青年が、自分の知っている場所まで来る頃には、朝日が登りかけ空が薄らと明るんでいた、青年は先の戦闘と長時間の移動で疲れが出ているのか、欠伸を噛み殺しながらも目的地に向かっていく。
青年が目的地である場所につくと、そこは日が差し込まない洞窟であり、中は明かりがないと数mさきも見えないほどとても暗かった、
だが青年は、そんなことお構い無しにどんどんと洞窟の奥に歩いていく。
洞窟を歩くこと数分、洞窟の中程まで歩いた青年は、ある壁を見つめそこに立ち止まる、すると青年は、自分の親指を少し噛み少しの血を出すと、洞窟の壁に押し当てる。
突如血が触れた壁は歪んでいき、真っ黒な歪んだ空間があらわれる、
青年は親指の血を服で拭き取り、その歪んだ空間に入っていく。
青年が通った後、真っ黒な空間はどんどんと小さくなっていき、やがて消えて無くなり、そこは元から何も無かった様に洞窟の壁に戻っていた。
青年が歪みの中から出てきた場所は先程と同じ様な薄暗い森だった。
根本的に違う所があるとするなら、朝日が出かけていた空は、紫色の不気味な空になっており、何より夜が開けたはずだが、不気味な空の上には真っ赤な満月が浮かんでいた、青年はそれが当然の様な様子で森の中に入っていく。
しばらく、青年は森を歩いていると、やがて森を抜け、道に出ると今度は道に沿って歩いていく。
青年が道を進んで行くと、嫌にでも目立つ巨大なアーチ型の門が見えてくる、その門はお世辞にも趣味がいいとはいえず、門は赤黒く、まるで生き物の内臓の用で、血管の様な管がびっしりと張り付いており、静かに脈をうつように一定鼓動している。
その中でひときわ目立つのは、人の何倍にも大きな目玉が埋め込まれており、ギョロギョロと動い
ている、門の先にはとても綺麗でいて広い庭園に繋がっており、庭園の奥には洋館が建っている。
洋館は庭園とは対称的に所どころ汚れていたり建物の壁には植物のつるが張っていたりと、ボロボロな洋館であった。
青年が、巨大な扉の前に立つと、門に埋め込まれていた複数の目がギョロりと青年を見る、すると扉がゴゴゴゴッとひとりでに開き青年を中に迎え入れる、青年は門の奥に進んでいくと、門はまたひとりでに扉が閉まっていく。
青年は、その見た目通りかボロい洋館の玄関に向かうべく、庭園に舗装されたレンガで作られた道を歩いていく、庭園には舗装された道を挟むように蒼い薔薇が綺麗に咲いており、茨が腰の位置までせり上がっている。
青年が薔薇を通り抜けると、向かいから箒を持ち掃除をしていたであろう者がこちらに気づき、トテトテと小走りに近づいて話しかけてきた。
「シュウおかえりー!!」
青年を元気よくシュウと呼び、ニコニコと可愛らしい笑顔を向けてきたのは、身長は青年…シュウよりかなり低く30センチ程差がひらいており、首にはトゲが付いている首輪、少女の首にはおおきいのか、首に巻いているというより、首から下げている。
また服は、黒を基調とした服に身を包み、頭には栗色の髪をショートカットにした少女だった。
普通に見れば幼い少女が家族の帰りに喜んでいる姿なのだが、彼女には普通の人間にはあるべきではない、獣の耳と尻尾が付いていた。
「ただいま、レナ」
シュウはそういうと獣の耳がついた頭をわしゃわしゃと撫ぜる。
思えばあのクソビッチのせいでいらぬ戦闘をして、生えてくるとは言え小指を落とす羽目になったのだ、ここで気持ちだけでも癒されても誰も文句は言わんだろうと、小指が生えかけている左手で、レナの頭を撫ぜまくる。
少女は撫ぜられるのが気持ちいいのか、耳をピコピコと動かし尻尾を忙しなく左右に降っている。
「そう言えばお父さんがシュウの事探してたから、後で顔見せに行ったほうがいいよ」
レナは撫でられゴロゴロと喉を鳴らし目を細めながらそういう。
しかしこう見ると見た目はただの可愛い女の子だけど、いや普通の人は尻尾は生えてないが、撫ぜられている姿はただの犬だな
シュウは少女の撫ぜられている反応が楽しいのか、あまりレナの話をきいていなかった。
「ねえ、聞いてる?」
レナはシュウが話をきいていないのに気づき、ジト目で睨んでくる。
「キ、キイテルヨー」
シュウは目が泳ぎ片言で答える。
レナはジーッとシュウの顔を睨みつけ、諦めた様にため息を付きながら、諦めた様に言う。
「はぁ、とにかくはやくお父さんに会いにいってよ、じゃないとまたお父さん泣いちゃうから」
「わかった、クソ親父は泣くと面倒臭いしな」
シュウは名残惜しいがレナの頭から手を離す。
「じゃあ、私は掃除の続きしてくるから」
レナはそう言うと、シュウに手を振り小走りに去ってしまう、シュウは小さく手を振り、再び屋敷に歩いて行く。
レナは1年経っても身長は変わらんな、成長期はこないのかねぇ、いや、あんななりだが俺より何十倍歳上だからな、てかそもそも人でも無いし、しかも…
シュウは屋敷の扉の前に着くとチラッと左を見ると、あの兵士や騎士達の骨を砕き、肉を貪り、血を啜った巨大な二つの頭を持つ犬が庭で丸く寝ており、グルルッと小さな寝息を立てていた。
あの犬達の頭領だっていうのだから、世も末だな
と、シュウは本日何度目かのため息を吐き、屋敷の中に入っていった。
ケモミミ少女と青年の名前が判明した回