暗闇の中である森、そこを走る黒フードを被った1人の青年と、
30人はいるであろう群衆がそれを追う。
あぁ…人生っていうのはわからないものだ
農民として生まれ、自然に囲まれた丘の上両親に俺と妹4人暮しで畑を耕し、出来た野菜や芋を街に売りに行き、俺は趣味である木彫りを小川の端で勤しみ、それを隣で妹が楽しそうに見つめる。
そんな生活をしていたのが一年前、現在は王宮騎士と「神の祈り」という、いかにも胡散臭い教会連中に現在進行形で追われている。
「追えーー!指名手配中の悪魔付きだぁぁー!絶対に逃がすな!!」
王宮騎士の中でも他の兵士より立派な鎧を着て馬に跨っている騎士が怒号を周りの兵士に飛ばす。
それを聞いた兵士と信者達は各々が剣に槍、松明を掲げ森の中を足早に駆けていく
不味いな…確実に近づいてきている、何より土地勘が無いのが不味すぎる
これもあのクソビッチが駄々こねて街なんかに行かなきゃこんな事にはならなかったのに
青年は心の中で悪態をつきながらも森を駆け抜ける、そして暗い森をぬけ、周りが森に囲まれた広場に出た。
「チッ」
青年は舌打ちをし踵を返して走り出そうとしたが、時すでに遅しとはこの事、武器を構えた兵士や松明を持ち鋭くこちらを睨みつける修道服を着た者達が青年を囲むように立ち塞がっていた。
その群衆を割るように中から馬に跨っている騎士が前に出てきた。
「大悪魔アベルを復活させ国家転覆を測り、偉大なる神の子、天使エル様の左腕を盗難した罪、ここで神の名において粛清する!!!」
騎士はそう青年に吐き捨てると右手を上げ兵士達に攻撃の合図を送ろうとする、
青年は深く被っていたフードをゆっくり下ろしその顔が月の光によりはっきりと露になる。
黒髪短髪で片目がないその青年は囲まれている状況を確認し、左腕をゆっくりと前に出す、その腕は男にしては細くそして陶器のように白く、五本の指には銀の指輪がされている
その腕を見た騎士は
「黒魔法を使うぞ!距離をとれ!神官共は魔封じを唱えろ!一気に叩く!」
と周りに指示をする
兵士達はじりじりと少しづつ後退し、神官達は詠唱を始める
青年は 騒がしくなったその中で、小さいがよく通る声で呪文を詠唱していく
「悪魔に仕える番犬よ我が贄と血により、その姿を現せ」
青年がそう呟くと、その瞬間左手の小指に付けられていた指輪が光だし、
グシャッという不快な音と共に小指が地に向かい落ちていく。
小指が地面に落ちその周辺をおびただしい量の血が流れる。
兵士達はその光景を目の当たりにし、あるものは怯え、あるものは手にもう武器を持ち直す。
その瞬間
地面より魔法陣が現れどんどん大きくなっていく、
その魔法陣からとてつもなく大きい鼻息と唸り声を鳴らしながらら首が二つもあり紺色の毛並みを持つ体10mはあろうか犬らしき者が牙を剥き涎を垂らしながら現れる
その犬は主人を守る忠犬が如く青年と騎士達の間に立ちふさがり地面がゆれる程の咆哮を放つ
「ヒィィィィ!!」
「化け物だぁぁぁぁ」
その姿を見たほとんどの兵士は武器を捨て悲鳴をあげながら来た道である暗闇の森に逃げていく。
少数ではあるがその首をとろうと巨大な犬に攻める勇敢なる兵士はいるが、鋭利に尖った牙や爪で紙くずの様に引き裂かれていく。
馬に跨っている騎士は、自分の部下をまるで虫ケラの様に扱うその化け物の圧倒的な力の差に目が見開いていた。
「確か黒魔術とかいったなぁ…残念だがこれは魔術ではなく召喚術だ魔封じ如きでは止めらるわけが無い」
と青年は騎士に告げ
騎士の頭は巨大な犬に食いちぎられ、脱力した体が馬から落ちる
30人はいたであろう広場は嘘のように静かになり、
「ありがとう、もう帰りな」と青年は優しく犬に声をかけると、犬がグルルと返事をし地面に吸い込まれるように消えていった。
あのクソビッチは後で説教だなとさっきまでの戦いなど無かったように青年は黒のフードを被り直し月明かりの届かない森に歩き出した。