ソードアート・オンライン――紅の聖騎士と白の剣士――   作:焔威乃火躙

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News art online(NAO)
クエストに挑戦する2人の剣士。波乱の冒険の先に待つものとは?そして、2人は無事クエストクリアできるのか?
前回引き続き、『白の剣士 放浪編』第2弾、お楽しみください。
以上、ニュースアート・オンラインでした。


太古の遺産

「せあぁぁぁ!」

 

ガキィン!その音に合わせ《ブラットウルフ》は仰け反る。

 

「よし、スイッチ!」

 

俺はバックステップで飛び退く。がら空きのブラットウルフにキリトの[バーチカル・スクエア]が炸裂する。

 たちまち、HPは消滅しポリゴン片となり四散する。

 

「うし!大方片付いたな」

 

「多分、このエリアにはもうポップしないだろう」

 

「そうだな」

 

その言葉と同時にキリトは黒剣を背の鞘に収めようとする。

 

「……さっきから思ってたけど、その黒い剣って……」

 

「あぁこれか?50層ボスのLAB(ラストアタックボーナス)でドロップしたものだ。『エリシュデータ』って名前だ」

 

そう言って鞘に納めかけていた黒剣を両手で刀身を支え俺に見せる。

 『エリシュデータ』、一切の曇りのない漆黒の(つるぎ)、その黒剣からは深淵に引き込まれそうな引力を感じる。引き寄せられるようにエリシュデータに手を伸ばす。キリトが力を緩めた瞬間、ズシリと両腕にかかる。彼は平然と片手で振るってるが、結構重い。俺も筋力パラメーターは並ほど上げているが、それでも振り続けるのはかなり大変だろう。恐らく、モンスタードロップの中でも数少ない魔剣クラスだろう。鑑定スキルを持ってない俺でもそれはわかる。

 

「これ、魔剣か?」

 

そう聞くと、

 

「あぁ、そうみたいだ」

 

返した剣を軽々と持ち上げ、鞘へと滑り込ませる。

 かれこれ10分くらいだろうか。ひたすら狼を斬り続けてはいるが、未だ森の奥にたどり着く気配がない。

 

「どこまで進めばいいんだか……」

 

つい、出てきた素朴な疑問を口にする。

 

「多分、そろそろだろうけど……」

 

辺りを見渡しながらキリトは言う。この辺りは深い森になっていて、周囲は木々に囲まれている。今いる位置さえも分からなくなりそうだ。

 

「……この木、切れないかな?」

 

「へ?」

 

彼の言葉に呆気をとられた。

 

「何言ってるんだ。基本的に破壊不能オブジェクトに設定されてるだろうから傷ひとつ付けられないだろ。仮に解除されていたとして、一体何をする気だ?」

 

「まぁ、見てればわかるさ」

 

そう言って、ソードスキルの構えを取る。片手剣ソードスキル[エアロスラッシュ]、水平に横薙ぎるシンプルな技。しかし、このソードスキルはそんな単純なものではなく、薙ぎ払うと同時に鎌鼬を放つことができる。しかし、威力が低いため、使う人は少ない。

 

「っ!せい!!」

 

緑白色の鎌鼬がみるみる広がっていく。次々と木の幹に吸い込まれ抜け出す。破壊不能オブジェクトではないようだが、切れているのかはわからない。鎌鼬が見えなくなったのを確認し、剣を背中の方に戻す。カチン、と音が響き漆黒の刃は姿を消した。

 それとほぼ同時に、木々は奥に傾いていく。バタァン、と音をたて、バッサリと斬り倒されていった。

 

「こんなもんか……」

 

キリトはそう呟いた。あまりの出来事に状況についていけなくなりそうだ。

 

「すっげ……」

 

「さ、行こうか」

 

そう言って歩き出す。あ、ちょっと待ってよ~、と彼を追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、大分奥に進んだだろう。たびだびモンスターに遭遇したが、難なく斬り倒した。周りの木を切り倒したことにより、戦いやすくもなったし、視界が開けたため進みやすくなった。

 

「そろそろか」

 

