ソードアート・オンライン――紅の聖騎士と白の剣士―― 作:焔威乃火躙
いよいよ明かされるレイとガーネスの過去、回想に映る情景は懐かしき日の記憶、ついに2人の出会いの秘話が明かされるようです。
『白の剣士 放浪編』最終節、心行くまでお楽しみください。
以上、ニュースアート・オンラインでした。
「こんなところで寝て、お前危機感ある?」
「ここは安全エリア、おまけに情報家も知らない秘境だぜ?神経質になる必要なんてあるか?」
緑に包まれた草原に身をゆだね、完全に無防備状態で答える姿に少し頭に血が上る感覚があった。当時のピリピリしていた最前線にこんなに無神経でマイペースな奴が混ざっているなんて言われてブチ切れるな、と言っても無理がある。実際、その状況に高ぶっている感情をやっとのことで押さえつけていたのだ。
溢れる感情を抑えながら無防備な剣士のまがい者に訪ねた。
「お前、何でここで寝てるんだ?」
「ん~?こんな昼寝時に最適な草原にいるのに眠らない方がおかしいだろ」
彼はすごい気持ち良さそうな表情をしていた。
確かに、頬を撫でるような爽やかな風が吹き、足裏からも伝わる絨毯のようにふかふかした草原、耳に残る風や草の安らかな
「とりあえず、横になってみろよ。騙されたと思ってさ」
俺は彼の言われるままに横になった。俺の体を支える草原はそこら辺の安っぽい宿の寝床よりも快適だ。横になってすぐに、意識は遥か彼方の世界へと誘われた。
目を覚ますと、すでに起きていた彼が顔を覗き込んでいた。
「やあ、随分よく寝てたな」
その言葉を聞きギョッとした。弾かれたように体を起こすと、辺りはオレンジ色に染まっていた。
「ここは最近見つけたんだが俺のお気に入りでな、情報家でも知らないんだぜ」
自慢気にしている彼を見て思わず吹いてしまった。あまりにも緊張感が無さすぎて、気を張り続けていた自分が馬鹿らしく思えた。
「お前のような奴もいるんだな、ある意味尊敬するわ」
「いや~、そんなこと言うなよ。照れるだろ」
「いや、この場合って誉めてないから……」
なんか誉めてもいないのに勝手に照れてるし、こういう奴は大抵が面倒な奴だ。
「オレっちはガーネス。ま、よろしく」
「……レイ……」
彼にも聞こえにくいほど小さくあきれた声で自分の名を言う。
「レイ?お前の名前か?いいねぇ~、よろしく!レイ」
……もう、勝手にしてくれ……
それが、俺とガーネスの出会いだった。
それから1週間後、32層ボス攻略当日、俺はいつも通りギルメンとパーティを組み、ボスに挑む。そのつもりだったが……
「レ~イ!頼む、俺とパーティを組んでくれ!あぶれちまって1人なんだよ。お前しかいないんだ、頼む!」
出発の10分前に唐突に言われ、ふざけているのかこいつ……と思いはしたが、1人でも多く人材が欲しい。無理を言ってパーティメンバーに納得してもらい、彼とパーティを組むことになった。
いざボス攻略に挑むと、彼の実力は当時の『閃光』のアスナにも引けを取らないものだった。
それからは度々コンビを組むようにもなった。ギルドの合間を縫って彼と仮に出た回数は優に100は超えているだろう。
彼とはこの世界で2番目に長い付き合いだ。勿論、1番は団長ことヒースクリフだが……その半分くらいはあるだろう。それだけ長ければ、コミュ症の俺でさえ並々ならぬ感情を抱く。彼はこの世界でも類のないトラブルメーカーだったが、何気に良き友だったのだと今なら思える。
元々、
そんな彼をつい先日亡くしてしまったのだ。いや、俺が死なせてしまったんだ。1番彼を救えたはずの俺が……彼を見殺しにした。
「お~い、生きてるか?」
…………いつの間にか夕焼けは地平線の彼方へ消え去り、後には漆黒の闇夜が残っていた。
「生きてなければ、今ここに俺はいないだろ……」
「それもそうだな」
キリトは柔らかな笑顔で微笑む。
「いつから起きてたんだよ……」
「ついさっき」
「そうか……」
寝起きでまだ目覚めきっていないせいか、話がなかなか続かない。多分、このまま横になっていればまた眠りにつくだろう。
「……なあ」
「ん~、何?」
今にも消えそうな意識の中、彼の言葉を聞き取ろうとする。
「ガーネスってどんな奴なんだ?」
「…………お前は聞いて良いことの区別さえつけられねぇのか?」
「悪い……ついさっきの聞いちまったもんで……」
彼のふざけた質問で眠気は姿を消した。彼の言おうとすることもある程度は察しがつく。
