悪役令嬢なんて、冗談じゃあないわ!〜アルストロメリア〜 作:アラセイトウ
僕の名前は、クライス。クライス・ヴァン・サルビア。
ロティック公国の第二継承権を持っている。
一応、今年で、7歳。
小さい頃から、僕はひどく頭が良かった。
そう、それは一般的に天才と呼ばれるもの。
他の人達、一般的に家族と呼ばれるものは、何も言わない。
だから、気付くのに遅れた。
そのことに気づいたのは、3歳の時。
皆が、わからないのにすぐに解けてしまった事からだ。
オブシディアン王子とジャックと僕しか解けていなくて、周りの人たちに褒められた。
多分、それがきっかけ。
2人に会い、それに気づいた事で、ほんの少しだけ色がついた。
例えば、無彩色だった世界に、金色、銀色、碧色がついた。
そこから、あの子に会うまでは、色は、増えなかった。
あの子のことは、ジャックが自慢してくるから、知っていた。
『義弟に一番近くにいる権利を奪われそう!』と切羽詰まった顔で相談された事もあった。
オブシディアン王子は『もっと仲良くすれば良いんじゃないかな。』と覚えたて、キラキラした笑顔で言うし、
ジャックは『ありがとな、オブシディアン』と言い、善は急げとばかりに帰って行った。
ジャックは、どちらかというと策略家の気はするが、妹の話になったら、犬みたいになる。
ちなみに、オブシディアンとジャックは従兄弟だ。
2人と会うと必ずジャックの妹の話がでる。
ジャック曰く
『俺の妹マジ天才。』らしい。
オブシディアンは、5歳のときに熱を出した。
そこから、少しおかしくなった。
まぁ許容範囲内だったから無視したが。
オブシディアンは、ジャックの妹の話を聞くと少しだけ、おかしな行動を起こすようになった。
まぁ、そんなこんなで、今日は、オブシディアンの誕生日。会場に着いた瞬間ドレスのやってが、まとわりついてくる。
あと混ざり合った香水の匂い。
はっきり言って、臭い。
ジャックとオブシディアンも同じ状況だ。
オブシディアンは、かろうじて笑みを浮かべているが、ジャックは、嫌な顔を隠そうともしない。
そういえば、妹が来ると言っていたのにいない。
あのドレスの山の所為ではぐれたみたいだ。
オブシディアンのほうで、甲高い声が、あがった。
僕は、その隙を逃さず、密かにドレスの山から、脱出した。はっきり言って、もう、ウンザリだ。とても疲れた。
僕は、ドレスの山に見つからないように庭園の奥の方に足を進めた。
なのに『どなたでしゅの』と鈴のように可愛い声が聞こえた。
思わず惚けていると女の子は叫ぼうとしたのか、大きく息を吸い始めるのを見て、「うわぁ、ちょっと待って、お願い。騒がないで。」っと焦ってしまった。
女の子は、こちらを見て、きょとんとしたあと『うん。』と頷いてシュークリームを食べ始めた。
シュークリームが好きなのか、ニコニコとしている彼女を見て、思わず
「変な娘だなぁ。」
とつぶやいてしまい、慌ててシュークリームに手を伸ばし
「食べても良い?」
と聞く。女の子は、
『1つだけなら良いでしゅわ。』
と不満そうに告げる。
それから、会話はなく僕は、女の子を観察した。
だいたい歳は、5歳くらい。 ジャックにそっくりの金色の髪と碧色の眼。
金色の髪は、陽の光を浴びて輝いているし、碧色の眼は、シュークリームを食べながら眼を輝かす。
頰は薔薇色に染まっていてリスみたいだ。
ドレスに眼を向けてみると、黄色のドレス。
彼女の金色の髪にとても似合っている。
彼女が、シュークリームを食べ終わる少し前に召使いに命じてシュークリームや他のお菓子を持ってこさせる。
彼女は、そのたびに顔を輝かしてニコッと笑い、舌ったらずな声で『ありがとうごじゃいましゅ。』と言い、食べる。なんか、餌付けしているみたいだ。
少ししてから、女の子は、急に立ち上がり、ぼくに頭を下げて
『お兄しゃあまが、帰られるみたいなのでしゅつれいしましゅわ。』
と挨拶をする。
僕は、えっ、と呆然とし、慌てて、
「えっ、ちょ、君名前は?」
と言った。
自分が、そんな事を言った事に狼狽した。
女の子は、気づかずに
『アルストロメリア・ヴァン・アメジルチリカでしゅわ〜』
と言い、ドレスの裾を持ち上げて
『お兄しゃあまぁ〜』
と駆けて行った先には、ジャックがいた。
ジャックはアルストロメリアを見ると抱きしめた。
僕は、何故かとても羨ましいと思ってしまった。
そして、こう思ってしまった。
アルストロメリアは、どうしたら、手に入るのだろう、と。