キリトの言う通り、密林地帯が開け、やがて小さな建物が見えた。徐々にはっきりと見えてくる光景に息をのんだ。

 

「こんなものがあったなんて……」

 

「あぁ、驚いたな……」

 

俺とキリトの視線の先に映るのは、古びた遺跡が佇んでいた。何百年……いや、何千年の歳月を渡りここに存在してきた姿は、大自然と一体になり、それは絵画の作品に並ぶものだろう。俺たちはその美しさに唖然とした。その姿を前に息をすることさえ忘れてしまいそうだ。

 そう言えば、以前団長から第1層に太古の世界より取り残され大自然に身を包んだ古代の文明誕生の地があるとかないとか……そんな事言ってた。恐らく、ここがその地なのだろう。

 屋根と壁の一面が無くなった石造建造物を大量の植物が覆い、その下には文明誕生の痕跡が残されていた。人の文化も包み込む大自然の壮大さが表れている。

 ここに依頼の品があるということは、探している石ってのは……そう思いながら遺跡を調べる。古代文書などいろいろ出てくる。この世界では古代文書も読めるようになっている。つい、それに見いっていたとき、

 

「あったぞ!これじゃないか?」

 

その文書を仕舞い、声のした方へ駆ける。

 

「どれ?」

 

そう問いかけると、彼はそれを指さす。

 

「これ……石っぽいけど……」

 

「え?これじゃないのか?」

 

彼はそう言ってくる。無理もない、触れられた形跡はなく、数百年はずっとこのままだっただろうから遠目に見れば石に見えなくもない、と思う……

 

「とりあえず、持っていくか」

 

そう言ってそれを持ち上げる。

 すると、石?は光を放ち、辺りは青白色に染まる。目を開けると、そこにはいなかったはずのモンスターが現れていた。

 

「グワァァガ!」

 

けたたましい雄叫びとともに、2本のHPゲージが出る。その上には《メタルバイトウルフ》という名、このモンスターの名だろう。

 俺たちは戦闘準備をすると、一瞬の内に目の前まで飛んできた。

 

「伏せろ!」

 

反射的に体を動かす。狼は俺の頭の上をミリ単位ですり抜けていく。通りすぎると同時に体を半回転させ右後ろ足を斬る。しかし、ダメージはさほど与えられてはいない。

 

「俺が弾くからあとは頼む!」

 

狼に向かって駆けながらキリトは言う。

 

「了解!」

 

そう言って、ソードスキルの構えを取る。グワッ!、と襲いかかる牙を弾く体勢に入ったのを見て同時に発動させる。タイミングはほぼ完璧に近い、相当なダメージを与えられる。そう思っていた。

 

「せあっ!」

 

パリィをするキリト。しかし、狼の方がやや強かったのか押し返されている。キリトに牙が届きそうだ。

 

「伏せろ!」

 

キリトに向かって叫ぶ。彼はその言葉通りに動く。向こう側からして見れば、いきなり標的が消えたというところか。それはさておき、キリトが伏せたことで[ヴォーパル・ストライク]が直撃し、大分ダメージを受けた。それにより生まれた隙で俺たちは一端距離を取る。

 

「あいつの攻撃は多分流す方がいいだろう」

 

「わかった。なら、俺に任せろ」

 

彼は頷くと、 早くも襲いかかってきた狼から飛び退き攻撃準備に入る。俺は剣を構え真っ直ぐ敵を捉える。

 あと数ミリのところで、剣の切っ先を後ろに向け刃に手を添え敵の軌道に合わせる。そして、牙に当て軌道をずらしていく。

 

「ふっ!」

 

確かに重い攻撃だが、攻撃を逸らすぐらいなら問題はない。たちまち、メタルバイトウルフは攻撃は逸れ体勢を崩した。そこへ、キリトの[バーチカル・スクエア]が直撃。HPバーの一本が消し飛んだ。

 その後も、ひたすら攻撃を逸らしてはソードスキルを打ち込み。あっという間にHPは消え去り、メタルバイトウルフは消滅した。

 

