笑いすることしかできない自分に呆れてしまう自分がいる。実際そこまで攻略が切羽詰まっているわけでもないし、10時間以上フィールドに潜っている必要はない。

 

「でも、理由は……」

 

「わかってるわよ、別に言わなくても」

 

一度リズには話したことがある。その内容は今は置いといて、彼女は一息おいて飛びっきりの笑顔で言う。

 

「その代わり、アスナとキリトのこと頼んだわよ」

 

「あぁ」

 

その言葉を残し、店を出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホームに帰った時にはもう18時を回っていた。のんびり休暇を過ごすことは叶わなったが、別に悪い気はしてない。

 この世界に来て2年近く、プレイヤーたちはそれぞれの生き様を見つけこの世界で生きている。初期に比べれば大分落ち着いたと言える。それを見れただけでも今日に意味があったと思う。ゲームクリアまであと26層、この世界(ソードアート・オンライン)から解放されるまでそう時間はかかることはないだろう。

 そう考えながら前線に戻るための英気を養うことにした。




DATE
《Agil》
第50層『アルゲード』で店を出している、レイとは第1層のボス攻略で同じパーティのメンバーでタンカー兼アタッカーという頼りになるプレイヤー、しかし店ではがっしりした図体と恐ろしいほどの顔で多くのプレイヤーが安値でアイテムを買い取られている。


 遂に始まる最強同士の闘い

 決闘する2人のプレイヤーは

 何を思い、何を挑むのか

 今、2つの意志が衝突する

 次回『神聖剣VS二刀流、2人のトッププレイヤー』

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