「チッ……聞いてたのかよ」
「悪い……」
「別に、昔っからみたいだから気にはしねぇよ」
それはさて置き、あの話は前半はともかく、彼の死については気分の良い話ではない。それをたまたまとは言え盗み聞いてしまったとしたら尚の事だ。それが例え、既に知っていたとしても……
「……俺もさ、死なせちまった奴がいるんだ」
沈黙を破るようにキリトは話し出す。
「ずいぶん前にな、中層プレイヤーのギルドに入ったんだ……その頃はプレイヤーと関わるのは避けてたんだけど、彼らのアットホームな感じに惹かれてな、ギルドに誘われたときは心の底から嬉しかったんだ」
その言葉に俺は驚いた。あの、プレイヤーとは接触を極力避け続けていたキリトがギルドに所属していた時期があるとは思っていなかったのだ。
「でも……俺は彼らを死なせちまったんだ。いや、違うな…………俺が殺したんだ」
その言葉は俺の心を写し出したようなものだった。彼がこんな話し始めたのも、俺と同じような感情を抱いたことがあると言いたいのだろう。
「俺、ギルドの皆には嘘のレベルを言ったんだ……もし俺が『ビーター』だって知られたら、彼らも拒絶するんじゃないかって……そう思ったら、本当のことが言えなくて…………」
「そう……」
彼の言葉は俺の中に何度も深く突き刺さる。勿論、彼に悪意はない。ただ、彼への申し訳なさが勝手に胸を締め付けているだけだ。
そもそも、彼を『ビーター』と罵倒されるようになったあの出来事は俺が未然に防げたはずなのだ。にも関わらず、俺は彼1人にプレイヤーたちの恨みを背負わせ、孤立させてしまう結果を招いてしまったのだ。
そして今も、その事実を言えずにいる。
「でもな……」
そう言って、彼はストレージを開いて何かを探す。そして、1つのアイテムをオブジェクト化する。彼の手には既に使用された記録結晶がオブジェクト化される。
「それは?」
「メッセージ録音クリスタル、ギルドにいたやつから貰った。と言っても、時間指定で送られたものだけどな……」
記録結晶にはメッセージを録音するもののほかに、写真を撮るものやメッセージを書き残すものもある。その中でも1番値が高いものが、メッセージ録音クリスタルだ。
「それには、なんて……?」
躊躇いを引きずりながら彼に聞いてみた。
「……『がんばって生きてね。生きて、この世界の最後を見届けて、この世界が生まれた意味、私みたいな弱虫がここに来ちゃった意味、そして君と私が出会った意味を見つけてください。それだけが、私の願いです』って」
その時の彼の顔は懐かしそうだった。
「サチは、俺に生きる意味をくれたんだ」
「サチ?」
聞き覚えのない名前を復唱する。
「俺のいたギルドの、『月夜の黒猫団』のメンバーだった。結局、守れなかったけど……俺はこの世界に来た意味を見つけなければいけないんだ、サチのためにも……」
振り絞る声で最後の言葉を発する。彼の目には後悔の色が映っていた。しかし、その奥には決して折れることのない強き意志があった。黒の剣士を象徴する黒き魔剣『エリシュデータ』のような固く、真っ直ぐな意志がそこにはあった。
「だから、俺は生きなくちゃいけないんだ。それが、サチの、最後の願いだから……」
そう言い残して、彼はここを去っていった。俺は挨拶も彼にかける言葉も言うことができなかった。
気づけば、空には転々と輝く光が現れていた。その光は、後悔の闇に落ちた俺を照らしてくれた。正確に言えば、キリトが暗闇に落ちた俺を見つけ出し、追随して天の輝きが救いの手を差し伸ばしてきたのだ。そのとき、俺は悟ったように内心呟く。
……俺1人じゃない。苦しんでるのは、俺1人じゃないんだ……
ここから立ち上がるんだ。励ましてくれた彼のためにも、あいつのためにも……
心にそう誓い、ストレージから2つのアイテムを武装する。彼と共に手にした『セルメントサーブル』左腰に、あいつの形見、『スカーレットアイズ』を右腕に……
DATE
『スカーレットアイズ』
ガーネスが常に装備していたブレスレット、紅色の玉石が特徴的で未だに1つしか見つかっていない超レアアイテム、真紅の宝玉はガーネスの瞳のようだった、ソードスキル威力が大幅にアップする。
74層攻略が進む中、レイは久々の休暇を貰う
SAOで暮らす人々、仲間、戦友、
彼らがこの世界に生きる姿は
果たして何処へ行き着くのか
次回『この世界に生きるものたち』