「よし、じゃあ戻るか」

 

「あ、あぁ」

 

キリトがさっきの石を持っていく。もう石じゃなく水晶玉にしか見えないけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 依頼主のところまで戻ると、爺さんは大喜びしている。

 

「いやはや、ありがとう。まさか、本当に倒してくるとは……さ、報酬を渡さねばな」

 

そう言って、後ろのでっかい袋に手を突っ込む。

 

「その前にひとついいか?」

 

「なんじゃ?」

 

爺さんは手を止め俺に問い返す。

 

「何でわかったんだ、これを触った瞬間にモンスターが出ることが」

 

俺は水晶玉を指し聞く。キリトは、摩訶不思議そうな顔を浮かべる。

 

「何を言うか、知ってて当然であろう。すでに触っているんだからのぉ。」

 

「いや、恐らく最後に触れられたのは数百年も前だ。人間がそんなに生きていられるとは思えない。なのに、あんたはついさっき『本当に倒してくるとは……』といった。どういうことだ?」

 

キリトは俺の言葉についていけなくなりつつある。爺さんは黙り込んだ後、観念したかのように溜息をつく。

 

「わしが事前に知っとった理由、それは……」

 

「トレジャーハンターなんだろ?」

 

その言葉に2人はギョッとする。

 

「……何故……わかった」

 

「普通の爺さんがこんなところでその後ろに隠してるでっかい袋を持ってる方がおかしいわ。ま、多分変装なんだろうけど……」

 

「でも、それが仕掛けを知ってた理由にはならないんじゃ?」

 

ようやく言葉を発したキリトのいうことは事実だ。だか、

 

「それが遺跡専門だったら話は別だ。古代の遺跡はその存在を守るため、守護モンスターが存在する。それを知っていれば誰でも分かる」

 

そう言って、仕舞った古代文書を取り出す。

 

「これにはそれが記されていた。守護モンスターや制御装置についてもな、その水晶が制御装置だと知り撤退した。違うか?」

 

「……完敗だ。奴を倒したお前らに勝てる気はしない。そいつは諦めるとするか」

 

その言葉を残して、トレジャーハンターは去っていった。

 その後、俺たちは水晶を遺跡に戻し、その瞬間、クエストクリアの表示が現れる。多分、軍の奴らがやけにピリピリしてたのも、報酬の剣が入手できなかったからだろう。トレジャーハンターの正体を見破れなければ、クエストクリアにはならなかっただろうし……あの人も面倒なことさせるなぁ、と内心思った。

 こうして、俺の初クエストは幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第32層『ユレギオン』、再び『無名の丘』に戻ってきた。朝方の白い光に包まれた黄緑の草原も、夕暮れ時には燃えるような茜色に染まっていた。最近、1人フィールドを彷徨っていたせいか、誰かといることが心地よく思えた。

 

「そう言えば、何でここに俺がいると思った?」

 

ウトウトしかけているキリトに問いかけると、

 

「ん~?何となく……」

 

「そんなわけないだろ」

 

半分予想していた通りの答えが帰ってきた。でも、どうしてわかったのか気になるから、もう一度聞いてみる。

 

「……アルゴ……」

 

「情報家頼りってことかい……」

 

「……そう…………」

 

その言葉を残して、彼は夢の世界へと行ってしまった。しかし、ここは圏外。仮に安全エリアとはいえ、絶対に死ぬことのない場所ではない。小さい溜息をつき、少しの間、彼が目覚めるまでここにいることにしよう。

 50層ボス攻略から毎日ここに来ている。ここはガーネスと俺だけが知る絶景スポットだ。情報家でも知らないであろうこの場所にいると彼がどうやって知ったのかはわからないが、それとは別に誰かに見つけて欲しかったのかもしれない。ここで立ち止まっていた自分を……




DATE
無し


 レイの明かすガーネスとの過去、

 そこに刻まれた思いは50層で儚く散り去り、

 後悔と罪悪だけが彼に残された、

 そこへキリトが自分の罪を打ち明ける、

 次回『黄昏の記憶』

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